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グレース・トークの苦労

*


 今日も今日とて書類の処理。

 流石にうんざりして来るわね。

 フィオが文官として成長してくれれば、もっと楽になるのだけど。

 それは望み過ぎか。

 まだ十六歳なのに、軍の書類を処理してくれてるのだから。


 大体トーク領は文官が少なすぎるのよ。

 獣人達が隣に住んでる所為で、どうしても文より戦士としての力がもてはやされるからって……。

 何とか王都に居る文官を捕まえられないかしら。

 あ、ランド……そういえば、もしかしてあいつなら……。


 ん?

 これは……カルマ姉の足音?

 ああ、休憩の時間か。


 「グレース、仕事がいっぱいあるのは知っておるが、そろそろ休憩にせぬか?」


 「うん、有難う姉さん。そうする」


 はぁ……美味しい。

 お茶だけが仕事中の贅沢だわ……。

 姉さんも多くの仕事を抱えてるってのに、良く私まで気遣えるわよね……。


 「仕事の調子はどうだ? 今年は幾らか楽なように思えるが」


 「ええ、例年よりは。オウランが使者を送ってきて、今年は襲わないと約束してくれたし。お陰で色々と余裕が産まれてるわ」


 「そう、それだ。ランドでお茶を売って食料を買ったと聞いておるぞ」


 「そうらしいわね。しかも、十官に売ったらしいわ。信じられる?」


 「信じられるもられないも驚愕の一言よ。オウランの所がランドでなぞ……もしかしたらダンであったか? あの男が何かしたのかの?」


 「多分ね。オウランからは彼を少なくとも春までは預かるのと、今後はダンを交渉担当にして欲しいとしか言ってきてないけど。バルカ家の紹介をお願いしたんだと思う。だって、そうしないと草原族が十官へなんて繋がりようがないでしょ」


 「やはりバルカ家とは太い繋がりがあったのだろうか。もしかしたら人物だったのかもしれぬな」


 「そうなのよね……でも、姉さんも覚えてるでしょ? 『私は本来ならバルカ家の紹介を頂くには値しない無能な者です』なんて言っていたの。あたし、あんな台詞を聞いたの初めてよ!」


 「くふっ。グレースは物まねが上手いな。あれは確かに驚いた。在り得ない程大きく売り込む者はよくいるが、自分を無能などと。しかし、無能な者に十官を紹介して貰えるであろうか? 何故あんな事を言ったのかは分からない。だが、この結果があの者によるのならば大した人物なのは間違いなかろう」


 「そこよ、そこが一番気になってるの。確かにオウランが色々考えて、いえ、悩んでるのは知ってたわ。でも、お茶の売買だなんて……。あいつが売れる物を見つけてオウランを説得し、ランドでの販売までやったのかもしれない! そうでないと突然過ぎるもの。ただ、そうなるとオウランの使者が来た日から考えると日数に余裕が殆ど無くなる……いえ、それだけ有能という事も……」


 「嬉しそうだなグレース」


 「勿論よ。もしかしたら凄く優秀な交渉担当の文官になるかもしれない。それに、あいつに任せたら新しく売れる物を見つけていっぱい売ってくれるかも! そうしたらあたしの悩みがいっぱい解決するのよ!? それにそれに、本当にバルカ家と親しいのなら、文官を連れて来てくれる可能性だって!」


 「うーむ、そんな先の話ではなく、現時点で色々良くなってると聞いておるぞ? 草原族が大量に買ったお陰で税収が増えたと。それに、今後もお茶の売買が続くのならオウランの所が襲って来ないかもしれぬとも」


 「ええ、そうね。今年は治世でも軍でも楽が出来そう。でもカルマ姉、この状態が長続きするのは難しいと思うわ。オウランの氏族だけお金を手に入れたら争いが必ず起きる。あたし達にも影響が起こる位にね。だから、もうオウランの近くにある村には気を付けるように言って逃げる準備をさせてるわ」


 「ああ……、そうなのか……。グレースはそんな先まで考えてくれていたのだな。それにもう動いている。何時も有難うグレース。これからも一緒にこの領地をより豊かに強くしていこうな」


 「と、当然の仕事をしてるだけよ」


 「ははっ。グレースは可愛いのぅ。褒めてるだけなのに焦るとは」


 「も、もうやめてよ姉さん! とにかく、十分休憩できたわ。仕事に戻るから姉さんも戻って頑張って」


 「うむ、そうしよう。好きだぞグレース」


 「姉さん!」


 あたしの声に答えず姉さんは笑いながら帰って行ってしまった。

 まったく、いっつもからかうんだから。

 それが嬉しいのだからあたしもまた……。もうちょっと姉離れしないとね……。


 さて、休憩はしたし、気を取り直して軍の方も見ておきますか。




---



 今日の訓練場は人が多いわね……ああ、百人長まで集めているのか。

 はぁ……この程度も把握してないなんて……。

 あそこにいるのは、レイブンか。


 「レイブン、隊の調子はどうかしら?」


 「ああ、グレースか。調子は良い。例年に比べて余裕がある分しっかりと訓練が出来ている。しかし、そなたは……疲れていないか?」


 人が見て分かるほど出てるのは良くないわね……。


 「この時期は仕方ないでしょう? レイブンがもう少し書類を処理してくれたらあたしも楽になるのだけど」


 「ぬう……すまぬ。実戦前はやはり訓練しないと不安でな。グレースに悪いと思ってはいるのだが」


 「分かってるわ。軍がちゃんとしてくれないともっと大変になるのもね。単なる愚痴よ」


 「だが、(それがし)たち軍の人間で書類の処理をする人間が殆ど居ないのは本当だ。ガーレと某も最低限だけ。アイラは全くできぬのだから」


 「呼んだ?」


 うわっ、この子どっから出て来たのかしら……。


 「お、驚いたぞアイラ、日常ではもう少し気配を出してくれぬか」


 「そう言われても……これが普通だし。それより僕の名前を呼んで無かった?」


 「あたしの書類仕事が大変だから、貴方達も少しはしてくれたらいいのに。って愚痴を言ってただけよ」


 「あーそれは……ごめんなさい、書類はわからないよ」


 ああ、落ち込んじゃった。

 日頃は感情を抑えてる感じなのに、偶にこうやってはっきり出るのよね。


 「アイラが文字の読み書きをもっと練習した方が良いのは間違いないわね。書類は良いけどそっちは頑張りなさい。それよりも、軍の調子はどう?」


 「それはだいじょうぶ。直ぐに出られるから。……でも、きちんと働けたらお金が欲しいのだけど」


 「はぁ? また? 勿論、手柄を立てればちゃんと報酬は与えるけど、きちんとした貴族位とかの方がよくない? 名誉は欲しくないの?」


 「それは要らない。それよりお金が必要なんだ」

 

 『それ』名誉や貴族位が『それ』……。


 「そういうのなら、そうするわ。安心して働いてアイラ」


 笑顔で頷いて訓練に戻っていっちゃった。


 「相変わらずアイラは金を欲しがるのだな。俸給は十分払っているのだろう?」


 「ええ、我が領、いえ、きっとケイ帝国最強の将軍にお金をけちったりしないわよ。でも、特に贅沢をしてる様子は無いし不思議ね」


 「うむ。何時もあれだからな。その所為で多くの者の前で表彰されず、あそこまで強いのに全く名が知られてないのは……良くないような気がしてならん。知っているか? ランドの者に聞くと、アイラ? 誰だそれ? などと言うのだぞ?」


 「知ってるわ。ただ、そのお陰で引き抜きとかが無くて助かってはいるのよ。まぁ、獣人を引き抜こうという領主は、辺境でも珍しいでしょうけど」


 「確かに。ただ、何か問題を抱えているかもしれん。その内酒の席ででも話を聞くとしよう」


 「そうね。お願いするわレイブン。ああ、フィオは何処? 確認したい事があるの」


 「フィオなら向こうの部屋で書類仕事をしておるぞ」


 レイブンに感謝を告げてからフィオの所に行く。

 うん? これはフィオとガーレの声? 何か言い争ってる?


 「ですから! ガーレ殿は何時も猪突しすぎだと言ってるっス! 今日の訓練と同じ行動をしていたら、何時か孤立して全滅しかねないっス!」


 「何を言うか! 俺達の相手は草原族だぞ! あやつらの逃げ足の速さは知ってるであろう。攻撃し続けて少しでも減らさなければ何回戦おうが終わらぬわ」


 「それにしたって限度があるっス! 常にフィオ達が助けられるとは限りませぬぞ。常に周りを見る癖を付けて頂かないと、困るのはガーレ殿達なんスよ」


 「お前たちが我が部隊のように突撃すれば良い話ではないか! まぁ良い。この話はここまでだ。俺はまだ部隊を鍛えねばならぬからな」


 はぁ、何時もの喧嘩か。

 軍師としては、ガーレにはこまったもの。

 常に先頭に立って派手に戦う、兵の信頼厚い得難い騎士なんだけど。


 「フィオ、大変そうね」


 「ああ、グレース殿っスか。お願いスからガーレ殿を何とかしてください」


 「無理よ。大体、今あたしが抱えてる仕事の量知ってるわよね?」


 あ、目を逸らしたわこの子……。


 「そ、それは申し訳ないと思ってるっス。で、でも今軍をしっかりさせないと、もっと死傷者が増えてもっと仕事が大変になるっス。仕方ないんス」


 「それも分かってるわよ。でも、フィオにはもっと全体の仕事も出来るようになって貰いたいの。でないとあたしがその内倒れるわ」


 「わ、分かったっス。頑張るっス。……折を見て」


 ……この子も感情で生きてるのよね。

 十六歳ならこんなもんでしょうけど。

 はぁ~、結局は少しずつやっていくしかないか。


 本当、誰か優秀な文官が来てくれないかしら……。 

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