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トーク領に到着

 ランドを出発して十五日が経った。

 春の訪れを感じながらも震える旅も殆ど終わり、今目の前にはヘダリア州北部、トーク領最大の都市レスターの城壁が見えている。

 ランドよりは大分低い壁だが、まぁ、あっちがおかしいのだと思う。

 そして、街の中央には無駄金がありません。とネオンサインで書いてあるかのように分かる城もあるな。流石国境線の都市だ。

 もう一つここから見てはっきりと分かる違いは、ランドと比べて林が近い。

 ここから考えて、おそらく新しい街だ。あるいは伝統的に人口が少ないのだろう。

 この国最大の都市にして古都であるランドと比べれば当然だが。

 ほら、あれだよ。

 建物を建てたり、畑を張る為に木を伐り続けたら、林が遠くなっちゃって、効率を上げる為に樵場を建設しなおすのを続けてるとその内町の中心周辺には木が無くなってしまうあの現象だよ。

 いやぁ、あのゲームは本当に神ゲーでしたね。

 おっほん……。

 

 半年の間ランドで待っていて本当に良かった。

 未だに寒いってのに、更に北方へ行かないといけないのだから。

 私はフランスのチビと違って、冬に北上するような趣味は無いのだ。


 旅は順調だったと言っていいだろう。

 心配だった治安だが、王土領からトーク領の国境線までにある町では悪かったけど、トーク領に入って良くなったのを感じている。

 カルマの統治が良いのだろう。

 あっちこっちで統治が緩んでるってのに大したもの。

 これなら、ここで働いてもいいかもしんない。


 旅に出て良かった事の一つは、ストレスが減った事だ。

 大変喜ばしく思う。

 健康にも、お肌にも、頭髪にもストレスは悪い。

 今後は難しくなってきそうだが、睡眠と休みをきっちりとってストレスを減らして行きたいね。


 バルカ家で働く最後の方は結構不安があったからなぁ。

 話に満足して貰えてるか少々不透明だったし、ネタ切れしかねなかった。

 何とか希望以上の期間面倒を見て貰えて本当に良かった。

 お陰である程度馬に乗れるようにもなっている。

 それでも一日馬に乗ると尻が痛くて堪らんけど。


 辿り着いたレスターは中々綺麗な街だった。

 人口が少ないのもあるだろうが、庶民たちの家もランドより大きく住み易そう。

 ランドと一番違うのは、獣人の多さか。

 毛の色が茶色系の人が多く、次は灰色。

 草原族と雲族だっけ? 

 ランドと比べて獣人の地位がはっきりと高いのがケイ人達の獣人への対応で直ぐに分かった。

 中々上手く共存しているようだ。


 街に入った所で此処まで混ぜて貰った行商団の人々と別れ、明日の為に宿を取る。

 領地全体で数十万人を支配する人間に会おうというのだ。

 体を洗っておきたい。


 次の日、私は城に向かい門番の人にバルカ子爵家からの紹介状を何処に渡したら良いか聞き、受付らしき所に行って渡す。

 こっそりと、ランドで遠くから見た帝王の住む城よりは小さいし、内部の装飾も色々無いなとか思いながら待つ。

 いや、私はこっちの方が好きだよ? 質実剛健という感じがする。

 寒さ対策の為か、内壁として木を使ってある辺りもグッド。

 国境線につくられたある意味前線基地であるレスターの城や都市が、戦いの場となる事を殆ど想定されてないランドみたいに装飾されていたら奇妙だしな。


 すると、十分程度しか待たされずに中へ通された。

 これは……バルカ家パワーか?

 圧倒的ではないか。

 何日か待って当然だと思っていたのに。


 案内された部屋に居たのは、深い青色の髪を長く伸ばしてる美人さんだった。

 歳は……エルフだから分からん。ジャポネーゼだとすれば二十三と言うのだが。

 うーむ……こちらを探るような目で見ておられる。

 このお方、頭良いんですよオーラをシュオンシュオンシュオンと効果音付きで目視出来そうな雰囲気をお持ちである。

 

 それに加えて、用心深くキッツイお人柄だと感じる。

 どうしてだ? 眼つきが尖がってるからかな?

 書状に何か変な内容でも書いてあっただろうか。

 封がしてあったし、私が見るもんじゃないと思って見てなかったからちと不安だ。


「初めてお目にかかります。わたしはグレース・トークと申します。お名前を頂けないでしょうか」


 うん?

 何でこんなに丁寧なんだ?

 不思議だが、丁寧に返しておけば良かろう。

 挨拶の口調には込められるだけの敬意を込めよう。


「ダンと申します。この度はお時間を割いて頂き感謝いたします。カルマ・トーク様に聞いて頂きたい話とお願いがあり、又友好的で話を聞いてくれそうな獣人の方を紹介して頂きたく参りました」


「獣人、ですか……お尋ねしたいのですが、ダン殿はバルカ一門の方では無いのでしょうか? 家名は? バルカ家の方との関係も教えて頂ければ」


 何か誤解があるみたい。

 しかし、バルカ家を騙ったりしたら即北斗七星の横に青い星が輝く。

 とても放置できない誤解だ。

 あの小パンチ一発喰らったら死ぬという緊張感を、自分の命で味わうなんて御免こうむる。


「バルカ一門などとんでもない。私はここ二年程バルカ家で働かせて頂いただけの者です。家名も持ちません」


「なんですって? ダン殿。ああ、いえもういいわ。ダン、貴方はただ二年バルカ家で働いただけでこんなに立派な紹介状を渡して貰ったというの?」


 お、おう、突然乱暴になりましたね。

 こっちの方が当然なんだけど、流石に驚いたっす。


「あ、はい。その通りですグレース様」


「そう……。勝手に思い込み過ぎたわね……。それで、この紹介状の内容は知ってる?」


 知らんがな。

 封が見えないのか姉ちゃん。

 その封を破らないようそれはもう気を使ったんでゲスよ?


「いえ、私はただティトウス様にカルマ様がお会いして下さるよう紹介して頂けないか。と、お願いしたのみですので」


「ふむ……。……所で貴方のような庶人がカルマ様と呼ぶのは失礼よ。カルマ様はトーク家の当主。トーク様とお呼びしなさい」


「あ、誠に申し訳ありません。以後気を付けます。どうかお許しを」


 まーじかよ。知らなかったぜ。

 でも下の名前を呼ぶのは親しい相手だけって日本でも普通だったな。

 あるぇ……リディア様ってのは……あの家にはバルカが何人も居たから許されたのかな?

 何にしろ教えてくれて助かった。

 グレースも教えてやろう程度な感じだし。

 有難うごぜえますだ。


「何処でも当主は当然として、その一門で会話する人間がその人だけならば、家名で呼ぶのが敬意を持った呼び方だから気を付けた方が良いわ。で、この紹介状だけどまずはあたしが読ませてもらうから」


「はい、お読みください」


 それにしても、そこまで立派な紹介状だったとは。

 人生初の紹介状だったから程度が分からなかった。

 確かに態々絹の布に書いてあるよってビビり倒したけどさ。


 うーむ、この人の青い髪にエルフ耳を見ていると星の民を思い出す。

 今生きてる人間を小説のキャラに当てはめるのはチト痛いが、好きだったんでつい。

 口に出さなければ問題ないべ。

 ただ、あんなに可愛げのある人じゃないだろうなこの人。

 

 と、読み終わったようだ。

 しかし、眉をしかめている?

 何か問題があったのだろうか……。


「貴方は、本当に貴族じゃないのね? ただバルカ家で働いていただけ?」


 服装も、体から出すオーラも庶民そのものっしょ?

 エルフなのに近づきやすいと人間の皆様にも評判ですわよ?

 うぬぅ、あの紹介状に何が書いてあったのだろうか。

 リディアに詳しく聞いておくんだった。


「はい、そうです。本当でしたら私はバルカ家で働くには足らない者でしたが、特別な幸運で雇って頂けました」


「……良いでしょう。カルマ様に会わせます。付いてきなさい」


 グレースは別の執務室に案内してくれた。

 其処にはグレースの部屋より金の掛かってそうな机や、道具が置かれてあり、グレースそっくりだが明るい人柄を感じる美人のねーちゃんが座っていた。

 つーか、髪の色が明るい青である。

 しかも、髪型がバイトソルジャーそっくり……。

 ……髪型で無意識の内に人格を判断してるとは思いたくないなぁ。

 判断基準が実体験なら良いけど、空想キャラが判断基準はサスガニサスガニ。


 所で、この人が本当にカルマ?

 私、董卓の可能性があると思ってたんですが……。

 腹周りの脂肪は?

 ヒゲは?

 酒池肉林……は別の人だ。


 女性好きの反対で、男性好きとなって配下の者だったら誰でも呼ぶような人だったら、と期待、じゃない悩んでたけど、そういう話も無さそう。

 残念ながら好色そうな視線を感じない。

 姉妹揃って同じ茶色の瞳から感じるのは少しの好奇心だけ。

 私が基準を満たしてないだけという可能性もありますが。


「カルマ様、この者はバルカ家の紹介状を持って来た者で、ダンと言うそうです。カルマ様に話とお願いがあるとか」

 

 イルヘルミがあんなだったから、董卓候補も男女問わず手を出しまくってたら……。

 そうしたら、大変な目にあった傷心の美少女に優しくして、まで考えていたのに。

 そんな気配が無い。

 残念至極。


「分かった。話を聞こうかダンとやら」


 やっべ。

 変な事を考えてる時じゃなかった。

 一礼する間に考えを真面目にしないと。


「有難うございますトーク様。まず、獣人を知るために暫く一緒に暮らしたいと思います。ケイの者に好意的で、こちらの話を聞いてくれそうな方を紹介して頂けないでしょうか。又、向こうで暮らすのは一年程を予定してるのですが、その後トーク様の下で働かせて頂きたいのです」


「ふむ、配下になりたいと?」


「はい。食べていけるだけの仕事を与えて頂ければ幸いです」


 このカルマが、董卓と同じ役割を果たさないとはまだ限らない。

 もし果たすとすれば、乱世への火ぶたを切るキーマンである。

 人品、統治の仕方を現地で見ていたい。

 それに働かないと飢えて死んじゃうという当然の問題が……。

 脛を齧らせてくれる親が居ないからな。

 ……母が適当に作ってくれたオムレツの味が恋しい。


「なるほど、バルカ家の紹介ともあれば働いて貰っても良い。何か優れた特技を持っていれば教えるように。厚遇しよう」


 どうも私と言う人間の評価に巨大なゲタが履かされてる気がする。

 下手に高度な仕事を求められては困るのに。

 誤解を解く必要性がエマージエンシー。

 ただ、計画を考えると余計な事も言わないといけないんだよな……。


「どうも誤解をしておられるように感じます。私は本来ならバルカ家の紹介を頂くには値しない無能者。読み書きと計算は出来ますが、その程度で特技などありません。ただ……一つ情報を提供したく思います。もしもそれが当たった時には、又トーク様にお願いを聞いて頂けないでしょうか?」


 ここで働くとなっても、トップと会って話すのは無理だろう。

 一部上場企業の社長と平社員に話す機会が無いようなもんだ。

 しかし、今後動乱が起こるとすれば、会える機会を作っておきたいのだよ。

 今しか手に入らない珍しい品物であるから、今買っておいて後日利益を得る機会を作りたい。奇貨居くべしって奴かな?

 漫画キャラとなって突然有名になった呂不韋(りょふい)さんのお言葉である。


「情報、ね。良いだろう。当たった時には配慮するとも。言ってみなさい」


 身分を弁えろとか言われたら謝るしかなかったけど、許して貰えたか。

 うんだば申し上げましょうかね。

○グレース・トーク 以下私見に塗れた紹介。正しさは保証せず。

賈詡(かく)が元。と一部の人に思わせておいて、実は六割程李儒(りじゅ)が入っている。

二人とも董卓(とうたく)の為に色々献策した軍師。

李儒は悪い策謀を山ほど考えた悪い人というイメージ。

賈詡は、失敗しない有能な人で乱世の中曹操の配下として77歳以上まで生きた世渡り上手というイメージ。

ちなみにかなり手段を選ばなかった人らしい。

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