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カルマ・トーク、隣のチエン領を得る

 テリカらを殺して一週間、特に問題は起こっていない。あえて言えばアイラさんの言動が少し変だったくらいか。

 何かビクビクしてると思ったら、夜一人で自室に居る私の所へ雑談をしに来たりとどうも不安定だった。

 やはり同居している男性が知り合いの女性と特別親しい真似をしたとなれば、野生児そのものなこの人でも複雑なものがあったのだろうか?

 暫く様子を見ようと思ったら四、五日で元に戻ったので大きな問題ではなかろうと思うのだが。

 更に一週間後、チエン領に居る纏まった反乱勢力を全て制圧し、更に一週間後には全軍が帰ってくるとの報告が入った。此処からは文官の仕事となる。

 同時にビビアナがサポナ領を制圧し、ジョイ・サポナとその親族は皆殺しになったとの報せも入って来た。

 今の所知ってるのはカルマら上層部のみ。ラスティルさんには私から伝えるとしよう。……少し気が重いのが情けない所だ。


 これまでの二週間、テリカらに関しての話題はトーク姉妹から出ていない。リディアはのたもうた。『トーク姉妹は比較的感情と実利を別に考えられる人物。関係者であるレイブンらが帰ってくるまで話題にも出さないでしょう。出した所でアイラ殿が動けば全てご破算になりかねない程度の計算も出来て当然なのも御座います』と。

 まぁ、それもあるんだがそうでなくても多分何も言わなかったであろう。

 何せ報告が入ってからゲロ忙しい。チエン領を支配する為に必要な仕事、新しく街へ派遣する代官の人選、引継ぎ等準備はしていたのだが、実行には又手続きが必要でトーク姉妹とリディアは日が出るのと同時に仕事を始め、陽が沈むまで働く羽目になっていた。

 私でさえ定時で帰りますとは言えずグレースの秘書として走り回り、食事は全て外食となっている。

 いやぁ、曹操や信長はホンマどうしてたんだろう……。私は余りの忙しさに、テリカらを生かしておけばかなり助かったんだろうな。なんて考えてしまった。

 何という自分に都合の良い脳みそだろう。と、ナルシズムな自己嫌悪に浸りそうになった間も、仕事が増えて溺れかけた一週間を何とか乗り切り、今日は軍の論功行賞の式典が行われている。

 

 今回の戦功判断はリディアを第一功とする以外はグレースに一任してある。

 式典中私の仕事は中級官吏の群れに交じり、周りの様子に合わせて歓声を上げるだけ。

 少し驚いた事に武官の第一功がガーレであった。山岳部の戦いが多く、騎兵の出る幕が少なかった為に統一された筋肉が正義だった模様。

 後、レイブンの表情が何かに耐える如く無表情であった。これはテリカらの話が伝わったかね。となるとこの後予定されている幹部会議は予想通り荒れますわ。


 式典が終わって直ぐ、目立たない様に武装したアイラさんと合流し会議室へ向かう。

 室内には全員が揃っていた。ふむ。レイブンは長物は持ってないけど式典の時の鎧姿のままか。アイラさんより前に出ないでおこう。


「お待たせしてすみません皆さま。早速ですがこれからトークがどう動くか話し合いましょうか。まずグレースさんから方針の説明をお願いします」


「待てダン。その前に貴様、何故テリカ殿らを殺した。彼女たちは某を頼ってきたそうではないか。しかもカルマ様もそう言ってお前を止めたと聞く。よくも拙者とカルマ様の顔に泥を塗ってくれたなっ!」


 ちっ。流すのはやっぱり無理か。うんじゃリディアさんや頼んます。


「レイブン殿、貴方の誇りある武人としての生き様に敬意を払うのは吝かではないが、己はもう一辺境領の将ではないとの自覚は持って頂きたい。今は乱世、我等は諸侯ではなく独立した国として動くのです。そしてテリカのような名を馳せた者の受け入れは天下国家を考えて決めるべき事。なのに誰を頼った、泥を塗っただのと言うのはお門違いも甚だしい」


「ならっ! 主君であるカルマ様の御意に歯向かう事が天下国家を考えてだと言うのか!」


「はい。少なくとも今我等に無思慮な不満をぶつけるレイブン殿よりは。我等は少なくともテリカを始末した場合としなかった場合、それぞれの先を考えて決断した。してレイブン殿はどうなのです? もしもテリカを受け入れるとなれば、江東の地に隣接したイルヘルミ、或いはイルヘルミを滅ぼして強大となったビビアナが江東の地を餌として内応させようと策謀する恐れを初めとして、他にも多くの問題が御座いますが対処はどのように? 第一貴方のその物言いは、カルマ殿の意思を確認してですかな」


 リディアほんまスゲーっす。レイブンの口が餌を求める鯉になってますよ。


「これは……某の独断だ。―――確かに、先を考える知略はお前に及ばん。その対処法を考えていてもいない。だが……仁義を投げ捨てて誰が付いてくるのか! それに某が尋ねてるのはお前だダン! お前が表立ってテリカ殿らを殺したと聞いたぞ。隠れてないで何か言ったらどうだ。あのような英雄の卵を闇から闇に葬って何も思わないのか!」


 あ、やっぱり言わないと駄目っすか。一応リディアに模範解答を聞いといてよかった。


「レイブンさんのお怒りは当然だと思います。私にとってもテリカは惜しかった。ですがこれから我等はビビアナと結び、イルヘルミと戦います。両方とも我等より強く、非常に不安定な状況となるでしょう。其処へテリカのような油断出来ない人物を入れては、事態が難しくなってしまう。だから殺しました。ご理解頂けませんか」


「テリカはカルマ様に忠誠を誓ったと聞いたぞ。奴は信義を持つ戦士だった。それを自分の基準で測ったのだお前は」


「ああ、それは間違ってると思います。テリカはレイブンさんとは違い個人ではなく大望を持った領主であり英雄。配下と、自分の持つ大きな目的の為に信義など投げ捨てますよ。それをカルマさんは良い所を見て配下にする利益の方がいいと考え、私はこれからの安定の為には此処へ居てもらっては困ると考えたのです」


「そしてお前は無理に意思を通した。……ダン、貴様も少しは道理を弁えていると考えた某は不明であった。コソコソと某たちの居ない隙にカルマ様を失望させおって! この償い、タダでは済まさんぞ」


「不快にさせたのは申し訳ないと思いますが、償いなんてしません。私たちはカルマさんがより危険な選択をしようとしたのを止めたんです。感謝しろ。とは言いませんけども」


「おのれぇ! この佞臣が! カルマ様の慈悲に甘えて好き勝手いいおってぇ」


 ちっ。言葉選び間違えたか剣に手をかけやがった。

 流石にこの場で斬りあいは困る。が、まずはアイラさんの後ろに立って距離を取らないと。


「レイブン。剣から手を放して」


「アイラ! 何故そのような男を庇う! お前ほどの武人に全く相応しくない男ではないか!」


「……大きなお世話。剣から手を放して。……抜いたら、死ぬよ。ガーレがそっちに付いても僕には勝てない」


「おのれ……簡単に後ろに引っ込みおってぇ! 何時もアイラが守れると思うなよダン!」


 ……ごもっとも。いやまじ困ったな。どーしようこれ。


「そう……。レイブン。君は大事な戦友だけど、何もかもを危なくするような事言うなら……仕方がないかな」


「あああ、待て待てアイラ! レイブン! 売り言葉に買い言葉でこのような場で斬りあってどうする。カルマ殿! 貴方が止めろ。こんな身内の争いを望んでるのではあるまい」

 

 あ、それよラスティルさん。このレイブンを止められるのはカルマだけだ。


「レイブン、それ位にしておけ。お主の想いは有り難いが、終わった事だ。……すまぬが馬に乗って街の周辺を見回って来てくれ」


「…………御意」


 レイブンが出ていき、一息ついて少し緊張してたのが分かった。予想通りっちゃ予想通りだけどあそこまで熱くなるとは。……とりあえず、出来るだけ顔を合わせないようにしとこ。


「レイブンさんは大体言いたい事を言ったように思えますが……ガーレさん、貴方は良いのですか? 聞くくらいは出来ますが」


「正直に言えばお前のやり方は不快だ。だが……カルマ様とグレースが行動に出ないなら、俺から言う事は無い」


「えーと……。別に私への悪口でもいいんですけど。私みたいな小賢しい人間は御嫌いでは?」


「ふん。まぁな。だがお前が口を出すようになってから俺の武運は大きく開けた。どんな風に働いてるかはさっぱり分からんが、お前は非常に縁起がいい。俺は良い戦場で戦えればそれでいいのだ。まぁレイブンの事は気にするな。あいつは元々立派な家の出、武人の道という物に誇りを持っていてな。奴の事でどうしても困ったら俺に言え。レイブンを宥めるくらいはしよう。俺としても戦場を詰まらなくするようなゴタゴタは御免だ」


 あんれま。何とも有難い申し出で。


「有難うございますガーレさん」


 さて、これで収まったか……あんれ。なんかリディアの様子が。


「さてカルマ殿、グレース殿。ラスティル殿とガーレ殿のお陰で場は収まりましたが、貴方方には務めを果たして頂きたい。レイブン殿はそちらの臣下でしょう。我が君を使って不満を減らさせるような真似は困ります。下手をすれば血を見る所でしたぞ」


「ああ、やはりな。黙ってるのは奇妙だと思ったのだ。いい加減にしてくれカルマ殿。何故拙者が気を揉まなければならんのだ。全く……気遣いの必要な立場ばかり回って来て堪らんぞ」


「カルマ様! アイラ殿を悲しがらせないで欲しいっす! 但し其処の奸臣に妥協せず、何とかしてアイラ殿を取り返すよう頑張ってくれないと困るっす!」


 あ、そうだったの二人とも鋭いね。私は自分の身を守るためレイブンしか視界に入って無かったのに。

 で、フィオや久しぶりだね。相変わらず複雑に無茶言ってるわ。言いたい事は良く分かるが。


「元々はその男が筋に合わぬ事をしたからよ。こちらに非は無いわ」


「ほぉ。『不味い。ダンとの関係が決定的に壊れては論外な不利益となる。第一アイラが相手に付いている以上、斬りあいとなったら無駄にレイブンが死ぬのみ。近衛兵を呼ぶか? いや、それこそダンの機嫌を決定的に損ねるかも。しかしレイブンをこちらから止めては権威が損なわれるし、レイブンの不満がこちらに向きかねん。ああ、誰か切っ掛けを作ってくれないだろうか』と姉妹揃って焦っておられたのにその言いようとは。中々面の皮が厚くなってきたようで重畳至極。しかし冬が終わったからと、火鉢をぞんざいに扱うかのような恩知らずは感心致しませぬな」


『ぬぐっ!』


 二人が図星というお題で描かれた美女絵みたいになってる。あーね。そんな風に考えてたの。言われてみれば間違いない気がする。私も似たような理由で困ってたんだし。


「我が君は非常に仁義の深い方故、きちんと後処理さえなされたら礼をしろとは申されません。しかしラスティル殿にくらいは何か褒美を与えても罰は当たりますまい。むしろ最初からそうなされていれば、器の大きさを見せられたでしょうに」


 え、おでの意見が勝手に決められて……何でもありません。確かに礼を言えと言う気はサラサラ在りませんでした。リディア様の仰る通りです。はい。


「―――分かった。ラスティル、実際助かった。後ほど秘蔵の酒を渡そう。レイブンにはワシから言っておく。しかしアイラ、お前は強いのだからもう少し穏便に治めるよう努力してくれないか」


「え、やだよ。得意じゃない真似をしたら迷いが出ちゃう。負ける可能性増やしたくない。それにそういう油断をしたらダンに怒られるし。カルマとグレースが頑張って」


「ダン……自分より遥かに強い相手に『油断するな』なんて言ったの? 貴方たいしたものね」


「え、その……。戦う場面では……あんまり言って無いと……いや、言ってたかも。ほ、ほら、誰が言っても正しい事は正しいと……思うんですよ」


「あっそ。……リディア、それこそよく言うと思われるかもしれないけど、他人の考えを読んでも余り言わない方がいいんじゃないかしら。嫌われると思うの」


 わっ、グレース良い奴。で、言われた方は。あ、片眉を上げてる。……何を意味するか分からんが。


「助言に感謝をグレース殿。言い方も奥ゆかしく大変感じ入りました。しかしご安心を。(わたくし)がこのように振る舞うのは今の所此処に居る人間に対してだけですので」


「……貴方も厄介な奴よね。まぁ雑談はいい加減にしてこれからの方針を話しましょうか」

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