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リディアの仕官についての話し合い1

 イルヘルミの恐怖より三日目の朝。

 リディアが部屋にやってきた。


「先生、これから父の所へ一緒に来て頂きたい」


「は、はい。ティトゥス様がお呼びですか?」


「いえ、呼ばれたのは私のみです。しかし先生の証言が欲しくなるかと」

 呼ばれた理由は想像が付きますから。とリディアが続ける。


 急いで向かった私達を出迎えたティトゥス様は、以前と変わらず巌のような雰囲気をだしている。

 こうして見ると父と娘はやっぱり似ているな。


「リディア、儂が呼んだのはお前だけだが」


「はい。ですが先生の証言も有益になろうかと思いました」


「ふむ……。良かろう。さて、イルヘルミより正式にお前を配下にしたいとの願いが届いた。お前の意見を聞こう」

「お断りを」


 返事はえーなおい。


「家の者から先日の顔合わせは上手く行かなかったとは聞いていたが、イルヘルミを最初に抜擢したのは儂だ。今でも有能な人物だと思っている。何が不満なのだ」


 あ。

 あれ、ティトゥス様もある程度承知だったのか。

 ひ、ひでーよとーちゃん。娘に試練与え過ぎだよ。


「まず、父上の手伝い程度ならまだしもまだ正式に働きたくはありません。そして、私はこれから来るであろう乱の時代を考えるに、イルヘルミ殿の下は良い場所だとは思えないのです。何よりもイルヘルミ殿は気持ちの悪い方でした。近づきたくない」


「確かにお前は未だ十一、正式な仕官は先になろう。だが、イルヘルミは儂が知る限り最も才能のある人間だ。その者の元よりも相応しい場所とは何処だ? それに気持ち悪いとはどういう意味だ?」


「働くべき所は未だ探しております。イルヘルミ殿の人柄については、先生、お願いします」


 え、あれを私が伝えるの?

 貴方の親に?

 マジ?

 雇用者の無茶振りですか?

 ……リディアはこっちを見もしない。


 Real?


「はっ……。ティトゥス様、イルヘルミ様のご趣味について噂でもご存じでしょうか?」


「噂、趣味……いや、抜擢しておいてなんだが、儂はイルヘルミと滅多に関係しないのでね。私的な話は知らぬ」


「では、私が民の間、イルヘルミ様と同郷の方から聞いた話なのですが、なんでも美しい人と有能な人間が好きで、男女を問わず寝室に呼ばれると有名なのだそうです。先日来られました護衛のお二方は特に寵愛されているとか」


「美しい、又、有能な人間……か。噂は分かった。で、実際の所は?」


 娘を配下にしたいと言っている人間の手が、超速くて長いと聞いてこれか。

 流石親子、精神の太さもそっくりで……。


「は、イルヘルミ・ローエン様は、リディア様が欲しい、と。可愛い子だと手を握りながら仰いました。私の私見では、噂は当てにならないな、と……。より酷い、あ、いえ、凄いという意味で。それに加え、あちらの護衛はリディア様が拒否なさった時に剣を抜こうとされました」


 イルヘルミもヤバかったが、あの男もヤバかった。

 なんだあの筋者。

 いや、あいつは損得計算抜きで抜こうとしやがった。

 筋者でさえない。

 そりゃ将軍候補だっていうのなら純粋な暴力装置なのだから、ある程度は当然かもしれないけど……。

 あんなのと同僚なんて絶対嫌ですわ。


「そうか」


 ……少し眉をしかめた程度かい。

 お貴族様ともなればポーカーフェイスが求められるのも分かるが、それにしても凄い。

 尻に指を突っ込まれても押しのけたら負けだったりするんだろうなぁ。

 周りが買収されてるかもしれないし……。

 私も見習わないといけないが、道のりは遠いぜ。


「お前は継嗣ではない。官僚となるのはお前には合わぬであろうし、何時かは仕える主君を見つけなければならないのだぞ。それとも自分自身が長となり独立するつもりか?」


 確かにどうするのだろうか。

 正直、このリディアが誰かに跪くのは想像できない。

 現時点でもこの十一歳より有能な人間なんて殆ど居ないだろ……。

 イルヘルミとの場面でも、突然の事態でも取り乱さないタフさを持ってると証明した訳で。


 私ならこれだけ金持ちの家に産まれれば、養ってとーちゃんと言うのだが。


「主君を探そうと思います。それに現時点でイルヘルミ殿が頭角を現すと決めるのは早計。人は簡単に死ぬ。彼女は現在一男爵に過ぎず、一角の人物となるには多くの戦いに勝つ必要があります。更に言えばどの程度の野心を持っているかも把握出来ておりません。幾ら才があろうと、身の丈を超える野心を持っているのでは……」


 お分かりだろうか。

 小学校六年生が、世情から考えた場合の将来予測と、人物像による問題点の提起により親を説得してます。

 自身の事を考えますに、どんなに盛ろうが高校卒業時点でもこんなのしてなかったんですが……。


 ただ、主君を探すゆーても……この子が納得する主君ってどんなのだろう。

 現時点でも厳しいのに、これ以上成長しちゃうと誰でもアホに思え過ぎて耐えられないのでは。


 しかし、イルヘルミを断るのなら……うーん……。

 忠告すべきか、僭越だから黙っておくべきか……。

 ……お願いを言ってみて、その反応で確かめるか。


「ふむ。確かにイルヘルミにどれ程の才があろうとも、現状は不透明か。良かろう。儂から断りを入れておく」


 結論が出た。

 今しか言う機会は無い。

 悪くは思わない、はず。


「失礼しますティトゥス様、リディア様。お聞き頂きたい愚考が御座います。ただ……その前にお願いがありまして……申し上げても宜しいでしょうか」


「ほぅ、大きく出たなダン殿。我々に意見を披露しようとは……。まぁ、まずはお願いとやらを言うが良い」


「有難うございます。一つ目は、北方の獣人達と良い関係を持っていそうな領主の人品を教えて頂き、望めばその方の所で働けるように紹介を頂けないでしょうか」


「ふむ……その程度ならば。しかし獣人と良い関係、となると……マテアス・スキト辺境伯と、カルマ・トーク辺境子爵になるか。

 マテアス殿は頑固ではあるが、温厚で賢明、武勇に優れた武人だ。ケイ国への忠義も厚い。獣人達とは長く戦っていて、恐れられている。ただ、後継ぎのメリオ殿が……武人としては凄まじい才能を持っていると聞くが、粗忽者であった。短慮という言葉を人にしたほどにな。とは言え、従妹のサーニア殿には思慮深さを感じた故二人が助け合えば問題無かろう。

 カルマ殿はバルカ家の領地とも近いので良く知っている。明るく快活な娘だ。良い人物であるし、草原族と隣接する難しい地域をよく治めている。君主として中々の器を持っていると言えるだろう。獣人であろうが隔意を持たぬ人柄だから仕える相手としては良いかもしれぬ。獣人達とは戦うよりも和平路線のようだ。

 このくらいだが、満足できたかな」


 できましたとも。

 判断にするに十分な情報をもらえた。

 迷わずカルマだ。

 以前手に入れた情報でも、北方の遊牧民族と親しくしようとしてるという話はあったが、これで確認できた。

 しかし、カルマって自分で集めた情報からすると、董卓っぽいように思えたのだが……。

 下手したら中国史最大の悪人と言われてる、贅肉団子の董卓が明るく獣人とも隔意を持たない娘……。

 カルマが董卓だと思ったのは、私の思い違いだったか。

 

 ただ董卓のイメージは勝者が残したイメージだし、信頼性に欠ける。

 何にしろ知識は参考程度にした方が良いって話だね。

 

 だが、調べれば調べる程大ざっぱな歴史の流れが私の知識通りでのぅ。

 お前は未来を読めるぞ。と、私を凄まじく誘惑してくるのだよ。


「十分です。有難うございます。では、カルマ様に直接お会いして話を聞いて頂けるように、そして可能ならば働けるように紹介状を頂けますでしょうか」


「それは彼女の元で大きく出世できるようにしろという意味か?」


「いいえ。それはとんでもない話です。身の丈に合わないような務めを与えられて、ティトゥス様に恥をかかせたくはありません。ただ、お会いして話を聞いて頂き、気の良い獣人の氏族を紹介して頂きたいのです。私が突然行っても領主様にお会いできると思えませんので、ティトゥス様にお願いしている次第で御座います」


「その程度ならば問題は無い。しかし、一つ教えて進ぜよう。辺境で働くと王都やウェリア家のような大貴族の領地に住む者達から侮りを受ける。それでも良いのか?」


 む……そこまで辺境の人間は軽く扱われるのか。

 知らなかったな。

 最も私としては問題が無い。


「はい。結構です。ただご助言については存じ上げませんでした。心から感謝申し上げます」


「ならば良い。願いを叶えて進ぜよう。だが、バルカ家の名を貶めぬようにな」


「肝に銘じます。ティトゥス様有難うございます。では、リディア様、少しの間手を触らせて頂いても宜しいでしょうか?」


「どうぞ」


 脈、脈……あ、あった。

 大事な話をこの明鏡止水な人にすると思うと、脈拍でも良いから内心を知る手掛かりが欲しいのです。

 これで準備は整った。

 言ってみるとするか。

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