表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
198/215

先に一人

「護衛長様助かりました。まさか身を挺して庇って頂けるとは。厚くお礼申し上げます」


 同時に深く頭を下げる。

 ……。あれ? 反応が無い。少し顔を上げて様子を……ジンさんはこっちじっと見てる。あ、こっちが困ってるのに気付いたみたい。


「……勘違いすんじゃねぇ。こんな不始末でテメェに傷が付いたらカルマ様へ申し訳が立たねぇからだ。それよりお前ら芋虫みたいにきつく縛っちまえ! あとそいつが何で縄から抜けられたか調べるのも忘れんな」


 今のは何だったのか……まぁいいか。きちんと相応しい態度を取ってくれてるし。

 しかし余りきつく縛るのはどうだろう。


「それだとかなり辛い目に合わせてしまいます。単にきつく縛るよりも、用心の為なら一人一人に人をつけるのはどうでしょうか。それと調べる時は女性は女性が調べるようお願いします」


 でないと油断したりたらし込まれて人質に取られる気がする。


「おい、てめえ誰に向かって命令してんだ。カルマ様の威を借るねずみが調子に乗ってんじゃねぇぞ」


 おっと、事情を知らない獣人から当然のご意見が。これはまずった。


「失礼致しました。命を狙われた動揺故とお許し」「てめぇこそ何様のつもりだ? てめぇらが役立たずだからジブンが恥かいてんだろうが! 黙ってやるべき事やってりゃぁいいんだよ! カルマ様がそいつらに苦痛を与えたくねぇと思ってんのは確かだ。こいつの言う通りにしな。それと一人に三人が付け。もしも同じような真似させてみろ、お前ら明日の太陽拝めると思うなよ」


 あれ? 本気で怒ってる? 確かに彼らの失策と言えなくもないけども……。やる気が薄くて当然ではなかろうか。


「は、ははぁっ!」


 ジンさんに脅された兵士たちが焦りつつ調べ、ネイカンは服や靴に小さな刃物、短剣、目潰しとして投げた球を仕込んでいた形跡が見つけられた。

 何処のスパイだこいつは……ってスパイみたいな仕事が得意だと言ってたなそーいえば。

 他の奴も調べ何か仕込んで無いかも確認した。では次に「やはり……なんど思い返しても素晴らしい! なぁテリカ! そう思っただろ?」


 ……? 場違いな事言ったのはカーネル? 顔中を喜びで輝かせてる。……大丈夫かこいつ。


「アタシ今必死で考え事してるから邪魔しないで欲しいのだけど……何が嬉しいのよ。アタシは網しか見えてないわよ」


「なんと! お前大いに損したな。あの者だ! 我は一部始終を見ていた。ネイカンが目潰しを投げると見るや、矛を手放し片手で割らずに受け流しおった。そしてすぐさま突きこまれた短剣を残された手で手首をつかみ受け止めたのだ。しかも同時に踏み込んでいたネイカンの足を蹴り砕き、戻さず腹を蹴って死に体にした上で肘で打ち落した。最後は矛で両腕を折ってしまいだ。流れるような連携とは正にあれよ。

 なんという力、技、目、胆力! 不利な状況とは言えあのネイカンが命を掛けていたのに、殺すまでも無いとあしらったのだぞ! 強いぞあの者、見た事も無い! 我とテリカが同時に掛かっても不利と見た! 素晴らしい! 是が非でも死合たい!」


 ……。ふ、ふーん。アイラさんそんな事したんだ。流石。

 ……で、こいつ何言ってんの。興奮し過ぎて前後滅茶苦茶だし、涎を垂らさんばかりだし……。あ、あれか。戦闘狂か。

 トークの兵でも何人か知ってる。ガーレみたいなのだな。でも……縛られて殺される寸前にこれは……。テリカ陣営は……すげーな。


「は!? カーネル幾らなんでも誇張……する訳無いわねあんたが。つまり何。ここには天下無双の強者まで隠れてたわけ?」


「そういう事だな。このまま縛られて終わりとは我が天命も詰まらぬ物だ。と、思っていたが死ぬ前にこれ程の者に出会い、武勇を見れようとは……良い死出の土産を貰った。

 いや、待て。諦めるのは早いか。おい! そこの仮面の男! 我とその者を戦わせてくれ! 殺し方くらい選ばせろ! 武人の情けという言葉を知っておろうが! ネイカンも説得を手伝ってくれ! 一人だけ武人として死ぬなど許さんぞ!」


 ……。いや、知りません。というか、骨を三本は折られてる人にどんなお願いしてんだ。


「……はぁあ……。あいつは何時でも……。なぁおいクソ野郎、やらせてやっちゃどうだ。あいつに限って裏はねぇぞ。この姉ちゃんなら必ず勝つさ。

 オレたちを殺せば皆お前を恨むだろうが、あいつだけは感謝して死んだ後も守護霊になってくれるかもしれねぇ。良い取引なんじゃねぇか?」


 あの無茶な願いを聞くんかいあんた。……良い奴。やっぱり良い奴ほど早く死ぬってのは本当かも知れない。


「……ねぇ君。僕は良いよ戦っても。多分勝つし」


「いやいやいやいやいや。勘弁してください。絶対を多分に落とすような真似はしません。それよりも今思いついたのですが、もしかしたらトーク様が危ないかもしれません。ここは護衛長様に任せて注意に行って頂けませんか? 貴方様が行くのが最も適当だと思うんです」


「お、おい! 武人の情けも無いのか貴様! せめて名前だけでも教えてくれ!」


「申し訳ありません。戦場で武功など夢の又夢な文弱の徒でして。護衛長様、すみませんがカーネル様の口に布を巻いて黙らせていただけませんか? それと処刑する時、彼にだけ聞こえるよう彼女の名前を教えてあげてください」


 流石に相手をしてられん。それより今はカルマだ。

 まず無いとは思うけど、ネイカンみたいなのが他に居るかもしれない。

 だとするとカルマの所は此処よりずっと手薄で危険。

 加えてアイラさんに失言しそうなテリカとの会話を聞かせずに済む。


「でも……そうしたら君が危ないと思う。ジンが又失敗するかもしれない」


「流石にもう大丈夫でしょう。……それとも本当に危なそうな感じがします? ニイテ様はあのように縛られてますが」


「…………ううん。しない。分かった行ってくる」


 これでこの場に残ったのは獣人とテリカたちのみ。

 獣人の口止めはジンさんが絶対の自信を持ってたし、これでネイカンの処分が更にやり易くなった。

 では始めよう。


「先ほどは本当に驚きましたニイテ様。まさかこの状態で私を殺す手をお持ちだとは」


「おい。勘違いすんじゃねぇ。オレがてめぇを殺したかっただけだ。このオレがクソ野郎に黙って殺されるなんて我慢できなかったんだよ」


 ん? 後ろから私を呼び止めたネイカンの意図が読めない。……。ああ……そうか。こいつ本当にいい奴なんだな。


「ネイカン様、愚考しますにこの行動で私が怒るなりして、ニイテ様の御命がより危うくなるのを危惧なさっておいでと思いますが……。その心配は無用です。私は教訓と経験を与えて下さった事に感謝してるだけ。そしてニイテ様の将来は変わりません」


「……ちっ。クソ野郎が」


「護衛長様、私が考えますにこの方は骨が折れていても危険です。今すぐ首を落としたい。賛成頂けませんでしょうか?」


 同時に上位者への礼をする。これで『問題が無ければ賛成して欲しい』と伝わった。


「……まぁな。あんな仕込みがあるとはよ。次があれば死人が出ちまう。……この様子なら這ってでもお前の首に噛みつきそうだしな」


「なっ!? あんたカルマ様は自分が来るまでアタシらの処刑をお許しになってないわよ!」


「確かに。しかし危険性を排除する必要があると考えました。トーク様には後ほど謝るとします。

 ではネイカン様、最後に言いたい事があれば何なりとどうぞ。記録に残したいのであればあちらに書記官用の筆記用具がありますので、僭越ながら私が記録し出来る限り後世に伝えると約束いたします。御一党の皆様もお好きなように発言を。結果は何も変わらないので無駄に考えない方がいいですよ?」


「……ちっ。お前不気味なまでにクソ野郎だな。…………。テリカ様すまねぇ。最後までしくじっちまった」


「……あ、謝るならアタシの方でしょ。化け物みたいに強い奴が護衛してたのにも気付かず、ネイカンに不可能な真似をさせたんだから。……いいえ。そもそも此処に連れて来たのだって……」


「謝らんでくれ。オレは楽しかった。テリカ様の臣下になって良かったと今でも思ってる。……何とか生き残ってくれよ。てめーらもテリカ様が生き残れるよう全力を尽くすんだぜ」


「……分かったわ」『承知』


 ネイカンは全員を見まわして頷いたのを確認し、こっちを見た。……もういいのか。


「おい。感謝してやろうかクソ野郎」


「いいえ結構です。他にお礼のしようがなかっただけですから」


「……てめぇ、オレを殺すのは大目に見てやる。だが、テリカ様を殺したら必ず祟り殺してやるからな」


「お考えは分かりました。では護衛長様お願いします。死体は丁重に扱ってください」


 ネイカンの首が落とされた。……床が血で汚れてしまったな。

 祟る、ね。それは不可能だ。もしも人間にそんな真似が可能なら『織田信長』『徳川家康』いや今この国で生きる諸侯も皆死んでないとおかしい。

 第一私が投げた石の波紋は、途轍もない死を振りまくはずだ。

 ネイカン、あんた一人の死でどうこうなってはやれん。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ