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グレース、テリカ一党を確認す

 グローサを送り出してから一週間。テリカ一党からレスターに到着したとの連絡が入った。

 すぐさまグレースが人をやり、準備されていた宿舎へ案内したと聞いている。

 そして今日、グレースが確認の面通しをする予定だ。

 この機を逃さず覆面文官服着用で同行する。

 私一人では目立つので、お付きの数人にもグレースに命令させて同じ格好をさせて。

 まー、グレースさんやそう面倒そうな顔をしなさんな。大事な時にどうでもいい人が顔を出すべきじゃありませんよ。

 劇における黒子の恰好を見習いませう? 実は黒子が一番強かったりするんですけどね。例えば侍の魂とか。この領で一番強い二人も隠れてますし。

 

 グレースに従って行ったテリカの宿になっている屋敷は、レスターで一等豪華な建物だった。

 トーク姉妹気合入ってますね。これ一応作ったけど使う人間が居なくて、劣化しない程度の管理のみだったものじゃん。かなり掃除大変だったろうなー。

 屋敷の庭にはテリカを中心に十一名が並んでいた。グレースが向こうの視界に入ると、全員が膝を付き(こうべ)を垂れる。

 対してグレースは鷹揚という言葉を人にしたかのような態度。

 うむ。立場の差が露骨に表れてます。数か月前テリカとグレースが会っていれば、大体互角の立場だったろう。マリオ配下最強の将という肩書は、辺境の侯爵であるカルマに迫る物のはずだし。

 すまんねテリカ。多分大よそ私の所為だ。


「流浪の身、テリカ・ニイテで御座います。世に名高き大軍師、グレース・トーク様に拝謁致します」


「立たれよニイテ殿。配下の方々も遠慮なさらず。あたしはカルマ様の臣下としてだけでなく、個人としても貴方に会えたことを喜んでいる。ニイテ殿は若くして大軍を指揮なされ、あのビビアナと戦われた真に名将の器をお持ちの方。

 カルマ様がお認めになり同じ旗を仰げるようになれば、我等はより一層の大業を成し遂げられる。そう期待してるの」


「お言葉有り難く。このテリカ、トーク様を助け、必ずやこのご恩に報いる所存です」


 ほへぇー……。このまま順当に行けば伝説に残る一幕を見た気がする。

 後世の歴史家がカルマの成功か滅びの重要な一因として、この場面における二人の言動を考察する。そんな一幕を。

 

「これで儀礼は十分よニイテ殿。カルマ様はともかくあたしに対してなら崩して貰って構わない。共にカルマ様の臣下となった時、常にこんな態度を要求する気はないもの。配下の者たちも礼をくずして結構。知っての通り此処は辺境。礼儀に五月蠅い奴は居ないわ」


「はっ。承知致しました。配慮に感謝するわグレース殿」


「ええ。……所で、貴方たち寒くないのかしら?」


 ……はい。凄く、私も思ってましたソレ。

 テリカさんたちかなーり薄着です。南方ならまだしも寒くなって来た辺境でその恰好は……。女性の薄着を純粋に喜ぶピュアな私でさえ、ちょっとその恰好は止めたら? と思うくらい場違いです。

 さっきから臣下一同めっちゃ震えてますし。

 こんな格好でほっつき歩いてるのはアイラさんくらいっす。

 ……知り合った最初は流石に風邪引くと思い厚着させたが、汗かくだけだったのよね。

 やはり筋肉か? 細身なのに筋肉ダルマのガーレを力で押さえ込める、超筋肉が熱量を保持してるのか?

 昼寝をしてたら布を掛けてあげてるけど、それだって十分とは思えないし……なんで風邪引かないんだあの人。

 目の前のテリカ一党だって中々の筋肉だ。それでもグレースの一言で意地が折れたっぽいのに。


「……寒いわ。凄く。寒いと聞いてはいた。でもこんなに寒いなんて……。アタシが治めてた土地なら、もうしばらくはこの格好でも大丈夫だから……逃げるのに必死でこれ以外の服なんて持ち出せなかったし……」


 つ、ツレー。そりゃ逃げる時に服なんて持ち出せないわな。


「グローサの服装を見た時にもしかしたら。と思い、服を買えるよう路銀を多めに渡したつもりだったのだけど……」


 あ、そんな配慮してたんだ。グレース賢い。


「あ、そうなの。通りで多いと思ったわ。でもトーク様を待たせまいと、真っすぐ此処まで来たから買う時間が……」


「その殊勝さは有り難いわ。でも風邪をひかれても困るの。お前たち持ってきて着せて上げなさい。ニイテ殿、これは貴方たちの服よ。明日の謁見もこの服で結構。カルマ様が失礼と受け取らないよう話しておくから。今日中に服職人が来る手筈になってるわ。出来上がるまでは丈の合ってない服で辛抱してちょうだい」


 おお……。


「グレース・トーク様、真に我等を気遣って下さり心より感謝申し上げます。皆も感謝なさい」


『グレース・トーク様のご厚情、我等感涙にむせびます』


「遠方の人間に対する当然の配慮よ。礼には及ばない」


「本当に、有り難いわ。この家にも大量の掛け布や火鉢が置いてあって。お陰で久しぶりに寒さに震えず寝られた」


 グレース素晴らしい。さっきから感心しっぱなしである。本当に気遣いの出来る人だ。

 特に服を作るというのはいい。お前が良い奴で嬉しいよグレース。


「さて、それじゃあ一人一人確認させて貰おうかしら」


 グレースの言葉に従いテリカたちの自己紹介が始まった。

 前に出て、名乗りを上げ簡単に得意な仕事がどんな物かを言う。

 全員が己に自信を持っており、有能そう。

 ここに居る人間はネイカン以外、リディアとグレースが聞いた事のある人物だそうだし当然だぁね。

 そして十人の紹介が終わる。


「以上で全員よグレース殿。明日はこの全員でカルマ様と謁見させて頂く。という事で良いのかしら?」


 は? ちょっとグレースさん。私言いましたからね? 全員の自己紹介と全員で謁見だと。それと確認も。

 忘れてたら終わった後に、もう一回此処に戻るという間抜けな真似をさせるよ?


「いいえ。そっちに居るのがネイカンの下僕の子でしょう? その子の紹介がまだよ。謁見にも同席させなさい」


「は? ははっ。……下僕の紹介など不要と思って。勿論侯爵の謁見に同席など失礼の極みだとも。……考え違いだったようでお詫び申し上げます」


「……普通はそうなんだけどね。まぁカルマ様は下僕だって無下に扱う方ではない。その子にとっても自分の主になるかもしれない方を見るのは、悪い事ではないでしょ」


「……はい。御意のままに。フィン。前に出て名乗りなさい」


「はいテリカ様。……フィンです。その……ネイカン様の下僕です」


 出て来た子供は、かまどで火でもおこしていたのか炭で汚れていた。

 年齢は十歳くらい。髪を丸刈りにしている。つまり、普通に考えれば低い身分だ。

 この国ではちょっとでも金があれば坊主頭にはしない。手入れに時間が掛かる髪は富貴の象徴でもあるからだ。

 見栄っぱりな人は全力で伸ばす。耽美なるマリオみたいに。

 逆に象徴なんぞどうでもいいと割り切ってる人は適当にする。リディアみたいに。


 まぁここ十年急速に治安が悪くなって、長い髪は戦場で邪魔じゃボケェという至極当然の意見が出て来たので、ガーレさんみたいに角刈りの人も増えてきてはいる。

 それでも丸刈りだけは、髪を手入れする余裕が全く無い最下層身分以外はしない。

 故に最下層身分であるという象徴にもなっている。

 刑罰で背中の皮が剥けるまで棒で叩かれるのと、丸刈りなら棒叩きを選ぶってくらい嫌がられる髪型だ。

 しかし……この少年、炭で汚れていて分かりにくいが……テリカ、ビイナと顔面骨格が似てる気がする。それに態度も完全な下僕にしては姿勢が良いというか……。

 ……。気のせいだと言われればそれまでではある。男と女の違いもあってはっきりしない。

 ……一応気に留めておきはするが。


 ん? テリカの表情が何故か険しくなってる。そして少年に歩み寄って……頬を叩いた!?

 フィン君は鼻血を出して呆然とした表情でテリカを見ている。

 あ、グレースも『えっなんで』って思ってそう。


「グレース様。下僕が身の程を弁えない礼を致しました。アタシの教育がなっておりませんでしたお許しください。

 フィン。世に名高いグレース・トーク様に対してその程度の礼で済ませるなど失礼極まる。拝跪(はいき)し許しを請い願いなさい。アタシたちが帝王にするように。お前とグレース様の間には同じくらいの差がある」


「は、はい。グレース・トーク様。大変な失礼をしてしまいました。どうかお許しください」


 わーお……。十歳の子供がグレースの前で鼻血を拭きもせず、膝を付いて倒地し許しを願ってるぞね。

 私の邪推だとこの子はテリカの弟なのだが……もしそうならとんでもなく心を痛めてるはずだ。というか普通は絶対にこんな真似させない。

 やはり単なる邪推か? ……でもテリカが徹底してるだけの線もある。

 ぬーぅ。疑おうと思えば何だって無限に疑えるのが、人の駄目な所だ……。


「い、いえ、大丈夫よ。フィンとやら、もう結構だから立って。ニイテ殿、ここは大して礼儀に五月蠅くない土地柄なの。実は失礼な人間も多い。貴方の気配りには感謝するけど、出来ればここの流儀に合わせてくれないかしら。カルマ様もそうお望みになると思う」


 グレースが狼狽えて関係ない事言いおった。ええ、すみません。その失礼なやつって私ですよね。


「お言葉感謝致します。もしもマリオ相手に下僕が今のような真似をして権威を傷つければ、棒叩きで済まされたかと考えてしまい……。土地に合ってない行いをお許しください」


 確かにマリオ相手だと舐めてんのかってなりそう。

 そして同じ真似をグレース相手なら許されると考えている。なんて示す訳には行かない、と。

 ……テリカは胃が痛くなってそうだぁね。


「……貴方苦労してきたのね。繰り返すようだけど、此処は辺境ゆえの大らかさが在る土地なの。主な交渉相手は北方の遊牧民である獣人でしょ。獣人相手に礼儀を求めるなんて馬鹿の極みだもの。まぁ、他にも礼儀が薄くなった理由があるのだけど……それはおいおい話しましょう。

 最後に確認よテリカ・ニイテ。ここに居る者以外で、貴方が連絡を取りたい配下。親族は居ないのかしら? 可能性の在る者が居るなら申告なさい。さもなければ配下となった後に無用な疑いを招く事となる」


「居りませんグレース・トーク様。勿論兵や領民といった者たちは居りますが、トーク様の臣下となるに足る能力を持った者は此処にいるだけで御座います」


「その言葉を信じようテリカ・ニイテ。貴方たちが赤心を持ってカルマ様に仕える限り、此処は暮らしやすい土地となる。そうグレース・トークが保証するわ」


「はっ! グレース様の慈雨の如きお言葉、感謝致します」『感謝致します!』


 テリカに続いて配下たちが声を揃えて膝を付いて感謝を表し、顔合わせが終わった。

 私の確認も全て終了だ。ここに居るのがテリカの意思を尊重する人間全員だとしよう。

 勿論幾らでも疑いようはある。しかしこれ以上確率を上げる手立ては思いつかん。


 ふむ……。戦乱の世の中で生きている自分の所へ、国で唯一の技術と強い意思を持った英雄が来た時普通はどうするのかね。どんな意見を聞いても意味は無いが、つい気になってしまうな。

 もしもあの少年が本当に弟なら、弱みとして活用するのが第一手。

 しかし最も力を入れるべきは最高の贈り物をし、日々気遣って心服させる。

 其処までは行かなくても共に乱世を生きて行けるよう意思を一致させるべく努力する。といった所かな?

 トーク姉妹はそうしようとしてる。立派なもんだ。

 

 ま、私は私の成すべきことをするだけさ。

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