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水出し茶は健康に良いと思われる

 ラスティルさんとレイブンが出陣して二か月、隣のチエン領攻略は非常に順調だと聞いている。

 何でも敵さんは船から領内に下船したビビアナ一行が、領主チエンを馬鹿にしつつ領地を通るのを放置できず一戦したそうな。

 勿論粉砕玉砕大敗北。しかもビビアナとこっそり同盟を組んでいたグレースは、後追いでフィオとガーレが指揮する軍を出して難所を攻略済み。

 元山賊である領主チエンは諦め悪く山に籠って抗戦してるけど、圧死を待つのみですと。

 

 普通それ戦うかねー? と思ったけどよく考えたら後の天下人、最も狡猾な狸、昨今私の模範とする日本人ナンバーワンに上り詰めたお方も、勝てる訳無い武田信玄相手に戦を挑んでクソ垂れ流してたな。

 あの史実、とある漫画だと織田信長の書状の意味を勘違いして受け取って、感動してハイになっちゃったからって描写された記憶が未だに残ってる……。

 まー、私が思いつく理由だけでも領主は他の軍から領民を守るから税を取れるんだし、黙って見過ごせないってのも分かる。それでも愚行としか思えないが。


 一応チエンも無策では無かった。カルマの所へビビアナの尻を掘るように要請が来たと聞いている。

 しかし当然無意味。チエンからの使者はビビアナへの熨斗付きプレゼントに変化し、更にビビアナの信頼を加速させる材料となっただけ。

 軍が帰って来るのは大体二か月後の予定ですと。

 いやはや、グレース様は本当に計画を建てられるお方。ご立派です。


 さて、そんな風にチエンさんが隕石によってビビアナとトークが滅ぶのを願っていたであろう間、私が何をしていたかというと……。

 レスターから片道二日程度の所にある温泉へ二週間滞在してました。最高でした。

 念のため護衛長のジンさんにお願いして、秘密裏に護衛を一人付けて貰いはしたが何も問題は起こらず心休まる休暇を過ごせた。

 一瞬リディアも誘おうかと思ったが、あれはちょっち身の程知らずであったわ。

 半年以上の間一緒に戦場で過ごした所為で勘違いしちゃってたようだ。

 危険がデンジャーである。


 本当は一か月以上温泉に浸かり続けてやろうかと思ったのだけど、グレースに休暇申請したら、

「貴方、あたしがフィオもリディアも居ない中、兵站を整えるのに苦労してるの分かってて言ってるわよね? 戦場で疲れたのは分かるけど、少しはあたしを気遣ってもいいと思わない?」

 と言われてしもうたのよね。

 その時の目の下にあったくまが、リディアが来てから見てなかったくらい濃くなってたので半分で許してやる事にしたのだ。


 但しリディアは一か月休ませるようお願いした。

 反ビビアナ連合に行く前頼んでおいた地図の出来も素晴らしい物だったし、何時もよく働いている彼女には十分な休みを取って貰わないと困る。

 グレースがどれだけ恨めし気に睨もうとも知らん。

 

 そんな優しい私なのにグレースは冷たい。

「……貴方、もう少し勤労意欲を出してくれないかしら? 知ってる? あたしたち乱世を生きてるのよ。ボケっとしてると追い抜かれかねないの。……まぁ使えるようになったのは認めるわ。……納得いかないけど」だってさ。


 すまんグレース。一生懸命働いてトーク内部で目立つのが嫌でね。

 更に言うと私の日本に居た頃の夢は、高収入キャリアウーマンの主夫になる事だったのだ。必要な時以外は頑張りたくない。

 しかし、そうか。私は成長したのか。

 ……今度指導してくれたリディアに、大金はたいてお手製蜂蜜入り菓子を持っていくとしよう。

 

 ただ不快な出来事もあった。

 温泉から帰ってきたら、街のあちこちで真田の所で見た手押し車と荷車が使われていたのだ。

 真田発案下着(ブラジャー)とかよって真田の知識の価値を知ったグレース辺りが、連合軍に参加させた文官にでも真田の陣営に有用な物が無いか調べるよう命令してあったのだろう。


 そしてあっさり真田の道具を採用したグレースは有能の一言。

 領民は大喜びでカルマの領内における評判はうなぎ昇り。

 一方技術を盗まれたクソ真田だって、猿もの引っ掻く者だと私は考えている。

 車軸一本の両側に車輪が付いてる荷車はあっても、車輪が一つ一つ独立しているリヤカーもどきがない。

 加えてスコップや幾つかの道具を私は真田の陣営で見ていない。

 最も使えそうな物は、自分が安定した領地を得るまで取って置く気と見て相違あるまいて。

 千年進んだ道具によって実利と名声を得た後に、更に千年進んだ道具で心服させ、前のをパクった諸侯と差を付けようって所か。

 一回目の変身で絶望的なのに、二回目の変身が残ってるのである。もっとあるかもしれん。

 賢いね。殺したい。

 

 とは言え私に今出来るのはトークで適当に働く事のみ。

 戦場が安定してグレースにも余裕が出てるし、今日は何時もより早く帰ろうかなーと思いながら官邸まで行くと、グレースからの御呼出しが掛かった。

 即小走りで向かうと部屋にはリディアとカルマにアイラさんまで居た。

 一つ深呼吸して気分を切り替える。何があった?


「遅れて申し訳ありません。何がありました?」


「テリカ・ニイテの使者が来たの。彼女の第一の臣、グローサ・パブリが姉さんとの謁見を願って来たわ。とりあえず客として一室を与えて待たせてあるけど、どうした物かしらね」


 ……?


「は?」


「テリカ・ニイテの使者、グローサが来たの。内密にカルマ様に会いたいとだけ言ってね」


 え、なんでそうなった?

 ………………あ。

 私がシウンに会って撒いた種が思ったより大きく実ったのか?

 駄目だ考えが纏まらない。

 困った。ので美人軍師リディア様ー助けてつかーさい。


「バルカさん私はとりあえず向こうの話を聞くしかないと思うのですが……如何でしょうか」


「マリオの使者としては妙であるし、それしか御座いませんでしょう。お二人はどう考えられる?」


「同意見だ。二人も共に会うか?」


「当然よね」


「いえ、私とリディアさんは隣の部屋で聞き耳を立てます。グローサの前には立ちません」


「当然とはこちらですぞグレース殿」


「……あ、そうなの。えーと、じゃあ今すぐグローサを呼びに行かせるから、お茶でも飲んで待つとしましょうか」


「分かりました。用意してきます」


 実はこういう時一瞬グレースに雑用をお願いして、嫌な顔をさせる誘惑に駆られてたり。

 でも私は周囲へ雑用係としてこのトップ会談に参加してると言ってるので、そんな事をしたら奇妙極まりない。

 残念だけど何時ものようにお茶を準備し、会議室へ戻る。


「うむ。有難う」


 カルマは相変わらず普通にお礼を言ってくるか。

 日頃雑用しかしてない奴が、トップ会談に当然の顔をして入ってたら不快感が溜まるだろうに、そんな様子を見た記憶が最初を除けば殆どない。

 配下に慕われてもいるし立派な領主だと思う。

 お陰で将来的にどう扱った物か迷い始めてる。

 ただ……信頼するにはもう少し腹芸的な物が足らんのだよなぁ。

 

「……何だダン。ワシの顔をじっと見て。何かあるのか」


 おっと。少し油断してた。


「んー……。カルマさん化粧をしなくなったなと思いまして。それに前よりもお肌が綺麗になってます。一年程度で効果が目に見えるとは素晴らしい」


 もう三十のはずなんだけど、二十ちょい程度にしか見えなくなってる。

 こんなに効果が出るなんてこっちの耳が高い人たちはやっぱり生命力強いんだろな。

 四十を超えても子供を産むのが珍しく無いと聞いてるし、平均寿命は医療技術に比べて幾分高そうだし。

 見た目も平均して年齢より若く見えるんだよね。


「あっ。そうなんだ! やはり分かるか? グレースと二人で化粧を減らしたのだが、半年程度で少しずつ変化が出て来て近頃ははっきりと……。感謝するぞ。ほら、グレースも。あんなに喜んでいただろう」


「う、うん。……有難うダン。疑って悪かったわ。……肌が綺麗になった時には、かなり嬉しかったです……」


「喜んで頂けて良かった。あー、そうだ。草原族が売ってる二種類のお茶、飲んでます? 他のより幾分か健康と美容に良いみたいなんですけど」


「え? 嘘、あのお茶にそんな効果が? 本当に?」


「確実とは言えませんけど。私とアイラさんは常飲してます。バルカさんもですよね?」


 草原族提供の柿の葉茶とドクダミ茶からは基礎の効能に加え、保存状態が良いから冬場に不足しがちなビタミン系の栄養を補給出来る……はずなんだ。

 密封が難しい文化レベルの中で創意工夫して密封し、高温多湿を避け封を開けたら直ぐに使い切れる量を売るよう指導した。

 それとお茶葉の色が変わってしまったら捨てるようにとも。

 お陰で高価になっちゃってるんだが。


「うん。お茶美味しい。落ち着く。僕は特に水で出したのが美味しいと思う」


 あ、ちょっと出し惜しみしてる21世紀の科学によって証明された、美味しく健康にいいお茶の飲み方を言いおった……。


「はい。グレース殿、舌の表面さえ乾く間もなくお疑いとは。感心致しかねますな」


「い、いえ、そんなつもりじゃなかったの。ただ、ほら、高いじゃない? ダンなら分かってくれるでしょ?」


 セコイ(・・・)ダンなら。と聞こえたのは私の被害妄想ですかね。

 でも分かります。身内価格でなければ躊躇するお値段です。

 他のお茶も基本高価だが、あっちは品質保全がちょい荒い分安いのよね。


「分かります。ですがお二人は大領主とその第一臣。健康とついでに美容を大事するのは世の為民の為、大切な仕事ではありませんか? それに……カルマさんは遠慮深いですねぇ」


「わ、ワシがか? 何がだ?」


「お二人が常飲しても大した量ではありません。だから護衛長さんにでも命令して、貢がせれば良いのですよ。何だったら領内で売るものの品質を領主自ら確かめてやってもいいって話です」


 ちゅーか貢いで無かったんかいジンさんやって思う。

 獣人の皆さんはここら辺駄目だな……昔ティトゥス様に届けてたのは、私が言ったからってだけだったとは残念だ。


「……成る程。尤もよね。万民の上に立つ者として民の間にどんな物が出回ってるか確かめるのは責務よ。……税が増えると不満に思う量でもないはず。……いい献策だったわダン」


「どうも悪い影響が我が妹に及んでる気がするのだが……。あー、ダン、もしかしてこれは以前言っていた、折を見てワシらを気遣うというやつだったりするのか?」


「あのー、それを言葉に出されては趣きに欠けてしまうと思いません?」


「……すまん。そういうのに気が回らん性質なのだ」


 普通に謝られちゃった。

 別に良いのに。なんか話が流れるうちに我が家の秘伝、水出し茶を皆忘れたみたいだし。


「さ、さて。そろそろグローサが来る頃よ。気分を切り替えて頂戴」


 はいそーします。ってリディアが近寄って来た。何さ、秘密の話なの?


「我が君、後ほど(わたくし)に水で出したお茶とやらを御馳走くだされた事がない理由、教えて頂きますのでそのつもりで」


 …………。アイラさん、後で豆乳一気飲みな。

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