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ユリアの決断と

「……ソウイチロウ様はあたしたちに厳しい戦いが待ってるって言ったよね。なのにソウイチロウ様が居れば勝てるって言うの?」


「幾らかはマシ、くらいかな。時間があれば俺の知識がもっと使えるし、何より俺はセキメイとフェニガの出してくれる一番良い策をとるつもりだから。ユリアだと躊躇するくらい不義理な策を、ね。……嫌だけど、そうしないと間に合いそうも無いんだ。そういう意味も含めて選んで欲しい」


 実のところ俺の持つ知識を全部使えればもう少し自信がある。

 だけどそれは更に人を殺すってことだ。俺に其処までの覚悟があるかまだ決めかねている……。


「ケイを再興しないなら、ソウイチロウ様は自分が新しい帝王となって国を興すつもりだったんだ……知らなかったよ。そんな野心があったなんて」


「ん? 違うよ。お願いしてるのはケイに固執しないで欲しいってだけだ。何か条件を付けると軍師の出せる策が狭まってしまう。俺が統一出来た時一番確率が高いのは、ユリア、君が新しい帝王となってケイが再興したという建前にする事さ」


「あ、あたし!? それくらいなら素直に陛下に立って頂こうよ! ……というかソウイチロウ様はケイの再興をする気が無かったんじゃないの?」


「再興に囚われないだけで有効ならするさ。でも陛下は立たせない。統一した時、俺たちだって組織を持ってるはずだ。長が変わるとそれが壊れてしまう。……俺が一番心配してるのは、何処かの諸侯が陛下を帝王の座から降ろしたと宣言したり、陛下が何らかの理由で死んで世で謀殺が囁かれた時、『君が冷静でいられるか』なんだ。怒りの余り無駄な出兵をしそうだと自分で思わないかい? さっきだって陛下にお別れを告げに行けば危険だと、本当は分かってたんだろう?」


「…………反論できないよソウイチロウ様。でもあたしが君主として不適格だと思うのに座を譲ろうと言って下さったのは何故? それとも絶対にそうはならないって自信があるの?」


 不適格と言いながらも眼に怯んだ様子がない。

 やっぱりユリアは凄いな。


「まさか。俺たちの中で最も民と兵に慕われているのは君だ。それにロクサーネとアシュレイは君を義姉と呼ぶほどに慕っている。いよいよとなれば二人が君を選ぶ事もあるだろう。これが君主の資質でなくてなんだい?

 だからこそ今決めて貰わないと困るんだよ。将来問題が発生した時、俺と君が分裂してしまうくらいだったら少し無茶でも君の下で纏まっていた方が良い」


「……最初はそうだったかもしれない。でも、今はどうかな……。今までの領民はあたしを慕ってくれたけど、生活を楽にしたのはソウイチロウ様なんだから。それにアシュレイはともかくロクサーネはどうだろう……。あ、ロクサーネ答えないでいいからね」


「ユリア様……」


 ああ……この話もしないと。……君主って辛いな。

 だけどフェニガに忠告された。嫌な話だけどこれも覚悟しておかないと不味い。


「……ユリア、ロクサーネ、アシュレイ。まだ聞いて欲しい事がある。それは君たちの仲が良すぎる事だ。……いや、仲が良いのは良い。でも……俺たちは殺し合いをしている。当然最前線で戦ってくれている武将が死ぬ確率は高い。その時周りを見れるように、心の準備をしていて欲しい」


 別に義姉弟の誓いをしたって訳じゃないみたいだけど、三人の結びつきは其処らの姉弟よりずっと強い。

 誰かが死んだら、状況を考えず仇を討とうとしそうなくらいに。

 ……日本だったら不謹慎な考えだって怒られたかな。

 でもここは日本じゃないし、俺の他に言う人間も居ないんだ。


「何言ってんだよソウイチロウ兄貴、オラとロクサーネ義姉貴が負ける訳ねぇだろ! ビビアナの所にだって、オラたちより強い奴は居ないと義姉貴が証明したじゃねぇか」


「アシュレイ……その後ロクサーネが鉄騎の群れにのまれそうだったのをもう忘れたのかい? それに二人とも組手で結局ラスティルに勝ちこせなかったと聞いたぞ」


「あ、あれは偶々だ。今ならオラが勝ち越す! 第一ラスティルと戦う時なんて来ねぇよ」


 うーん、アシュレイが在り得ないくらい大胆に攻められるのはこの自信あってこそ。

 下手に自信を減らしては長所を潰してしまうだろうか?

 いや、駄目だ。アシュレイは将、一人の問題では終わらない。


「自信があるのは良い事だけどね。でもケイを統一するならラスティルと戦う時だって来ると考えるべきだ。それに、二人が死ぬのは戦場と限らないぞ。味方に裏切られて寝込みを襲われる事だってあり得る」


「……知りませんでした。ソウイチロウ様は悲観的な考えをお持ちだったのですね。……二人の軍師が吹き込んだのですか?」


「ロクサーネまでそんな言い方をするのかい? 確かに嫌な話だ。だけど俺は皆の長。考えておかないといけないと思ってる。ロクサーネも主君が将来明るい事しかないに決まっていて、どんなに戦おうが知人は誰も死なない。なんて考えてたら嫌だろう?」


「それは……そうです。でも、昔の明るかったソウイチロウ様が変わってしまったみたいで、寂しいと自分は感じてしまいます」


 ……昔は若かったからね。時が経った以上変わるさ。


「昔とは立場が変わってしまったもの。人もいっぱい殺した。変わらないといけないって思ったんだ。……ロクサーネ、こんな俺は嫌いか?」


「いいえ。……いいえ! 昔、山賊の長を殺して泣いておられた方、人の死を心から悼める貴方様は変わっておられません。昔より更に敬服に値する方です」


「……有難う。……ユリア、色々言ったけど結局は君の判断次第だよ」


「ソウイチロウ様、さっきから将来の予測だっていうのに凄く具体的だよね。……あたし、そんなに危なっかしかった?」


「……俺の尊敬する先人に国の再興を強く願い、兄弟の情を大切にした人が居るんだよ。古い記録だから本当は違うかもしれないけど、その人の失敗で言ったようなのがあってね。勿論ユリアが同じ失敗をするとは限らないけども」


 蜀の君主劉備は義理の弟関羽を同盟相手の裏切りで失った時、周囲が止めるのも聞かずに敵討ちをしようと無理な出兵し、大敗した。

 君主が情で判断すると酷いことになる。

 俺だって皆が酷い目に会った時、感情を抑えきる自信はないけど、ユリアよりは良いだろう。


「…………。あた……。あたしは。……。ケイを、ケイの再興を諦めれば、民は、臣下は助かるの?」


「助かる。と言えたらね。だけど俺は当然、フェニガとセキメイにだって天を完全に見通す知恵は無い。言えるのは、俺の考えだとユリアがケイの再興を諦めて俺に協力してくれた方が、民と臣下の苦痛が減るかもしれない。って事だけだ。

 しかも君に最後まで我慢して貰わないといけない。俺は一生懸命君を支える。でもきっと辛い事がいっぱいあるだろう。俺は必要ならロクサーネや、アシュレイを殺した奴とだって酒を酌み交わそうと思ってる。そんな俺を薄情で付いていけないと思うなら、君が長になるべきだ。そうでないともっと困ったことになる。さぁ、どうするユリア」


 ……悩んでる。悩んでくれるのか、有難うユリア。


「……セキメイ、セキメイ先生は、どう考えます?」


「はっ。……しかし軍師が口を出せる領分を超えていると考えますです」


「いいから! 今あたしがどれだけ苦しんでるか先生なら分かるでしょう!?」


「……なれば申し上げます。民を想うならソウイチロウ様に従うべきです。民よりも重要な物があるならば、追い出すと良いでしょう。一つ申し上げられるのは、その場合も我ら臣下は皆ユリア様について行きますです」


「…………。はぁ……。分かりましたセキメイ先生。お言葉の通り、ソウイチロウ様に従います」


 ! ……泣いちゃ駄目だ。想いを伝えるのがまだ残ってる。


「ユリア様わたしにそんな意図は」「いえ、言わないでください。……ソウイチロウ様の才があたしの百倍なのは明確です。……ソウイチロウ様、あたしは心の準備をし、出来る限りの努力をすると誓います。しかしそれでも道を違えかねない自分を感じています。そんなあたしですが民の為に……働きたいのです。どうか慈悲を持ってお導きください」


 ああ……君は大事な物を捨てろと言った俺に涙を流して願うんだね。

 分かったよ。未だに時々どうしてこんな目に会うんだとさえ思ってしまう俺だけど。

 君と共に歩けば、きっと俺みたいな奴でも英雄となれるだろう。

 俺は、俺をこの世界に連れて来た何かに誓う。ユリア、必ず君に俺と共に歩んで良かったと言わせて見せよう。


「頭を上げてくれユリア。さぁ! ああ、涙で綺麗な顔が……。ユリア、実はもう一つお願いがあるんだ」


「まだあるんですかソウイチロウ様?」


「うん。色々言って疲れてる所にごめんね。でも今どうしても聞いて欲しい。

 つまり……ユリア・ケイ。貴方の事が好きです。俺の妻になってください」


「お、おいセキメイ。抑えろよ?」

「あ、ああ……フェニガですか。大丈夫です。分かってたデス。ただどうにも悔しいだけです。というか話し合ったはずなんですけどあの人完全に忘れてそうな表情なのです。どうしますです?」

「い、いや、大丈夫だろ。小職が話を付けるさ。だから口だけの笑顔は止めてくれ」

「お、おおお……。なんか良くワカンネーけど流石ソウイチロウ義兄貴だ。なぁロクサーネ義姉」

「あ、ああ……そうだな。…………おめでとうございます。ユリア様……」


「……ユリア、大丈夫? 顔が真っ赤だけど。それで、出来たら返事を聞かせて欲しいな」


「え、あ、はい! 大丈夫です、ソウイチロウ様。えっと……あたしで、いいんですか?」


「ユリアしか居ない。ユリアと支え合って生きて行きたいんだ」


「は……はい。嬉しいです……ソウイチロウ様。喜んで」


「そう、か。有難うユリア」


 緊張、した。でも、やっと想いを伝えられたな。


 この後、フェニガが結婚の詳細はオラリオの所へ着いてからという事と、その為にも移動の準備を始めるようにと言って解散になった。

 ……はぁ。良かった。意思も統一出来たし、俺たちはこれから更に強くなれる。


「流石に疲れたか。ほら、茶だ」


「ああ、有難うフェニガ。部屋に帰ったんじゃなかったのか? 何か話でも?」


「まぁな。しっかし皆驚いてたぜ。男が趣味なのではと言われてた主君が、突然告白すりゃ当然だけどよ」


「は? 何だそれ。なんで俺がホモになるんだ」


「そりゃソウイチロウ様が幾ら女に慕われてても、手を出さなかったからに決まってんだろ? アシュレイなんて寝所に呼ばれた時の作法を聞いて来たんだぜ? 実は俺も万が一を考えて男娼から聞いてあったんで、それを教えてやったんだけどさ。興味あったら俺かアイツを呼ぶと良い」


「止めてくれ……。俺は普通に女性が好きだ」


「相談してくれたから知ってるさ。まぁ、冗談はこれ位にして聞きたいんだが、もしかしてユリア以外に側室を持たないつもりか?」


「え? ああ。そうだよ」


「おいおい。ロクサーネとセキメイの気持ちに気付いてない訳じゃねーだろ? 頼むからあの二人も側室にしてやってくれ。でないと配下の中に無駄な軋轢が産まれちまう」


「だけど……ユリアに不快な思いをさせたくない。それに……フェニガ、セキメイの事が好きなんじゃないのかい? 二人は誰よりも理解しあってるように見える。友人の好きな人を奪うのは嫌なんだ」


「はぁぁああ。あのなぁ。あの三人は誰が心を射止めても、必ず残り二人も妻に迎えてくれるように頼むって決めてあるんだぜ。でないと喧嘩になるだろうが。

 小職たちに関しては、まぁ好意はあるさ。けどお互いに寝所でも腹の探り合いをしないといけないような相手は嫌なんだ。俺は武将や軍師じゃなくて、ごく普通の女性を妻にしたいの。

 良いですかソウイチロウ様。必ず二人も妻に選んでくださいませ。さもなければ我等は内部から崩壊します。あんた自分がどれだけイイ男なのか考えに入れろよな。今後ともどんどん妻が増えてくって皆確信してるくらいなんだぞ」


「は? そ、そうなのか?」


「そうなの。だからいいな? 妻を一人とかにするんじゃねーぞ。帝王の後宮にまつわるような話が、我等の中に発生したらソウイチロウ様の所為だからな」


「……分かったよ。ユリアが、良いと言ったらね」


「ほんっと偶にメンドクサイ主君だぜ。ま、それは良いとして、だ」


 ん? なんか雰囲気が……って!?


「ウグッ。な、何だよフェニガ。苦しいから止めてくれ」


「苦しい? そりゃ結構。忘れられないように苦しくしてるんだからな。なぁソウイチロウ様。俺は言ったよな? 妻にする話はさっさとしろ、だがユリアにケイを捨てさせる話はまだするな。ってよ? どうして逆にした?」


「それは当然じゃないか。夫婦になってから人生の決断なんてさせたらユリアがどんなに困るか分からない。そんな誠意の無い事は出来ない」


「誠意だぁ? お前今俺たちが何してるか忘れてんのか? 内乱となった国で再統一を目指して領地を奪い合い、殺し合ってんだぞ? 今これだけ確固とした関係を築けてる人間がどれだけ貴重か、分からないとでも言うのか?」


「分かってるさ。大体何を怒ってるんだよ。俺にどうしろって言うんだ」


「分かってねぇ! ……ソウイチロウ様、今回は上手く行きました。しかし、ユリア様のケイと妹弟への想いの強さから言って、駄目であった可能性も高いのはご承知でしょう。貴方様は二人と夫婦になり、子を成し、情を更に育んで二人が拒否できなくなってから話すべきだったのです! お嫌だとしても、そうするのが結局は誰にとっても最上の方法だった!」


「…………其処までしないと駄目なのかフェニガ」


「……はい。……小職に相談して、セキメイに相談しなかったのは、ユリア様が共感出来る相談相手を残すためですか?」


「ああ。俺が此処を出るとなったら軍師が二人とも自分に秘密の相談をしてたとなれば、ユリアが二人を信頼出来なくなるかもしれないと思って……」


「貴方様の私心無き情には敬服致します。しかし大所高所(たいしょこうしょ)からお考えください。セキメイがどれほど失望したとお思いか。小義にかまけて皆が血の染みとなれば後悔しきれますまい?」


「ユリアだけだと勝ち残れないと?」


「……貴方様が居なければ、皆ユリア様に従い粉骨砕身したでしょう。しかし小職の見る所、ユリア様は安定感に欠ける。先ほど指摘なされた理由のどれかによって、滅んだと思われます。

 ソウイチロウ様が居るのと居ないのでは、我等の未来は全く違うのです。どうか小さな義にかまけた行いを二度となさらないでください。いえ、あと一度は良い。小職が命を捨てて何とか致しましょう。しかし二度目があれば。次はセキメイが死ぬでしょう。貴方様は相談できる相手を失い、皆揃って滅亡への道を歩む事になる。ご深慮されるよう、伏してお願い致します」


 床に頭を擦りつけたフェニガが見える。……見たくないのに。


「俺の行いで、二人が死ぬ。其処まで言うのかフェニガ」


「事実で御座います」


「……分かった。どうか立ってくれ。そんな姿勢を友達に取られてると、ちょっと剣が得意なだけの大学生だった俺が、どれだけ遠くに来たかが体にしみこむようで……辛くてたまらないんだ」


「……ああ。ソウイチロウ、お前がどれだけ人殺しが嫌いかは良く知っている。金も名誉も、女だってたいして欲しくないのだって。大義に生き、史に名を遺して死ぬのが望みである皆には理解しがたいだろうけどよ」


「そうでもないよ。俺だっていい生活がしたい。生活を変えるのには力が必要だ。それに皆飛び切りの美人だろ? 美人な嫁さんを貰えて喜んでるさ」


「はっ。そりゃそーだけどほんのちょびっと落ちるくらいの美人なら何処にでも居るじゃねーか。あんな面倒くさい三人に固執する理由なんてねーよ。お前なら何処かこの内乱の関係ない所に行って、美人の女に囲まれた良い生活ができるさ。

 けどよぉ。この国の殆どは酷い状態なんだ。諸侯に任せててマリオなんかが天下を取ったら戦が無くなっても良い国になるわけがねぇ。……どうか俺たちに力を貸してくれ」


 ……知ってるよ。マリオは領地から無理に税を取ってる。

 今はまだ何とか生きられる程度だそうだけど、より税が必要になった時、あのマリオが躊躇するとは思えない。


「フェニガ、俺だって生きなきゃいけない。それにこれだけ全てを共にした友人たちを見捨てるなんて出来ないよ。安心してくれ。今回の事は俺が悪かったから」


「……悪い。小職は、いや、小職たちは友を不幸にするクソ野郎だ」


「女性の方が多いから言い方間違ってるんじゃないかな? それに俺に無茶を頼むのは女性陣だぜ」


「……はっ。確かに。あっちの方が能天気な若さで無茶しやがる。……これからも頼むぜ親友」


「こっちこそ。お前が一番の頼りだ。オラリオの所でも頼んだぜ」

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