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ダンが居ない間のトーク領の変化1

 ランドを出、兵糧は馬に乗せられる分だけにして二日で黄河を渡り、トーク領に入った後は先ぶれに用意させた宿と飯のお陰で水のみを持って走り続ける事三日。

 行きは大回りして三週間掛ったのに、帰りは近くなってるのもあって合計五日でレスターに着いた。

 ……倒れそう。もう、まじ、体がバッキバキである。

 グレースに会ってからと思っていたけどこれは無理。

 という事で、皆解散して寝る事となった。

 何か危急の用件があれば、リディアが人を寄越すと思う。

 ……まぁ、言ってくれず勝手にしてても問題無い……はず。眠くて良く分かんないけど。

 とか何とか自分を誤魔化して、アイラさんへの挨拶もソコソコに寝た。

 

 朝、当然ながら全身が痛い。

 常に乗馬の訓練をしてきたが、それでも足りてなかったと痛感させられた五日間であった。

 痛いけど動かないといけない。

 昼グレースと話し合う前に確かめておきたい事がある。

 まずはアイラさんの状態だ。お出かけ前に確かめさせてもらおう。


「アイラさん、少し失礼しますね」


「ん? あ、肩に手を置くやつ? ……久しぶりだね。なんか懐かしい」


 うう、相変わらず透明感のある瞳をお持ちで……明鏡止水、明鏡止水。

 額がくっ付きそうな距離でも変化無し。

 ……。いい歳して顔が赤くなりそう。


「そうですね……。はい、ご協力ありがとうございました。ではアイラさん行ってらっしゃいませ」


「うん。行ってきます」


 ……よし。これで家には私一人。

 さて、ずっと持ち運んでいた、どの書物に布や木片を挟んだかとかの一覧が書かれている物を開いて、と。

 部屋は……調べられている。アイラさんに触らないでくれと言い置いた書物を入れた箱があるのだけど、箱自体は動いてないのに、中の書物は全部一度開かれている。

 木簡だと髪が挟めず、小さいとは言えもっと目立つ布とかなのに気づいた様子が皆無。

 詳しくメモってるとは思わなかったようだ。

 ハッキリ痕跡を残すなんて、本の間に髪の毛を挟んでおく的な手法はあんまり知られてないのかね?

 

 ……一方、部屋の外は調べられた痕跡がない。

 私が保存食を入れる為の冷暗所。と、言って作った食料保存庫にある床下の箱も触れられていない。

 日頃此処を触ってるのは私だけだから、何かを隠すとしたらここだとアイラさんは判断するはず……。


 私の部屋をグレース辺りが調べたのは当然だ。

 なのにこれはアイラさんの協力を得られてない? 向こうはアイラさんが自分の側に付かないと判断している?

 ……アイラさん、貴方は損をしやすい人だ。

 ラスティルさんと言い、時が来てどのような目で見られようとも、今日を忘れないでいたいものだが……。




---



 昼になり、反ビビアナ同盟の報告と今後を話すためトーク姉妹、リディア、アイラさんと議事室に集まっている。

 リディアが報告し終わり、グレースの番となったのだが……ほぅ。

 自慢げとな? ディ・モールトベネの予感がする。


「ビビアナの逃亡援助、大変上手く行ったわ。最初は降伏勧告にでも来たのかなんて言われて、不信感を取り除こうと一人で行ったのは危なかったし、率先して毒見をするのは面倒だったけどね。

 傷病者の面倒をきちんと見たお陰か、最終的には真の友を得たとまで言っていたわよ」


 おぉ、落ち目の時の手助けが身に染みたのは分かるが、一人で敵地に行くとは大した肝っ玉だ。

 

「……良くそんな危険な真似の許可を出せましたねカルマさん」


「もしもビビアナとの話し合いが決裂すれば数万の兵が死にかねん。それに逃げる時の気持ちはワシも良く分かるから、まず纏まると確信できたのでな。ワシが行こうかとも思った程だ。それでは余計な手を思いつかせかねないので止めにしたが」


 そらそーですがな。貴方人質にして開けゴマが安定だと、向こうが判断しかねないずらよ。

 ちょっと危なかったわ……。


「素晴らしい。胆力、能力共に御見それいたしました。感服です。お二人の働きで我々は今後非常に楽な立場となるでしょう」


「それとビビアナに帰ったらできるだけ早くジョイ・サポナが帰り着く前に領地を攻めるよう提案したわ。

 余計かとも思ったけど、あいつら東を完全に支配してから攻めようと考えてたみたいだったんだもの。何か知らないけどやたら感心されたわね。ビビアナも『流石大軍師グレースなのじゃ……』なんて言い出して。大軍師という言葉が何なのか謎だったわ」


 おお、おおお……素晴らしい。

 さようならジョイ・サポナ。お前は頭にくる奴だったよ。真田を助けたからな。


「なんと、私はグレースさんを傑出した軍師だと考えていましたが、それでも目が曇っていたようです。流石はグレース・トーク。史上唯一リウを超えた軍師。天下無双の智謀をお持ちだ」


「……なぁ、それは幾ら我が妹でも過剰な褒め言葉だと思うのだが……向こうでは流行っていたのか?」


 あら、グレースの顔にも『何こいつ突然褒めて気持ち悪い』と書いてある。

 知らぬは本人たちばかりであったか。

 

「実は向こうで集まった諸侯たちの間だと、今言ったとおりの物がグレースさんの評判になってたんです。グレースさんは魔術が使えるのでは? とまで言われてました」


 おっと、メリケン人なら中指を立てそうな表情に変化しちゃった。

 真面目だのぅ。笑っても良かろうに。面白いし上手く行ってる証拠ぞね。


「それ、結局の所は貴方たちを褒めたたえてるだけでしょう? あたしは良い面の皮だわ。屈辱ね……」


「それは物の見方が狭いと思いますよ? カルマさんが大宰相となってからあった苦難を乗り越え、トークが大きくなれたのは、貴方の働きも欠かせない物だったのは間違いありません。

 勿論大袈裟ですけど、民の噂だったら当然です。バルカさんもそう思いませんか?」


「……ふむ。久しぶりに本当の名を呼ばれましたな。……姓のみではあっても、やはりこちらの方が宜しい」


「……あの、バルカさん? 私の方を見つつスッゲーわざとらしい態度であざとい事を言ってないで、場の会話に従ってくださいよ……」


「これは失礼を。グレース殿がダンの歓心を買おうと世の小娘が如く、目の前で落ち込んで見せましたので(わたくし)も負けたくなかったのです」


「なっ!? どんな邪推よリディア! ……ダン! 貴方も意外そうな顔でこっちを見ないで!」


 あ、やっぱ違うよね。オジサン少しどきどきしちゃった。


「であれば、大所高所よりお考えあれ。(わたくし)も貴方からは先日の戦を始めとし、多くを学ばせて頂いている。この評判、根も葉もありましょう。そのような表情をなさるのは心得違いです」


 よしよし、いいぞーリディア。

 グレースには出来るだけ機嫌をよくしてもらいたい。

 何だったら無限に増長しても結構毛だらけ猫はいだらけである。

 増長しきった時にどうするかを私は知りたいんだ。


 大体今言ったのは事実だしね。

 精神の毒となってもいいし、やる気が増えてくれてもいい。


「グレース、二人の言葉に間違いはない。グレースが居るからこそ、ワシは生き残れた」


「姉さん……」


「それ以外にもグレースさんのお手柄があります。恐らくは集まっていた諸侯全員、トークが草原部族の一部と協力関係にあると気付いていませんでしたよ。

 何時かは気づかれるでしょうけど、情報戦で完全に勝っている証拠だと私には思えました。バルカさんはどう考えます?」


「お言葉の通りでしょう。北方異民族を領地に住まわせて協力するという発想自体、中々思いつかぬ物なれど、グレース殿が主導して行われた情報封鎖は素晴らしく効果を発揮しておりました」


 リディアはそう言いながら、グレースに向けて一礼した。

 おお、いいぞリディア、グレースの口元がピクピクしてる。

 君、褒めるのまで上手いのね。エグイわー……。


「ま、まぁね。出来る限りをしたと思ってはいたけど、十分に効果が出たようで安心したわ。あ、あたしだけじゃなくてフィオも頑張ったのよ。本当に半々と言っていいくらいに」


「ああ、何故ダンの指示に従わねばならないのかとグチグチ言っていたが、仕事自体は真面目にしていた」


「そんなにフィオさんが働いてくれましたか。じゃあ、何かご褒美を上げましょう。次にオウラン氏族とはどうなっています? かなり問題が起こったと思うのですが」


「勿論苦労したわよ。こっちの領民と何度も問題を起こしたし、死傷者だって互いに二十人は出てるはず」


「やっぱり。では、例年あった遊牧民に襲われる被害はどうなりました?」


「……良く分かってるわね。草原族は全部、物と食料の交換で済ませられたの。山と雲の奴らが来た時に出陣はしたけど、草原のやつらが居場所を見つけておいてくれたし、かなり楽だったとガーレから聞いてる。今年の被害はとても少なくて済んだわ。結論としては、オウランの提案は大いに益を発揮した。になるでしょうよ」


「それはそれは……上手く行ってますね。全く暮らし方が違う人間と隣同士に住めば、もっと大変だろうと思っていましたのに。先ほどからお二人には感服しか出来ません」


「確かにワシたちも互いの妥協点を探すため尽力した。しかしオウランが想像より遥かに協力的であったのも大きいと思う。こちらに住んでいる者たちも考えていたよりずっと話し合いが出来る者たちでな。ワシもグレースも驚いたぞ」


 感謝するオウランさん。

 遊牧民は基本縛られるのを嫌う。

 忍耐強く話し合いをしようとしない人間も多かろう。

 人選の苦労が目に浮かぶようだ。


 まぁ、それだけ放牧できる南の土地に魅力があるのだろうな。

 ここはまだ超寒いんだけどさ。

 冬の朝なんて多分ー10℃だぜ。


「オウラン様がこちらに人を住まわせると聞いた時には驚き心配しましたが、上手く行って何よりです。では、内部の警護と官吏として入って来た人はどうでした?」


「それが民に関してよりも楽だったの。護衛長として入って来たジンが凄く有能でね。上手く配下を纏めてるし、従順よ。今は街の警邏とかさせてるのだけど、間諜を捕らえたりしてくれて助かってるわ。

 官吏の方も順調と言っていいでしょう。若い子ばかりだから呑み込みが早いのか、何とか戦力になってきた所ね」


 ジン、護衛長さんの事か。あの人そんなに有能だったんか。

 ぬーむ、そんな人物を寄越して良かったのだろうか。

 繋ぎ役なんて難しい役目をやらせるんだから、以前お会いした逸材さんみたいだと困るけども。

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