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反ビビアナ連合戦の纏め

 茶の準備を再度し、部屋へ戻るとリディアの雰囲気が怖くなってた。

 これ怒られるのは……どっちだ。


「面倒を押し付けた事、お許しください我が君。他に適当な理由でこの三人だけとなる方法が思いつきませなんだ」


「何の問題もありませんよ。私も新しいお茶が欲しかったですし」


「お言葉に感謝を。さてラスティル殿、先ほどサナダに我らの話を伝えようとお考えでしたが、もしや此処での話が我等の先に影響を与える重要な話だとお分かりか? しかも相手は貴方を良く知っている。事によれば誰かの入れ知恵だと気付く可能性も在る。そうなれば、我が君の意思に反しますぞ。(わたくし)のような者は此処に来ていないのです」


「い、いや、誤解だリーア。……確かに報せたくもあったが、そうするにしても二人に許可を取るつもりであった」


「はっきり申し上げよう。今後サナダは敵とお考え頂きたい。我らは陛下の覚え目出度からずであるビビアナと同盟を組む。サナダはユリアが帝族となったのを最大限利用するでしょう。ビビアナは勿論、同盟を組んだ我らとも敵になり易いのです」


「あ……そうなる、か。気づいていなかった……サナダ殿と戦場で(まみ)える日が来るかもしれんのだな」


「未だ認識が甘い……。暗殺や毒殺、家臣を造反させて背中を刺させる。この程度は互いに十分あり得ると認識を。……どうやらサナダはしないとお思いのようですが、臣下に軍師が居れば主君の為、許可を得ずに行う事もあるのです。向こうの軍師が決して後ろ暗い手は使わないと確言出来まするか? 出来るような無能であれば、(わたくし)としては有り難く思いますが」


 フェニガはするな。セキメイも多分。


「いや……必要であれば、するはずだ……」


「ラスティル殿に助言させて頂く。他所に気を取られず我が君に忠義を尽くしなさい。それが貴方の為。例え主君が許してくれているように感じても、甘えるべきではありませぬ」


 実は、ラスティルさんが真田に報せるのも悪くないと思ってた。

 トークの人間が報せれば、トークに敵が居るとは思い難くなるだろうし。

 でも今後色々報せても大丈夫。と、思われてはまずいね。

 して、これ私も何か言うべきなのだろうか。


「ご助言、有り難く肝に銘じよう。ダイ、今までの無礼許して欲しい」


「無礼なんて感じてませんよ。リーアさんも私の為に言って下さって有難うございます。ただ、ラスティルさんが、真田の皆さんと縁を繋いでおいて頂ければ、或いは良い話を作れる日が来る事も考えられますし、その、私の所為でお二人の関係が悪くなったら申し訳ないなー……なんて」


 ……え、なんで。

 私が丸く収めようとしたら、二人は顔を見合わせた後、揃ってため息を吐きおったぞ。 


「はぁああ……。この言いよう、どうやら拙者は助言を遺恨とする小人(しょうじん)と考えて配慮しているつもりらしい。先ほど謝罪したのは間違いだったか。リーア殿、忠義を尽くそうにも主人が盲目では難しゅうございますぞ」


「確かに……(わたくし)も人を見ず助言するような愚者と言われいたく面目を失った気持ちです。臣下は主人の評価以上には働けぬ。暗愚な主君の下でどう身を処したものか」


 お、あれ?

 一瞬で事態が急転直下。

 演義の孔明vs張飛、関羽みたいになったら嫌だなーと思って、二人の仲を取り持とうと思ったんですけど……。


「これは、失礼しました。私の考えが浅く、余計な事を言ってしまいすみませんでした。お二人が立派な人物なのは良く知っております。許して頂ければ、幸いです……はい」


「そこで謝罪が出来るのは美点だなダイ。ならば今夜はそなたの分も酒を飲んで良かろう?」


「あ、駄目です。今夜はお酒を飲まない日でしょ? 大体明日には出発なんですよ。体に悪すぎます」


「……あっさり拒否しおって……。しかし、酒を飲まない日を作るのは意味のある(まじな)いなのか?」


「はい。意味のある呪いです。だから駄目です」


 休肝日は基本ぞね。

 酒の飲み過ぎは美容にも悪い。我慢なさい。

 はー、責められても黙って健康を慮るなんて、私優しいなー。

 でも優しさが今一通じてないのよねー。


「うむ。日頃頭から呪いを否定なさるのにその断言。かくあれかし。と言うべきか。ああ、我が君、先ほど暗愚と申しましたのは冗談で御座います。この世に我が君を超える名君は居ないと確信しております」


「……欠片も思ってない事を断言するのはどーかと思いますよ」


 おお……何と嘆かわしい。これ程の忠義を尽くして未だ信頼を得ずとは……なんて言いながら乾いた目じりを拭くのヤメレ。

 場の空気が良くなったのは重畳ですがね……。


 この後雑談を少ししてラスティルさんは自分の部屋に帰っていった。

 私も後片付けを始めよう。手を動かしながらでも会話は出来る。


「しかしリーアさんがあんな風に叱責するとは思いませんでした。私はあの程度なら報せても良いと思っていたんですけど、危なかったですか?」


「……。(わたくし)はラスティル殿に好意を抱いております。出来うれば除くような事態を招きたくなく、用心に用心を重ねたのです」


「あ、成程」


 そりゃ親切極まりますね。私も何とかして殺さないようにしたいし有り難い。


「……さて、これからどうなさるおつもりでしょうか?」


「トークの動かし方ですか? 以前話した通りグレースが上手くビビアナに恩を売れていればリーアさんに同盟を結びに行ってもらうつもりでした。付け加えて何かあります?」


「出来うれば間にあるチエン領で功績と名声が欲しく思います。無名の者が行くと話が拗れかねませぬ」


「分かりました。グレースに頼みます。で、リーアさん、ついでにビビアナや配下の様子を調べて、イルヘルミが勝つために何をするか考えてきてくれません?」


「……。好機を作り、イルヘルミに味方しビビアナを挟撃するおつもりか?」


「いいえいいえ。ただイルヘルミが何も考えず押し潰されるはずもないでしょう? そしてトークの所為で状況は彼女の想定以上に絶望的です。あの人が、何を考え、どう策を建て、結果どうなるのか。考えて見ましょうよ。もしかしたら素晴らしい物が見れるかもしれません」


「この状況で、イルヘルミが勝つと?」


「貴方がそう言うのであれば、私には理解できないほど終わってるんでしょうねぇ。ただ一般論として戦争に絶対は中々ないでしょう? イルヘルミは凄い人です。今回、連合軍という予測し難い戦いの中で、自分に取って最善の結果を導きました。だから考え得る全ての準備をしておきたくて。……リーアさん、今、このケイで最も賢く、個人として英雄に近い諸侯は誰だと思います?」


「……お考えの通り、イルヘルミでありましょう。配下を完全に掌握しているのは勿論、あそこまで際どい行動を取ってでもケント陛下を手中に収めたのは天下を見ているに相違なく。ビビアナの脅威を前にして更に先の先を見て動く意思、想像を超える戦果を得る天運。英雄の資質に満ち満ちております」


 お考えの通りて。はい、そう考えてました。


「やっぱりそうですか。では、英雄の策を考察してください。ビビアナの所へ直接乗り込んで様子を確かめる。なんてイルヘルミが涎を垂らして羨ましがる条件であれば追い付けるかもしれません。そして答え合わせをイルヘルミに頼みましょう」


 臣下、一族、全ての命を掛けてな。

 

「ふっ……。イルヘルミが聞けば烈火の如く怒るであろう話をなさいます。……宜しければお教え頂きたい。イルヘルミに勝ち目が出れば如何なさる?」


「それはもう。天の時に応じて臨機応変に。リーアさんの良いように」


「承知致しました。我が主君」


 すこーしだが楽しそうだねリディア。

 うん、楽しくなるよ。きっと凄い物が見れる。

 イルヘルミ・ローエン。間違いない。あいつがこのケイで現時点最高の人間だ。

 彼女なら、周到に準備し、苦難を耐え、ビビアナ相手に耐えきるかもしれない。

 例え負けたとしても、大した見物。

 このケイで最強の者と、最高の者が戦うのだから。

 それに互いの領地の広さから言って私と真田さえ居なければ、この戦いが次のケイの支配者を決める戦いだったのかもしれないのだから。


 リディアの話では決戦の開始は一年ほど後だ。

 今から待ちきれないね。


「最後に、何か私が分かっていた方が良い話とかあります?」


「なれば諸侯の現状をご確認頂きたい。まずスキト家。どうやら彼らが遠方より態々来たのは、ゾンケイ郡一帯を切り取る許可をケント帝王より頂く為でした。この世情でいやはや……流石マテアス・スキト殿。頑固な方だ」


「メリオは自由な人に見えましたのに、お父さんは昔を大事になさる人なんですねぇ」


「マテアス殿は既に五十でありますれば。次にサナダ。上手くビビアナより逃げました。なれど領地を保持するのは不可能でしょう。……一番あり得るのは、ケイの姓に弱いオラリオの所へ逃げ込む一手。されど領地を捨てるのは感情的に厳しく、マリオの敵意から逃げるのは更に至難。お手並み拝見といった所かと」


 ……流石だな。分かってたか。


「そうしてきますか……。ま、ラスティルさんが褒める陣営です。何とかしそうではありますね。マリオは……まずサナダを攻めるとしたら、暫くは動けませんか」


「ええ。今回の戦いで糧食と兵を消費し過ぎました。一年程度で動けば民の大きな不満を買いかねません」


「……それよりもっと消費した筈のビビアナが動けるのは何故なのでしょう」


「豊かな領土を持っているのに加え、ビビアナは内政が上手いのです。あれでイルヘルミ程の才知があれば天下は早々に定まっていたでしょう」


「他には……ありましたっけ?」


「テリカ・ニイテをお忘れです。彼女は統制難しい連合軍で大将を務め、勝てずとも負けず、大いに名を高めたと申せます。加えてランドでも民の近くで働き、民からの親しみを得た。どのような道を選ぼうとも今回得た物が彼女を助けましょう」


 テリカか……シウンがどうするかだな。

 理想は真田を潰すまでは使って、その後に処分してくれる事。

 ……せめてどっちかは潰してくれよシウン。


「確かにテリカは凄かった。……ふーむ。色んな人が益を得てますねぇ。我々は今一ですのに」


「ダイ、態と間違いを仰るのは悪癖ですぞ。グレース次第ではありますが、ビビアナに多大な恩を売ったのなら今回最大の利益を得たのは我らで御座います。他の群雄は兵と糧食を削って幾らかの力を得た。一方我々は何も無くさず内政に励んだ上に、最強の勢力と強い絆で結ばれたのですから」


「あ、そうなりますか。流石リーアさんの建てた方針です。素晴らしい」


「……我が君、策を建てたのは貴方だ。(わたくし)の記憶を改ざんしようとなさらないで頂きたい。(わたくし)にも不快という感情があるのです」


 チッ。記憶力のいい奴。


「あ、すみません。何時も頼りきりなので、これもリーアさんが考えて下さった事だったように覚えてました。不快な思いをさせた事、お許」「理解して下さっていると信じておりますが、膝を付いて謝罪なされば(わたくし)に対して嫌がらせをなさっていると判断致します」


 ……。怖い。


「は……はい。以後気を付けます。あの、私が考えたとしても所詮机上の空論。そんな物を使って結果を出したリーアさんこそ、崇敬と感謝の念を受けるに相応しい。と、思うんですけど……」


「お褒めの言葉は有り難く。さて、その策。グレースが失敗していようとも、世の動きと立地から言ってビビアナはトークと同盟を組みたがるでしょう。故に何がどうなろうと(わたくし)で対処出来ますればご安心あれ」


 わーお……二十以下の小娘さんが、大樹のように頼もしい。


「はい。ほんっと頼りにしています。宜しいようにしてください。

 うーん、終わってみれば楽しい物でした。リーアさんは如何でしたか?」


 本当楽しかった。

 大変気楽に多くの物を見物し、確かめ、必要な情報を収集出来た。

 真田関連でとんでもない事態が多発し理性を無くしかけたりもしたが、来て良かったのは間違いない。


(わたくし)にとっても興の深い物が多く、良い旅でありました。主君のご厚恩にただ感謝の言葉しか御座いません」


「う、恩に着せたつもりは、無くて、その、普通に楽しかったですねーと言いたかっただけなんですけど……」


「存じております。大よそは冗談ですので」

 少々返答を捻ったのみで御座います。て……。

 それに、大よそ……。


「あ、はい……。まぁ、さっさと帰りましょう。グレースが上手くやってくれていると願いながら」


「御意」

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