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イルヘルミ、ランドに戻る

「しかし皆さん突然自分が望んで入った場所を辞めさせられた上に、辺境の悪評が消え切っていないカルマの所へ無理やりなんて不満でしょうに……」


「ご安心を。七人の性分は把握しております。現在人材不足のトーク領であれば大任を任せやすく、皆喜びましょう。まず姉の下で半年学ばせれば、街を一つ治める程度は出来るかと。勿論、仕事の割り振りに御意がありますれば、その通りに」


 は?

 その言葉の意味は……。


「今、私がご親族の仕事を考えるかのように聞こえたのですが……」


「皆貴方に臣下の礼をとる以上、当然の仕儀では?」


 HAHAHAHAHAジョーク上手いねキミー。吉本でもやっていけるよー。

 ……。マジ何考えてんのコイツ。

 貴方一人で私の器からタイダルウェイブだってのに、似たようなのが七人なんて冗談じゃねー。

 大体秘密は知る人間が増えると、広まる確率はネズミ算式のパンデミックだっつの。

 全身全霊でもってお断りでごんす。


「在り得ません。臣下は勿論、私を紹介するのもやめて下さいお願いします」


「もしや能力をお疑いか? 皆十分に優秀な人材であり口も堅う御座います。どうか(わたくし)の目にご信頼を」


 こいつ相変わらずド真面目な顔でフザけおる。

 貴方がこっそり他人を偉く厳しく評価してるのは知ってるわい! なのに推薦して来る以上、さぞ有能なんでしょーや。


「勿論信頼してますとも。そういう話では無くて、そんな有能な方々の上に立つのは身に余ると言っているのです。ご姉弟も不満に思うでしょう」


「おや、(わたくし)が無能であるから君主となって頂けていたのですか。あるいは不満を抱いているとお疑いだったのですね」


 やろう煽ってんのか! お願いだからヤメテ!


「全部分かって言ってますよね? もしかして遠まわしに不満を仰ってるんですか? でしたら直接的に言って頂ければ、出来る限りをしますので、許して頂けません?」


「……では、我が姉弟をどのようにしろと?」


「リーアさんの配下か同僚にして、良いようにすればいいじゃないですか。貴方は色々やり易くなるでしょうし、皆さんも楽しく働けるでしょう?」


「……。我が君、一つ確認させてくださいませ。カルマの配下となる御考えはおありか?」


「いいえ。ありません。それ位ならば出て行きます。あ、勿論リ」「自由にしろと仰るのはいい加減面倒ですのでお黙りください」


 ……私たちの関係で付いて来るのを確信してたら、痛い奴では無かろうか。

 怖いから口にチャックするけど。


「今の状態を続けるおつもりなら、ご承知と分かった上で申し上げる。我々の身の安全のためにも、トーク家で勢力を伸ばす必要が御座います。それには人材の拡充が不可欠なれど、(わたくし)の指示で動かしていては、恩義を全て(わたくし)へ感じましょう」


「はぁ、それに何の問題が?」


「……はぁ。この身の力が増し、押さえきれないとダイが感じるようになっては困るのです。それに貴方も(わたくし)以外の意見を聞きたいと思いませぬか? 推挙した人間が全て(わたくし)と近しい人間なのは、用意出来る中で最も有能な者たちゆえで御座います。されど、どうしてもと仰るならば極力縁の薄い者を連れて参りましょう。如何」


 おんやまぁ、ほんま考えてくれてますね。

 でもねー。疑おうと思えば、そうやって誠心誠意仕えてる風に見せて、私の油断を誘おうとしてるなんて考えもあるのよ?

 地球史でも、漫画表現で言えば『ば~っかじゃねぇの?』で表されるような人も居る訳で。

 ま、そんな疑いは抱いてませんがね。其処までして油断を誘わないといけないほど、私は大人物ではないのだから。


「一言で言いますと、ヤだ。です。それよりも、私が貴方を抑えようとしているなんて感じてるのなら大問題なんですけど」


「……。いいえ。天下において(わたくし)よりも自由に働いている者はおりますまい」


 だよね? 今一納得行ってないみたいだけど、他にどうしようもないのだ。

 カルマからアイラさんを奪い終った日から、リディアを押さえようなんて無謀な考えは天高く投げ捨ててる。

 オウランさんについてバレない限り、どーでもええねん。

 実のところリディアが私のお願いを聞いてくれなくなっても、終ってしまうって程じゃあない。

 ケイ帝国の内乱は激化の一途だ。全ての人間が隣の領主への対処で精一杯となっている。

 今小さな土地の主でしかない真田以外に、私の邪魔は不可能だ。


「それは良かった。私について考えてくださって感謝しますが、どうかそのような遠慮をせず良いようにして下さい。貴方の名を出すと決めたからには、可能であればカルマを追い落として貴方が領主となってもいいでしょう。そうなっても、偶には私の話を聞いてくれると嬉しいです。はい」


「其処まで仰いますか……。致し方御座いません。(わたくし)の下へ付けるとします。しかし、気がお変わりになれば直ぐにお言いつけを。股肱の臣であろうとお譲り致します」


「有難う、ございます。……天地がひっくり返れば、お願いする可能性があるかもしれませんね。……あっ!? もしかして、ティトゥス様も来られるのですか?」


「いえ。父は何処までも帝王家に仕えると。落ち着き先が判明次第、そちらへ向かうそうです」


「はぁ~、流石ティトゥス様」


 やれやれ、まーじびっくらこいたわ。

 一般的にはリディアの配慮が必要なんだろうけどねぇ。私は事情が大いに違うんだよ。

 何とか承知してくれて良かった。

 さーて、後はイルヘルミの結果が分かればレスターに帰れる。

 リディアが明日かえって来そうだと言ってたな。

 どうなったのかなー。真田が死んでてくれると有り難いんだけどなー。




---



 そして次の日、イルヘルミが帰って来るとの報せが入った。

 しかも帝王付き。

 よって当然全員にランドの門外で迎えるよう指示が下されたので従う。

 総勢数万の人間が待っていると、ケント帝王が乗ってるらしき馬車を先頭に、イルヘルミ、メリオ・スキト、それと残念な事に真田も帰ってきた。

 なんとまぁ、本当にビビアナから帝王を奪い返すなんて……どうやったんだ?

 もしかしてビビアナが死んだのではないかと不安を感じる。


 きっとイルヘルミがビビアナの生死くらいはマリオへ話してるのだろうが、私の位置では全く聞こえてこない。

 分かるのは、兵の数が一割程度減っていて、怪我人もかなり居るくらい。

 大怪我の人間は後から馬車に乗せられてくるから見た目以上の被害があったとしても、これなら激戦という程の物はしてない様子。

 そんな風に得られる情報を考察しつつ、周りに合わせて立つ事しばし。

 一旦解散し数時間後に主だった者が王宮に集まるよう指示がされたので宿舎に帰る。


 王宮には私も付いていくとして、それまで茶でも飲んでのんびりするかね。

 と思っていたらリディアがやって来たので、お茶をいれて出来るだけ美味しい茶菓子を出す。


「これはかたじけない。ダイ、幾つか情報が入りました。イルヘルミは戦いましたが、互いの死者は合わせて五千を切る程度、主だった者に死者は居りません。ケント帝王は交渉で手に入れたらしく、ビビアナは大よその兵力を保ったまま黄河の渡し場へ向かったそうで御座います」


「交渉……。力で勝るビビアナ相手にどんな交渉をしたんでしょうね」


「兵たちの言葉によれば、ビビアナはメリオ・スキトから刃を持って攻められた事で臆病風に吹かれた、と。恐らく、戦いで将兵に怪我人が増えるのを恐れたのでしょう。ビビアナの脳裏には、更にトーク家とチエン家から邪魔されるのも入っておりますし、余りに傷病者が出ると守り切れず置いていく必要が生じかねませんので」


「へー。そんな優しい人なんですか?」


「さて……何と言いましょうか、感情の豊かなお人でして。庶人の女であるかのような情を見せる時があれば、酷薄な領主として行動する時も」


 ……前も聞いた気がするけど、そんなに安定してないのか。

 配下が苦労してそうだ。


「ケント様を取り返したのには驚かされましたが、大勢に影響は御座いません。ビビアナがケント様を返さなければならない程に追い詰められたのであれば、我らとしては却ってよかったかもしれませぬ。古より苦難の時こそ真の友が分かると申します。グレースの働き次第では我等を強く頼りに思うでしょう。イルヘルミが、ケント様を取り返した功を使い策を巡らせていても……」


「気楽に見ていればいいと?」


「はい。マリオも一年は確実に兵糧不足で動けませぬ。その一年でビビアナは足場を完全に固めましょう。そして我らが手を貸せば、在り得ぬ話として残りの全ての諸侯が相手でも有利であると確言致します。兵数で負けようと、烏合の衆なら幾らでも対処のしようが御座いますので」


 大した自信ですこと。

 ま、好きなようにしてちょ。

 一応天下を目指す風味で行くとは決めたが、結局は時勢次第なのでリディアと皆の奮闘努力を応援するや切である。

 そのままリディアと雑談染みた今後の話し合いをしてる内に時間となったので、レイブンを先頭に王宮へ参内する。


 通されたのは、数百人が集まっても余裕がある程に広い広間だった。

 主だった者、トークだとレイブンとラスティルさんは王座の前に立ち、私やリディアといったお付きの者は壁際で姿勢を正して待っていると、鐘が鳴らされやたら良い声による案内が響き渡った。


「天地の支配者にしてケイ帝国の帝王ケント様、ご臨在! 諸侯は伏してお迎えせよ!」


 と、危ない。膝を折って伏し拝むのか、遅れる所だった。


『陛下、万歳、万歳、万々歳!!』


「よろしい。面を上げよ」


『有難うございます』


 さーて、ケント帝王のご尊顔を見させていただきますか……ね。

 ……凄く着飾った、十六歳程度の線の細い賢そうな青年。それ以外に言いようがない。

 特別な感じがするのは、長く伸ばされた紫銀の髪くらいのものだ。

 こんな色は髪色のバリエーションが豊富なこの国でも見た記憶がない。

 勿論強大な帝国の絶対支配者だろうと、角や尻尾が生えてる訳ないんだけどさ。

 ……いや、獣人が居るこの世界なら、どっかに居るのかね?

 しかしこの若さで、混迷極める広大な帝国の支配者の座に座らされてるなんて悲惨としか言えん。

 ……せめて苦しまずに死ねるよう祈っておこう。


「ローエン伯爵に陛下が命ず。天下に此度の旨を報告せよ!」


 ま、それよりも今はイルヘルミの報告を聞くとしますか。

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