ティトゥスに挨拶を
ラスティルさんと飲んだ次の日、テリカの足元に穴を掘ってスッキリしたお陰か、大事な事を思い出した。
それはリディアの父、ティトゥス様である。
帝王の都ランドで働いている事に誇りと自覚を持ってるように見えたし、もしかしたら戦禍の影響を受けたのではあるまいか?
……やっべ。かんっぜんに忘れてた。
思い起こすは、絹に書かれた紹介状。そしてリディアへ面白話をして頂いた大金。
……やべーよ非常識だよ不自然だよリディア怒ってるんじゃなかろうか。
お伺いをたてるため、リディアの所へタイミングを見計らって出向く。
……出来ればランドから逃げててくれますよーに。
「リーアさん、お父上の話です。まだランドにお住まいであったのなら戦の影響はどうだったのでしょうか?」
「……おお。まさか貴方が私の家族の身を考えて下さるとは。お気遣い、心より感謝申し上げる。父はご存じのランドから離れた屋敷に住んでいましたので、何の危険も無かったと確認が取れております」
まさか貴方が。なんて言われてしもうた。流石だ。よく人を見てる。
はい、思い出したのはついさっきです。ごめんなさい。
「それは良かった。でしたらこうやって近くまで来たのですし、ご挨拶した方が良いかと思うのですが……如何思われます?」
……リディアが、一瞬目を見開き、少し上を見て、少し下を見た。
どーいう事。本当に驚いてませんかこの人。
「……我が君に過去の人間と縁を繋ぐ考えが在ったとは。……成る程。虚を突かれるとこのようになるのか……」
「あれだけ恩を受けたら、一応心配くらいは……すみません。本当は今朝まで忘れていました。余りに無礼であったと反省しております。……それで、如何したらいいんでしょう? ご都合が分かりませんので、リーアさんに指示を頂きたいのですけども」
リディアは一つ大きく息を吐き、やっと何時もの鉄仮面に戻った。
……其処までおかしいと言うのか。
「失礼致しました。どうかお許しを。貴方が時間を割いても良いとお考えであれば、父に挨拶して頂きたく思います。丁度明日の夕餉を料亭で会う予定もある。どうぞ共に」
うっ。お貴族様の使う料亭……おいくらするんでしょう。
シウンから貰った金もあるが……値段は聞いておかないと。
「その料亭、幾ら持って行けばいいのでしょうか。それと私はリーアさんもご存じの服しか持ってません。大丈夫ですかね?」
持ってきてるのは覆面を付けられる服だけ。
戦場に無駄な荷物を運ぶ余裕なんて無いのだ。
とある伝説美人は牛乳風呂の為に、戦場まで牛を連れて行ったなんて聞いたが流石に捏造だと思ってる。
第一日頃使ってたのも牛じゃなくてラクダの乳だったらしいし。
「又奇妙な質問を……。代金は当然父が払います。戦場に居る人間へ貨幣を期待するほどに、わが父を世間知らずだとお考えか?」
「あ、成る程。……あのー、挨拶する時に、高級なお店で御馳走して頂けるお礼を述べるべきですよね?」
「……不要で御座います」
礼儀を尽くそうとしたら非常識みたいに扱われてしもうた。
……このズレ、未だにジャパニーズ感覚が抜けきってないってこったろうか。落ち込むわー。
そして挨拶の仕方も私とリディアの関係変化を適用すべきか否か、悩ましい。
……とりあえず以前のままにすっか。
リディアが何処まで話してるか知らないしな。
ほんのり落ち込んでいようが時は進み、今私は議員の皆様が集まりそうな気配のするお店をリディアと二人で訪れている。
即二階の部屋に案内され、其処で暫く待つと、ティトゥス様が入って来た。
私はリディアの後ろで頭を下げ、あちらの出方を待つ。
「顔を上げよリディア。……うむ。壮健なようで何より。……ぬ? 後ろに居る者も顔を上げよ」
「有難うございます。ご挨拶が遅れまして申し訳御座いません。以前お屋敷で恩を頂戴したダンで御座います」
「やはりダン殿か。久方ぶりであるが、健勝であったかね?」
おお。席を勧められず、この対応。
まさかリディア、家族にも話していないのか?
「は、ティトゥス様のお陰を持ちまして、この乱世で日々の暮らしに事欠かず暮らせております」
殿と付けられた事へ、持ち上げ過ぎだと言うべきだったかもしれないが……。
上位の人へ指示するような真似になるし、無駄口は慎んだ方がよかろう。
「それは何より。こちらは戦の被害も大してなく、この通りだ。そなた、今はリディアと同じくカルマ殿の所で働いているのかな?」
「はい。毎日の仕事に苦労していますが、リディア様の助けを頂き何とかこなしております」
「ふむ……ダン殿。このリディアも忙しい身、特にこれからは時が無くなろう。あまり本来必要でない仕事をさせないよう、気を付けてもらいたい」
おっと、釘を刺されてしまった。
知り合いの貴族に集る厚かましい庶民に思えたかね。
「申し訳なく、一言も御座いません。今まではかつての縁に甘え、面倒をかけてしまいましたが、以後気を付けますのでどうかお許しください」
「そうしてもらえると……いや、考えてみればよく知りもしないのに失礼であったな。第一この娘も立派な成人。余計な事を言ったか。済まぬダン殿。父親の愚かさだ」
「いえ、実際リディア様に甘えておりました。ご助言頂き感謝しております」
「そう言ってくれれば有り難い。ダン殿、済まぬがリディアと話があってな。一階に食事が用意してある。其処で食べていてくれ。
今日はよく挨拶に来てくれた。そなたの立身を願っている」
「はっ! ティトゥス様の細やかな気遣い、感謝申し上げます。リディア様、私は食事が終わり次第帰りましょうか。それともお待ち致しましょうか」
「……父上、話は一時間程度で終わりましょうか」
「ああ。こちらもこの後に予定がある。残念だが長くは取れぬ」
「ならばダン、ゆっくりと食事をして待っているように」
「御意」
なんと、本当に家族へも話してないのか!
ははっ! 有難うリディア!
其処まで意を汲んでくれるなんて、想いもしていなかった。
はー、嬉しくなってきてティトゥス様と会話してる最中からにやけそうで危なかったよー。
リディアさんには困っちゃうなー、こんなに私のテンションあげちゃうなんてー。
食事も楽しみだし、今日はとても良い日だわー。
***
躊躇なく、淀みなく、常が如く我が家に居られた時と同じ振る舞いをなされた。
想定の内と言えばそうだが……。
「ダン殿は変わらぬな。イルヘルミ殿の持つお前への執心を言い当てていたと分かった時は、人物を見極めそこなったかとも思ったが……今も下級官吏か?」
「いえ、現在は中級かと」
「おお、そうか。しかし……これ程人材が求められる世において六年でその程度か……。幾らかの作法は知ったようだが。お前が教えたのか?」
「……いいえ。周りの者にでも尋ねたのでしょう」
「そうか。バルカ家から推薦状を出した者が、作法を知るようになって何よりだ」
父上もダン様に変化があったとお気づきでない……。
あの頃感じていた良く分からない甘さが消え、思考も大変読みづらくなり多方面で成長なさっているのに。
今も配下の親族より愚かな庶人の如く扱われても、怒りを見せず騙しきられた。
……私に同じ真似が出来るであろうか?
必要とあらば、可能だろう。
しかし心の内に怒りを持つはず。
ダン様は……もしかしたらお喜びであった。
嗜好の問題でもあるが、やはり及ばないという意味になろうな。
それにしても、あの方の欲望は何処にある?
強い執着を持っているのが、己の健康だけ。
富、名誉、色、殆ど興味を見せず、力でさえ積極的に増やそうとしていない。
幾つかの行動から考えて、自分の命が最優先でも無い。
何を見ておられるのか……。
ふん、グレース・トーク。天下最高の知恵者にして軍師。シホウを超え、リウを超える魔術的な策謀を持つ女、か。
この世評を聞いた時には、もう少しで幕舎の外まで聞こえるような笑い声を上げる所であった。
誰もこの世評が意味する恐ろしさを知らないとは喜劇のような話だ。
確かに私とグレース殿は働いた。
しかし、どちらかが居なかろうとも、世評と世の動きは変わらなかったであろうというのに……。
「リディア、リディアよ」
「……これは失礼を。お呼びでしたか」
「ああ、お前の考え込む癖は変わらぬな」
「近頃は気を付けていたのですが、父上に会い気が緩んでいたようです。お見苦しい所をお見せしました」
「良い。さぁ席に着け。話がある」
父上が席を勧めたとなれば長くなる。
ダン様が不快に思われは……しないか。
あの方は書物も持たず、思索だけで時を費やせる方だ。
「リディア、まず尋ねたい。過日のカルマ殿が世を驚かせた戦い、策を考えたのはお前だな?」
「いいえ。グレース殿で御座います。私は未だ軍師見習いの身、軍の根幹にかかわるなど不可能と決まっておりましょう」
「……グレース殿とは私も面識がある。あの時、ランドで政務を担当しつつ世に流布されていた悪評を何とかしようと非常に多忙な様子であった。世を驚かせるような策の準備をするのは不可能であろう」
「或いはフィオ殿が多くを担われていたのやもしれませぬが、詳しくは何も。私はお二人の言葉に従って働いたのみなので」
「もう一つある。今回、レイブン殿が連合軍に参加した速度、誠に天晴。しかしその裏にあった周到な準備、私がよく見知った物であった。……お前が大筋を整えたのであろう?」
「いいえ。私は現地における書き物仕事でレイブン殿を助けるよう命じられたのみにて。グレース殿が全てを整えられました」
外に教える訳もないご質問ばかりなされる。
……何か試されているのか?
「うむ。親であろうとも慎重さを欠かさず、秘匿するその姿勢、変わらず喜ばしい。愚問を許せリディア」
「……して、本題は?」
「では話そう。バルカ家当主としての言葉であるしかと聞け。この話し合いが終わり次第、バルカ家の当主をリディア・バルカとする。バルカ家の命運をお前に託そうリディア」
皆様、物見櫓様より支援絵を頂きました。
まずマリオの軍師、シウンです。
マリオ家の筆頭軍師にして謀略家。ケイ帝国腹黒キャラランキングがあるとすれば、間違いなく5位以上に入ると予想。もしかしたらリディアよりもダンと相性が良いかもしれない人。
眉が隠れてる位の前髪というと暗い感じの女性をイメージしてましたが、ダンとの会談の際は明るい感じの喋り方だったので、「暗い」ではなく「腹黒い」をイメージして描きました。
との事ですが、仰る通り。すんげーダンと相性がいいです。でもシウンにとって一番大事な主君とダンの相性が最悪かもしれません。
この絵を見て腹黒だと感じるのは流し目だからだろうか、と思って気づいたのですが、アニメで流し目が売りのキャラが記憶に無い。
韓国と中国ドラマだと流し目シーンが山ほどあるのに。腹黒で謀略多めの流し目キャラが流行って欲しく思います。
続いてテリカ・ニイテ
炎のように波うち広がっている赤髪。金色の瞳、身体に傷がある、よく焼けた肌と特徴がきちんとあったキャラだったのでイメージしやすかったです。あくまで私個人のですが。
二イテ家期待の武闘派ホープ。戦場で負ったと思われる傷が確認できると言うことは、それなりに露出の高い格好をしていると予想。あと住んでいる地域の気候的に。
呪いのアイテムといいダンの密告といい、本人が気づかない内に特大の死亡フラグが立っているという運の悪い人。少なくともダンがいなければ幸運Dくらいはあったと思う。
関係はありませんが、エルフ+褐色+金目と聞くとまんまダークエルフですね。
すみません。ダークエルフ大好きなんです。
一応、テリカの肌は日焼けですので、一人居る妹はインドア波で真っ白のつもりだったり。
まー、派手な人物として書いて下さり有難うございます。
今は何も自由にならない雇われ武将の身の上ですが、真田とダンが居なければ腕力で五年後くらいに大領主となっている筈だったお人なので、人の上に立つ感じで書いて頂けて嬉しいですね。
物見櫓様、度重なる支援心より感謝致します。ピクシブurlはこちら。物見櫓様への応援、絵の感想などを私、お待ちしております。
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