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井戸と、何かと、陰謀と

 ランドからビビアナが去り、戦禍を避けていた人が再び行きかいはじめ、私たちの元にも色々な情報が入るようになった。

 私たちの食料を運んでくれていたオラリオ・ケイの病状がいよいよ悪くなってきており、長子と側室の子の間で後継ぎ争いが発生しそうだ、とか。

 スキト家とムティナ州の間にある交通の要所、その名もケイの中央という意味でゾンケイ郡を支配する宗教指導者、ヒッポスの間に小競り合いが発生してるなんて情報等だ。

 昔ヒッポスを知った時は、宗教指導者の領主と聞いて、もしかしたら本願寺並みに強いのか!? と心配したが杞憂であった。

 ゾンケイ郡くらいしか信奉者が居ないのだ。

 トーク領だと庶民の九割は聞いた事も無いと言っていたくらいである。

 

 さて、ランドに入った私たちは一応民心を安定させるという名目で入った。

 盟主であるマリオはランド周辺に住む名家の人々や、従軍した将兵を集めて毎日酒宴を行っている。

 高位の者の民心を安定させてる訳だな。

 羨ましいと多くの人が言っているが、私はお疲れ様と思ってる。

 飲み会は楽しい人々とやるから楽しいのであって、そうでない奴とやったら面倒くさいっしょ。


 下々の人間は戦禍の片づけをして、下々の民心を安定させるお仕事をしている。

 その仕事をマリオより任され、かつ最も熱心なのはテリカだ。

 なんと兵たちの指示に留まらず、配下全員と一緒に自ら陣頭に立つほど頑張ってる。

 次が真田が残したフェニガと、その兵たちだな。


 私たちトーク家の将兵はテリカの指示に従ったり、シウンに定期報告しつつお伺いをたてたりの毎日。

 食料護衛関連の仕事は兵の半分が帰されたのと、襲って来そうなビビアナが居なくなったことで激減したし、暇をするくらいだったら世の評判を稼ごうとなったのだ。

 真田とテリカも同じ打算があるのは間違いあるまい。

 ちゅーか、テリカが目立ってる所為でランドにおけるテリカの評判は昇竜拳。

 マリオがそれを不満に思うのであれば、テリカも遠慮するはずだから、マリオにとって庶民の評判はどうでもいいのだろうな。

 

 一方軍師のシウンはテリカや我々トークの報告を聞きーの、指示を出しーので大変そうだ。

 私も何回かリディア以外の責任者が報告をする際に付いて行ったのだけど、遠目で見ただけでも分かるくらい忙しそうであった。

 宴会と復興両方を監督してればそーなるね。

 グレースもそうだが信頼される軍師はお疲れだぁなぁ。

 地球史上最初の過労死疑惑がある人間が、諸葛孔明(しょかつこうめい)なのも納得ですわ。


 そんな状況の中を、私は適当に仕事しつつ、偶にリディアから諜報結果や世の動きを教えられて過ごしていた。

 さて、ランドに入って四日目の昼、リディアがやってきて、


「我が君、本日テリカに奇妙な動きがあったとの報せが入りました」

 

「貴方にしては珍しい言い方ですね。どんなのですか?」


「本日、テリカは焼けた帝王家の宗廟(そうびょう)を片づけていたのですが、突然配下を集め、テリカとメントが主体となって五分ほど会話したのち、解散。そして立ち去る際、テリカが何か……この程度の片手で持つには難しい多きさの物を、布で隠して大事に運んでいたらしいのですが……何を運んでいたのかは皆目見当が付きませぬ。

 手の者は集まった場所が井戸だったので、もしかしたら井戸の底より何かを拾った可能性が高いとだけ伝えて参りました」


 ケイ王家の宗廟(そうびょう)……周辺にあるのは帝王家縁の物を納める宝物庫とビビアナが使っていたであろう離宮くらいか?

 分かんねーな。って分かる訳無いね。

 しかし井戸から何かを拾うって、影の薄すぎた孫堅(そんけん)がキャラ付けの為に拾わされてしまった呪いの宝物みた……い、な……話……。


 …………。

 待て。深く考える前に、リディアを追い払え。


「それは確かに奇妙な話です……しかし、それだけでは……。何か追加で分かりましたら教えてください」


「承知いたしました。詳しく調べた方が宜しいでしょうか?」


「いえ、何かは分かりませんけど、テリカにとって大事な物なのでしょう。となれば警戒していると思います。良い結果が出るとは思えませんし、危ないのでやめておきましょう。ああ、この情報、私たちが知ったと気付かれてますか?」


「いいえ。元より御指示の通り、遠くから様子をうかがっていたのみですので。それに今はあちらこちらで何処の者とも知れぬ間者が動いている。我らだと知るのは不可能で御座います」


「何処も考えるのは一緒ですねぇ。まぁ遠方の人間が一か所に集まったらそうなりますか。では又何かありましたら教えてください」


「御意。では失礼を」


「お見送りします」


 ……。


 行ったね。


 テリカは秘密の何かを手に入れた。

 そしてアレが実在するのは、以前この国の歴史を調べた際に分かっている。

 ……真偽は問題じゃない。

 最低限、テリカに疑念を抱いてる人間が外にも居る。と、教えられればいいんだ。


 ……そうだ。私は何も悪い話をしたいのではない。

 誠実に、心から気配りし、親切をすればいい。

 その際の取っ掛かり、作り話としてこの話は……あるか?

 ……ある。あり得る。しかも決して無視できない。

 いや、可能性としては何処にあるか知ってる可能性も……違う、それならその心配も含めて話せばいい。


 やばい、腹筋が痛い。

 寝台で布に包まろう。声が漏れないように。

 壁に耳あり障子にメアリー。

 笑い声が風にポピンズして、私の暗い喜びを誰かに伝えてしまっては大変大変。


「くふっくふふふふふふふひゅっ」


 知らなかった。私頭いいんだ。もしかして天才じゃなかろうか?

 ……あ、それ程でもないわ。

 目に見える程の効果は無いだろう。

 不確定要素だらけだし、デマ報せて来てんじゃねぇよこのボケと言われる可能性も在る。

 しかし……他所の人間の意見と評価は往々にして強力。

 ダムも蟻の掘った穴から決壊するなんて言葉があったような気もするし、少なくとも損は……困る可能性は……。

 顔を見られ、私という人間がトーク家に居るのを知られる可能性はある……が……イザとなれば、リディアの名を出して助けて貰えばいい。

 全部ばれてグレースたちに話す羽目になっても……作り話とリディアの話で離間の策を講じましたー。頑張ったけど見破られちゃったー僕無能でごめんねー。で、いい。

 それに相手は南の端、こちらは北の端で滅多に関わりはしない。

 所詮ここに居る間だけの関係。

 加えて失敗する可能性は相当低い。

 この戦いの間、こちらの意思は見せたし、疑われた様子も無い。

 何より、グレースの名前が私を守ってくれる。

 

 いける。これは行けるぜ。

 後は話し方。

 誠意、事実、心配、気配り、不確定の話をしない、場合によっては具体的に話さない、私の立場の設定……。

 話に行くのは今日の夕方だ。早くないと意味がない。

 出来る限りの準備をするとしよう。




---



 夕方、トーク家の制服、覆面付きの物を着る。

 マリオの宿舎へは出来るだけ背中を丸めて歩く事にした。

 私と同じ背格好の人間は数百人居るけど、何時もみたいに健康に気を使って背筋を伸ばすよりはソレらしいだろう。

 宿舎に到着したら、トーク家の者だと相手が判断できるように、以前報告に来た時と同じ手順を踏んで、シウンと五分で良いから話をさせて頂きたいと、係の人にお願いする。

 勿論、面倒を掛けるのに無料はいけない。足が付きにくい金の塊をお渡しして。

 五分さえ無理かもしれないが良いのだな? なんて言ってくれる凄く親切な人だった。

 こう言ってくれるのであれば、確実に会えるだろう。米つきバッタの如くペッコペコして謝意を示す。


 一室に通され、お茶を出して貰い、どういう風に話すか整理しつつ待つ。

 お茶には手を付けない。手を付けたら変になってしまう。

 

 シウンが来たのは三十分少々待った後だった。

 シウンの姿を見ると同時に、最も上位の人間に対する礼、地に膝を付けて挨拶する。

 思ったより早かった……トーク家の人間だからと配慮してくれたのだろうか?


「顔を上げるのを許しますわ。トーク家の報告と聞いたのだけど、今日の分はもう受けたわよ~? 何か緊急の話でもあるのかしら?」


 よし。声を低くし、ボソボソ喋るんだ。

 暗い、日陰者らしい声を出せ。


「はい。ただしトーク家からではなく、グレース・トークの使者として参りました。まずお伺いさせてください。テリカ殿が本日王宮に、配下の主だった者を集めたのはご存じでしょうか?」


 グレースの名を口にした瞬間から、シウンの雰囲気が変わった。

 そうだぞシウン、私は通常の使者じゃない。これは秘密の話し合いだ。


 しかしグレース、お前の名は大したもんだ。お陰で上手く行きそう。

 功績を全てグレースの物としたのは妙案だったな。

 こんな風に使う考えは全く無かったのに。

 人助けはしておくもんだなぁ? くふはははっ。


「……いいえ。でもそれが何か? 片付けの相談をしていただけでしょ~?」


「それがある物を拾った様子でして……。シウン様、此処までの話をご存知ないのなら、一時間は頂戴致しとう御座います。それと、私はトーク家から常に来る報告の者でなければ(・・・・・)なりません。ご差配、お願いできましょうか?」


「……いいでしょう。ああ、ずっと膝を付かせてすみませんでしたわね? 茶を全く飲んでないみたいですけど、口に合いませんでした? よければ酒を持ってこさせますの」


「いえ、結構です。シウン様のような貴人と直接会うのは初めてで、緊張のあまり喉を通りませぬ。今から多々非礼を行ってしまうと思いますが、どうかご容赦くださいませ」


「うふふっ。緊張で、ですかぁ? ま、分かりました。非礼の方は大丈夫ですよ。下賤の者にまで礼を求めるほど物知らずではありませんからー。では出来るだけ早く戻ってきますね」


 分かり切っていても、緊張ゆえと言った方が配慮してる感じがするだろシウン?

 お前が今考えた通り、毒物を警戒してるなんて直接言っても仕方あるまい。

 それに密使が相手の屋敷で飲み食いしては、お前だって信用できないだろ?


 さて……彫像のように動かず待つとしよう。

 その方がらしく見えるだろうから。

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