表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
171/215

王都ランドに入る

 軍議の場へ到着するまでにレイブンと方針を相談する。

 基本全て今まで通り相手の意向に沿う形だ。

 ただレイブンの後ろにはリディア+1が秘書よろしく木簡を持って適当にメモしながら立ってるので、何かまずければリディアが背中を突っつく予定。


 軍議の場に集まった面子は大よそ以前の通りだったが、一人だけ様子の違う人間が居る。

 イルヘルミだ。

 鎧を着こんでおり以前と比べ物にならない厳しい表情。

 後ろに女性だと思うのだけど、180㎝は超えてる身長、ラグビー選手のように重厚な体格を持った人が控えていて、臨戦態勢そのものといった気配。

 あの人が、リディアの言ってたイルヘルミ配下最強の武将クティアかな。

 此処までやる気ならば軍議の内容は……ま、目の前でマリオがシウンに合図してるし、話を聞くとしましょう。

 

「皆さま、まずランドの状態をお伝えしますわ。つい先日ギョクインが、ビビアナの命を狙い兵を連れて王宮を襲いました。情報は混迷しておりますが、ギョクインは死亡、ビビアナは存命だと思われます。その後ビビアナ軍は不埒にもケント帝王をかどわかし、領地へ向かって逃げているみたいですの。

 さて、我等の対応ですけども、民心を安定させる為にマリオ様はこのままランドに入られ、イルヘルミ様は追撃なさいます。イルヘルミ様、後をお願いしますわ」


 帝王が連れて行かれたと聞いて、列席者が考え込んでいる。

 と言っても絶対に連れ戻さないといけないって様子は少数だけど。

 南方の人は元々、ビビアナを追っ払えればいいくらいだったものね。

 

 しかし彼らの反応はちょい緩すぎないだろうか?

 最強であるビビアナが守りの堅い自分の領地に、帝王を連れて行ったとなると遷都だ。

 そして未だにかなりの人が、自分はケイ帝国の臣下であると言っている。

 中には本気で今まであった権威を有難がる人も居るだろう。

 豊臣秀吉が天皇を上手く扱って自分の支配を強めたように、帝王を擁しているというのはかなり強力な手じゃなかろうか?

 まぁ、戦乱の時代に国を統一しようとすれば、往々にして建前上の権威を無視しないといけないから、それに怒った忠臣と言われる方々に命を狙われたりするんですけどね。

 だからビビアナは面倒を抱えたとも言えるのだが……私では判断がつかないな。

 

 ただイルヘルミの表情の硬さ、全身から溢れ出ている緊迫感はそれもかんけいしてるように思える。


「皆、わたくしはケント帝王を取り返す為、メリオ・スキト殿と共にビビアナを追撃する。他にも希望者はおらぬか? 或いは騎兵を貸してくれるだけでもよい」


 予想通りのイルヘルミの言葉に直ぐ声を上げた者が居た。

 以前の軍議でも、帝王を助けたい。なんて言ってたこいつは手を上げるよね。


「真田は軍師を一人残して全騎兵と将で参加する。と言っても五百人程度だけど。いいかなイルヘルミ殿」


「勿論歓迎しよう。……他には? サポナ殿は如何」


 そうだよ、サポナだ。直ぐに声を上げると思ってたのに……。

 話を振られても苦々しい表情だ。


「……残念だけど、アタイはもう領地に帰らないといけない。ビビアナよりも遠回りしないといけないからさ。……残念だよイルヘルミ。武運を祈る」


「そうか……。レイブン殿、そなたはどうだ?」


 ちょ、ちょっと? ピクリと震えないでくれよ。

 背中しか見えないから凄く不安なんだぞ。

 無いからね? 絶対戦わないぞ?


「某は応戦以外で戦うなと厳命されている」


「ほぉ? 結局此処まで来て一回も敵と刃を交えてないのではないか? 辺境の将は獣のように荒々しいと聞いていたが、お前のように理性的な人間も居るのだな」


 流石マリオ、挑発がお上手。

 レイブーン、そんな青筋立てないでー。しゃーないって分かってるっしょー?


「……主命には逆らえん。だが馬をお貸ししよう。追撃をするのであれば、幾らあっても足るまい」


 リディアは……つっついてないな。良いのか。

 馬ってかなりお高いんですけど……。

 

「うむ。有り難い。二時間後には出発する。それまでにカガエへ届けて欲しい」


「承知した」


 更にイルヘルミは希望者が居ないか見渡したが、誰も行く気は無さそうだった。

 とりあえずの目的である、ビビアナを追い払うのを果たしたのと、まだ八万は残ってそうな敵を恐れたのだろう。

 軍議はこれだけで終わり、慌ただしくそれぞれの準備が始まる。

 我が軍も最低限必要な馬以外は全て渡す事になったので、それを手伝う。

 これ貸すゆーても殆ど返って来ないよねぇ……いや、中途半端にやっても利点が全く無いのは私だって分かるんだけどさ。


 軍議が終わり二時間後、イルヘルミと真田軍が離れて行った。

 スキト軍が見えないと思ったら、もう先に出て野営の準備とかをしているのだと。


 一方こちらはマリオを先頭にランドへ入っていく。

 ランドの民に歓呼の声で迎えられた……なんて事は無い。

 どうもビビアナが襲われた際に幾らか火災が起きたようで、その後始末の為に疲れ切ってる様子だ。

 そのまま最も人が集まれる場所であると同時に、誰にとっても状態が気になる王宮まで行く。

 王宮は五分の一以上焼けていた。

 多分、ビビアナが襲われたのが王宮だったのだろう。

 

 さて、どうするんだろうね……と思っていたらマリオより指示があり、とりあえず今日は城外で野営する事になった。

 明日以降、不必要な兵を帰すと同時に、マリオが宿舎を割り振ってくれるらしい。

 面倒そうなお仕事だけど頑張ってねーと心の中で応援しつつ、野営の準備、夕食と済ませてから相談の為リディアの所へ行くと、足を洗うお湯の温度を調整してる所だった。

 こいつは絶好機。


「リーアさん、私に手伝わせてください」


 ちょっ。何よその片目を薄くした顔。

 殆ど変わってないけど嫌そうなのがはっきり分かるなんて、デラ珍しいんですけど。

 ええやん……別に若い女性の足に触りたいなんて下心は無いんやで……多分。


「……本来ならば言下に断らせて頂きたいところです。されど、非常に嬉しそうに仰いましたな。……何故?」


 キリストが弟子の足を洗ったって話をしてもいいけど、文化が違いそうだし……。


「いや……その、師や厚く恩を受けた相手の足を洗うという話が古文で結構あるじゃないですか? この戦いが始まってからずっと伺ってた機会が訪れたので、やったぜ! という気分になりまして……駄目ですか?」


「……お好きなようにどうぞ。……但し、一日歩いた後なのはご承知でしょうな?」


 あー、臭いって事け? 流石に分かってますよ。

 美人やイケメンが入った後のトイレが臭くて幻滅した。なんていうのは、中学生までっしょ。

 ……中学生でもちょっと恥ずかしいかな。


「はいはい。では失礼しますよ……」


 と言いつつ丁度いい温度になったお湯を運び、足を洗うと同時にマッサージさせて頂く。

 実は行商団に入ってた時、散々やったのだ。

 新入りの仕事だったしね。臭いオッサンの足を洗うのは流石に嫌だったがそんな事を言える立場でもなかったしちゃんとやったのさ。

 しかしこれ、日本に居た頃やったら社会的評判落ちそうね。

 でもそういう社会じゃないので全力で揉みつつお話をする。


「今日、ケント帝王が連れ去られたという話がありましたよね? ビビアナが帝王を政治的に利用すると決意したのかとも思ったんですが、ランドの状態を見て、単にこんな状態の所に放置できなかっただけかとも……どう思われます?」


「後者です。しかしホウデを始め軍師たちはケント帝王の利用を考えていましょう。もっとも……帝王を使うとなれば、徹底さが肝要。ビビアナには難しいかと。ですがすぐさまビビアナと戦う羽目になるであろうイルヘルミとしては、非常に不味い状況です。只でさえ不利なのに、大義名分を容易く作れる帝王を取られたくはないでしょう」


「確かに必死そうでした。でも……ビビアナ相手に追撃して勝てるでしょうか?」


「勝てずとも痛撃を与えられれば、といった所でしょう。それに彼女の計算ではカルマとチエンが、領地に帰ろうとするビビアナの邪魔をするのも入っているはず。加えてスキト家の勇猛さは天下に鳴り響いております。騎兵が十全に働ける場所であれば、最強とさえ言われている。撤退中の兵はどうしても気弱になりますし、勝ち目が全く無いとは言えません」


 イルヘルミはカルマが邪魔しないなんて知らないしね。

 それも加えれば、イルヘルミの働き次第でビビアナが死ぬ可能性が出てくるとも思えるか。


「成る程。うーん、私たちにとって不味い展開が在り得ますか?」


「イルヘルミが勝ち、ビビアナが死ぬと少々不味い。そうなれば主亡きビビアナの領地を手に入れた者が有利となる。しかし我々にはチエンが邪魔となります。サポナとイルヘルミが領地の大半を得てしまいかねません」


「……あまり心配してないように見えますが」


「ええ。追撃、スキト家の参加はホウデの計算内。第一ビビアナにとってはケント帝王を連れて領地に帰れば、勝利と言っていいのです。八万の兵全てを犠牲にすれば容易でしょう」


 うんな薩摩みたいな……。

 まぁ、関ヶ原のアレみたいな事しなくてもイルヘルミ側は五万。

 スキト家が強い。と、言ったって三万の差を覆すのは厳しいか。


「では、気楽に結果を待つとしましょうか。出来る事もありませんよね?」


「はい。グレースの働きに期待するしかございません」


 うんだば足も洗い終わったし寝ましょうかね。


「良く分かりました。本日も有難うございましたリーアさん。良い夢を」


「我が君も。……足を洗って下さり感謝致します。お陰様を持ちまして心地よく寝れそうで御座います」


「態々言われると……その、もしかして下手でした?」


「……まずは素直に受け取って頂けない我が身の不徳を謝罪致しましょう。ご心配なさらずともお上手でした」


「それは良かった。ご不快でなければ、又させてください」


「………………。ご随意に」


 ……あんまり嬉しそうじゃなくてションボリである。

 ……トーク領に帰ったら、足揉みのプロを探して教えて貰おう。

 そーいう問題じゃないのだろうけど、スキルアップすれば力押しで何とかなるかもしれない。

 勿論この陣にいる間も、今後は機会を作って洗わせてもらいますけどね。

 不快ではないっしょ。多分。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ