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ソラの街を占拠してから

 ソラの街を占拠して一か月が経った。

 決戦の片づけが終わると、二日置かずにアグラの軍がソラの街に近づき、街を出て戦えと挑発する様になった。

『この犬が、臆病者が、出自を偽る詐欺師が!』という感じで言いたい放題。

 ただ創意工夫が感じられず、よくある良い方を使ってるだけだと私は感じた。

 例えば出自を偽る詐欺師というのも、ユリア・ケイへ言ってるのでない。

 何せ真田の所で彼らが知ってるのは、アグラを叩き落としたロクサーネだけっぽいので。


 しかしテリカ直属以外の将兵たちはテリカへ何とかしろと突き上げ始めるようになり、テリカも抑えきれずアグラが出てくるたびに街の外へ出て戦うのが決まり事となっている。

 

 と言っても、テリカが決して城壁から矢の届く範囲から軍を出さないので、小競り合い程度にしかなってない。

 一回の戦いで多くて百人程度しか死なないのだ。

 少ないネ。


 多くの兵たちは何故もっと大きく戦わないのかと、不満ブーブーである。

 いやぁ、そりゃ負けるからじゃないっすかね?

 先日のぶつかり合いは、こっちの方が被害大きかったの忘れてるのだろうか?

 負けが忘れられなくて、勝てない相手に怒りの連戦しちゃうってのも分かるけども。


 テリカは軍を抑えるのに毎日苦労してる様子だが、我らトーク家の後方部隊は比較的平和。

 指揮をするレイブンとラスティルさんからして、主にしているのはあっちこっちの軍に潜り込んで鍛錬に混ざったり、よさげな人と酒を飲んだりである。


 ただ、ラスティルさんはあの日から真田主催の飲み会だけは行っていない。

 向こうの人間と組手がしたくなった時には、こっちの陣地に呼んで行うという気の使いようだ。

 今もロクサーネ、アシュレイ、レイブン、ラスティルの四人で大変楽しそうに組手をしているのが見える。

 あんなに楽しそうなのに、気を使って不便を我慢してくれるとは、律儀な人だ……。

 ん? 誰か来る……覆面してるけどあの歩き方はリディアか?


「ダイ、今宜しいでしょうか」


「はい。大丈夫です」


「……ラスティル殿が、サナダとの宴に行った夜、何か御座いましたか。余計な詮索であれば謝罪致します」


 と、この話をするなら周りには……誰もいないか。


「相談し忘れてました。実はラスティルさんが真田から引き抜きを受け、それをきっぱりと断ったそうで。今後は一層私の配下として行動する様にするとまで言ってくれました。それ以来彼女は彼らと飲む場合でさえ自分の所に呼び、真田の陣営に行ってないみたいです」


「成る程。お信じになるのですか?」


「それを今相談しているのですよ。私は今後ラスティルさんが向こうに行ったり、今現在向こうへ見聞きした内容を流している可能性は低いと思っていますが。貴方はどう思います?」


「皆無、ではなく低いとは流石。(わたくし)も同意見で御座います。これまで怪しい動きは御座いません。(わたくし)と貴方様への態度も、初めて会った頃と比べて変化が無い。これで騙されていたとなれば、天晴であると褒めるべきでしょう」


「ですね。リーアさんも同意見と知って安心できました」


 食べ物に毒が入ってるんじゃないかと疑って、飢え死にするような間抜けは嫌だし、こんなもんで安心すべきっしょ。


「で、宴の夜、お抱きになったのですか?」


 え、何その下いジョー……ク……って全く冗談の気配がない。

 お互い覆面姿で表情は見えないけど、冗談めかして笑ってる可能性は元からない。

 やだ私、十八歳のお嬢さんに男女関係聞かれてる……興奮するような話の筈なのに……怖えぇ。


「い、いいえ。ラスティルさんの言葉に感謝した後、帰って頂きましたよ」


 あ、今溜息を我慢した。

 ……溜息? リディアが? ……なんだこのプレッシャーは。


「誠に失礼ながら、直言をお許しいただけますか」


「い、何時でも、何処でも思いのままに教えて頂ければ有り難く思います」


 リディアが有り難くも「では失礼して……」と前置きしてくれてる間に深呼吸をして心を整える。


「何故、お抱きになりませなんだ。二人のみの場でお互いの心情を吐露し絶好の時を得られたはず。しかもここは戦場、情欲の相手に事欠く場。その時求めていれば、ラスティル殿が断り切れなかったのは間違いありませぬのに」


 ひょ、ひょげえええぇ……。

 とんでもねー説教をされてる。


「し、しかし……不快な思いをさせるのは如何な物でしょう」


「訳の分からない所で甘い方だ。常識で考えなさいませ。ラスティル殿とて、後継ぎは欲しいのです。その相手が貴方であって何が悪いと? 関係を持ち、縁を深め、子を成して離れがたくさせるのは諸侯の誰もがしている常道ですぞ。イルヘルミを御覧なさい。幾分か見習っては如何か」


「え、常道なんですか? じゃあ……マリオとシウンも?」


「関係が無ければ驚愕の一言」


 ぬ、ぬぬぅ。マジか。確かに私は甘いようだ。


「でも……。ラスティルさん程の方でしたら、幾らでも素晴らしい相手が居るでしょう。関係を持った後、失敗したと感じるようになっては悪い結果になりません? それに私は現在彼女が示して下さっている分で十分でして。これ以上に関係を深めようとして、悪くなっては困るんです」


 という言い訳。

 大体あんなある意味生真面目な人に私の子供を産ませては、大きな問題となるし要らぬ苦労をさせる。

 ……この思考がぬるいのは間違いない。

 けど流石になぁ……現在で十分なのは本当だし……。


「その言い様……もしや、女をご存知ないのか?」


 フォゲッ!?

 おちょくる気配一切なしで、こんな若い娘が童貞か聞いてくるとは……リディアさんマジ怖いっす。

  

「は、はぁ……まぁ、そう、です。どうしても女性が欲しいとはならなかったもので」


 こっちに来てからは本当に皆無。

 日本に居た頃は消えたのだ。

 だって体の傷跡も消えてたもの。


「男色……ではありませんな。ならばお世話致しましょう。出自の確かで面倒の起こらない者を。ご要望にもある程度お応えしますのでご安心を。慣れておかなければ、今回のように好機を逃しかねませぬ。万に一つの可能性ではありますが、カルマを初めとして向こうの人間を引き込むのに必要となるかもしれないのです。手段は多く、不安は消しておいた方がよろしい」


 キョ、キョバーッ!?

 私カルマをジゴロ的手管で引き入れないといけないの? 無茶よそれ?

 つーか十歳の頃を知ってる十八くらいのお嬢さんに、女性の世話をされそうってどうなってるずら!


「い、いいえ、結構です。リーアさん、私の為に考えて下さったのはとても嬉しいのですが、そのような……その、年頃の女性が嫌がるような配慮を示さなくていいのですよ?」


「これは生死にかかわる問題。男女間の問題で命を失ったものは古今、庶人から英傑まで幾らでも居るとご存じでしょう。これ程の重大事で(わたくし)が年頃だの不快だの言うような愚物とお思いか?」


 そりゃそーですがにー。

 やっべー。近頃中々精神的にタフなマッチョになって来たぜという自信がマグニチュード7ぜよ。

 そっか……私こういうの弱かったんだ。

 しゃーないね。私の世代は彼女が居た事が無いって人が大変多かった世代なんだし。

 ……日本あれからどうなったんだろう。

 っていかんいかん。欠片も関与出来ない問題より、目の前のお嬢さんをどうにかしないと。

 とにかくラスティルさんにお願いする方向は無し。

 無駄な危険をおかすし、私に余計な悩みが産まれてしまう。


「はい、ごもっともです……が、どうしても必要な話では無いでしょう? カルマ相手にもしも必要となれば、まぁ、何とか……出来ます。多分。……私が思うにですね? 男性的な魅力を感じない相手と、無理に関係を持たせるのは非常に危険ですよ。今良い関係である相手に多くを求めて、不快な思いをさせたくもないんです」


「危険が全く無いとは申し上げかねますが……。致し方ありません。其処までお嫌でしたら引き下がりましょう」


 た、助かった……。


「但し」


 のふぅっ!?


「必要となれば、(わたくし)の用意した女から手管を学んで頂きとう御座います。如何」


「必要が出来ましたら……鋭意専心努力致します。……あの、やはり貴族となりますと、そういうのを教える女性の当てがあるのですか?」


「ある程度思慮深い家ならば。下手な女や男に惑わされて、大けがをするよりは宜しいでしょう。女の場合は処女である事が大事な場合も多いため、言い寄られた時の対処を学び経験を積ませる程度ではありますが」


「な、成る程……大変ですね」


「大変であろうと重要な勉学です。さて、レイブンから呼ばれております。何でもテリカより宴に呼ばれた為、我らに付いて来て欲しいのだとか」


 おうふ。話の展開が急すぎて……落ち着け落ち着け。


「そうなんですか。つい先日一緒に鍛錬をしたと言ってましたよね? 余程気に入られたのかな」


「加えて、何らかの願いがあると推察致します。今のテリカに単に親交を深めるだけの酒宴を開く時間は在りません。とにかくご同行を。レイブンが待っております」


「あ、それはすみません。分かりました行きましょう」

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