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オウランの悩み2

「ダンさんと私的に会う前、わたしは悩んでいたんです。貢献した分の扱いを求められた時、許容できる範囲ならばいい。しかしわたしの権威を脅かすような仕方、『オウランが此処まで大きくなれたのは全て自分のお陰である』そんな風に触れ回りそうであったらどうするべきかって。所がわたしの前に出たダンさんは、最も下の身分がする者の態度を示しました」


「自分の時もそうでした。覗き見の危険を考えているのと、こちらが恩知らずでも良いようにしたのでしょう」


「そういった面もあると思いますが……。前のように話しかけると、驚いていました。ダンさんの意見を聞くと謙虚だと心から感心してました。謙虚ですよ! 獣人は恩など知るまいって馬鹿にされてるのか疑いましたが、違います。

 最初から最後まで態度は勿論、目にも侮り、自慢、そういった物が見えなかった。わたしたちを見る目は……何と言えばいいのでしょうか。美しい野生の馬を見るかのようで。

 情けなくも気圧されてしまって……昔の関係に戻ってしまいました」


「情けないと言いながら、ご不快だったようには見えませぬが?」


「……はい。近頃はわたしを若者扱いしたり、何かを教えようとしてくれる人が減りました。今後はもっと減っていくでしょう。だから、有り難い事だと思います。ただ……ダンさんはわたしたちが恩を返すのを全く期待してない風だったのが……」


「何らかの時には逃げ込ませてほしいと言っておられましたし、例の攻城戦の修練を我らにするよう勧めているのは、何時か兵としてどこぞの街を攻めさせようと考えているのだと、自分は考えているのですが」


「ああ、それはどうなっています? 壁がある場合、四倍の兵が居ても負けかねないとまでは聞きましたが」


 その話を聞いていたので、今日レスターを攻めようという意見には強い意思を示し易かったんですよね。


「レスターの城壁作りに携わった者から、作り方を詳しく聞けたのでより実際に近い訓練が出来るようになっております。何とか攻城用の道具も作れるようになりました。まだ試行錯誤は必要でしょうが……」


「そうですか。まぁダンさんの考えは分かりません。わたしたちに困難さを教えて、下手な考えを抱かないように。というのも考えられます。

 分かっているとは思いますが、今後は更に、攻城訓練を誰にも知られてはなりませんよ。わたしにレスターを攻める意思があると、誤解されかねませんから」


「御意。今でも森の中、外から見えぬ場所を選び、口の堅い物を集め、家族にも何をしているか話せば厳罰に処すと言い含めてあります。ご安心ください」


「はい。他に何か問題はありますか?」


 ……又表情が硬くなりましたね。

 つまりは……。


「……今日、山の者にも夫となるに相応しい者が居なさそうだと分かってしまった訳ですが……後継ぎは……如何されますか? 他氏族の者でも心配する声が上がっているそうです。

 自分も先日、『オウラン様ほどの方だと相応しい相手が居なくて大変そうだ。彼女のお陰で自分は安楽に暮らせるのに、自分だけ子を産み育てる幸せを知ってしまい心が痛い。後継ぎもどうするのだろうか』と言う者が居て、回りの者たちも心配しているのを見ました……」


 頭、痛い。

 ……うん? 他氏族の者がわざわざ? それにその厭味ったらしい言い方は……。


「それ、言っていたのコンギラト氏族のヤワカじゃありませんか?」


「あ、はいそうでございます。昔からのご友人だとは知っておりましたが、良くお分かりで」


 あ、あいつううぅううう!!


「友人! やめてください。あいつは昔から嫌な奴なんです。わたしが氏族長になって苦労していた十六歳の時、適齢期になって直ぐ結婚したと自慢しに来たり、隣の氏族を攻めて服従させるべきか悩んでいる時に赤子を連れて自慢しに来たり! だってのに先日厚かましくも、わたしのような英雄にさせたいなんて言って、新しく産まれた赤子に名づけを頼んで来たんですよ!?

 しかも『女であれば、オウラン様のような苦労をさせたくありませんが男でしたので是非オウラン様のようになって欲しいんですの』なんて言いやがったんです! その上帰らずに態々氏族内でそんな話してたんですか! あ、あったまくるぅうう。

 もう決めました。今後は誰の子供にも名づけをしません。ジョルグ、貴方も取次なんて絶対にしないで下さいね」


「は、ははっ。その、オウラン様、お慰めになるかは分かりませんが、ダン殿も付き合っている女性は居ないそうですぞ。あれだけ隠し事が多く、奇妙な人間ならばさもありなんといった所ですが」


 うっ。

 他の人の不幸を聞いて、嬉しいと思ってしまうとは。

 ち、違うはずです。これは戦場で同士を見つけた喜び。

 ある意味彼の所為だからって、暗い喜びを感じたりは……。


「そうですか。ダンさんも苦労されてるんですね。

 はぁ……後継ぎという訳ではありませんが、姪のアミコを養子にします。まだ十歳と子供な所為かわたしを好き過ぎるのがちょっと問題ですけど、その分いう事をよく聞くでしょう。……もしも、うぅうう……。わたしが、結婚できなければアミコの子供を後継ぎにするかもしれません。

 但し! わたしは諦めた訳じゃありませんからね! アミコを後継ぎにする考えはまだありません!」


 くうっ。ジョルグに言い募ってどうするんですかわたしは。


「しょ、承知致しました。そ、そのオウラン様、大丈夫ですよ。水か火にはきっと相応しい者がおります」


 だと良いんですけど……希望は在るのでしょうか。


「……あの、師範。それ決して外で言わないで下さいね。『オウランは自分の夫を探す為に、他部族を征服しようとしている』なんて言われたらわたし耐えられません」


 そんな話が真面目にされるようになったら……もう、ジョルグに族長の座を譲って隠居しちゃいましょうか。

 ……うっ。強い誘惑を感じる。

 そうしたら、わたしも我が氏族の女たちみたいに、子供を育てる苦労を簡単に味わえそう……。

 でも……絶対纏まりが不安定になるんですよね……。

 ジョルグも尊敬を集め恐れられてますが、長になるとなれば異論は出てくるでしょう。

 自分の欲望の為に獣人皆を又相争う状態に戻すのは……嫌です。

 子供たちがいっぱい死んでしまいます。

 ああ……世の流れがわたしに厳しいです……。


「まさか! 誰がそんな考えを持ちましょうか。我ら獣人が求め続けた強い長に、そのような妄言誰も許す筈が御座いません」


「いえ、そんな真面目に取られると悲しくなるんですけど……」


 仕方ないのですが、ジョルグは年頃の娘……いえ、女への配慮が足りません。


「そ、そうですか。これは失礼を。……そうだオウラン様、力を付けばよいのでは? 夫だからといって、オウラン様の御意に逆らう事が出来ない程の力があれば、夫に求められる条件も大分緩くなりましょう。オウラン様ならば可能です。今だってそう出来なくはないのですから」


「それは、分かっていますが……問題を増やしたくないんですよ。大体無理に意思を通して、夫に嫌われるのは嫌です。まぁ、力を付ければ……大体は可能になりますか」


 しかし、色々悩んだ挙句に解決法は力。

 結局わたしも獣人という事なんでしょうか。

 ……今の世を見ていると、ケイもそんなに変わりませんね。

 何の慰めにもなりませんけど。


「そうですとも。誰も逆らえなくなったあかつきには、オウラン様の後宮を作りましょう。お好みの男たちを傅かせて、オウラン様の好みに合うよう学ばせるのです。その時にはダン殿も入れて情けを掛けては如何ですか? 彼の事ですから何時まで経っても妻を得られないでしょう。きっと喜びますよ」


 おや、ジョルグにしては珍しい発想です。

 うーん。慰めようとしてくれてるんでしょうか?

 

「わたしは複数の男を侍らすのが夢という訳ではないんですけど……。でも、好みを教えるは……いいかもしれませんね。作りますか。後宮を。ジョルグの分も用意しますよ」


「あ、自分は結構です。複数の女を相手にするのは面倒そうですから」


「其処は乗って下さいよ……」


 はぁ……まぁ、頑張っていきましょう。

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