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オウラン、三部族を支配す1

 視界ギリギリの遠方に毛髪が黒い山部族、二百騎程の集団が見えます。

 ゆっくりと近づいて来ているので、敵意の無い事は示されていますが……。


「ジョルグ、一頭の白馬以外は全て黒馬で統一され、馬に載せた敷物の輝きが此処からでも見て取れる、あの派手派手しい馬群は何でしょうか。ガンホウが有力氏族の長達を引き連れ、モウブの配下として今後の話を聞きに来た。と、彼らは認識しているはずですよね?」


 あれでは祭りへ参加しに来ているかのようだ。


「仰る通り……のはずですオウラン様。そうですな……自分が愚考する所、ガンホウ氏族がどれだけ山部族で力を持っているか、見せつけようとしてるのでは」


 つまり、この装いを承服した者しか連れてきてないと。

 モウブが悪いのか、ガンホウが愚かなのか……。

 ……いえ、落胆してはいけません。

 色々調整が必要だからこうやって呼び出してるのです。


「それと……。その、少々不快かもしれませんが、もしかしたら、という思いつきがあります。よろしいでしょうか? 今気づいたのですが、唯一の白馬に乗っているのがガンホウでは無く息子のジャムカと思われましたので、其処からの推測になりますが……」


「あの、ジョルグ師範、貴方が遠慮しだすと、誰もわたしに本当の話をしてくれなくなってしまいます」


「……御意。向こうの認識ですと……あちらは自分たちの長となったモウブ、サブロ、そして少し劣る力を持ったオウラン。草原族と今や山部族を連盟して支配する三人に会いに来たと思っている。

 所で山部族最大の氏族長ガンホウの息子ジャムカは、若者たちの人望厚く、どんな女も好む男ぶりだとか……」


 らしいですね。


「そうなのですか。それで?」


「……そしてオウランは二十一になって、未だ結婚していない。

 つ、つまり……オウラン様と結婚すれば、この二部族を支配する者たちの中でも強い立場を得られる、そう考えて魅力的な男だと示す為にあのような装いをしているのでは、ないかと……。ジャムカは既に三人の妻が居ると聞きますが、有力氏族の後継者であれば五人や十人は当然なので、大丈夫だと考えているのでしょう。そ、その、向こうもオウラン様が望めば全員離縁しようと考えている筈ですよ? 力の差がありますから」


 ……。

 いえ。怒っている訳はありません。

 確かに当然の考えです。

 別に嫁き遅れそうな女の弱みに付け込もう。と、しているのでもありませんし。

 ……ただ。胸に何か黒い物を一瞬感じただけです。

 ……話題話題、違う話題。


「確かに五人、十人は普通でしょう。それなのにジョルグは一人でしたよね? 子供は三人居ますが……もう何人か妻を持たないのですか?」


 偶にわたしへ世話をしたらどうかと言ってくる者が居てもう……。

 ……くっ。わたしだって産みの苦しみさえ無ければ……。

 男って卑怯ではないでしょうか。


「……妻に不満はありませんので。それに子供は三人も居れば十分かと。もう一人二人なら増えそうでもありますし。ああ、長男がやっと初陣させられる程度には弓と馬が使えるようになりました。性格も悪くはない。オウラン様の肉壁にはなるでしょう。次の戦いで使って頂きとうございます」


 ……あの評判で『程度』。

 戦士としての技量から性格まで師範そっくりで、誰もが同情する程に(しご)かれていると耳にしてますが、この言い方……。

 いえ、他家の教育に口を出しては行けませんね。


 しかし妻を増やさないのは、わたしを助けるのに忙しいから、でしょうか。

 申し訳なくも嬉しい。

 うん……何とか、気分を持ち直せました。


「分かりました。期待してます。さて、準備が出来たら呼んで下さい。わたしは自分の天幕に居ます」


「ははっ」


 はぁ……気分は持ち直しましたけど、期待感が殆ど無くなってしまったのは……認めざるを得ませんね。




***


「お前達、従属を示してお迎えせよ。三部族の支配者オウラン様である」


「「「ははぁっ!!」」」


 ジョルグの声を聞き、大天幕の中心にある部屋へ入る。

 モウブ、サブロ、雲部族のエクアは股の間に尻尾を通し、手で押さえて頭を地に付けている。

 一方で山部族の者たちには驚き戸惑い、服従の姿勢をとるべきか迷っていますか。

 ……悪くない態度です。

 少なくとも雲のスーサイよりはいい。


 ふむ、ガンホウの名は私も聞いていましたが、見るのは初めてです。

 毛に白いのが混じり始めて、斑の黒い岩のよう。

 そろそろ四十後半に差し掛かろうかという年齢のはずですが、尚頑健そうですね。

 こちらを慎重に窺っている。

 うん、纏め役として期待できそう。

 しかし、これが噂のジャムカ。

 えー……。山部族全員が白豹の毛皮で作った外套を着ている中、一人だけ黒い豹柄の毛皮を着ている……。

 こんな毛皮があるんですね。

 絹の糸を使った美麗な刺繍に、絹の帯……はぁ……、美しいです……氏族が持つ力と富がよく分かって……はい。

 六年前でしたらこの時点で、相手の言いなりにならざるを得ないと理解したでしょうか。

 ジャムカ自身も、美しい毛並みの尻尾、非常に鍛えられた体躯、精悍な顔。

 鍛えすぎていて少し馬の負担になりそうですけど……まぁ、其処まで考えて鍛えるのはジョルグくらいですか。

 成る程、確かに良い男……なのだと思います。

 今は驚きの表情でこちらを見ていますが、何時もはさぞ自信に満ち溢れているのでしょうし、獣人の女性が期待する全てを持っている……ような気がします。

 はぁあああ……期待が、羊のフン程しか残ってくれていません。

 ……オウラン、表情に出してはいけませんよ。

 評判を聞いて勝手に期待してただけなのですから。


「モウブ様、これはどういう事であろうか。オウラン……様は、貴方様と同格だと聞いていたのじゃが。それに、御三方は……その」


「誰が上に立つか争っている、か? 全て我等が作った嘘だ。俺たちはオウラン様の配下、いや下僕よ」


「馬鹿な……。山でも十年来名を聞く貴方様が、二十の小娘の? 儂等はモウブ様と戦をし、完膚なきまでに負け、その上で山部族も同胞と扱うとの慈悲を受け従属を誓った。それを突然何も知らぬ小娘の配下となれと言われても……」


 ここら辺モウブはきちんと仕事を果たしてましたか。

 ただ……何が大事かを今一つ理解していなかった様子。

 中々命令や意思を伝えきるのは難しいですね……。

 元々大した集団を作らずに生活する我ら獣人は、これ程の多人数で動くのに慣れてない以上、仕方ありません。

 一つ一つ、直して行くとしましょう。


「従えぬのであれば、もう一度差を理解させるだけだが……。長らく名を轟かせているガンホウ殿への敬意を払い説明して差し上げよう。

 俺との戦、在り得ぬ程手回しされていると感じたのではないか? 幾つもの氏族がこちら側に付き、地理さえ遠くから来るはずの我等が何故か知っており、実際に弓矢を交わす時にはもう必ず負けると分かり切っていた。であろう?」


「……ああ。何とかより集めた二万のオレたちに対して、そちらは三万。しかも在り得ないくらい統率がとれてた。三万をたった一人で集め支配するモウブ様に、オレは今は勝てないと産まれて初めて理解させられた。……だから」


 ん……ジャムカが口を出しますか。

 ガンホウは自慢の息子であるためか、身内に甘いようですね。

 それに今は……うん、まぁ、諦めないのは重要……でしょう。


「黙れ小童っ! 俺は長年山部族で最大の力を保った老狼ガンホウ殿と話しているのだ。貴様のような、小さな群れを任され調子に乗っている小狼ではないわ! そこでじっと聞いて身の程を理解しておれ!」


「なっ! オレは貴方との戦い、千騎を率いて戦ったのだ。そのように言われ」

「控えておれジャムカッ! 倅が失礼したモウブ様。仰る通り戦振りには敬服仕切りであった。それが?」


 おお、まだ二十五程度でしょうに千騎。

 本当なら大したものです。

 そちらでは期待できるかも知れません。


「余りに新しい戦の仕方だったと思わぬか? それを、俺のような四十を超えた人間が始めるとでも? 勿論同じ四十であるサブロでも無いぞ」


「つまり……あれが皆オウラン……様の考えであったと?」


「そうだ。オウラン様が全て考え、俺たちに教え、指示なされたのだ。俺は三万騎を任された万騎長にすぎぬ。オウラン様こそが草原十二万騎を完全に従える部族長。いや、今は雲七万騎をもな。今からオウラン様がお前たちに配下としての心得を教えて下さる。父に従うように従うがよい。そうすればお前たちは山部族史上最高の長を得る事になる」


 モウブ、調子に乗ってますね。

 はぁ……考え、教えた……いえ、考えたのも間違いありません。

 ダンさんの話を使えるようにするには、数多の苦労がありましたから……。

 ……こんな毎度の悩みより、目の前の問題を片づけましょう。


「ガンホウ殿、まだオウラン殿で結構ですよ。わたしはまだ貴方が配下になって居ないと考えていますから。

 さて、草原族の状況はモウブが話してくれましたので、次は貴方たちが配下となった場合の変化について話しましょう。

 まずわたしの命令には絶対服従です。馬が痩せているので戦いは無理。と、いった言い訳は許しません。

 次に全ての獣人は同胞と考えなさい。基本的に争いの解決は長たちによる会話で解決してもらいます。

 戦う部隊の編成は、万騎長、千騎長、百騎長、十騎長の部隊と分けますが、それぞれ長と同族の者が八割、他部族から二割を選ぶよう調整を。

 千騎長までの長は配下の世話を公平に出来る者で、体が特別強く無い者から選ぶように。これで虐待が減り、長が自分の強さに頼り切った戦いをして、兵たちが酷使されないようになるでしょう。

 特別強靭な者、及び有力氏族長の一族で戦士となる者は、嫡子以外わたしの近衛部隊の戦士にします。その際家族も連れてきてください」


「つまり……人質ですかの。我らが裏切った際には家族毎皆殺しだと」


「そういった面が全く無いとは言いません。しかし最大の理由はわたしが他部族を理解する為です。同胞と言いつつ、どんな習慣があるか全く知らないのでは話にならないと思いませんか? それと戦い方は全て統一しますので、それを各氏族へ伝える人間が必要なのですよ。戦士のみでもいいのですが、妻や子と長く離れないといけないのでは不満が積もるので家族毎面倒を見る事にしました」


「ふむ……此処まで聞いた分では、我らに貴方様へ従う事による益が無いように思えますのじゃが」


「ガンホウ、ワシにはお前がなにも理解していないように思える。お前たちが生きられるのはオウラン様のお陰。兵となって死ぬのと、オウラン様の敵となり半年以内に馬の背より体の大きい者全員が死に残った者が我等に隷属するの、どちらがよい?」


 サブロ……最終的にはそうなのですが、同胞となる人間を脅すような言い方は困ります。


「サブロ。貴方が当然の疑問を言った時、わたしはそのような言葉を返した事がありましたか?」


「っ! ははっ。申し訳も御座いません。……お許しください」


 出来るだけ方針を行動で見せて来たつもりなのですが……。

 我々獣人の慣習を想えば、わたしが甘いのでしょうね。

 だからモウブとサブロの行動が、わたしの方針とずれてくる。

 しかし……力で圧倒している以上、この方が上手くいく……と信じるしかありません。

 恐怖は雲のスーサイで十分示してしまいましたし。


「配下が失礼しましたガンホウ殿。益としてはまず獣人同士での殺し合いが減ります。外部の人間が裁定すれば、少しは公平に争いを仲裁出来るでしょう。

 それとわたしはケイに物を売る手段を持っています。狼、羊などの毛皮や売れる物を教えますから持ってきなさい。わたしが持つ商団は黄河まで行ける。自分たちの所へ商人が来るまで待って売るよりも、遥かに高く売れますよ。その金でそちらの食料を買う所までしてもいい。幾らかの手数料は取りますが、それを超えた利益を約束しましょう。諸々を合わせればわたしの兵となって戦い死ぬ人数よりも、遥かに多くの者が助かるでしょう」


「……我ら山の部族、三十万近い民にそれが出来ると仰るのか?」


 確かに少し前までは無理な量でした。

 しかしトーク領が黄河に接したお陰で、扱える量が格段に増えたのですよね。

 しかもダンさんが言うには、ケイで最も栄えているビビアナ領の商人が来るようになるかもしれないとか。

 本当にそうなれば、更に取引できる量が増えます。

 自分たちでも物品は作ってるでしょうに、更に我らの物を買う余裕まであるとはケイ帝国も大したものです。

 我等の何倍民が居るのでしょうか。


 えーと、後何を話すべきでしたっけ……。

 不味い、忘れてしまった……ジョルグに任せますか。


「ええ。少し前の我々と同じく、貴方方も氏族同士で毎年殺し合っていましたね? 何でしたらそれで毎年どれ位の人数が死んでいたかを出して下さい。それ以下となるように戦の数を調整します。ジョルグ、残りの話を」


 ジョルグに話すべき事が書かれた木簡を渡しておいて良かった。

 やっぱり文字は便利です。

 ……覚える為に人生で最も苦痛だったかもしれない時間が必要でしたが……。


「はっ。次にお前たちの領地で指定した場所へ、少数の家族を固定して住まわせよ。その者たちには、こういった割符を持った使者に便宜をはかる仕事を申し付ける。

 内容は割符の格によって決まるが、具体的に言うと宿、馬、食料、人員だな。

 この駅伝制により命令の迅速な伝達とお前達に問題が起こった時、素早くオウラン様が知って我ら皆で対処出来るだろう。

 使者を使った伝達は正確な物とする為に口頭では無く文字を使った文でなくてはならん。お前達、文字を扱える者は此処に居る全ての氏族に居るか?」


「まさか。文字を扱うような酔狂な人間など我がガンホウ氏族でやっと一人二人程度のみ。後ろに居る殆どの者の所には居ませぬぞ。我等の所へ逃げ込んできたケイ人どもならば扱えるでしょうが、そのような重要な内容に、信頼出来ぬ者を関わらせたりはしますまい?」


 ああ、ケイの戦乱から逃げて来た者たちも悩ましい問題です。

 将来的には一族へ組み込まないといけませんが、直ぐには無理でしょうね。

 しかし初めてガンホウの緊張が少し緩みましたか?

 んー……現実が見えない小娘らしく、実現不可能な事を言っているとでも思ったのでしょうか?


「やはりそうか。ならば我らが、文字の扱える人間を貸し出そう。またその者たちには文字を教える役目も果たさせる。それぞれの氏族から賢く若い者を選び、文字を学ばせよ」


「百人以上も文字を教えられる者が居られますのか?」


「何とかな。当然貴重な者たちだ。問題を起こしそうな者は少ないが、何か起こした場合、殺さず送り返すよう申し付ける。処分はこちらでする。以上だ」

ロト太郎様より、真田にとっての孔明、セキメイの絵を頂戴しました。

挿絵(By みてみん)

以下のように仰せです。

孔明の一般的なイメージは昔から完成してるので、そのまま参考にしました。

温泉文庫さんは帽子の有無について書いてませんでしたが、つい付けてしまいました。

あざとさアップで毒男へのダメージもアップ。

孔明帽の白いラインは描いてみたらしっくりこなかったので消しました。


うん。私に言われてもしゃーないですが、絵が段々上手くなってませんかね?

頬を少し違う色を付けるとか、自然なアザトサを感じます。

しかし、ほんまアザとそうなお嬢さんを描いて下さいました。

この薄い布な感じの服で雷が鳴った時に『好機!』とばかりにキャッとか言って抱きつきますね。間違いなく。

エグイ。

鏡を見て一番アザトイ角度も計算してあり、極力その角度を真田に見せるようにしてるでしょう。

怖い。

ロト太郎様、アザトースな絵を有難うございます。

ピクシブurlはこちらです。

ttp://www.pixiv.net/member.php?id=12051806

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