表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/215

グレース、酒宴でアイラを確かめる2

「し、調べたの!? ダンの事を!! 駄目っ。絶対に駄目! お願いフィオ、二度としないで。……どうしよう、一緒に謝れば……ううん、言わない方が……」


 怯えている? あのアイラが?

 別にこの程度普通でしょうに。


「アイラ、何か怖がってない? 何が怖いって言うの。評判を調べるくらい当然じゃない。世間話でも出るような話よ」


「そ、そうだけど。……う、ううう。だ……誰だって知らない所で自分を調べられたら嫌だよ。そんな事しちゃいけない。僕はダンに怒られたくない。うんと……、食べ物も飲み物も凄く不味いのを食べさせられたりするんだもん。フィオ、とにかくダンを調べちゃ駄目。必要だってないでしょ?」


 そんな一般論で、領地の大事を語られても困るのよねぇ。

 しかしあいつ、どんな物を飲ませてアイラを怖がらせてるのかしら。

 前から思ってたのだけど、この娘は脇が甘いわ。

 フィオがダンの入る余地を無くしていれば、こんな面倒にもならなかったのに。

 ……流石に無茶な要求か。


「必要ならあるっス。ソン曰く、敵を知り己を知れば百戦危うからず。宜しいっスか? ダンめが不遜な考えを抱き、更なる権力を求める可能性は高い。そして兵の居ないあやつにとって、カルマ様の配下ではない草原族を取り入れるのが唯一の手段。逆を言えばダンと獣人の距離にだけ気を付けておけば、当面問題は起こらないっス。ダンに調べてるのを伝えてくださっても結構っス。こちらが気を付けていると知れば、無駄な事をしなくなるでしょう」


「う、くぅ~。……とても、言えないよ。カルマも同じ考えなの?

 ダンがカルマをランドから呼び戻してくれなければ、今のビビアナと同じ目にあってた。僕たちにとって命の恩人。配下になる理由はあると思う。しかも今はこんな世の中、生き残る為にはなんだってすべきでしょ?」


「ワシはダンを信用しきれん。この世にあそこまでよく分からない人間が居るか? 人の上に立つ者として、万人の運命をあのような男に任せる訳にはいかぬ」


「第一配下が主君の為に命を掛け、助けるのは当然よ。一々それで主従が逆転していたら、この国は成り立たない事くらい分かるわよね? なのにあいつが配下の分を超えた態度と口を出した上に、姉さんの臣下であったアイラを、自分の臣下にしたりするからおかしくなってるのだわ」


「もしかして、ダンを殺せば僕が戻ってくると思って刺客をおくったの? ……もしダンが死んだとしても、僕はカルマの配下にはならないよ。リディアの配下になる。そしてリディアがダンの仇を討つと言えば……カルマとグレースを殺す。その時にはラスティルだって手伝ってくれると思う」


 !!!!!!!


「な、な、なぁああっ!? アイラ殿……何故そこまであやつを……ううううぅぅ、ダンめぇええ!」


「……つまり、アイラはあたしたちよりもダンを選ぶのね?」


「本当はこんな事を言いたくなかった……。でも、皆何も分かってない。僕は二人の会話を聞いて、勝つ人間がどんな人間か分かった。勝てるかどうか分からない事をするようなカルマたちじゃ、……リディアがいないと生き残れない。

 それにダンは命の恩人だし家族も同然なんだ。僕は恩を返す」


「うむ……うむぅっ! アイラよ、それこそ武人の道だ。武人は恩に縛られるもの。虎のように自由気ままだったお前が……立派になったな。俺は嬉しいぞ」


 ……ガーレは放っておくとして。


 なんて事、ダンに此処までの人望があるなんて。

 それかこう言ってでも、あたしにダンと敵対行動をとらせたくないのかしら?

 野生児であるアイラの考えは単純だけど基本が違い過ぎて推測し切れない事もしょっちゅうなのよね。


 よく考えたらあそこの四人は考えの読めない奴だらけ。

 なんなのよあいつら、一人くらいガーレでも良いのに。

 

 ……刺客を送るのは、もう駄目ね。

 アイラ相手に万が一の危険は冒せないわ。

 ダンがアイラとラスティルに何時も武器を持たせるなんて決定したものだから、対抗してレイブンとガーレも常に帯剣している。

 争いとなれば、どれだけの被害が出るか。


 でも誤解は困るわ。ガーレたちに恩知らずだと思われるのも。


「さっきから刺客なんて送ってないと言ってるわ。それに誤解もあるようね。ビビアナの状況がこうなっている以上、あたしたちがあいつに助けられたのは分かってる。リディアは勿論、ダンだってまぁ真面目にあたしの秘書として働いてくれてるし、配下となってくれれば当然更に重用して意見にも耳を傾けましょう。

 そうだわ、帰ってきたら感謝の証に何か贈り物をしようと思うの。ダンに贈るとしたら何が良いと思うアイラ? (ぎょく)? 瑪瑙(めのう)? それとも美しい細工物かしら」


 リディアはビビアナと親交があったみたいだし、ビビアナと親しくするにはリディアが必要。

 あの二人の機嫌を取っておいた方が良い。

 それにダンも篭絡出来るのであればそれが一番よ。


「……全部ダンは興味が無いね。趣味っていったら囲碁みたいだけど、そんなに熱中してないと思う」


 何それ。

 あいつ何が楽しくて生きてるの?


「では女はどうだ。あいつのような日頃は影の薄い奴が、何処かの女に貢いでいたりするものだが」


 ああ、女を与えるという手もあったわね。

 いい質問よガーレ。


「あっ! そうだアイラ殿! あの男と一緒に住んでて危険を感じた事は無いっスか!? 自分の方が強いからと言って油断しては駄目っスよ。どんな汚い手段でアイラ殿を狙ってるか……っ!」


「……感じてない。親しそうな女も知らない。ダンは大体家に居るけど女の人が来た事は無いよ」


「なんと。あやつ、もしや男色か?」


「! 肌についてやたら詳しかったり、女性的な所もある……在り得るかもしれん。よくある話だと聞いてはいたが、男色の近しい人間は始めてだ。……うっ。態度が変わってしまいそう。グレース、は大丈夫か?」


「べ、別にそんな親しくないもの。男色ならかえって安全なくらいじゃない? ……レイブンは心配だけど」


「あの男、そこまで気持ち悪い男だったっスか……。とは言えアイラ殿の事を考えれば、確かに安全。喜ぶべきかもしれないっス……。小職だって男よりは女の方が……」


「えっと……多分男色じゃないと思うよ? ねぇ皆、聞いてる?」


 そ、そうよね。

 今までの人生で余り無かった話だから動揺してしまったわ。


「あ……僕、リディアがどんな男が好きか、なんて知らないから。それとリディアに男を引き渡す時は僕と関係ない所でしてね。なんか怖いもん……」


 え”。


「そんなおっそろしい話は誰も考えて無いわよ! そうでしょ姉さん」


「う、うむ。あの娘食事をしただけで育ちの違いがはっきり分かるのだぞ? 所詮辺境であるトーク領の何処を探しても相応しい男が見つかるとは……。美しいだけの男を贈るとしても、そんな奴だって誇りは持っている物、あのリディアの横に居て差を見せつけられては耐えられまい。……というか、ワシも男を見つけ、世継ぎを作らなければならんのに……こんな話をしている余裕は……」


 あ、この話題は不味いわ。


「ま、まぁあれよ! 酒宴の席でこんな話ばかりしてもしょうが無いわ! お酒の追加をしましょう。もっと飲んで頂戴!」


「あ、じゃあ僕、芸をする。ダンが旅の芸人から教えてもらったっていう特殊な歩法の芸」


「え。アイラ殿が芸っスか? すっごく興味があるっスけど、あの武における才能が全くない男の教えた歩法……ううむ。期待できるのやら出来ないのやら」


「馬鹿者。あのアイラが宴会を盛り上げようとしてくれているのだ。素直に喜べ。アイラ、期待しているぞ」


「うん。頑張る。皆そっちに行って。その方がよく見える」


 やっぱりアイラ変わったわね。

 昔は食べて食べて食べて、飲んでるだけだったのに。

 しかし、その変化がダンの所為で起こり、あんなに忠誠心を持ってるのには困ったわ。

 ……あたし達を配下にするのも諦めた訳じゃ無いでしょうし。

 いや、これからよ。

 アイラの考えはある程度理解出来た。それだけでも一歩前進。

 後は少しずつ少しずつ状況を変えていけば良いの。


 ………………。

 え?

 どうして前に歩いてるのに後ろに下がってるの?




***



 ふぅ……流石に飲み過ぎたわ。

 疲れたし早く寝たいけど、一番大事な報告を聞かないと安眠出来ないからもうひと頑張りしましょう。


「それで? あいつの部屋にはいれたの?」


「はっ。特に鍵などは付けられておらず、簡単に入れました。誰にも見られてはいないはずですが、お言いつけの通り役人の恰好で入りましたので見られていようが誰も不審には思わないかと」


 ……あいつにしては不用心ね。

 いえ、半年は留守にするのだから、掃除とかを考えて仕方なくかしら?


「部屋の様子、置いてある物品は?」


「ごく普通の中級……いえ、下級官吏の部屋だと考えて頂ければ。置いてある家具、小物、全て安い物ばかりで。個性としては、囲碁の盤、兵法書。ああ、金が掛かってそうな物が一つ。茶です。空になった茶壺が幾つも御座いました。それと、部屋には良く使い込まれた農具が。庭には暫く管理されてないようでしたが、かなり広い野菜畑と食べられる実を付ける木も。どうも自分で野菜を丹精している様子」


 茶は確かに金がかかるけど……。

 農業とは庶民らしいわね。

 大志を抱く人間や貴族は普通しないわ。

 

「何かの文は無かったかしら? 例えば草原族相手の物とか」


「全く。筆跡が見せて頂いた物と同じだったのは、兵法書を写本してる途中の物が一点あっただけで御座います」


「他に玉、瑪瑙、金、装飾品。宝物の類は?」


「皆目」


「地下、壁に隠し部屋が無いかは調べた? そういう所に富を隠してるもの」


「調べは致しました。彼の部屋には御座いません。家全体を調べるほどの時間は御座いませなんだ」


「ええ、あの部屋だけで十分よ」


 ……アイラにも一応聞いたけど、あの反応ならアイラは知らない。

 アイラに全く知られず富を隠すのは相当厳しいでしょう。

 だとすると本当に何もない?

 獣人から貢物を受け取っても、獣人に渡す宝物を溜めてもいないと?


 しかも下級官吏程度の生活? 望めば今の何倍も良い生活が出来るっていうのに。

 あいつ、本当に何が楽しくて生きてるの?

 何処までも不気味な奴……。


 ううん……結局篭絡する切っ掛けも見つからなかったか。

 従僕として人を潜り込ませようにも、リディアの家臣が家の面倒を見るようになってしまったから、アイラが家に居ない時間を調整できる千載一遇の好機だったのに。

 

「分かったわ。ご苦労。今日はもう下がりなさい」


「はっ」


 リディアの家も調べたいけど、あの家はやたら口の堅い家臣たちが留守を守っていて不可能。

 ……手ごわい相手ね。

 

 せめて草原族に便宜をはかってる証拠と『出来る物』がでてくれれば良かったのに。

 ダンが用心深いのか、元から大した関係ではないのか……。

 草原族から大事にされてる様子は全く無かった……。


 チッ。敵を知るのは兵法における基礎の基礎、それをまともに兵法を学びもしてない人間相手にここまで苦労するなんて。

 或いはあたしが一人で踊ってるだけ? ……そうなら別にそうでいいか。


 ダンたちにどれだけ助けられたか、そして油断のならない人間なのかは今起こってる戦いでよく分かった。

 今みたいに不安定な状態の間は、内紛を起こす程愚か者じゃないでしょうけど、主導権を奪う準備はしておかなきゃ。

 

 そろそろ一人で考えるのも厳しいわね……。

 あ、フィオもダンを調べてる様子だった……彼女に調べるのを任せましょうか。

 ……姉さんにも話しましょう。

 せめて目鼻が付いてからと思ってたのだけど。


 はぁ……もう少し手駒が欲しい。

 そうすれば、相対的にリディアの重要性が下がるし、ダンも抑えやすくなるのに。

 でもこんな辺境には大した人物が来てくれないのよね……。

物見櫓様よりアイラの描き直しを頂きました。

挿絵(By みてみん)

以下のように仰せです。

以前に描いたのと比べ、鎧の防御力を増しました。

最初はもっとガチガチのフルプレート(ミニスカートはそのまま)が下書きだったのですが、まぁ女の子にそんなごついの着せるのもあまり受けないかも(私は好きですが)と思い直したので、Fateのジャンヌくらいの装甲に修正、機動力重視をコンセプトにしました。

左足で蹴られたら痛そう(というか相手は死ぬ)。

ホウテンゲキは、調べたらいろんなデザインあったんですね。無双ゲーの呂布のしか知らんかったです。とりあえず、一番攻撃力高そうなデザインを選んで描きました。

アイラ殿の武力はケイ帝国にて最強(フィオ感)


私は、てっきり相手が足元を攻めてきた時にこの脚甲と、合気道的ふしぎ体術で受け止めて、相手のがら空きの脳天にこの超重そうな鉄塊を落とすのかと思いました。

勿論蹴る為に使うのも好きですよ。カボチャハサミ部隊の美人騎士が銃の時代に剣蹴ってる漫画とか。

スカート前が空いてて絶対領域が見えるのはやはり大事ですよね。

敵の視点をそちらに誘導して隙を作る策でしょう。Fateのシースルースカート履いてる人みたいに。

それにしても可愛らしく描いて下さいました……有難うございます。

耳、柔らかそうです。

物見櫓様、心より感謝申し上げます。

ノーマニーでこんなカインドネスをくださる物見櫓様へのチアアップなメッセージ、ウェイトしております。

ピクシブurlはこちら。

ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=60080317

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ