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真田陣営の飲み会1

***


 何年ぶりだろうか、真田殿たちと酒を酌み交わすのは。

 賑やかで、真田殿の配下の殆どが明るい性格な為か、子供の頃からの友と会ってるかのように感じる。

 何時もの三人は中々の際物揃い、こういった感覚は得られない。

 四人で飲むと、非常に静かな宴になるのだ。

 リディア、ダンの二人がやたらと落ち着いている。

 まるで四十を超えた者たちと飲んでるかのような様子になってしまう。

 ただ……会話の内容の面白み……というか刺激はあちらの方が上かもしれぬ。

 あの二人は酷い事を平然と言うからな……。

 トーク姉妹が政務を必死にこなして徹夜している故の肌荒れを、話題に出したりとか。


「本当に久しぶりだなラスティル。会えて嬉しいよ。カルマ・トークは親切にしてくれる? 色んな噂が流れていてよく分からないんだけど、どんな人?」


 うむ? どうも本当に心配している様子。

 カルマ殿とは面識が無いはずだが……例の悪評の所為か?


「カルマ様か……。下々にも目を向け、侯爵の身分を考えれば非常に謙虚。加えて苦労を自分から背負ってしまう所があってな。中々魅力のあるお人柄だと言えよう」


 おや? 今度は悩みはじめてしまった。其処まで意外ではあるまいに。

 噂が所詮噂なのは常識であろう。


「カルマが……謙虚で苦労性……。董卓(とうたく)じゃないのか。やっぱり当てにし過ぎちゃいけないな。何せ呂布(りょふ)が居ない……」


「トウ……タク? リョフ? 異国の響きがする名だが……とんと聞いた覚えがない。カルマ様に似ているのか?」


「あ、いや、こっちの話。所でレイブンさんやラスティルが下に穿いてるの、物を入れる袋が付いててケイの人が着るような物じゃないよね。俺が作ったのとそっくりだけど、こんなに早くトーク領まで伝わってるとは思えないし。北方の獣人がそんな服を着てるのは見た事があるくらいかな……トーク家では普通なのかい?」


「ああ、これはサナダ殿の様子を探った時に草の者が参考として服を届けてくれてな。便利で斬新だと皆喜び、真似て作らせた。他にサナダ殿が発案したという農具も試してみたが、民が喜んでいたぞ。流石サナダ殿だ」


「お、俺が頭を捻って考えた物を盗んだってのにそんな笑顔で……。使用料はくれないの?」


「その言葉はグレース殿に伝えよう。が、くれないと思う。恨むのであれば、道具の知識を盗めないようにしていなかった自分を恨むべきだ。ま、勉強になったと思うのをお勧めしよう」


「くっ……特許の無い時代はこれだから……。農民が使う道具なんて秘密にしようがないじゃんか……なぁセキメイ、酷いと思わない?」


「はい……でも、その、間諜を入れてどんなことをしてるか探るのは当然ですし、ソウイチロウ様の物ほど革新的でしたら真似されますです……。それよりも遠方の男爵へ目を向けたグレース殿が気になるです。どれ程広い目を持っているのでしょうか……」


「あ、すまん。それは拙者がサナダ殿を褒めたからだと思う。調べた結果を聞いて皆驚き感心していたぞ。拙者も友が褒められて非常に鼻が高かった」


「……それは、グレース殿も含めて? 彼女にとっても目新しい物だった?」


「? 当然であろう? 服、道具ともにトーク領には無い物、カルマ様も含め皆が驚いていたとも」


「そうなのか……」


 そんなに考え込むような話であろうか?

 あのような物トーク領所かケイの何処にも無いであろうに。

 まぁ、一人全く表情を変えない者も居たが……あれは計算に入れてはなるまい。


「ま、流石のグレース・トークもソウイチロウ様の知恵には敵う訳ねーってこったろ。何といっても異世界の知識だ。な、ソウイチロウ様」


「いや、そうなんだけどさ……ま、いいか。それよりも俺の誇る二将軍と久しぶりに組手をしたんだろ? 結果はどうだった? 二人とも楽しみにしてたんだぜ?」


 ほぉ。あえて話題に出さなかったというのに、ロクサーネとアシュレイが最も知られたくなかった人物から問われるとは。

 ああ……二人とも可哀想なまでに悔し気な様子を見せている。

 ……。まずい、顔がにやけてしまいそうだ。

 確実に主君の影響であろう。

 拙者のような良い女にまで小人の楽しみを染みつかせるとは……誠恐ろしい主君を持ってしまった。

 ……クフッ。


「うん? ……あれ? 二人とも負けたの? 以前はロクサーネと互角で、アシュレイとも其処まで差が無かったよね? 近頃二人は殆ど互角だし、アシュレイは絶対に勝つと言ってたのに」


「ま、負けたと言っても……偶た……くっ……。大した差ではありません! 次は勝ちます。ソウイチロウ様、どうかご信頼ください」


「い、いや、信頼してるよ? アシュレイはどうだった?」


「オラも今なら勝てると思ったんだけどなぁ。真剣勝負をしたとして十回に四回しか勝て無さそうだった。残念だったぜ」


「いや、アシュレイ殿の成長には拙者も目を見張った。簡単な挑発には乗らなくなっていて驚いたぞ」


「……それで成長したって言われてもよぉ。まぁ、散々ソウイチロウ様と、セキメイに説教されたんだ。先日の戦でもめっちゃ怒られたんだぜ? それよりもラスティル、どうして強くなれたんだ? どんな鍛錬をしてるか教えてくれよ」


 それは勿論、拙者が感じた所二人同時に掛かってやっと勝ち目が出る化け物と散々鍛錬してるからなのだが。

 言ってはいかんのだよな。


「そちらもそうだろうが、死線を潜り抜けるような戦をしてきたしな。それにこちらのレイブン殿やガーレ殿と言った猛者たちと鍛錬出来てもいる。お互い以外に相手が居ない二人よりも多くの経験を得られたのだろう。レイブン殿のお陰で馬術に関しては特に成長したぞ。二人とも許してもらえるならば、教えを請うといい。辺境一の馬術をお持ちだ。あのサポナ殿よりも達者であろう」


 真の一番はやはりアイラだが……馬術に関しては何の参考にもならなんだ。

 何を聞いても

『え、どうやったら馬が速く反応してくれるのかって言われても……。長く一緒に乗ってれば、考えた瞬間に動いてくれるよね? 友達なんだし……』

 ではな。


「う、うむ? ……あ、うむ。よかろう。某としても、あのアグラ率いる精鋭を相手に一騎で立ち向かったロクサーネ殿の一助が出来るのは誉れである。遠くから見ていたが誠に感服致した」


 お、先ほどまで沈んでいた顔があっさりと自信に満ちた物に。


「お言葉有り難く。あれは自分としても誇りと成す所です。我が名も大いに上がり、テリカ殿からも直接賛辞の声を頂きました。何より我が君の名を上げられたのが喜ばしい」


 あれは確かに素晴らしかった。

 が、ここであろう。


「兵たちも大いに笑っておりましたしな。それに近頃よくロクサーネ殿の名を聞く。親しまれていて大変結構」


「っっっ!」


 会心の手ごたえだ。


「どうなされた豪勇の誉れ高きロクサーネ殿。その上兵にも慕われる高き徳をお持ちの方。口を開かれているが声が聞こえませぬ。何か仰りたい事でも?」


「……あ、あれは……。…………くぅうぅ」


「あの、ラスティル……ロクサーネを虐めないでくれ。あの後も、アシュレイにからかわれ、フェニガから説教されで可哀想だったんだ。発案とロクサーネに任せたのはユリアで、策を練ったのはセキメイ。許可したのは俺。なのにあれだけ良い結果を出したロクサーネが辛い思いをしては申し訳ない」


「ソウイチロウ様、それだとあたしが悪いみたいに聞こえるんだけど。ロクサーネちゃんに任せたのは出来ると思ったからだし、実際出来たじゃない。あたしは悪くないよ。そ、その、誰が悪いって言う意味でも……ないけど」


「わ、わたしも悪くないですぅ! フェニガとわたしが考えたのは、互いの兵を引いた後にアグラが突撃してくる事と、それが疲労の軽い我が軍の反対側だろうって事だけで、あんな風に見栄を切れとは言ってませんです!」


「義姉貴は変に自信満々だから駄目なんだよなー。オラだったらあんな真似しないぜー? オラに任せておけば良かったのによー」


「いや、アシュレイだとアグラを倒した後更に突っ込んで袋叩きに会いそうだから、軍師としては今回みたいな時に使う気はねーぞ。なんだその顔。突っ込まないって自信を持って言えるのか? 言えねーよな? 一応言っておくと、お前が嫌いな頭でっかちの俺ら軍師だけじゃなくて、ソウイチロウ様とユリア様の意見でもあるからな?」


 うむ。組手の時も簡単には引っ掛からないだけで、やはり挑発に弱かった。

 フェニガの言葉は当然であろう。


「ほぉ。セキメイとフェニガであの策を考えたのか。よく戦場の動きを見た良い考えだった。まぁ並みの将には不可能だろうが……。あれ程の混戦で冷静に全体を見られるとは、二人とも軍師として更に成長したのではないか?」


「ああ、俺には本当勿体ないよこの二人は。俺なんて目の前の兵を守る事だけで手いっぱいだったからね。疲れて、のどが渇いて……臭かった。ユリアもロクサーネも酷いんだぜ? 終わった後に大丈夫か心配して近づいたら、滅茶苦茶怒ってさ……」


「だ、だって! あんな汚れて臭くなった姿を見られたくないよ! ロクサーネちゃんだってそう思ったよね? あ……ロ、ロクサーネちゃーん? 大丈夫? そんなに落ち込まないでもいいと思うよ? あたしもソウイチロウ様も、ロクサーネちゃんに感謝してるわ」


 うむ。誠に落ち込んでおられる。

 見てるだけで心が痛むぞ。

 しかし、これもロクサーネ殿を想えばこそなのだ。

 クスッ。クススッ。


「いえ……放っておいてください。あの時は、どうかしていたのです。アグラを馬から叩き落して自分こそ天下一だと……それで、つい……。しかも今日は負けてしまうし……うう……」


「い、いや、大丈夫だぞロクサーネ殿。そなたの武功は比類なき物。歩兵たちの陣構えが間に合ったのも、そなたの功あってこそだラスティルに負けたと言っても、紙一重だったではないか」


「そ、そうですよね。……レイブン殿、そなたは良い方だ。物を分かっておられる」


「そう言われるとちと照れるな。はっはっは……」


 確かにレイブン殿は良い武将だが……これほど熱心に人を褒める方だったろうか?

 ……もしや……いや、下種の勘繰りか。

 それよりも、ちと気になる事がある。

 余計なお節介なのは分かっているが……。


「ただロクサーネ殿、アグラを倒しただけで天下一だと考えるのは如何な物か。自信があるのは結構。されど世には隠れた強者が居るかもしれぬぞ」


 と、いうか、本当に全力で隠された強者が居るからな。

 顔を隠し、名を隠してまでとは、知った時には驚いた。

 グレース殿が戦場におけるカルマ殿の影武者とする為に考えたと聞いている。

 されどダンの考えそうな話にしか思えん。

 本人は否定していたが……我が主ながらああいう否定は全く信用出来ぬ。


「ふん。諸侯の将は見ましたが、南部最強と言われているカーネルにも自分は勝てます。ようするに天下一は自分だと言いたいのでしょうラスティル。いいでしょう。今はそう言っておきなさい。必ずや貴方に勝つと我が主君の前で誓います」


「い、いや、そうではない。ほら、例えばメリオ・スキト殿が居る。鍛錬の様子を見たのだが、非常に優れた馬術を持っていた。騎乗しての一騎打ちであれば拙者も必ず勝てるとは言えん。とにかく、自信を持つのは良いが過信とならぬよう気を付けるべきではないかと思うのだ。当然拙者も自分が天下一だなどとは思っておらぬ」


「うん。そうだね。ロクサーネ、ラスティルの言う通りだよ。ロクサーネの強さは俺も信頼している。でも、非常に誇り高いのが心配なんだ。何時か相手を甘く見るようにならないかって。今回ラスティルに負けたのも、自信を深めた故の油断があったかもしれないだろ? ね?」


「くっ……。……。承知……致しました。主を心配させてしまったのは我が身の不徳と致す所。より精進致します」


「うん……ごめんね。油断が原因で綺麗なロクサーネの顔に傷が付いたらと思うと……つい」


「うっ……ひ、卑怯ですソウイチロウ様……はい……。お言葉、忘れません」


 ……確かに卑怯なお人だ。

 それでも言われたら喜んでしまいそうな所が特に。

 しかし……つい余計な世話を焼いてしまったが、まず改まらんだろうなぁ。

 昔からサナダ殿が同じような事を何度も言って来たと拙者は知っている。

 それでもこれなのだから。

 何時か、この誇り高さが原因で(あやま)たねばよいのだが……。

ロト太郎様が再び支援絵を下さいました。

覚えておいででしょうか、12歳程度だったリディアがイルヘルミから迫られて、ちょっと心細くなったのでダンに抱きついた過去があった事を。

その時のシーンを現在の大人になったverで描いて下さりました。

挿絵(By みてみん)

アレな。

特定店舗で予約して買う場合に付いてくる、購入者の本能直撃型になるよう描かれたポストカードな。

ロト太郎様は無表情じゃないという突っ込みがあるかもしれません。と、仰っていました。

問題無いんじゃないかな。むにっ となってるし。

いえ、無表情も大好きなんですけども。冷徹も大好きなんですけども。

そうでなくても又趣きがありますし。


有難うございますロト太郎様。

ロト太郎様のピクシブurlはこちら。

ttp://www.pixiv.net/member.php?id=12051806

絵への感想お待ちしております。

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