反ビビアナ連合で確認出来た事
こちらに向かい引き上げてくる連合軍を見て、装備を確認していると真田軍が見えて来た。
先頭に真田、脇にセキメイが居る。
あ、真田は血だらけだ……でも元気そうだし返り血か?
つまり、こいつ最前線で腰に差してる剣を振るったって意味?
やっべぇ掛け値なしにスゲェ……本当に同じ日本人か。
苗字と名前で日本人だと判断してたけど、多次元宇宙論がうんたらかんたらして剣での殺し合いが日常茶飯事な日本から来てたりするのだろうか。
と、こ、ろ、で、真田の馬にだけ立派な鞍と鐙が付いてるのだけど……。
誰か気づいてくれないかなー? そして感想を教えて欲しい。
「ラスティル、今気づいたのだがサナダは馬に変な物を付けていないか?」
おお、何と役に立つんだレイブン、いや、レイブンさん。
で、どうなんすかね。あの二千年経っても使われ続けるグレイトな道具は。
「……うむ。拙者も先ほど気づいたのだが……あれは……ちと……」
「余りに無様だと思わぬか?」
「…………拙者と共に戦っていた頃、サナダ殿は乗馬が下手でな。難儀していた。戦場で騎乗するにはああいった道具が必要なのだろう。……十分に戦った様子ではないか。あの道具のお陰かもしれんぞ」
「そうなのか……しかし、あれでは兵も侮るぞ? 乗馬が下手だと叫ぶも同然ではないか。そのような者に誰が従いたいと思う。馬術は貴族ならば当然の嗜み、所詮成り上がり者かとも言われよう。配下に止める者は居ないのか?」
「……拙者が分かっていないとでも? 名よりも実……なのだろう。多分。第一サナダ殿は全軍の長。それが最前線で剣を振るっている。少しの欠点くらい兵も許すのではない……か?」
「いや、某が尋ねてるのに尋ね返されてもな……。話した時には完璧な男かとも思ったが、やはり欠点はあるものだな……」
あ、そういう価値観?
道具の有用性を考える前に、大人の癖に補助輪付けるなんてダサ過ぎて却下って感じ?
まぁ、地球史でもズボンは戦いや乗馬に向いた服だけど、使ってたのが遊牧民だった。
それで周辺にあった文化国家の皆様は蛮族の使う物だと忌避したなんて話があったような。
……あいつが私と同じ育ちなら馬に乗って戦えるとかマジ尊敬なんだけどね。
鞍と鐙くらい使わせろよバーローと三人に言いたいまである。
私も逃げる為だけに乗馬の訓練をし続けてるが、特殊な筋トレから始めないといけなくて大変苦労してるってのに。
だがこの思考方なら、真田も軍に広めるのを苦労してそうだな。
実利主義だと感じたオウランさん達でさえかなり渋ってた……。
うん? もしかして、最前線で戦うのは馬具の有用性を実証する為か?
……何時か、鞍と鐙を使った騎馬軍団をこいつが持つ事になる。そう考えておこう。
「……なぁ、ダイよ」
「何でしょうかレイブンさん」
「某、この仕事を任された事、心より感謝しておる。あの時詫びを込めてと言ってくれた意味が近頃やっとわかった。有難うダイ」
「お礼でしたら私が言うべきでしょう。今日まで何の問題も起こってないのはレイブンさんのお陰ですから。私も今日は大変良い物が見れて嬉しかったです」
「はぁ……お主たち余りに情が無いのではないか? 拙者などは眼下で友軍が血に塗れているを見て、心を痛めていたというのに」
おんやぁ? 裏切るのかねラスティルさんや。
「でも今日一日笑顔でしたよね? 第一あの中に入って戦いたかったのですか? すっごく臭かったと思いますが」
ウンコ漏らす羽目になったかもよ? とは言わない。ワイ、デリカシーあるんで。
「……ダイ、女の建前を尊重しないようでは、何時か嫌われるぞ?」
「不快にさせてしまったのでしたらすみません。てっきり私と同じように罪悪感さえ楽しんでいるとばかり」
「何と率直な。流石我が君です。確かに私もあまり感じた記憶の無い優越感らしきものを感じておりました」
近頃少々底意地が悪くなってきたように思えます。主君に影響されたのでしょうか、とリディアが続けてるけど……。
多分、元からだと思います。
貴方昔から鬼だったべ。
「お主ら……本当に酷い事をあっさり言うのだな。それは、某も少しは感じていたが……」
レイブンも正直で結構。
皆楽しそうだ。帰る道を歩きながら、お互いに今日の感想を話し合ってる。
私は適当に相槌を打ちながら、そっとリディアから離れて歩くようにしつつ、顔を何時もの覆面で隠した。
会話してる間は大丈夫だったけど、黙って考え事をしてると私の笑顔に別の感情が乗りそうだったので。
……。
勝った。
今日の戦いで、ケイ帝国の戦いを確認できた。
智を巡らせ、同盟相手を増やし、裏切らせ、そして戦場で弓、槍、剣によって相手を殺して結果を確定させる。
最速の移動手段は馬。
この国全てで同じように戦っている。
イルヘルミの戦い方を確認できなかったのは残念だ。
が、こうやって戦乱が加速した以上ビビアナ、マリオ、トーク、どれかが戦うはず。
その時に確認できるだろう。
少し違ったのはスキト家か。
兵の二割が獣人だったし、近くの街から羊を買って放牧をしていた。
かなりオウランさん達に近い生活文化を持っている。
その分野蛮だとマリオから嫌われて、間にイルヘルミの陣営が置かれていたな。
帰ったらオウランさんが置いて行った護衛長さんへスキト家について確認しておくとして……。
所詮その程度の差。
今日の戦いで、一度も爆発音や異音は聞こえなかったし、特殊な装備、戦法をレイブン、ラスティル、リディアが発見した様子はない。
この国に領主の下で働き、世の流れに干渉している私と同じ立場の人間は真田の他に居ないと見ていいだろう。
勿論継続的に調べ続けはするがね。
真田も剣で戦っていた様子……つまりその程度が武器。
加えて軍議、それ以外の場においてこの戦いに関した話し合いしか持たれていない。
多くの諸侯自身が集まるこれ程の機会にそれだけ。
つまりは……誰も、そう、この国において誰一人私に、私が落とした石の波紋に気付いてないのだ。
……笑いの衝動で腹筋が痛くなってくるな。
ま、当然か。
目の前に剣が迫っていて、自分も剣を振るっているというのに、遥か遠くで穴を掘ってる人間を見ようとする奴は居ない。
この戦乱、誰もが目の前にある問題を何とかするだけで必死になる期間が十年、二十年と続くはず。
口がつり上がっていく。ああ、得難い高揚感を感じる。
今は大丈夫だ。覆面が全てを隠してくれる。リディアだって気付きようがない。
勝った……勝率は現状で九割。
私は所詮石ころ程度の存在。波紋しか起こせない。残り一割を埋めるのは不可能だろう。
第一私の考えは、世界が明らかに違う以上八つ当たりに等しく不確定要素に塗れてる。
だけども、人は人だった。全ての確認が今日終わった。
ドイツ人が浪費と無秩序を好むようになり、アメリカ人が謙虚になり、中国人が利他的になる程の変化が起こらない限り! 私の計略は実る!
ふむ……である以上、自分の命と楽しみを最優先させるならば身を低くし、静かにしているのも手かね。
カルマの配下として忠節を尽くす、とか。
まさかだな。
命の危険があろうとも、1パーセントでも負ける確率を削るべきだ。
加えて勝つにしても勝ち方という物がある。
私の寿命はどれだけ頑張ろうとも後六十年程度。
早く勝てれば勝てる程いいに決まってる。
邪魔となるのは……この連合軍の発起人かもしれないとリディアが言っていたイルヘルミ・ローエン。
イルヘルミは形振り構わない人間、つまり変革者と見た。
力を得させては面倒が増える。
それにケイという国の力を軽く見てはなるまい。
この国は周辺諸国より文化的に五百年進んでる。
オウランさん達なんて千年前から殆ど生活が変わってないと聞いたしな。
その分蓄えられた知恵もあるはず。
しかもイルヘルミと軍師カガエはその国で生まれ育った天下で一二を争う知恵者、警戒すべきだ。
更にテリカ・ニイテ。
あいつはとんでもない良将らしい。
その上、奴の本領は長江周辺での船を使った戦いだと聞く。
水上戦は不味い。
私の素人知識でも船酔い、風の掴み方、水の流れ。
知識と訓練が必要な特殊技能だ。
そんな物の専門家とまともに戦えばどれだけ面倒か……。
今はマリオに抑えられて自由が利かないが、もしも独立して兵の鍛錬から何から全ての縛りがなくなったら……圧倒的多数の兵で少数の水軍のプロに挑んで負けた曹操の役に私がなりかねん。
何とかして足を引っ張りたい所だが……難しいな。
領地が余りに遠く手が出せない。
黄河を挟んでる上に直線距離で数百キロ……カルマ、上手く行ったとしてビビアナをどう使おうが干渉できん。
機会を待つしかあるまい。
そしてやはり真田総一郎が最大……いや、唯一の敵。
現代日本人ってだけでも危険極まりないというのに、基礎スペックが想像を遥かに超えてやがった。
全てが私の都合通りに行って今の真田領に留まってくれれば、この戦が終わった後二年以内に殺せるはずだが……。
殺すのが無理でも何とかして足を引っ張り邪魔をし、力を削らなければいけない。
真田を直接見て確信した有り難い情報もある。
それは今目の前にある領主という仕事へ集中してるという事だ。
現代日本人が、戦乱の世に落ちるも領主となって美人の臣下を持ち、万の兵を率いていればそれに夢中になるのも当然かな?
リアル信長の野望、いや三国志。しかも美人付き。
千年以上進んだ知識でもって尊敬され覇を唱える……まぁ、私も日本に居た頃妄想した記憶はあるな。
だが現実に起こってみると……。
小さい、愚かしい、考えが足りない。
向こうで何年生きて来たんだお前? 生きてた時代は奴が作った服装からして二十世紀末以降だってのに……。
聞くには聞くが、決してその意味を悟らず、見るには見るが決して見なかった奴め。
お前の全てに大した物だと感心するが、それ以上に殺したくてたまらなくなる。
今のままならば恐らく問題無いが、私の情報を与えると不味いな。
この世界で只一人、あいつだけは私の目的に気付き得るだろう。
準備中に邪魔されては非常に困る……。
あ。
忘れてた……ラスティルさんがその真田と酒を飲むのを楽しみにしてるのだった。
……改めてやべぇ。
人的魅力で負けてそうなだけじゃない。
今日あいつは最前線で戦ってた……つまり相性でもこれ以上無い程負けてる。
ラスティルさんみたいな前線で槍を振るう戦士が、最前線で戦うアレクサンドロス大王と、裏でゴチャゴチャやるだけの松永久秀のどっちに惹かれるかって話だ。
は……話にならん……。
飲み会で話が盛り上がり口が滑っても、それ所か私の下を出て向こうに付こうが当然にしか思えん。
……これ以上無い程ウキウキしてた気分が、急転直下したわ……。
次の日から大変な仕事が始まった。
アグラは明け方ソラの街を出てランドへ馬で数時間分移動した後、警戒しつつ陣を敷き始めた。
一方こちらはソラの街を占拠した。
よーするに死体の埋葬がこちらの仕事となったのだ。
使者が来て、あちらの兵も同じように埋葬してくれるのならば攻めないと言ったらしいので襲われる心配はしないでいい。
だけども合計で二万人以上の死体を埋葬しなくちゃならん。
お陰で私も腕が上がらなくなるまで土を掘り続ける羽目になった。
その後も兵糧拠点の移動、傷病者を後方に送る等々の戦後処理が大量にあり、二週間以上の間それはもう忙しく働き続けた。
戦って傷付いた仲間を放置したら兵だってこれが自分の将来かと思い戦う気がゼロになるから、非常に重要な仕事である。
この間アグラも攻めてこなかったのは、向こうも同じような仕事で忙しかったのだと思う。
そんな戦後処理が一段落した日、ラスティルさんが私の元にやってきた。
「ダイ、これからサナダ殿の所で軽く鍛錬した後、酒を飲もうという話が来た。行って来ても良いか?」
ウボァー。
ついに来たか。
覚悟しておいてよかった……何度もした口止めを又してしまう所だった。
「勿論どうぞ。私の受け取り分であるお酒が飲まないので溜まってます。それを手土産としてください」
「おお、それは有り難い。では、日が変わらぬ内には帰る」
「分かりました。楽しんできてください」
……ウッキウキですね。
はぁ……こっちは必死こいて笑顔を作ってたってのに。
「ダイ、願いがある」
うんあ? 今ちっとばかし余裕ねーんですけど。
「某もサナダ殿の酒宴に参加したいのだ。ロクサーネ殿に会ってみたい。許可してくれぬか?」
あんたもかい。
本当にロクサーネが気に入ったんすね……。
しかし、私の許可を求めるのはなん……ああ、そーいや一応私の命令を聞くって話になってたな。
「どうぞ行ってらっしゃいませ。手土産もレイブンさんの分増やしておきますね」
「おお。話せるではないか。感謝するぞ」
「但し! 酔った勢いで、私、リーアさん、アイラさんについて話をしてはいけません。こっちに来る道中で散々お教えしましたからね? うっかりという言い訳は聞きませんよ。もしも破ったら、今後ここに居る間一滴の酒も飲めなくなりますから」
失言をしたら、ラスティルさんが教えてくれるって信じてる。
……向こうに行っちゃうとしても、最後にその程度は教えてくれるって信じてる……。
「お、脅さないでくれ。決して情報を漏らしたりはしないとも。後数か月続きそうなこの戦いで断酒など御免被るしな」
「でしたら結構。お二人で楽しんできてください」
私の言葉を聞くと、レイブンもラスティルさんと同様ウッキウキな様子で去っていった。
皆飲み会好きだねぇ。
娯楽が他に全然ないからってのは分かる。
しかし酒を飲む位だったら、こっちに来て勉強した碁でも打ってた方がマシっすわ。
性格だの今の感情だのを読んできそうなリディアとは絶対にしないので、此処ではラスティルさんしか相手が居ないのだけども。
はぁ……今夜は心配で眠れなくなりそうだ。