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観戦

 甘言を弄し、何も知らない人たち数千人を長期間働かせてやっと手に入れたプラチナチケット試合当日である。

 良心は全く痛まない。

 だってカルマたちに必要なのも間違いないもんね。

 私の最大の動機は尽力した人たちに全く関係ないけども。


 眼下にはソラの街と、その前で睨み合う十五万を超える人々がよく見える。

 昨日までに観戦場所を探し、邪魔な木を切り倒し場所を整えた甲斐があったというもの。

 隣にはリディア、レイブン、ラスティルさんの三人が居る。

 レイブン配下の兵糧護衛隊の皆さんに、テリカから要請があった兵士達への水分補給任務を丸投げして私たちはここに居るのだ。

 私らマジ支配者階級。


 ここ一週間以上、テリカは万策を尽くしてアグラ軍を引き出そうとしたけども効果が出ず、三日前にマリオの文が届くと正面決戦が決定された。

 その文をレイブンが補給任務の一貫として届けることになったので、私も野次馬根性バリバリで見に行ったわけだが……。

 テリカは木簡を受け取り一読すると、一瞬上に持ち上げたんだよな。

 それに強く握り過ぎたのかパキッという音が手元からした。

 多分、木簡を地面に投げつけようとしたんだろう。それ位この状態になりたくなかったっぽい。

 時代、世界が変わろうともスポンサーには逆らえないってこったな。

 テリカの気持ちも分かるが、毎月十万近い人間の食事を用意するマリオもそりゃせっつくわと私は思ってる。


 さて快適に観戦する為に火を起こしてる間に戦が始まった。

 うむ。マジ酷い。

 金髪の小僧なら『何と無様な! これでは単なる消耗戦ではないか!』とのたまう所だなこれ。

 しかもアグラの方が常に押している。

 こりゃテリカもやりたくなかった訳だわ。


「これは……思ってたよりも厳しい。ここまで兵の動きがばらばらだと下手に指揮も出来ん。何処で不備が出るか分からんぞ。それにビビアナの軍がここまで強いとは。……負けるか?」


「いや、拙者が見るにこの状態はテリカの想定内であろう。だからこそ予備兵力を多めに用意しているし、陣が守備的。流石フォウティ殿の娘だ」


「確かに。しかし厳しい。アグラの方は街を背にしており、傷病者を直ぐに運び込める。兵たちが安心して勇猛に戦えましょう」


 そーなのかー。

 と、思いつつ皆の分お茶をいれて渡す。

 本日この四人の昼食、軽食の用意は私がするのだ。


 と、こ、ろ、で、真田は何処かな。

 あ、白地に紫で縁取って、赤い六文銭が描かれている旗があった。

 ……ぬぅ。此処から見ても一番安定してやがる。陣が全く動いてない。

 チッ。崩れてアグラの軍に蹂躙されるのをちょっぴり期待してたが無理そうだ。

 真田も居るとは思うのだけど、流石に個人の動きは全く見えん。

 ……流れ矢がプスッとなったりするよう祈っておこう。


 てな感じで皆で歓談しつつ、茶を飲み、昼食を食べてる間も戦いはずっと続き、更に続いた。

 皆さん携帯出来る食い物で食事はしてるだろうけど、ありゃ腹減ってそう。

 それに匂って来た……。大小垂れ流しか……つ、つれー。

 所で、眼前の部隊の中に一つ私たち並みに動いてない人達がいるんですが。


「サポナの騎馬隊がずっと動かないのですけど……どなたか理由を教えて頂けませんか?」


「ダイ……お前以外皆分かってるぞ。今回は少し難しいかもしれないが、もう少し軍略を学ぶべきだ」


「うむ。我が主であればこの程度は理解して欲しい所ではある。ま、おいおいの成長を願うとして、今回は拙者がお教えしよう。

 まず、サポナ殿の方が騎兵の数が少ない可能性が高い。先に動いて相手の騎兵から横腹を突かれれば致命傷を受けよう。そしてアグラと向こうの騎兵隊が全く出て来ないのは、こちらの疲労を待っているのだ。疲れて弱ってる所を精兵で崩し、其処から全軍を崩すのは兵法の基本。夕刻になって戦の終わり際まではこのままと見た」


「ははー、そうなのですか。有難うございますラスティルさん。精進致します」


 ラスティルさんの説明に、レイブンも同意の表情だ。

 リディアの表情は……まぁいいや。

 そして戦いは、説明通り全く動かなかった。

 但し、動かないのは全体の状態だけで……。


「……おお、左翼が崩れた瞬間、丁度テリカの予備が間に入ったぞ……将はカーネルか。素晴らしい。これで何度目だ? 兵の動きをこれ程掴むとはテリカ殿の将器、天下有数か。あの若さでこれ程とは、将来どれ程になるのか」


「テリカ殿も良いが、配下の将も素晴らしいと拙者は思う。テリカの意を組み、少数でもよく耐え、目の前の敵や功に惑わされず後方の陣が再編成されればサッと引く。中々出来ることではあるまい。特にカーネルは陣頭に立って相手を押し返したのを度々見たぞ。南部最強と言われるだけはある。あれ程の将が、マリオの客将でしかないテリカの元に居るとは……やはりテリカの将器に惹かれたのだろうか?」


 という風にポロポロ崩れる連合軍を、テリカの予備部隊がサッと駆けつけて支えてるのよね。

 見てるだけならチョロイけど、やろうとすればかなり前に崩れるのを察知しないといけないし、相当大変なんじゃなかろうか?

 だからこそ二人がこんなに感心してるのだと思う。


 ……つーか、二人ともカーネル個人なんてよー見えますね。

 私には見えんぞ。


「そうでしょう。マリオが少ない領地しか与えず、多くの兵を持たせたがらないのも当然ですな。テリカの能力、良将、後は兵があれば独立し、領地を広げられましょう。それでも眼前の戦いは厳しいの一言ですが。……レイブン殿、今でも指をくわえて見るだけでなく、参戦したかったとお思いで?」


 あ、嫌らしいお言葉。


「ぬぐっ……。数か月前のことを……。分かった。某が悪かった。考え無しであったと反省しておる。今回連れて来れた程度の寡兵で参戦するなど考えたくもない。リーア殿、このような戦いになると分かっておられたのか?」


「ビビアナが自領より連れて来るのが精兵であろう事と、連合軍は如何な大将にしようとも纏めきれず単純にしか動けぬであろう事は分かっておりました。しかし(わたくし)の予想では此処で一度連合側が負け、兵の補給をして持久戦となるのを予想していたのですが……テリカの将器が想定以上。引き分けるかもしれません。その分戦いが想定よりも酷い。参戦せず正解でしたな。しかしラスティル殿であれば、自らの槍で友を助けたい思いに耐えておいででは?」


 あ、それ思ってそう。

 辛い環境だからこそ助けたい的なアレ。


「流石に拙者を見くびり過ぎだ。彼らは自分でこの戦に身を投じている。他の軍に居る拙者が助けては筋が通らぬ。このラスティル、そのように情で動きはせん。武人であれば当然であろう」


「しかし先日サポナ殿について策を求めた時は、情によって動いたように見受けられましたが?」


 リディアがそういうと、ラスティルさんの顔は瞬間湯沸かし器となった。

 だよねー。めっちゃ情で動いてましたよねー。


「……あれ、は、戦が始まる前で気が緩んで……いや、拙者が人物を良く知る彼女であれば、何時か我らの力となる時も……。……。すまん。拙者の覚悟が足らなかった。以後武人として恥ずかしい所を見せぬよう気を付ける。どうか容赦してくれリーア殿」


「いいえ。お許しいただきたいのは(わたくし)の方です。特に意味もなく戯れてしまいました。貴方の恥ずかしがる顔が見たかったので、つい」


「……リーアには敵わんな。拙者、自分より年少の者に此処まで転がされたのは初めてだ」


「……そなたら、やたらと仲が良いのだな……。しかしダイ、お前どうやってこの難物の主君となったのだ? 近頃その一事のみでお前が人物なのではと思えて来たのだが」


「すみません。その質問はどうかリーアさんにしてください」


 私も日々不思議が降り積もってるんでね。

 なんて会話をしてる内に夕方となり、お互いが兵を引き始めた時、ラスティルさんの説明通りアグラ率いる騎兵隊が突撃を開始した。


「流石ラスティルさん、お話通りになりました。敬服です」


「知勇兼備のいい女であれば当然よ。しかし……これは止まらぬな。サポナ殿も横から削るのが限界であるし……テリカ殿もあらん限りの手を尽くしたが大敗か? ……む? アグラの前に一騎……あれは、ロクサーネ殿か!」


 何?

 あの金髪を長く伸ばした奴が真田の配下、ユリアの義妹だと。

 あ、アグラの方も先頭が一騎飛び出してきた。

 ……兵を置いてけぼりにして凄い速度で走ってる……もしかして大将のアグラ?

 一騎駆けなんてアホなの?

 ロクサーネとアグラらしき人物の馬がぶつかった、と思ったら首が飛んだ!?


「「うおおおおおおおお!!!!」」

「うええええええええぃ!? え? アグラ死んだ?」

「これは中々」


 え、ビビアナの総大将が今ので死んだの?

 ロクサーネなんて、ここに居る人間の九割は知らないだろうに大将首取っちゃうの?

 ユリアの義妹……関羽? 関羽だから華雄の首を取って華々しくデビューするという歴史の必然?

 いやいや、ねーから。あれ演義(ラノベ)の創作だから。


 と自分で自分に突っ込むほど混乱していると、馬が急激に止まった為に吹っ飛んで転げていたアグラが槍らしきものを杖にして起き上がった。

 あ、飛んだの馬の首か……おっでれーた。


 ロクサーネの方は吹っ飛んだアグラには一瞥もくれず、アグラの騎兵隊を見たまま偃月刀を一回転させ、柄を地面に打ち付け……た?


 ……は? こいつなんで戦場で劇みたいに大見え切ってんの?

 あんたの目の前にいる騎馬の群れ、加速してますよ?


 ロクサーネは私より三秒遅れて事態に気付いたようで、大慌てで馬首を返し必死になって後方で陣を整えつつある歩兵たちに向かって逃げてる。

 あ、兵たちの笑い声が此処まで聞こえてきた……笑いを提供したお陰か、陣の隙間に受け入れて貰えてる。

 

「お、おい! 今の見たか!? 見ただろ!? あのお人はロクサーネというのかラスティル?」


「う、うむ。サナダ殿配下第一の将だ」


「そうか……ロクサーネ殿というのか……輝く金の髪が、偃月刀と一緒に弧を描いて……美しかった……。アグラを一太刀で馬から叩き落す武力……惚れた」


 ……。

 私、産まれて初めて人が人に恋する瞬間を見てしまいました。

 ……マジっす? でも、鍛えられた首と、その上のイケメンフェイスが赤いっス。

 Realか?


「はい……凄かったですね? ただ、その後理解不能の見栄を切って醜態をさらしてましたが」


「何よりも、数千の鉄騎兵が自分に向かって突撃して来るというのに全く怯えを見せない胆力、体に痺れが走った……。どんなお人なのだろうか。話してみたい……」


「確かに凄い勇気だと思います。その後兵たちに大笑いされてましたけど……」


「なぁ、ダイよ」


「はい、何でしょうか?」


「某が感動しているのを邪魔しないでくれ。どうしてお前はそうひねくれているのだ」


 感動も分かるが、アホその物でもあったと思うでよ?

 アグラを叩き落した瞬間Youと一緒に両手を振り上げて叫んだラスティルさんも、十秒後には頭を抱えてたし。


「はい。すみません」


「何にせよ、これでロクサーネとやらは名を上げました。その主君であるサナダも。しかし右翼を守っていたサナダの主将が、危機の瞬間左翼に居るとは……。サナダの陣営には中々の人物が居る。あれ程の危険を請け負うロクサーネと命ずるサナダも中々……。男爵風情と侮れませぬな」


 ……そうなるのか。

 先を読んで手を打つ……先日会った二人の軍師か?

 マジで人材に恵まれてやがる。しかも美味しい所取りしやがった。

 戦いも終わったな……何とか引き分けた感じか。


 ふーむ……。最後の最後に不快極まる場面があったけども全体としては……。

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