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フェニガと意気投合

「それだけじゃない、これだけ名を上げたんだ。さぞ多くの才人、名士がカルマ様の元へ仕官しに来てるだろうさ。小職でも知ってそうな人だったら誰になる?」


 ふーむ、こんな質問をしてくるってのはそれだけ人材を得てるのが大事っこったろうな。

 しかし私は新しい人材を得る気が欠片もないものだから、全然名前を覚えてないんだよね。

 せっかくこれからあちこちの陣営に行けるんだし、誰の元に誰が仕えてるか兵士達に聞いて纏め、リディアに届け出るとしよう。

 ただ、名士が来てるんでしょと言われても……。


「いいえ。以前国中に広まった悪評がまだ影響しているらしく、特に誰かが来たという話は聞いた記憶が御座いません。領地が広まった以上、新しく雇った人も居るのでしょうが、一官吏の身では自分の周りしか把握できませんので……」


 加えてグレースをずっと悩ませた、辺境で人が来てくれないという条件は変わってない。

 グレースが男だったら三十でハゲ散らかしてたと思う。

 私みた……いや、なんでもない。

 彼女の横に居ると地味な仕事ばっかりだった蕭何(しょか)を、中国を統一した劉邦が数多いる目立った人たちを差し置いて一番の功績としたのも当然だったのだなぁとシミジーミ感じる。

 私も一応手伝ってはいるけど、正に猫の手程度。

 それでも有り難いらしい……。


 しっかし、この顔を隠す服は本当に妙手だった。

 数か月前の私は間違いなく天才だ。

 まさか真田の軍師にタッグを組まれて尋問されようとは。

 表情の情報を全く受け取らせないのはビッグですよ。


 ただ、そろそろ我慢ならん。

 最初からずっと気になって仕方がなかった事がある。

 それはセキメイ軍師の服と……。


「あの、所でセキメイ様。その服装と手にお持ちの物は何でしょうか。真田軍の方は皆さま特異な恰好をなさってますが、セキメイ様の物はその中でも雰囲気が違うようにお見受けしたのですが……」


 具体的には、白を基調とした長い長衣を帯で締めた服と……。


「あ、これです? どうですか? カッコイイです?」


 そう言って彼女が一振りして決めポーズを取った手にある物、『羽で作られた扇』である。

 ……誰が彼女に渡したかは分かっている。

 というか、今の動きは昔見た。私の目には彼女の後ろで突然波がバッシャーンとなったように見えたほどだ。

 つまり、今の決めポーズも……。

 しかし、それでも突っ込まずにはいられない。

 だがお嬢さんや、何故突然顔がニヤ崩れた?

 フェニガ君も顔が……('A`)となっている。

 なんでだ。


「はい……。大変お似合いで」


「そうでしょう♪ これは軍を指揮する時使っている羽扇(うせん)です。我が軍の特異な服はみなサナダ様が考えた物ですが、私の格好と羽扇はご主君が特に私の為と言って作って下さったんですよ♪ こう、手ずから渡して下さって『セキメイ、君にこれを受け取って欲しい。俺が知る史上最高の軍師が着ていた服と道具だ。君にその人と同じ、いやそれ以上の人物となって俺を助けてほしい。君ならきっとこの願い、叶えてくれると信じてるよ』って……そう、あの美しいお顔よりも更に美しく燃える瞳で真っすぐ見て仰って……」


 そう、自分の顔を1800年くらい経てばレーザーが出そうな扇で隠しつつ仰る美女軍師さん。

 なるほど。フェニガ君が('A`)となるわけだ。

 独身男がする顔は時代も世界も文化も跨ぐって訳だな。


 何が美しく燃える、だ。萌えるの間違いじゃねーのか。

 クソ真田ああああ! このファッキンミーハー野郎!

 自分の軍師に孔明のコスプレさせてるだけじゃねーか!

 気持ちは分かるがやりたい放題だなテメー!

 しかも夢見る少女の泥い惚気を突然聞かされる羽目になったぞ。

 マジよぉ……。


「めんどくせぇ……セキメイ、サナダ様風に言うとウゼェぞ」

「はい……全くで」


「なっ!? 同僚だけじゃなく他軍の人にまで……」


 ぬごっ。隣から内心と全く同じ言葉を聞かされて、つい同意してしまった。

 しかし、しゃーない。彼の言葉も魂からの言葉だと感じたのだから。

 隣を見るとフェニガが私をジッと見ていた。

 ……こいつ、やはり……。

 私の右手が伸びる。フェニガの右手も伸びてくる。

 固く手を握り合う。


「……分かってくれるのかあんた。セキメイのこの話を聞くの、小職は三十五回目でさ……。流石にな?」


「私も男です。そうですか……ご苦労なされたのですね」


「ちょ、ちょっと! 聞かれたから答えただけですのに、どうしてわたしが悪いみたいになってるですか!」


「いや、惚気ろとは言ってねーだろ」


「はい、全くで」


「……だからって男二人で組んで女一人を悪役にするなんて酷いです」


 知らんがな。腐っちまえ。

 私は何も答えず、フェニガ君もセキメイの方を無視して私を見てる。

 私にはわかる。同士の発見を喜んでるのだ。

 何時の世も、我等は哀しみを背負うものなのだな……。


「……真田様は、非常に美しい方だと聞いております。フェニガ様の哀しみ、お察しいたします」


「哀しみ……あんた……本当に分かってんだな。いや、サナダ様に文句は無いんだ。あの人は素晴らしい君主。あんたが注目してた手押し車を考え出す素晴らしい知識に加え、将を纏められる帥の器を持っている。なぁセキメイ」


 そうフェニガが言うと、一瞬前まで不満顔をしていたセキメイが急に明るい顔になった。

 クソが。


「はいっ。まず我らの意見を素直に受け入れられます。それにあの方ほど違う立場の人間に分け隔てなく接する人物は見た事がありませんです。加えて、ここに居る兵たちの様子を見てください。他の何処よりも明るいと思われませんか?」


「はい。それは私も不思議に思っておりました」


「これは我等の副領主ユリア・ケイ様、あ、副領主というのはサナダ様が作った地位で、公にユリア様が二番目の地位にあると示されたんですね。そのユリア様が兵達を親しく慰撫するからなのです。ユリア様も稀に見る帥の器をお持ちで、兵と領民から大変慕われておられます。普通の領主でしたら自分よりも人に慕われる臣下には嫉妬し、危険視するでしょう。しかもユリア様は将を統べる器さえお持ちです。されど主様はそんな様子を一瞬たりとも見せたことがありません。正に帥の器と言うべき大器をお持ちなんですよ♪」


 と私に言い募る様子は正に恋する乙女。

 ……真田、お前本当に私と同じ日本人なのか?

 戦乱の世に落ちて来て、領主となりこんな美少女に恋されてるだと?

 あ、ユリアって奴だってどう見ても惚れてた……。


 どーいう人間力の差だこれ……。

 いや、私もリディア、ラスティル、アイラとやたら美人さんと縁はありますけどね……。

 関係自体はあくまで職場の同僚に近い。

 ……まずい、冷静になれ。嫉妬は行動を狂わせる。


「……結局惚気てんじゃねーか。だが、本当ではあるぜ。此処まで下の人間にとって良い領主なんてありえねぇ。小職だって心からの忠誠を誓ってる」


 フェニガ、お前もか。

 なんてこった……真田は我が同士まで完璧に配下としている。

 内部分裂は期待出来そうもないな。

 くそぅ……。


 はぁ……嫉妬の余り変な事を口に出す前に撤退すっか。


「成る程、だからこれ程兵達の雰囲気が良いのですね。お話しくださり有難うございました。では、私は仕事に戻らなくてはなりません。失礼致します」


「お、そうだな。仕事中時間を取って済まなかった。ありがとよ」


 ……帰ろう。

 結果だけを見れば、ここにきて良かった。

 真田の評価がどの程度かは知っておきたかったし、真田がこっちの情報を集めてるのを知る事が出来た。

 後でリディアとレイブンに伝えておくとしよう。

 しかし……不快な時間だったぜ。


「おい。あんたちょっと待ってくれ」


 おう? フェニガ君まだ何か用なのかい。


「はい。何でしょうかフェニガ様」


「単刀直入に言うぜ。将来あんたが困ったら、あるいは小職たちがトーク家よりも大きくなったらでいい。こっちに仕官しないか? あんたとは気が合いそうだ。最低でも中級官吏、あんた次第ではもっと重用するよ」


 なんと。ヘッドハンティングとは予想外だ。


「それは……有難うございます。……率直に申し上げれば、子爵未満の皆様がトーク家より大きくなるとは、大言壮語に聞こえるのですが……自信がおありなので?」


「だろうな。だがあるよ。小生たちは大きくなる。ま、あんたは結果だけを気にしててくれればいいのさ。それで来てもいいと思ったら来てくれ。あんたの声は忘れねぇ。このフェニガ記憶力には自信がある」


 まぁな。真田が持つ飛び抜けた効率を持った道具があればまず確実にそうなるだろう。

 全力で邪魔するつもりだが、今私の手は短い。


「私のような一官吏に勿体ないお言葉、心より感謝いたします。しかし、どうして其処まで買って頂けるのでしょうか?」


「言ったろ? 気が合いそうだって。それにあんた……耳、長いんだろ?」


 ! どうしてわかった。この覆面をしている以上、耳は見えないはずだ。


「どうしてそう思われるのですか?」


「さっき手を握らせて貰ったが、その時あんたがソコソコ鍛えてるのが分かった。小生のように耳が短い官吏は戦場に赴く事が滅多にないから、普通鍛えねぇ。あんたはそれよりは鍛えてる。だからさ」


 握手して分かるってシャーロックかこいつは。

 私も初めて読んだころチョロっとやってみたけど全くできなかったのに。

 ……子供の知恵と知識で出来るわけないんだけども。


「それは……なんともご賢明で。御見それいたしました。しかし、私の耳が長いとしてそれが何か?」


「……へぇ。あんた……いや、何でもない。ほら、小生の耳は短いだろ? 耳が長い奴は例え地位が低くても、必ず侮蔑が出るもんだ。あんた程出さなかった人間は、他にはサナダ様しか居ないくらいだぜ。そんなあんたと仕事をしたいと思ったのさ」


 ……冷や汗を背中に感じる。

 あっぶねぇ。掠ってやがる。

 産まれが近い事による価値観の近さが出てたかよ。

 ……いや、動揺するな。何がどうなろうとも、私の正体に辿り着く道はない。


「それは……真田様と近いとまで言われるなんて、身に余る光栄で御座います。お言葉、生涯忘れないでしょう。何か困る事があれば頼らせて頂くといたします。感謝しますフェニガ・インザ様」


「ああ。忘れないでくれよ。じゃあな。この戦の間兵糧の補給、しっかりと頼んだ」


「はっ。お任せくださいませ」


 私の答えを聞くと、フェニガは満足そうな笑顔を見せた後背を見せて去っていった。

 その背中が見えなくなるのを、残念に感じる自分が居た。


 ……心から残念だ、フェニガ・インザ。

 私もだ。私もお前を親しく感じた。

 境遇だけじゃなく、言葉の端々に似たような思考を感じもした。

 下級官吏の恰好をした私へ、卑屈に見えるような態度を取るなんてかなり手段を選ばない感じがするよなお前。いいね。大好きだぜ。

 こっちに来てから、もっとも友達になれそうだとさえ思った。

 だが、まぁ、真田に忠義を抱いているのならば、私とは結局交わらない人間だったのだろうけど。

 ……最終的には、民を苦しませたくないと考えるいい人っぽかったから当然か。


 残念だ……。

 お前を殺さなくてはならない。

 真田は、真田の配下は皆殺しだ。性別、年齢、思想、全て区別なく殺す。

 手段も選ばん。いや、選ぶ余裕がない。今日陣地を見てますますそう分かった。


 さようならフェニガ。お前に会う事は二度とないだろう。

 真田と、戦に勝ち、領地を増やし、夢を語り、子供を作り楽しく生きてくれ。

 私が、いや、我が謀略がお前たちを、お前たちが作った物全てを踏み潰し、土に還すその時まで。

 頼ってこいと言ってくれて、共に働きたいと言ってくれて、嬉しかったよ。

 私が殺すまで、幸せにな。

参考資料 ニコ動にて sm1089491 0:45秒あたり

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