表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/215

レイブンの感想

「お誘いは嬉しいのだが……その、某は一軍の将。陣営を離れる訳にはいきませぬ。どうかご容赦願いたい」


「しかしレイブン殿、これからテリカ殿の方へ行ってしまうのであろう? ならば今夜が最後の機会ではないか。是非親交を深めたい。それとも、わたくしが気にくわないか? わたくしの容貌が悪いゆえ、差し向かいで飲むのは嫌だと言われるのであれば諦めよう」


 下手に出てるようで決して『いいえ』と言われない質問をし、其処から引き摺りこもうとしておられる……。

 権力者系のこういうハメ技恐ろしい。

 頑張れレイブン。

 もしも一夜の恋をすることになっても安心しろ、私がきちんとラスティルさんに指揮をお願いしたるから。


「い、いや、そのような事はござらん。イルヘルミ殿の今までの業績、今日そこかしこで見せて頂いた配下を従える魅力、乱世を生きる英傑として敬意を抱いておりまする。それに容姿も、そのお美しい方だと……し、しかしですな。この後マリオ殿の所へ挨拶に行かねばなりませぬし、我が主に任された軍を指揮せねばならのです。お誘いは有り難くありますが、どうかご容赦を……」


 レイブンが汗を流して話す間、イルヘルミは黙って聞いていた。

 そして苦笑を一つ漏らすと


「マリオ殿と主君への忠義を出されては、無理も言えぬな。残念だレイブン殿。そなたのような立派な武将とは、純粋な気持ちでもより親しくなりたかったのだが」


 ……純粋じゃない気持ちもあるって言いやがった。


「……某を高く評価頂き、嬉しく思いまする」


「うむ。また会おうレイブン殿。せめて秘蔵の美酒を届けさせてほしい。そなたのような得難い英傑と出会えた時に飲もうと思っていた物だ。……何か困ったことがあれば、何時でもわたくしを頼ってくれ。酒を飲みつつ天下について語らいあいたい。我が家の門はそなたの為に何時でも開いている。勿論望まれるのであれば、それ以上も、な?」


 ……寝台にも空きスペースがありますよって意味っす?


「は、ははぁ! ご昵懇な言葉を頂き感謝いたしまする」


 そう言ってレイブンは席を立った。

 当然私も一緒に席を立ち、レイブンの後に付き従って歩く。

 イルヘルミは陣営の出口まで名残惜しそうに送ってくれた。

 イルヘルミへ丁寧な礼をして、レイブンは馬に乗り黙ってマリオの陣営に馬を進めはじめる。

 私も黙って付いていく。

 ……もう周りに誰も居ない。そろそろいいかな。


「……いやぁ、流石レイブンさんですね。あのイルヘルミにあれ程まで求められるとは。一人の男として尊敬しました」


「き、貴様……分かってて言っておるな? 某は食われるかと思ったのだぞ……虎に襲われた時を思い出したわ」


「……虎と戦った経験が?」


「兵と共に、な。某が必死になって抑えている間に、弓を射させて何とか仕留めた。それでも死ぬかと思ったものだ」


「はー……本当に凄い人ですねレイブンさんは。ま、イルヘルミに求められたのは、素直に凄いと思いますよ? 彼女は十一歳だったリディアを配下にしようとしたそうです。人を見る目は確かでしょう」


「それは凄まじい……。勿論高い評価を得られたのは誇りに思う。されどお前だってイルヘルミがこちらを獲物のように見ていたのは感じたであろう?」


「……はい。今日楔を打ち込んで、後々カルマさんを攻め滅ぼした時にでも自分の配下にしたいと思ってそうでした」


「そんな所であろうな。結局イルヘルミとしては、カルマ様にビビアナの相手をさせて時を稼げればいいとしか思っていないのであろう。大事な同盟相手と思っていれば、将軍の一人を引き抜こうと思いはすまい」


 ……昔、ドラマでだけど世話になってる公孫賛から趙雲を眼前で引き抜いた劉備っていう鬼が居たような……。

 いや、所詮ドラマだよ。うん……。でも、劉備ってそーいう事しそう……。


「実は配下の人も困っていたような気配がありましたから、衝動的に欲しがってしまった感じもしましたけどねぇ。……この国でも有数の英雄で、見目麗しい侯爵と一晩を過ごせるのは得難い経験じゃないですか? 一晩でしたらラスティルさんに任せてもいいのでは?」


「冗談ではない。一つ繋がりを作ってしまえば、其処から手繰られて抜けられそうもないであろうが。……大体、某はもっと真面目で、苦労をされている中でも強く、されど儚げな人が……」


「それカルマさんじゃないですか。レイブンさんが忠臣なのは知っていましたけど、懸想されてるとは思いませんでした」


「主君として選ぶならば、だ。とはいえ、某を含め我が軍の将兵は皆カルマ様に憧れのような感情を持っているのも事実だが。当然であろう?」


「それはまぁ。下級官吏だった頃の私にも優しく対応してくれた人柄から考えて当然でしょう。……にしてはなんで浮いた噂が無いのでしょうか。夫を病気で亡くして……結構経ってましたよね?」


「五年だ。……何故この程度を把握していない。しかも『なんで』だと? お前の所為ではないか。いや、戦とお立場の変化が激しく婿を探す余裕が無かった方が大きいかもしれん。されどお前が領地の動きに関与しつつ、名を出したくない等と無茶な事を言ったから複雑になってしまい、婿探しにも苦労しておられるのだ」


 ……え。マジっす?

 あれ……確かオウランさんも婿探しに苦労してるって言ってたような。

 ……お、おやぁ? 私知らない内にお一人様製造機になってたの?


「それが本当であるなら、言ってくだされば出来る限りの協力はするのですが……」


「……所詮某の想像だ。まぁ無駄話はもう終わりにするぞ。あの(・・)マリオの陣営が見えて来た」


 あの。と言うだけで、大嫌いだと周りに知らしめるとは……中々やりおる。


「そんなにマリオが嫌いなんですか? いや、私もイケ好かない奴だとは思いますけど」


「マリオとビビアナが最も我等の悪評を流していた。あのような屈辱を味わった事は無い。死を覚悟するような目にあったのだ。憎まずにおられようか」


「それは分かりますけど、今は抑えて頂けません? この戦の結果次第では、マリオと同盟を結ぶ可能性だってあるんです。色んな可能性を残しておきたい。高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に行きましょうよ」


「……分かっている。リーア殿がたてた策の柔軟性を無くすような真似はせぬ」


 あ、あれ。

 アレな台詞で突っ込んでもらって、少し硬くなってる表情を和らげようと思ったのに真面目な返答が来ちゃった。


「高度の柔軟性などと言っても、行き当たりばったりって意味じゃねーかー。と不満を覚えないのですか?」


「何を言ってるのだ? 戦とはそのような物であろうが。何もかも計画通りに行くのは机上だけに決まっている」


「あ、はい……そうですね」


 ……なんか用法を失敗したもよう。

 フォークを使ったつもりだったけど、ちゃんと落ちなかった……恥ずかしい。


 さてマリオの陣営に入り、マリオの所まで案内してもらう。

 そのマリオはと言うと……美人のねーちゃんに酒を注がせてた。

 S H I T.

 やっぱこいつ嫌い。

 真田を追い出さなかったし。


「盟主殿。我等は戦場で何もせず居るのに耐えられぬ。状況に見合った支援をする為テリカ殿の方へ陣営を移したい。許可頂けるだろうか」


 よし。

 一応抑えてる。

 ちょっと皮肉っぽいが偉いぞレイブン。


「殊勝であるな。よかろう。好きにするがよい」


「……では、そのように」


 の会話だけで私たちはマリオの幕舎を出た。

 あっさりだった。

 ま、イルヘルミと違って酒を酌み交わしても、喧嘩にしかならないだろうしね。

 さて帰るか……。


「お待ちくださいレイブン殿~」


 ぬぁ? この微妙にわざとらしさと腹黒さを感じる声は……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ