表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
148/215

イルヘルミとレイブンの飲み会開始

「レイブン殿、何の御用かな?」


「我らの本陣をテリカ殿の方へ移す許可を頂くため参った」


「そうか。確かにこちらの戦況はまず変わるまい。あちらの方がやるべきことも見れる物も多かろうしなぁ?」


「……噂に聞くテリカ殿の戦振りをみたいと思っているのは否定しませぬ」


「いや、揶揄しているのではない。わたくしも許されるなら見に行きたいのだから。しかし……移動してしまう前にレイブン殿とは酒を酌み交わしたいと思っていた。今から用意させよう。ただそれまで暇させるのもなんであるし、音に聞くカルマ殿の筆頭将軍レイブンの技を見せて頂きたい」


 飲むのは決定なのね。

 ま、酒好きレイブンは元から拒否する気無さそうだ。

 しかし技を見せるって、失敗したらかなり恥ずかしくね?

 だってのにレイブンから気負った所は見えない。

 クールな自信をお持ちのようで……。


「……承知した。何を見せればよろしくありましょう」


「辺境の者は非常に馬術が得意と聞くのでそれを。そうだな、騎射はお得意か?」


「どちらかと言えば斬り合いの方が得意でござる。されど人並みには扱えるゆえ、それで宜しければ」


「おお。是非頼もう」


 話が纏まりイルヘルミに連れて行かれたのは、多くの人間が騎射の練習をしてる所だった。

 藁で作られた的が等間隔に置いてあり、何人も同時に流鏑馬(やぶさめ)ってる。

 流鏑馬ゆーても、日本のニュースで見た時よりも的がだいぶ遠い。

 遠いけども……これは……。

 

「皆! 鍛錬を止めよ! レイブン殿が辺境仕込みの馬術を見せてくださる!」


 イルヘルミが呼ぶと、数百人が集まって来た。

 誰もが立派な装備をしてる所を見るに、ある程度上の人間ばかりのようだ。

 騎射なんて超専門的な技術、戦いの鍛錬しかしない騎士の皆さんでなければ練習しないし当然かね。

 ……私もオウランさんの所でちょいと練習したんだけど、馬から落ちそうになって大爆笑されたんだよなぁ……。

 現代日本でも整地して整えられた場所とはいえ、流鏑馬してたし私だって練習したら出来るとは思うんだけど……。

 実戦で使おうと思えば、観光で見た流鏑馬の十倍近い距離で当てないと駄目っぽいんだよね……。


 なんて考えてる間に、レイブンはジニ……の男性版みたいな、優しそうな男性から弓矢を渡され馬に乗って準備を整えていた。

 それを見た将兵たちがざわめいている。

 彼らがしている会話は、自分たちの練習距離より二倍近く的から離れてるとか、見栄を張ろうとしてるとかそんな内容だ。

 でもこの距離がレイブンにとって何時も練習してる距離なんだわ。

 ま、私は成功率を上げる為に彼らと同じ距離でやればいーのにとは思うのだけども。


 馬が走り出し、レイブンが三本の矢を同時に右手で抜いて、矢継ぎ早に放つ。

 おー。全部当てたぞ。

 イルヘルミの兵達が喝采を上げてレイブンを称え、レイブンが大したことでは無いとばかりにクールな表情のまま片手を上げて応えている。

 でも、ワイ知ってる。今の技をすると、一本外れる確率が三割あるって。

 今そーとーホッとしてるべや。


 アイラさんだとさらに遠くから99パー当てるけども。

 あれは狂ってる。しかも矢がレイブンより明らかに深く刺さってるし。

 それを見て、つい二本同時射ちなんて出来る? って聞いてしまったのは失敗だったのぅ。

『僕も子供の頃出来ないかなっておもったけど……狙った所に全く飛ばなかったよ。ダンは変な所で子供みたいだね』と返されてしまい、赤っ恥をかいたのだ。


 いやぁ、冷静に考えれば分かるよね……物理法則的に狙った所へ飛ばせる訳がない。

 お、オデ悪くない。

 子供だった私にファイアーの鳥って漫画で、三本同時射ちなんて物を見せた手塚って人が悪い。

 ま、何にせよ面目を保てて良かったねレイブンや。

 イルヘルミもやたら良い笑顔だ。

 ……うん? 何故かさっきの男性がイルヘルミを見て頭を抱えてる……なんで?


「レイブン殿! 素晴らしい技を見せてもらった。何時もこの距離で修練しているのかね?」


「お褒めの言葉有り難く頂戴するイルヘルミ殿。仰る通り我が軍ではこの距離で修練しております」


「何故? 何処の軍でも我らと同じように修練している物と思ったが」


「我らが相手をしてきた獣人どもは、更に離れた所から矢を放ってきまする。奴らの矢じりは青銅や動物の骨が基本のため軽く、当たっても鎧を貫かれ難い。されどその分よく飛ぶ。当然奴らが逃げる際にはその距離より近寄って来ない為、我等は遠くの的に当てる修練が必要だったのです」


 矢じりが青銅の原因である、鉄が手に入らないという問題解決には中々苦労した。

 遊牧生活してて、鉄を溶かすような高温の炉を運べる訳ないから当然だぁな。

 お茶を売った金で少量の鉄を手に入れてたみたいだけど、獣人だと足元見られてたみたいだし。

 それでも極稀にしかこない羊毛などと交換しに来る商人を待たず、自分たちで金銭を持って買いに行ける分安くなって大違いと喜んでいたっけか。

 ま、そろそろ事情が変わってるんじゃないかな?


 支配地域が広がって、鉄鉱石が在る場所を見つけられたのが一つ。

 加えて鉄の職人を誘拐……いや、地元で問題起こしてゴタってそうな人を選んで自分たちの元へ招待し、厚遇して鉄を作ってもらえと入れ知恵した結果が出た。らしい。

 官吏だの貴族だのに無茶振りされて死にそうになってる奴がどっかに居るだろ。と、言って何年も探させてたんよ。

 ……水滸伝みたいだな。

 あっちは態々トラブルを作り上げて酷い目に合わせ、選択肢を奪ってから招待をするという外道っぷりだったけど。

 ……どうしても居なければ誘拐しちまえって話だったが、なんとか自分から草原に行きたがる人が居たようで、一安心だったぜ。

 職人に無理強いすると色々不都合が出そうだったからねぇ……。

 

 しかし、そうか……多くの場所で騎射の練習距離は短かったのか。

 これは良い話を聞いた。


「聞いたか皆の者! 我らより遥かに修練している者たちがこの世には居るのだ! 我が軍の中で優れているだけで満足せず、今見たレイブン殿の技を越えられるように努力せよ! よいな!」


『ははぁっ!!』


 自分の言葉に気合の入った声で応える兵たちを見て、イルヘルミは満足したご様子。

 馬に乗ると、レイブンを促し自ら宴会場まで案内してくれた。


 一緒に参加するのは三人。

 リディアの家で会った緑色の髪の姉弟と、センスの良い刺繍があしらってある服を着たやたら出来る感じの男性だ。


 ……む? なんか香水の匂いが……あ、出来る感じの人からか。

 なんだこいつ、戦場で香水付けるってどんだけ御洒落に余念がないんねん。

 服も髪型も何もかもバッチリ決まってる所からして、さぞ名高いお貴族様なんだろーなー。

 姿勢は常に真っすぐで、何をしていても頭がぶれず動作がゆっくりとしている。

 其処かしこから気品と、ダイヤモンド並みの自信を感じる。

 あからさまにホワイトカラーの気配を漂わせてる所を見るに、軍師か。


 宴会場では私にまで末席……というか誰の視界も入らないような場所だけども、席が用意してあった。

 有り難くイルヘルミたちがお互いの領地について情報交換するのを聞きながら、ご相伴に預かる。

 あ、この肉はイノシシだ。美味い。


「いや、素晴らしい技を見せてもらったレイブン殿。改めて感謝する。あのような距離で三連射を正確に的へ当てるなど、我が軍の将軍でも出来る者が居るか分からぬほどだぞ」


「お言葉有り難く。しかし、正直に申しますと幾らか運にも恵まれもうした。使い慣れた弓であっても、三射成功せぬことが多いのです。慣れてない弓では四割成功するかどうか。某の役割はあくまで鉄騎兵を率いての突撃ゆえ、乗馬と馬上での戦いに比べると弓は少々不慣れでござるので」


 おや正直。

 そしてイルヘルミの笑みがまた深くなった……。

 美人さんが、凄く嬉しそうな笑顔を見せてるのだけど……何故か凄く怖い。


 怖いイルヘルミが口を開こうとした。

 しかしそれよりも先に緑色の兄さんが口を開いた。


「なんだ貴様、それは騎射で劣る俺たちより鉄騎将としてもすぐれていると言っているのか? 何を根拠にしてそんな妄言を吐いている」


 ……兄さん、宴会の時は上役の様子を常に見てないと怒られるよ?

 二十一世紀の日本でも、部長が参加すると皆全く食べないでひたすら部長の話に相槌を打つ準備していたってのに。

 専制君主制の此処では下手すると首飛ぶんじゃないけ?

 いや、会社と君主によるとは思いますけども……。


「そんな考えは無かったが……あえて言えばそうであろう。馬に乗っての戦いであれば、我ら辺境の人間が中央の者たちに負けるとは思えん。獣人どもは、三歳になれば馬に乗り出す。当然我等の馬術を磨く必要はお主たちと段違いなのだから」


「よく言った貴様。表に出ろ。その自信が嘘か誠か俺が試してやる!」


 え、ちょ。あんた、イルヘルミの顔めっちゃ潰してませんかね?


「断る。そなたのように熱くなった人間と勝負をすればどちらかが大きな怪我をしかねん。……あーすまぬが、そなたの名は何と言うのか教えてくれぬか?」


「ゼド・ジョリスだ! 何が怪我か。貴様臆したか!」


「やめよゼド! 客人に対して失礼であるぞ!」


「し、しかしイルヘルミ様。武将たる者、己より優れていると言われて黙ってはいられませぬ!」


「黙れと言っておる。すまぬなレイブン殿。この者生まれついての粗忽者。どうかわたくしの顔を立てて許して欲しい」


「いえ、イルヘルミ殿にそこまで言って頂くほどでは。それにゼド殿の言葉も当然でありましょう。主が他領の将軍を褒めていては、機嫌も悪くなろうという物」


「なっ!? き、きさっ!」


「おお……。レイブン殿は誠賢明であられるな。明察であるぞ。この者忠臣なのだが、どうもわたくしを好き過ぎてな? 魅力ある領主にも相応の苦労があるというわけだ」


「は、……ははっ。仰る通りで……。まぁゼド殿、騎馬に関しては環境が余りに違うのだ。辺境は何もかもが遠方にある為、少しでも余裕がある家は馬を持ち幼少の頃より乗馬を始める。騎馬に関して中央の人間より優秀なのは当然であろう?

 だからと言ってそちらを下に見て居ないのは知って欲しい。歩兵と弓兵に関しては全く敵わぬ。某たちはコルノの乱でイルヘルミ殿に助けられたのも忘れてはおらぬぞ。あの時見た歩兵の強さは素晴らしかった」


 あらまーこの人社交性あるのね……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ