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イルヘルミ陣営への挨拶

 軍議の次の日から、軍を分け進軍する為の準備が始まった。

 マリオの所から兵糧管理関係を引き継ぐ仕事などで大変忙しい。

 ま、私はリディアの傍で言う通り動くだけだから楽なもんですけど。


 リディアが来ていると知ってる人間は、最低限に抑えてある。

 会う人間を制限し、顔のチェックも欠かさない。

 そいつらにはリディアが来ていると、他の陣営が知ればリディアは帰ってしまうと伝えてもいる。

 そうしたら仕事が何倍に増えるか……必死になって秘密を守ってくれるだろう。


 さてゴタゴタが三日続いた後、やっとのことで進軍が始まった。

 そして私たちはとりあえずマリオとイルヘルミの傍で兵糧の管理をすることになったのだが……。


「なぁ、ダイ」


「何でしょうかレイブンさん」


「余りに暇だと思わんか?」


「同意見です……」


 マリオとイルヘルミはアクアの関まで軍を進めはしたが、攻撃はしなかった。

 一応罵声を浴びせ、出てくれば戦おうという姿勢は示したが相手は完全に無反応。

 どうもイルヘルミは最初から出て来るとは思っていなかったように感じる。

 陣営設置の仕方も、かなり長期間になると見込んでの物。

 畑なんて作り始めてるんだもの。


 マリオはアクアに詰めてる兵を常に見張っており、攻め落とせそうな状態となれば攻めると言った。

 つまり相手が動かなければずっとこのままってこった。


 暇としか言えん。

 いや、暇を超えた暇。

 超 暇

 だな。


 私はあまりに暇なので、レイブンの隣を離れて幕舎で読書をしてるリディアに質問することにした。


「リーアさん、これ動きがあると思いますか?」


「無いでしょう」


「……例えば、向こうが間道を使って背後から不意打ちしてきたりとか……」


「その程度の配慮、イルヘルミはきちんとしております。初日執拗なまでにこの辺りを調べさせていました。加えてあそこにたなびく旗はホウデの物。彼女に戦う気はありますまい」


「それは又なぜ? それと前から疑問だったのですが、旗と違う人物が居たりはしないんですか?」


 旗なんぞ欠片も信用ならんと思うのだが、今の所必ずその人物が居た。

 不思議な話だと思う。


「まず旗とはその人物の誇り。誇りを他人に持たせる者は通常いません。渡した人間が何か失敗をすれば、自分まで火の粉をかぶるのですから。次にホウデは感情ではなく理性で考える人物。もう帰るのが最善と見切っているはず。加えて出来る限り危険を抑えようとする人となりですので」


「あ、お知り合いでしたか。しかしそうですよね? 私も何故さっさと帰らないのか疑問だったんです。それともランドで帝王を抑えているというのはそんなに有効なのですか?」


「帰らないのはビビアナが、戦いもせずに帰って臆病者と諸侯に言われるのを嫌がったからでしょう。それにケイの中央に位置するランドと帝王を抑えるのは確かに有効。ビビアナが徹底を欠いたために、不利となっておりますが。帝王の名を使って勅使を送るなり、せめて無理にでも自分の領地へ連れ帰れば良かったのですが……ケイの臣下であるという意識が邪魔をしたと推測しております」


 一方こいつはビビアナが出来なかった事をあっさりと口にしたわけだ。

 同じケイの臣下として働いていたのに、この差……こわっ。


「つまりビビアナは戦うつもりであり、ホウデは出来るだけ消耗せずに帰りたい。となると、ホウデが管理できないもう片方で大きな戦いが起こる……のかな?」


「ええ。イルヘルミもそう考えたからこそ、こちらに自分達を置いたのです。ランドから追い出すまではマリオとテリカも懸命に戦いますので。もしもこちらにビビアナの双璧グッドとアグラが居れば話は違いましたが、一当たりして出て来なかった以上来ないと見たのでは」


 はー……一つ一つばっちり積み重ねてあるとは流石イルヘルミだぁね。

 これで真田を追い出してくれれば恋したまであるのに。

 バカアホマヌケ。お前の将来敗軍の将。

 真田の危険性を理解できないお前が、唯一自分の手で最大の障害を取り除けるチャンスを見逃しやがって……。

 お前天運ねーわ。脳筋代表人物である項羽と同程度だわ。

 私が居なければどの世界線でも真田に負けると思うよ?


「ではテリカがその二人と戦うのですね。やはり籠城戦でしょうか。一当たりした以上向こうも準備しているでしょうし。連合軍のこちらより動きが速いでしょう」


「ふむ。自信はありませんが、宜しいか?」


「勿論。これは空いてる時間に教えを請いたいと思って聞いてるだけです。お邪魔でしたら又の機会にします」


「いえ、(わたくし)も無聊をかこっておりました。思わず仕事を探してしまいそうなほどに」


「それは、すみません……。リーアさんの為によかれと思ったのですが」


「存じております。それにご助言頂けなければ、目立つほど早く仕事を終わらせてしまいかねなかった。感謝を我が君。

 さてご質問のもう片方ですが、二将軍は野戦を挑んでくる。そう(わたくし)は見ております」


 え、野戦? 態々? ソラの街は占拠されてるっぽい話をしてたよね?

 相手出て来ないっしょ?


「挑んでくる? とりあえず籠城してテリカ達の戦力を削ろうとしたりはしないんですか?」


「相手の将であるグッドには忍耐力がありません。城外から臆病者と罵られれば、孤軍で街から出て行きかねない。それよりは最初から野戦した方がいいとビビアナとホウデは考えるはず。それに野戦でもほぼ互角でしょうからな」


 ……えー?

 罵られた程度で防御施設から出ちゃうの?

 埼玉のヤンキーじゃないんだから、流石に無いでしょ……。


「我が君、表情に出ております。何か言われた程度で出てきたりはしないとお考えですな?」


 うげっ。

 雑談モードで気が緩んでるといかんね……。


「は、はい。有利な状態を自分から捨てた上に孤軍でなど考えられません」


「我が君ならそうでしょうとも。良い機会だ。少し助言を致しましょう。世に居るケイ人百人のうち九十九人以上は名声を欲しております。将軍とはそれらの者が命がけで戦い名声を得た者。名を大事にして当然でしょう。武将ともなれば怯えずによく戦うのも大事な素質。臆病者と言われて捨ておけなくとも不思議ではありません」


「死んだら元も子も無いと思うのですが……」


「ごもっとも。されどそのように理性で動こうにも、立場、権力、名声、親族の生活、主君、配下。様々な物に縛られているのです。ダイは名声に興味が無いため、全く考慮に入れておられませぬが世間がそうなっているのは認識なさいませ」


 一応知ってるつもり……なんだけど、計算には欠片も入れてないねそーいえば。

 ありがてぇ助言だ。しかし……。


「ご教授感謝します。所でリーアさんに名誉を得る機会を見過ごしてもらっているのは、やっぱり不快でした?」


「いいえ。(わたくし)も死んだら元も子もないと考えておりますので。それに全く名を出さず諸侯へ多大な影響を与えるとは、古今に類を見ない話。名誉を得るよりもよっぽど楽しませて頂いております」


 諸侯への多大な影響……ま、確かにトーク家がビビアナへついたら、ここに居る殆どの人間は真っ青だろうね。

 やっぱりグレースの所為って事になるのかしら?


「そう言って頂けて安堵しました。しかし、野戦……あの、出来れば見に行きたいのですが……どう思われます?」


「何という愚問。向こうに作る拠点場所の目星がたっておりません。後二、三日で解決する予定ではありますが。ああ、この書状をレイブン殿に渡してください。イルヘルミとマリオへ今日中に挨拶するように書いてあります」


 愚問でしたか、すみません。って……あれ?


「え、既に向こうへ行く準備をしていたのですか?」


「我々は戦場見学に来たのです。ここに来た初日からこうなると分かっておりました。当然準備を進めております」

 逸る心を抑えながら、準備の速度を余り早めないよう気を付けるのには難儀致しました。とリディアがいう。


 さ、流石っす。

 リディア・バルカ半端ないって。

 皆がダラっとしてる間にめっちゃ根回しするもん。

 そんなの出来ひんやん普通。


「分かりました。この文を届けて来ます」


 という事で、レイブンの所へ行き向こうへ行く前の挨拶をしようと伝えると、レイブンは非常に喜んだ。

 彼も相当暇してたみたい。


 で、そのまま私とレイブンは馬に乗ってイルヘルミの陣営に向かう。

 私としてもイルヘルミの陣営がどうなってるか見ておきたかったし、渡りに船だ。


 陣営の門番にイルヘルミへの取次を願い、案内を受けて一際大きな幕舎へ行くと、中ではイルヘルミが何かを読んでいた。

 傍らには木簡の山がある。

 仕事関係の物だけとは思えないほどの量。

 多分戦術だの何だのの勉強用なのだと思う。

 戦地でもご熱心なこって。

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