トーク姉妹の愚行
レイブンの説得で会議は終わった。
しかしトーク姉妹に釘を刺しておかないといけないので、アイラ、リディア、グレース、カルマの四人には残って貰っている。
が、その前にさっきから二人の目付きが気になるんですけど。
「それで先ほどからトーク家のお二人は何故変な目で私を見てるのでしょうか」
「だって……貴方邪悪な魔物みたいに口が上手いんだもの。詐欺師になれそうだわ」
「お主……レイブンを非常によく理解しているのだな。話のしかたがあやつの弱い所を巧みに突いていて、怖いと言うか何というか……」
「素晴らしい弁舌を聞けて為になりました。ご教授いただき感謝申し上げます我が君」
ちょっと何これ。人聞きが悪いにもほどがありませんかね。
どーなってんねん。
「あまりに酷いおっしゃり様です。私は本心からの言葉をレイブンさんに言っただけなのに。国の半分以上を巻き込んでの戦なんて、ここ三百年一度もありませんでしたよね? それの観戦となれば、全員が行きたいと言って争うのではと心配していたんですよ?」
「……そうね。その通りだと思うわよ? 例え戦いが無くても、色んな猛者と手合わせくらい出来るだろうし、レイブンなら大喜びだとあたしも思う……でも……」
「話し方がなぁ……あまりに悪辣……いや、ずるい……うーむ。とにかくレイブンが完全にダンの手のひらの上という感じで……どうにもレイブンが哀れに思えてならん」
こ、こいつら言いたいように言いやがる。
「……誰にとっても利益になる決定であると、皆さん納得したと思っていたのですが。どうしてここまで言われてるのでしょうか。もう、いいです。それよりもお二人に大事な話あります」
「まだ何かあるの? あたしそろそろ休みたいのだけど」
そりゃすまんね。
だが必須なんだよ。
「私たちがここを離れてる間に、お二人が私の背中に回ろうとすればお互いが不幸になると思いましてね……。この点についてお考えをうかがっておきたいのです」
「……へぇ。其処まであたし達が信頼出来ない?」
「いえいえ。これはお二人が臨機応変に動く有能な人物だと言っているのです。であれば、色々と思いついたりもするでしょうと。バルカさんはどう思いますか?」
「私はお二人の賢さを信じておりましたが……賢人であろうと愚行は付き物。確認しておくと致しましょう。グレース殿、この戦が終わった後どのようになさるおつもりで?」
「一番確率が高いと思われるビビアナが負けて生き残った場合であれば、これから売る予定の恩を元に同盟を組むわ。恨みを表に出したりもしない。その後はビビアナの意思に従ってイルヘルミ、マリオと戦わないといけないでしょうね」
「ワシも同じ考えだ。そしてビビアナとの仲立ちが出来るのはリディアしかいない。だというのに問題を起こすような行動はせぬよ」
きちんと理解されてるようで結構。
しかしそれで必要なのはリディアであって、私ではないのがな。
「お二人ともヌルイですね。それではバルカさんが教えて下さった考えには及びません」
「なんですって……貴方下手なはったりは言わない方がいいわよ。はったりじゃないというのなら及ばない所を言ってみなさい」
「それを言ったら私たちが用なしになってしまうでしょうに。言えるのはお二人の考えだけでは危険が起こり得るとだけです。先ほど聞いた話が全てではないでしょうけど、私も居なければお二人の安全が脅かされかねないのも間違いありません」
「……リディア、本当に?」
「ええ。先ほどから私さえ居れば大丈夫であるかのようなおっしゃり様ですが、お二人の考えは少々安易。ダンが居なければ危険が増えると考えております」
有難うリディア、合わせてくれて。
生き残るだけなら、きちんとリディアの意見に耳を傾ければ十分そうなんだけどね。
ただ今までみたいにカルマの名誉、感情に配慮してるようでは無理かもしんない。
そういう意味であれば私は必須。嘘は言ってない。
「何一つ具体的に話さないで、信じてもらえると思ってるのかしら?」
「これは念のためにお話ししてるだけです。元々お二人とも何かする気はないのでしょう? ねぇカルマさん?」
「……ああ。二人には無事帰って来て欲しいと思っている。そうだなグレース?」
「……そうね」
グレースがじっと私を見て、嘘か本当か確かめようとしてるのを感じる。
嘘の確率が高いと思ってるんだろうな。
結果としては本当だと思うぜよ?
多分だけど私が居なくなったら、リディアはビビアナとイルヘルミが戦って勝った方の陣営に行っちゃうぜ?
だってその方が生き残るのに有利だし。
どう考えても最終的に勝つのはこの二つの内どっちかっしょ。
加えて言えば草原族の問題もある。
こちらは私が居ないと上手くいかない。
この二つの理由により、私の表情からは大きな自信しか読み取れないのではないかな?
さて一応の釘は刺した。
後はさっき大笑いしてしまった謝罪として、素敵な助言をしてあげようかね。
「ま、難しい話はこれくらいにして、カルマさん、グレースさんも近くに寄って頂けませんか」
「な、何よ突然。言っておくけど貴方の意思が近頃そのまま通ってるからって、あたし達が思いのままに動くと思ったら勘違い。男のままで居たかったら変な真似はしないほうがいいわ」
こ、怖! しかも失礼な!
美人だからって全ての男が下心を持ってると思うのこそ勘違いだぞ!
……でも、日頃私がグレースに下心を見せてないかと、つい省みちゃう当たり私は日本人だな……。
「そんな考えは抱いてません。さっきの軍議でグレースさんを大笑いしてしまったので、せめてものお詫びに貴重な忠告をして差し上げようかと思いまして。いいからこっちに来て少し我慢してください」
少し嫌そうだが二人が近くに来てくれたので、顔をよく見る。
……あ、やっぱり……。
「うん……これは私の配下である三人にも言ったのですが、お二人ともこれからは化粧をしない方がいいですね」
「な、何よ突然失礼な。それが貴重な忠告? 単に貴方の趣味じゃないの」
「いや、だって化粧の所為でお肌が荒れてます。しかもシミが出来始めてます」
「「えっ!!……」」
私の言葉を聞いた二人は真っ青になって顔を抑えた。
そして肌を擦りだしたけど……そんな事してもシミは消えないよ?
やっぱりこの国の化粧にはヤバイもんが入ってそうだ。
白粉ならば水銀か? 詳しくは知らないが、昔は染料にとんでもない劇物使っていたと聞く。
そんなもん肌に塗りたくってたら影響出ますわ。
にしてはシミが少ないけど。
この程度だったら皆が使ってる性能の悪い鏡じゃ見てとれないだろうな。
なんでだろ? やっぱりエルフだから? それとも若さか? カルマもまだ28程度だったはず……。
あー、そーいえば昔この世界に来た頃は、エルフは40とかになっても老化しないと思ってたなぁ。
あれは勘違いだった。
お肌は曲がる。曲がるのだ……ッ!
それはエルフであろうと異世界であろうと変えられない事実であった。
以前は単に私がエルフの外見に慣れて無くて、差が分からなかっただけ。
外人の年齢が分かりにくいのと一緒だな。
だからお肌の問題は大事だべカルマ? 妹さんも貴方も気にする年頃っしょ?
ああ、ここまで貴重な助言をしてあげるなんて、ワイなんて親切なんやろー。
二人とも青い顔で震え出してるけど、どしたのかなー? 突然風邪でも引いたのー?
「あ、貴方! 幾らなんでも吐いていい嘘といけない嘘があるわ!!」
あらグレースさんお怒りですか? カルマも顔を真っ赤にして激しく頷いてる。
あれ? 何時も権威を纏ってるカルマさんにしては可愛い仕草っすね。
すっごく怒ってる所を見ると演技ではあるまい……実は可愛いお姉さんなのが素だったりします?
ちょい気になる……が、今はそれよりもきちんと教えて差し上げましょうかね。
「でしたらお互いの肌を調べ合っては如何ですか? 化粧で隠されてはいますけど、近くでしっかり見れば分かると思いますよ」
二人は常にない素直さで私の言葉に従い、恐る恐るお互いの顔の向きを手で変えつつチェックし始めた。
せっかくの百合姿勢だが、二人の表情が真剣極まるのでどっちかというと怖い。
二人は暫くそのままの姿勢でいたが
「「あっ!」」
二人ほぼ同時に声を上げると、大変気まずそうにお互いの顔から手を離した。
そして見つめあい、黙ったまま何かを確認するかのように頷きあう。
うむ。シミってたやろ?
その後二人はこっちに体を向けはしたが、中々顔を上げようとしない。
その上先ほどより震えが強くなっている。
そんなにショックか。
……。
ぷげらーちょ。
おっと……笑ったら殴りかかられちまいそうだぜ。