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反ビビアナ連合参加決定

「一応バルカさんと二人で思いついた手があります。バルカさんお願いします」


「はい。まず参加はした方がよいでしょう。参加しなければケイ帝国への忠誠心薄しとなり、攻める大義名分を諸侯へ与えてしまい攻められやすくなる。

 次に我々はビビアナと懇意にする必要がある。今回の戦ビビアナが逃げると決めれば、止めるのは相当に難しい。つまり我々では戦うのも難しいビビアナの力が残る可能性が高いのですから」


「懇意、だと? 俺たちはビビアナから多大な屈辱を受けた。だというのに懇意などありえん。大体ビビアナ自体が俺たちを憎んでいるのだぞ」


「まず屈辱はお忘れなさい。全員が健在しており、実際の被害は大したものではないと言っていいのですから。そしてビビアナが憎んでいるからこそ、今この時にビビアナを助ければ大きな恩義を感じるでしょう。かの御仁は感情的なお人柄。周り全てが敵となった現状を怒り、嘆いてる事疑いない。親しくするには最高の時を得ている」


「……リディア殿、某が足りぬからであろうが、どうしたらよいと言ってるのか分からぬ。具体的にどう動くのかを言ってくれ」


「これは失礼能書きが多すぎました。具体的にはカルマ軍として兵二千、文官三百を連れて参戦。そして戦闘自体は全くせず、兵糧の管理といった裏方の仕事だけを担うのです。これは中心人物であるマリオとイルヘルミに文で先に報せなければなりません。

 さて戦の結果ですがビビアナが負け、自分の領地へ逃げる公算が高い。このビビアナが最も苦難を感じている時に、カルマ陣営の顔であるグレース殿が助けます。具体的には黄河を渡り易いように船を用意し、休憩所、食事を与えるのです。これでビビアナが抱くカルマ殿への感情は真逆の物となる」


 話を聞き終わると、カルマ陣営の表情は苦々しい物に変わっていた。

 グレースだけは考え込んでいる。

 カルマにも期待したのだが……必死に怒りを抑えている感じか。

 ふむ。若人よ、成長が足らんぞ。


「つまり、なんだ? 名目だけの参加をし、グレース自らビビアナに媚びを売れと? そういう話だな? この卑屈で卑怯な策……ダン、貴様の考えか。相変わらず貴様は……貴族の、武人の誇りを何だと思っている? 俺達の我慢にも限界というものがあるぞ」


 あちゃーやっぱりバレたか。

 しかし誇りもゆーてもこの程度が限界だと思うぜよ?


「はぁ、確かに私が提案した部分もありますが、おおよそバルカさんが考えただけに、これ以上の方策なんてないように思えますけども。バルカさん、これ以外ありますか?」


 すまんねリディア。

 説得は説得力のある人間がするべきだと思うんだ。

 だから、こっちをじっと見るのはやめて頂けませんでしょうか……。


「カルマ殿が話した理由もあり、事実として兵は二千程度が限界。その程度の集団で最も役立つのが後方任務だとお分かりにならない訳ではございますまい? グレース殿についてもビビアナの機嫌を取るのに最も良い方法を述べたのみ。更にあります。この際ビビアナが隣のチエン領を通るようにして関所を破壊させれば、我らは容易くビビアナ領と接するまで領地を広げられる。その上でビビアナと同盟を組めば我らは安泰。兵、領民、皆さま、誰もが安んじられるこの策を超えた物があれば、是非ご教授頂きたい」


「ぐ……ない……だが、せめて戦い、力を見せるべきではないか? 群雄の殆どが集まりそうなのだろう? 功を競い、多くの名声を得なければ、何時まで経っても悪評は消えまい。それにグレース、お前はよいのか。ビビアナの目の前で尻尾を振れと言われたのだぞ」


「あたしの感情よりも、まずは戦うべきかが気になるわ。どうなのリディア」


「恐らくは十万を超える軍同士でぶつかる中、二千の兵でどうやって戦うおつもりなのか。グレース殿も草原族が入って来て荒れかねない領内から、それ以上兵を抜くつもりはないはず。加えて功を上げればその分ビビアナの恨みを買うのは理の当然。この二点を考えて満足できないのであれば、(わたくし)はもう語る言葉を持ちませぬ」


 語るに足らない相手ってな。

 感情の問題があるのは分かるんだよねぇ。

 針小棒大の中傷によって、夢の中央から叩き出された相手だ。

 こっちに帰ってくる途中は半ば死を覚悟していただろうし、嫌いになって当然。


 武将のお二人に至っては名誉だの何だのに命掛けてるからな。

 日本にだって、車に乗って追い抜かれたら延々と追いかける人とかも居た……。

 舐められたくない、凄いと言われたい、か。

 こういった考え方の違いはどうしようも無さそうだ。

 リディア相手だと、考え方に違和感を感じないのだけど……あっちが合わせてくれてるのかね?


「もう一つあるわ。ビビアナが勝った場合はどうするの?」


「その場合は兵を出さず内政に集中できたことが有効に働くでしょう。それに多くの兵を出して、死なせてしまうよりはよろしい」


「諸侯が兵糧管理を他の軍に任せたがらなかったら?」


「文官を皆帰し、補給の護衛任務のみを致します。これが一番理想的ですな」


「ビビアナがあたし達を中傷したのは誰だって知ってる。なのにあたし達がすり寄ってきたら、ビビアナは奇妙に思うんじゃないかしら?」


「ビビアナへなんと言うかはお二人に考えて頂くより他に御座いません。利があるのは明確なのですから何とでも言えるでしょう」


「……戦わないのでは諸侯も不満に思うはずよ。その説得は?」


「我々がビビアナに付かなければ、ビビアナは後背を気にしなければならず多大な功を立ててると言える。これだけでも十分なのに更にもう一つある。グレース殿、先ほどからお分かりになってる質問をしないで頂きたい」


「うっ……悪かったわよ。皆に説明した方がと思って……いえ、あたしが話すべきよね。悪かったわリディア。

 外から見れば我々は、領地に入り込んできた草原族を追い出せない程に弱っていると見えるはず。なのに多数の兵で参戦したらむしろ奇妙でしょうね。北方の獣人達に対処している人間を非難するようなケイ人は居ないわ。

 ……カルマ様、皆、あたしはリディアの策を支持する。ビビアナに対して恩を売るのであれば出来る限り大きく売りつけるべきよ。……完璧な策だと思うわ。あたしはこれ以上を出せない」


 そうグレースが言うと、不満を顔に出していたレイブンとガーレも諦めたようだ。

 カルマも、溜息を一つ吐いた後に表情が何時も通りに戻った。

 フィオは残念そうだ。

 でもこいつは動機が違う気がしてならん。


 これで誰はばかることなく戦場見学に行ける。

 どの程度激しい戦いとなるかは分からないが諸侯達の人となりと、何よりも装備、戦法を見る良い機会だ。

 その中で真田以外に奇妙な装備や戦い方をする勢力が存在すれば、其処には私達みたいなのが居る疑いが出てくる。

 そしてこの文化背景で在り得るかどうかなんて私でなければ判別できまい。

 だからこの戦い、どうしても見に行きたかった。

 やれやれ、一安心である。

 

「ねぇダン」


「何でしょうかグレースさん」


「草原族があの条件を出したのは、やはり貴方の考えではないのかしら? この状態を考えて手を打っていたとか」


 は?


「あはっははっははは! は、腹が痛い。いやぁ、素晴らしい読みですねグレースさん。でも未だに私の能力が低いのに気づいて無かったとは、驚きでした。いやはや、そんな神算鬼謀の持ち主だと思われていたとは……。お願いですから今後そんな期待を抱かないで下さいね? グフッ……くふふふふ」


 腹いてーわ。流石にねーよ。

 私が考えていたのは草原族の事だけ。

 彼らに多くの家畜を飼える土地を与えて、食糧問題を解決し、加えてレスター内部に入り込んで危険が無いか調べてもらえるように、ってね。

 ま、アルタが死んで反ビビアナ連合が起こるかもと聞いた時に、言い訳として使えるかな? 程度は思ったけどさ。


 はー、おかしい。

 ああ、グレースが顔を真っ赤にしてる。

 すまんね。

 でもその過大評価は想定外過ぎるぜよ。


「人が、せっかく褒めようとしたのに……出来るだけいい方に取ろうと努力して言ったのに……本当に失礼な奴ね!」


「すみませんグレースさん。あまりの過大評価を聞いて……決して馬鹿にしたのではないんですよ? どうかお許しください」


「……もういいわ。貴方に配慮しようとしたあたしが悪かったのよ。それでリディア、人選はどうするのかしら」


「全体の指揮にレイブン殿。加えて(わたくし)と神算鬼謀のダンが文官の一員として参加。我々の護衛にラスティル殿で行きたいと考えております」


「リディアまであたしを馬鹿にするの? こいつ……って、ダン何変な顔をしてるのよ」


「いや、だって……この人に神算鬼謀なんて言われたら……すっごく嫌な感じが……」


「……それは確かに」


 まじ一瞬でさっきまでの笑いが引っ込んだんだけど。


「我が君? 少し戯れただけでそのように仰るとは……臣は悲しゅうございます」


 ……ひぐっ。

 た、確かにちょっと言葉を付けたしただけだよね。

 私が言ったのを使っただけで、嫌な感じなんて言っては機嫌を損ねても仕方無いですね。


「ま、真に申し訳ありませんバルカ様、いえ、バルカさん。何時も考えが足らず……どうかお許しください」


「貴方様は時に配慮を無くされます。気を付けた方がよろしい。ま、(わたくし)に関してはこれ以上お気になさらずとも結構。主君の失敗を許すのも臣下の務めです故」


「お言葉有り難く。感謝します」


「……貴方達って……ほんっと……えーと、話を戻すわ。リディアは諸侯が集まる場所に行っていいのかしら? 目立つわよ。そこの主君様も名を売りたくないんじゃなかったの?」


「はい。なので文官の制服に縫い合わせる、この顔を隠せる覆いを全員に配って顔を隠させます。戦場で兵糧を管理するのは往々にして恨みを買いかねませんので、何とでも言い訳は可能かと。この覆い三百程度は大よその手配が終わっていますので、三日と経たずに揃うでしょう。更にここを出た後は(わたくし)はリーアと、ダンはダイと名乗ります」

 

「大した悪知恵ね……いや、このコソコソした感じダンの考えかしら? とにかく分かったわ」


「しょ、少々待たれよ! 勝手に某を参加させてないで欲しいのだが? 某は嫌であるぞ戦場で指をくわえて兵糧の護衛だけなどという仕事は! しかもリディアとダンの二人に指示された通りに動けと言うのであろう? どうせだったらラスティルが指揮を執り、アイラを護衛としてダンの配下達で行けばいいではないか」


「わ、わああああ! レイブン殿! 何て提案をするっスか! せっかくアイラ殿とこの男が分かれると言ったのに。大体南方の貴族が多く来る場所にアイラ殿を送り込もうなんて、レイブン殿の人品を疑うっスよ!」


「お、おう。そうだな。すまぬ。確かにアイラにとっては辛い場所であった。し、しかしだな? 某が行きたくないのは当然であろう? もうラスティルだけでいいではないか? な?」


 な? と私に向かって言われても……。

 あれー? 私が知ってるレイブンの人となりなら大喜びだと思ったのに。

 勘違いだったかな?

 あまりラスティルさんの名を売りたくないし、どうにかして引き受けて貰えないだろうか。


 そしてフィオよ……。

 それだと私と別れてる間に、アイラに色々吹き込みたいと言ってるも同然では?

 本当に軍師なのかこの娘っ子。

 かえって安心してしまいそうだぞ。


 あ、リディアが『これオメーの提案だよね? 説得できんの? ファッキン無策なの?』って感じでこっちを見てる。……かもしれない。

 とにかくお願いしてみよう。


「レイブンさん。アイラさんを連れて行けばお分かりのように問題が起こりかねませんし、こちらでまだ日が浅いラスティルさんだけでは不安があります。それにこれから草原族が多く入ってくる以上、最強の将軍であるアイラさんが此処に残ればカルマさん達も安心でしょう。加えて先日の戦で一騎打ちの機会を差し上げられなかったお詫びも込めた人選のつもりだったのですが……駄目ですか?」


「は? お前は何を言っているのだ。戦う機会があるのならまだしも、なぜ護衛の指揮が某への詫びになる。意味がわからんぞ」


「えっ。だって諸侯の軍勢が集まれば、各地の英傑や猛者も集まるでしょう? 優秀な君主、英才の軍師、そして数多の強者が集まるでしょう。その者達の戦いを近くで見られるなんて、数百年に一度の機会。私もバルカさんも楽しみにしているのですが……。てっきり強い方が好きなレイブンさんであれば、大いに喜んで頂けると思い込んでいました。誤解だったようですみません。人選をもう一度考えてみます」


 レイブンが駄目となれば……ガーレか?

 ……補給の指揮とか無理だろ。

 ラスティルさんに指揮をしてもらうしかないのかなぁ?

 うーん……「待たれよダン殿」


 うん?

 お?

 レイブンが突然近づいて来て……ガシッと肩を組んできた。

 ほ、ほわー。明らかに格が違うと組んだ瞬間分かりました。

 筋肉的な意味で。

 と、所でなんでそんな力を入れて肩組んでるの? ホモ的なのは嫌よ?


「気が変わった。指揮の話受けさせて頂く」


「いや、仰っていた通り私たちのお願いを聞いて頂けないと困りますし、嫌々受けて頂いてもお互いに悪い結果となるでしょうから……」


「承知した。ダン殿とリディアの言う通りにいたそう。必要であればその戦の間だけは臣下の礼を取ってもよい。だから……な? 意地悪を言う物ではないぞ?」


 お、おう……細マッチョのイケメンがごっつ媚びた目をしてる。

 別に意地悪を言ったつもりはないんだけど……。


 所で、さっきからトーク姉妹が変な顔でこっちを見てるんですが。

 何なのさ。


「臣下の礼なんて取らせてレイブンさんを不快にさせる気はありません……でも、本当に私たちの指示通り動いてくれます?」


「勿論だ。我が名に懸けて誓おう」


「……護衛の指揮ですからね? 絶対に戦いませんよ?」


「承知したとも。ちゃんと話は聞いておったぞ? だから、きちんと猛者達の戦ぶりを見る機会をくれなければ……愚痴るからな?」


「あ、それはもう。私もバルカさんも凄く楽しみにしてますから。一緒に楽しみましょ?」


「……某はダンを誤解していたのかもしれん。お主にも良い所はあったのだな……」


「あ、はぁ。有難うございます。何にしても次の戦、レイブンさんが頼りです。面倒もあるでしょうがお願いします」


「任せよ。このレイブンに出来ない仕事はない! いやぁ楽しみであるな!」


 という事で会議は終わった。

 ガーレはやはり裏方仕事はしたくないらしく、誰からも文句が出なかった。

 フィオなんかアイラさんと一緒に生活できると言って大喜びだ。

 この小娘が喜んでるのを見ると無性に悔しくなるね。

 おのれフィオ……さっきからアイラさんの胸の間に埋もれおってからに……。


 しかしレイブンが受け入れてくれてよかった。

 ま、当然の結果っしょ。

 各地の群雄が一か所に集まっての戦場だよ? 二千年残りかねない戦いだよ? 誰だって見たいに決まってるべや?

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