表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/215

反ビビアナ連合の檄文

 アイラさんが草原族が私へ持つ感情の一部に気付いてしまった次の日、夜布団の中で思いついた手を試す事にした。


「アイラさん、少し変な真似をします。嫌な感じがしたら直ぐに言ってくださいね? やめますから」


「? うん。分かった」


 了承が得られたので、まずアイラさんの肩に手を伸ばして置いてみる。

 これで80cmくらいか。


「少しずつ近づきます。離れてほしいとか、肩に手を置かないで欲しいと思ったら言ってください」


「そんな風には思わないとおもうけど……」


 そーかなー?

 正面から肩に手を置かれたら、大体の女性は不快に思うものだけど……今のところ大丈夫そうだ。

 うんじゃジリジリ近づきますか。

 段々アイラさんの綺麗なお顔が近づいてくる。

 ……え、まだ大丈夫なの? もう50cm切ってそうなんですけど……。


「あの、まだ近づいてもいいのですか?」


「……? 良いけど?」


 あ、はい。

 結局私は肩と肩が触れ合うまで近づいた。


 ええええええ……何このパーソナルスペース。

 カップルの皆さまだって中々厳しいだろこの距離。

 ……うーん。思いついた時は『一時期流行ったよなパーソナルスペースネタ。サイレンとか』なんて思って苦笑したけど、まさかこんな結果になるとは。


「アイラさん、なんとも思わないのですか? ほら、昨日私が怖いと言ってたでしょ。こんな近いと嫌だったりしません?」


「ダンって偶に変な質問するね。今ダン怒ってないじゃない。それにしょっちゅう髪をすいて貰ってるし、机で寝てたら寝台まで運んでくれてる。それなのに近いだけで嫌なわけないでしょ? ……あれ? ダンが緊張してる? なんで? 僕怖い?」


 ぬぅ……其処で悲しそうとは……TVならあざといと鼻で笑うのに、この人だと可愛いだけで凄い。

 当然怖いのではなくて……。


「いえ、あの、アイラさんみたいな美人とこんなに近づいた経験があまりないので、良いのかなーという不安が……」


 というか、XX染色体相手に此処まで近づくのはアホだべさ。

 しかし美人相手に軽く美人と言えるとは、昔からは考えられんな。

 近頃美人しか周りに居ないから慣れたんだよね……。

 もう好きなだけ美人しててくださいみたいな感じで。


「僕、美人? それに僕が怖くないの? 皆何処か僕を怖がってるのに」


「アイラさんが美人でなければ、世の中に居る女性の八割はブ……不美人でしょ。ま、怖くはありませんよ。何時も守ってくれているアイラさんを怖がったら馬鹿でしょう?」


 草原族に警戒を頼むのも、思いつく可能性を潰す為であってアイラさんを怖がってるわけではないし。


「うん……そうだね」


「あの、アイラさん。一週間に一回くらいこれをしてもいいでしょうか? 嫌になった時には言ってくれれば辞めます」


「? よく分からないけどしたいなら幾らでもいいよ? あ、忘れてた。……ダン、僕が美人って言ってくれて有難う。言われた事なかったから……嬉しかった」


 そういって、20cmと離れてない距離でアイラさんは笑った。


 ……可愛かった。


 あ、今私の信念にヒビが入った音がしたような……。

 いけない、私の顔今真っ赤だ。

 よ、よし。アイラさんとの距離は分かったな。離れよう。


「あれ? どうしたのダン? 頭痛いの?」


「いえ、まぁ、何と言いますか……とにかく今後ともよろしくお願いしますアイラさん」


「……? いいけど。こちらこそじゃないかな」


 ……本当に可愛い。

 ……はぁ……。

 必要だとは言え、このアイラさんを毎週試すのか。

 いやはや……我ながら下種いね。


 仕方あるまい。この人に草原族が私へ持つ感情の一部を気付かれた以上、注意が必要だ。

 秘密の中でも、草原族との関係は特に大事。誰にも知られる訳にはいかないのだから。




---



 さて、アルタが死んだという話の後も暫くは何も無かった。

 まぁアルタも実権を失って久しかった訳で、死んでも直接的な影響は無かったのだろう。

 あ、間違えた。私の周りでは凄い変化がある。

 起こった事を、ありのままに話せば……。


『幹部全員の私服が、二十一世紀風味になった』


 ジッパー、ゴム、ボタンが無いからあくまで風味ではあるが。


 今までは貫頭衣みたいな感じや、布を体に巻き付けた物とか、和服モドキみたいな体の線が出ない服装を皆着ていた。

 それが体の線に沿って作られた服、ワンピースだのドレス風味だの男ならばTシャツだのになってズボンにポケットまで付いたのだ。

 真田の影響力恐るべし。

 服文化としての年代がぶっ飛び過ぎて受け入れられない。なんて事は欠片も無かったぜ。

 全力で真田の作った服を盗……オマージュしてるようで、服装の種類がどんどん増えてる。

 真田が持つ凄まじい力の片鱗を見た思いだ。

 ま、いいんだけどね。服ぐらいは。

 ついでに私もチョロっと楽な服装が出来るようになってハッピーだし。


 さて、限りなくどうでもよい。そう、本当にどうでもいいのだが、女性陣が体にぴったりとした服装に変わったので、全員の保持するエネルギー量が判明した。

 眼球の向きを高エネルギー体に向けないよう、細心の注意を払いつつ行った調査結果によると


 ラスティル=リディア≧アイラ>カルマ>グレース>フィオ


 である。

 グレースの時点で日本人感覚だと中々なので、皆様大したエネルギー量をお持ちと言えよう。

 祝着至極に存じ上げ奉り候。



 しかしのほほんとしてられたのも、三週間程度のみ。

 それ以降になるとビビアナの悪評が耳に入るようになり、世間は不穏さを急激に増し始めた。

 

 曰く

・ビビアナは専横を極め、自分の親族と配下のみを要職へ付けている。

・王室の宝物を自分の物とし贅沢三昧。

・やがては王命を各地に送り付け、領主達を解任しながら潰し、最終的には自分が帝王となるつもり。


 等々。

 そして最も強烈で聞き逃せない噂が一つある。

 それは

『帝王がビビアナ討伐の王命を出した』

 という物だ。

 この噂を聞いた時、一名以外が激しく表情を変えた。

 どうも未だにケイ帝室を使った大義名分は力を発揮してるようだ。


 リディアに本当かどうかを聞くと、「嘘に決まっております。ビビアナの下にいる帝王がどうやって各地へ王命を出せましょうか。しかしアルタが殺された事により世の民草が『ありうる』と考えてしまうのは間違いない。考えた人間は中々に腹が黒い。見習いたい程でございます」と教えてくれた。


 ここまで話が進めば、次の変化は私でも予想がつく。

 そして今、一つの文が届けられ皆が集まってる中で読まれている。

 内容は予想通り。

 マリオ・ウェリアから各地の群雄に向けたビビアナ討伐の檄文(げきぶん)である。

 全諸侯をヨウキという街の近くに集め、連合軍を作って攻め上がろうですと。

 今逆臣ビビアナを討伐しなければ、必ずや滅ぼされるんだってさ。ま、配下になる必要は出るかもね。

 さて、皆はどう反応するんでしょうね?


「……この檄文にどう対応するべきか、皆の意見を聞きましょう」


 いの一番に反応したのはガーレだった。

 しかも非常に興奮している。

 ビビアナに怒ってたもんね……。

 となると、説得に苦労するかもしれない。


「勿論全軍を持って参戦だ。かつての屈辱を晴らすだけでは無く、俺達最大の敵を諸侯達の援軍つきで倒せる絶好の好機。迷う理由は何一つあるまい」


 その言葉にレイブンとフィオが強く同意を見せた。

 ってフィオさんや、貴方軍師でしたよね? そんな簡単に同意していいのん?


「全軍は残念ながら難しいっスよガーレ殿。アイラ殿を南方の諸侯と共に戦わせてはどんな面倒が起こるか分からないっス。それに領土を管理する人間も必要。ここは残念ではあるっスけど、小職とアイラ殿が残るべきっスね。皆さまで大いに戦い、憂いを取り除き名を上げて来て欲しいっス」


 ……おやぁ?

 君もしかして誰も居ない間に、この領地を奪っちゃおうかなーとか思ってない?

 それ程では無くても、強力な敵であるビビアナに私が殺されないかなーって思ってるよね?

 それ確実に私以外も死ぬからね?

 ちょっとカルマさん良いんですか……って苦笑してる。

 なんか大らかだよなこの人。


「リディア、あな」「グレース殿のお考えは?」「……貴方も実は嫌な奴よね。先に言ってくれたっていいのに……」


 グレースは皆を見渡した後、カルマの方を少しの間見つめてから話始めた。


「あたしは……全軍を持っての参戦は反対……いいえ。そんな真似をする気は欠片も無いわ。理由としてはまず、あたし達の領地はランドと隣接してしまってるし、ビビアナ領との間には山賊から成り上がったチエンの領地があるだけ。ビビアナがその気になれば攻めて来れるのよ。

 それにこの討伐軍はビビアナを逃がしてしまう可能性も高い。強く敵対を示した後にそうなっては最悪でしょ。そうならないように後任をビビアナとする王命さえ頂いたのだし……カルマ様はどう思われますか?」


 グレースの問いかけを受けたカルマは、全員の表情を見てから口を開いた。


「ワシは勿論ビビアナを討ちたい。しかしグレースの言う通りであろう。参戦するべきでさえ無いかもしれぬ」


 カルマの言葉を聞いて、カルマ配下の三人が不服そうな表情になり口を開こうとしたが、カルマはそれを許さず続けた。


「大体だな、我らはつい数か月前に領土が二倍に広がっただけでなく、これから草原族まで入り込んでくるのだぞ。これがどれ程不安定な状態か分からぬのか。それともお前たちはオウランが口にしたとおり、我らに対して敵対せぬと信じ切っておるのか? 兵と将の大半を率いても大丈夫な程に? どうなのだ。答えよ」


「い、いや、俺は……うむ……し、しかしカルマ様、最大の敵であるビビアナを取り除くこれ以上無い機会ではありませんか。その上諸侯が集っての戦いですぞ。名を上げる好機。全軍が駄目ならば半分を俺に率いさせて頂ければ、必ずやカルマ様の汚名を晴らしてみせまする」


「あっ! こやつどさくさに紛れて……。カルマ様それならば某にお任せを。草原族を監視するのも、ビビアナと戦うのも歩兵が中心となるはず。余ってる騎馬で戦うとなれば某でござる。必ずやカルマ様の汚名を完全に晴らして見せましょう」


「お前達……。よいか? ビビアナが自領の守備兵を割いて攻めるとすれば六万程度は軽いのだぞ? 我らは先だっての戦で兵糧を消費したばかり。兵は集められても二万であろう。籠城も長期間は当然不可能。その上ランドから二万程度の軍まで同時に来かねん。半分も居なくなったらあっという間に滅ぶわ」


「ぬ、ぐぅ……そうだ! ダン、いや、リディアか? 草原族どもに二万程兵を出させろ。オウランは外敵に対して一致して当たると言っていた。あの言葉を守らせろ」


 わー。無茶言うねこの人。


「無理ですよ。前回は殆ど被害が出そうも無いからこそ、あれだけの兵を出してもらえたのです。第一まだ何一つ代金を払ってないに等しいんですよ? それで自分たちの欲望の為に守備兵を少なくした挙句、命を掛けてこっちの尻を拭けなんて言ったら……逆に襲われても私は驚きませんね」


「ぬ……ぐぅ……」


「はぁ……ガーレ、もう少し考えてちょうだい。誰でも分かる話でしょうが……。あたし達に出来るのは、動かない事でビビアナが自領の守りの為に少しでも多くの兵を割くようにするのが限界よ。……それで、ダンとリディアは何か考えがあるの?」


 現状把握が出来ているようで結構。

 トーク姉妹は成長した感じがするねぇ。

 一方武将二人は……殺る気しか無いんかい。

 レイブンには指揮をお願いする予定なんだけど……不安だなこりゃ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ