アルタ死亡による影響の考察
アルタ・カッチーニがビビアナに処刑されたとなれば中々の事件。
その影響について話し合おうと、夜リディアがこちらの家へ来てくれる事になった。
今回はアイラさんにも話を聞いてもらいたいのだけど、暇になるのは必至。
そこで大量の間食を用意してある。
食べ終わるまでは聞いてくれるだろう。
夜、やってきたリディアは席につくと私だけを見て口を開いた。
同時にアイラさんも口を開き、手を動かし始めた。
……うん。食べてていいから聞いててね?
それは映画館で食べるポップコーンであってメインじゃないよ?
「ダン、話し始めてもよろしいでしょうか」
……アイラさんが居ても良いのか、と尋ねてるのかな。
私が思いつく話が聞かれるとまずい理由の他にも、リディアには考えがあるのだろうけど……本当に不味ければ止めてくれる……と思う。
「はい、始めましょう。これからの世の動きについてです。以前バルカさんが話してくださった通り、ランドに居るのがビビアナでも討伐軍が起こるのでしょうか?」
「アルタが帝王の信任厚き側近であったのは誰もが知る所。あるいは『帝王が恨みによりビビアナ討伐の王命を出した』という噂さえ広まるでしょう。そして、庶人は皆信じる。これは大義としては十分。
他の諸侯、特に天下二位であるマリオはビビアナから命令されるのに不満と、不安を抱くはず。加えて誰であろうともこの好機を逃せばビビアナの配下になるのは必定と考えましょう。ゆえに。必ずや」
「では軍が起こるとして、纏まって戦うでしょうか? それとも諸侯がそれぞれ勝手に戦おうとするでしょうか?」
「纏まるでしょう。そうしなければ誰もが様子を見るだけだと皆知っております。そうなれば勝ち目が消え、個別に潰されますゆえ。この事実の前では集まるのに必要な移動といった苦労も霞む」
国の中央に居るビビアナと戦うために纏まるとすれば、誰かが凄い距離を移動しなければならない。
それでも集団にならなければならない程にビビアナは強いのか。
「ではその連合軍とビビアナ、どちらが勝つとお考えですか?」
「諸侯連合が有利です。かつてのカルマ殿よりは良いとしても、ランドの中は決して安定致しません。しかもビビアナと帝王の不仲は決定的。内部が落ち着かないのでは如何なる軍でも弱体化を免れ得ない。ただ……諸侯が一つに纏まるのも困難。かなり勝敗を読みがたい戦かと」
「諸侯は何が何でも勝つ必要がある。そうですよね?」
「はい。負けた場合ビビアナを追い落とすには天の助けが必要となりますので」
「ならば……バルカさんも認めるイルヘルミが何とかすると思うんです。それに諸侯もその事は理解している。幾らかは纏まり易くなりませんか」
「はい。仰る通りでございます」
となると、だ。
前々から考えていた案が使えるかもしれない。
「バルカさん私がこれから話す計画は欠点を見逃してると思います。ですから懸念があれば教えてください。
私は諸侯軍に最低限の兵数で参加し、戦わず後方の仕事だけをするべきと考えます。名を売らず、力を蓄えた方が有利に思えました」
「連合軍が負けそうな時に何もできませんが、宜しいので?」
「はい。私たちで何とかしても、その後不利になるのではないかなーと」
私個人としてもヤダ。
活躍してカルマの名を売っちゃうと諸侯の注目を浴び、今後の行動に支障をきたしかねない。
「素晴らしい諦めの速さ。しかし明察の部分もございます。出す兵を少なくすればビビアナが勝った場合に、言い訳とおもねるのが簡単となりましょうし」
「……えーと、いえ、はい。そーなんですけど……もうちょっと表現を……いや、なんでもありません。……それで、悪くありませんか? バルカさんでしたら違う行動を取ります?」
「ご質問に答えるまえに確認をさせて頂きたい。ビビアナが負けた場合にも付くのはビビアナで良いので御座いますな? 落ち延びたビビアナに我らが付けば圧倒的な力となり、イルヘルミでさえ一蹴されかねず、その後はビビアナの配下となるのも考えなければなりませぬが」
え。
まだ話してない計画の先を質問された。
……何これ、本当に怖い……。
「あの、負けたビビアナに付こうと考えてるのが、何故分かったんですか?」
「それが諸侯軍へ参加しておいて功を立てない事を最も活用する策だからです。更に申し上げれば、以前私がカルマより大宰相になる王命を出させようと献策致しました時、ダンはいたくお褒めになりました。あれは、この状況を見越しておられたのでしょう? そして、周囲全てが敵となってしまい負けたビビアナに手を差し伸べ、大きな恩を売り一瞬でカルマへの悪感情を取り去る策。見事。御お見事。策の途中ですが、成れば……全てが裏返る」
「さ、流石バルカ様……感服致しました。以前教えて下さった話から考えて、ビビアナでも連合軍が組まれ負ける公算が高いと思ったのです。そしてランドからビビアナへ帰る途中にトーク領はある。ならば逃げる手助けも出来ようかと。
相も変わらずバルカさんに教えて頂いた内容を繋ぎ合わせただけでお恥ずかしい」
「毎度ではありますが、私の考えだけと言うのは現実に即しておらず頷きかねますが……お望みとあればそのように。……して、本当にビビアナで宜しいのですね?」
「現実通りにしか言ってませんのに……えーと、ビビアナに付きたい理由は二つあります。一つめ、勝つ方に付くべき。二つめ、野心溢れるイルヘルミとの共存は不可能。それで、バルカさんならどうします?」
実はイルヘルミが勝つ可能性はあると思う。
しかし私が勝って欲しいのはビビアナである。
イルヘルミは危険だ。是非潰れてほしい。
その為ならばビビアナの天下となろうとも後悔はない。
「さて……二つの理由は至極ごもっとも。しかし諸侯軍によってビビアナを削った後にイルヘルミ、ジョイ・サポナの両者と組み三方から攻めれば勝率を六割までは持ち込め得る。この手であれば、天下を我が君に与えられるかもしれず大変難しい選択で御座います。
しかしダンは他にもお考えがおありのはず。この天秤を少しでも傾けられるのなら、連合軍への参加は仰る通りの方策が最善と愚考致します。それで、誰を行かせるのですか?」
ひょ、ひょげーっ! なんで考えがあるって分かるの!
といってもメインは私とカルマ軍の実力について知られたくないってのだけど……。
私としては軍の実力を戦う前に教えてどーすんねんと言いたい。
功を立てて名を売らないと人材が来ないってのも分かるけどね。
誰だって謎しかない会社より、強いと有名な会社に就職したいもんだ。
だが……今の所人材が足りてないって感じはしないんだよなぁ。
まぁ問題が大きかったらリディアが教えてくれるっしょ。
さて次は連合軍に参加するのを誰にするか。になるが、これも大きな悩みなのだ……。
「まずお聞きしたいのですが、連合軍が勝ってランドに入った場合それぞれの動向を調べられますか? 其々の長が何処で何をしているのか、とか」
「家の力を使えと仰る?」
「は、はい。何か必要な経費があれば、費用対効果を考えますので教えて下さい。……あ、そう言えば考えてませんでしたが、ご実家と関係が悪かったりします?」
「いいえ? 関係は非常に良好であり、費用も大して掛かりませぬ。それに掛かったとしても我等がヘダリア州の貯蓄から出してもよろしいのでしょう? ならば何の問題もなく可能です」
「それは勿論。実質的な主君はバルカさんですし、ヘダリア州から出しても問題無いと思いますが……あの、難しくないのでしたら先ほど意味深に仰ったのは何だったんですか?」
「お望みを叶えるのが難しいかのように言えば、恩を感じて頂けるのではないかと思いまして」
しかし素直に尋ねられてしまうのは盲点でした。と湖面の如き平淡さでのたもうた。
……。
そのアレな思考をはっきりと言うのならば、ソレ冗談なんだよね?
だが相変わらずパスが厳しすぎてシュート所か受け取るのも難しいっす。
弄って頂けたんでしょうか? それともよーわからん考えをお持ちなのでしょうか。
「なんと言えばいいのか分かりません……」
「お気になさらず。しかし、それは私を連れて行くという意味でございますな? イルヘルミが居るのは間違いなく、出来れば遠慮申し上げたく思います」
そりゃそーだよね。
どうしたもんかなぁ。
「実の所、バルカさんが来たければ来てほしい、という程度でして。恐らくですがこれからこの国で名を上げる殆どの人間と、その戦い方を見られるとおもうんです。しかも気楽な立場で。見たくありませんか?」
私がそう言うと、リディアは感じ入った。と言わんばかりに頷いた。
……あれ? 私変な事言った?
「ダンは……もしかしたら途轍もない弁舌の才能をお持ちかもしれません。そのように誘惑されては……どうあっても行きたくなってしまう。詐欺師のような方だ」
お、おやー? 誘惑なんてしたつもりはありませんよー?
「いや、私が見たいんです。今回を逃せば見られない人が居るでしょうし。気楽な立場であれば、会議だって人物が見れて面白いかもしれません。バルカさんならば私より更に楽しめるかなーと」
だって、このデッカイ国で行われる怪獣大決戦っしょ?
ビビアナを相手にマリオ、イルヘルミ、クソ真田が戦うのだ。
……これだと主人公が真田じゃねーか。なんて不吉な連想だよチクショウ。
ま、まぁとにかく素晴らしい見物である。
何千年もあとまで多くの人間が、どうして動画で逐一録画してないんだと歯ぎしりして呪った後に、金を払うので記録を木簡に書いて下さいと土下座するべこれ。
「確かに。詐欺師等と口に出してしまい申し訳ございません。臣は深くこの身を理解してくださる主君を持てて、まことに果報者です」
等と恭しく礼を示しながら仰るリディアさん。
スペッシャルにうさんくせぇ……。
もしかしてこの娘っ子、この調子で年上の上司で遊んだから疎まれたのではあるまいか。
「心からそう思ったから言いましたのに……。イルヘルミについても一応考えてあるんですよ? こんな物を用意したんです。私もこれを使おうと思ってます」
と言いつつ、私が何時か使うだろうと思って用意してあった、顔を隠せる文官服を出した。
王都に居た頃、何処で働いてるのかは知らないけど、偶に顔を隠してる官吏を見たんだよね。
それを思い出して作った物である。
「ほぉ。ここまで用意周到とは。我が師ダン。御見それいたしました。改めて敬服致します」
「楽しそうっすね、バルカさん……」
「それはもう。このような服で身を隠し人々を観察するとはまるで幼子の悪戯。実は私幼い頃に悪戯という物をした記憶がございません。なのにこの歳でそのような機会が訪れるとは。心躍る物を感じております。
私の分もこれを作るのですね? しかし効果の程はどのように調べたものか……」
「その為にも感覚の鋭いアイラさんに居て頂きました。アイラさん、バルカさん用にこれを作った場合、他の人がバルカさんだと気付いたり、記憶に残ったりすると思います? 半年以上一緒に行動するかもしれないのですけど」
……って、何時の間にかアイラさんの手がめっちゃベトベトになってる。
あー、口いっぱいにしてモキュモキュしてるから喋られないねこれ。
濡れた布巾を持ってこよう。