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力こそが全て……そして

「私を領主にすれば色々上手く行くだろうという考えは分かるのですが、遠慮……いえ、絶対に駄目です。私は自分の名をケイの誰にも知られたくない。好みの問題だけでなく、必要があるんです。だから今日の出来事は屈辱ではなく喜びでして。……はっきりと申し上げます。もしも、私の名を広めようとされるのならば、私は名を変えてここを去ります」


「え、遠慮なくと言ってくれたじゃないですか……怒らないでくださいダンさん。お望みであれば、なんです。決して勝手にしたりはしません」


「いや、その、怒ったつもりは……。とにかくですね。明日はある程度上手く行くと思います。こちらの人間もバラバラで何時襲ってくるか分からない獣人達を、抑える必要があると理解してますから。だからそんな無理をしなくても大丈夫ですよ。族長たるオウランさんへ本当に失礼をしました……。どうしても譲れない事なのです。お許し下さい」


「い、いいえ。許してほしいのはわたしの方で、余計な事を言いいました……。えっと、あ、明日上手く行けば今後こちらに居させる予定の人間はこいつです」


 オウランさんがそう言うと、一人の男性が後ろから出て来た。

 がっしりとしていて強そうだ。世が世であれば立派な軍曹になりそうな感じ。

 めっちゃ口汚く罵られそう。


「私がそうですダン様。以後、護衛長とお呼びください」


「お名前は何と言われるのでしょうか?」


「名前は憶えて頂かなくて結構。その方がダン様のご意思に沿うのではありませんか?」


「……確かに。では貴方にお願いしたい仕事ですが、私、リディア、アイラの三人についての話が城の外に漏れないようにするのと、私にとって良くない動きがあればこっそりと報告を頂ければ。可能性には私の配下三人も含めてお願いします。ただし特別に調べたりはしないでください。気付かれてしまいますので。それと……」


「す、すみません少し待ってくださいダンさん。配下の人もですか? 彼女達は……信頼出来ない人なんですか? 少なくともアイラ殿が簡単に裏切るとは思えません。何かそう思った理由があれば……教えてください」


 うんむ? 普通なら答えないけど……オウランさんが尋ねるなら是非もないか。


「オウランさん、詰まる所私がどういう人間か知りたいのでしょうか? 自分たちを含め誰一人信頼してないのではないかと不安になりましたか?」


 はい図星。

 此処まで不味い事聞いたみたいに顔色を変えるとは……。

 昨日はあれだけ表情を繕えたのを考えれば、私に気を許してくれているのかね?

 有り難い話だ。


「……はい。すみません。ついさっき信頼してくださってると聞きましたのに……」


「大丈夫ですよ。まず結論として私は三人を、そして皆さんをかなり信頼しています。しかし私の立場をよくお考えください。

 私は何処にも寄る辺無きたった一人の庶人。親族も居ません。それゆえ危険には私一人で対処しなければなりませんが、最終的に必要不可欠である暴力を私は持っていない。配下の三人誰であろうとも何かの切っ掛けで腕を一振りすれば私の首は飛ぶんです。信頼、好意、忠義。どれだって誤解や、酒に酔った勢い程度の理由で吹き飛ぶ事もあると私は考えます。

 誰もが私を殺しかねないと考えているという意味では、誰一人信頼してません。誰にも殺意を実行に移そうと思われないように動いていますが、私の知恵では穴があって当然なので。だからこそ護衛長さんには配下も含めて何か動きが無いか見ててほしいのです。実際の行動には嘘も何もありませんから」


 暴力の前には全てがゴミ。

 少なくとも私の知る歴史ではそうなっている。

 圧倒的な権力を持っていたカエサル、董卓、信長も少し予想外の裏切りがあっただけで死んだ。

 何故? 極論してしまえば襲われた瞬間暴力を持っていなかったからだ。

 日本に居たころ愛だの義理だの信頼だのコイた事を言えたのも、強力な国と制度に守られ暴力を振るえば損をしやすい社会だったからこそ。

 今ここにそんな物は無い。


 その上私は真田と同じく、今の所この世に二つだけの美味な肉。

 そうだと知られれば、誰だって食べたくなるに決まってる。


 だが力を持たない虎のテリトリーに住んでいるウサギだって、生きのびて目的を達成するのは可能だ。

 耳を大きくし視界を広く取り、強者の敵意をいち早く察知して逃げれば。

 或いはヘビの如く穴に住み、地を這って誰にも知られないように動くか。

 自然は本当に有り難いね。何でも教えてくれる。


 地面に掘った巣穴の主であるカルマ達に、疎んじられてしまう現状は何とかしたいけど……良案が思いつかん。

 まぁ明日の話し合いが上手く行けば、どれだけ嫌われようとも問題はない。

 今までの行動もそう見切っているからこそだ。


「殺しかねない……それは、わたし達も、ですか」


「おお……率直に聞いて頂けるとは。はい。そうです。ああ、オウランさん悲しそうな顔をしないでください。この世に起こり得ない事は無いというだけの話でして。だからこそ先ほど皆さんが簡単に殺せる私へ頭を下げてくださったのは嬉しかった……。そしてこのように直接的に聞いてくれるのも。お陰でとても安心できました。

 ま、私は考え得る全ての可能性を潰そうとしてるだけで、深刻に疑い思い悩んでる訳ではありません。オウランさんやアイラさんが突然私の首を狙う確率は、道を歩いてて暴走馬に吹き飛ばされる程度の物だと承知しています」


「……答えてくださって有難うございます。すみません。ダンさんの立場がどんな物か、考えが足りてませんでした……そうですか……親族も居られなかったんですね」


「いや、謝られては恥ずかしいですね。いい歳をして自分語りをしてしまい失礼しました。さて、護衛長さんお待たせしてすみません。こちらが私の考えた符丁になります。他にも必要そうな物が無いか考えておいてください。あ、それと網は戦いで使われてますか? 敵を捕らえる際にとか」


「網は捕虜にしたいとき稀に使うくらいでございます。馬に乗るのに邪魔ですからあまり使いません。縄ならば家畜を捕まえる為に慣れております」


「なるほど……。今後は網の使い方も練習してください。今ここは諸侯から注目の的でしょう。細作も多く入って来るのが予想されますから、縄や網で捕まえて情報を手に入れて頂ければグレース達も喜びます。どうしても邪魔者に思われてしまう皆さんは、そうやってご機嫌を取った方が上手くいくでしょう」


「承知。明日が上手く行けば網の使い方を鍛錬しなければなりませんな。オウラン様から命令を聞き、命に代えてでも貴方様を守るように言いつけられております。何なりとお命じください」


「そもそもお互いが命を掛けないで済むようにしたい所です。何か気づいたのであれば、失礼に思えたとしても言ってください。私の能力が低いのを忘れない様に。では次に、お願いしていた読み書きと計算が出来る人達の中で、習熟度が中間くらいの子は連れて来て頂けましたか?」


「はい。キリ、前にいらっしゃい」


 出て来た子は十五歳ほどの……うーむ……すごーく可愛い女の子だった。

 年齢は違えど全盛期のマインちゃんに似ておられる。

 ……この表現はよろしくない。

 芸能人で言うと誰に似ているネタは大嫌いだったのに……知識の上限だったので出てしまった。

 こんなに可愛い子だと、ご両親は不安じゃないのかな?

 まぁ、可愛くなくても外国同然の此処に子供が行ってしまっては親ならば不安だろうけど。


「あんれま、可愛い子ですね。上手く行けば親元を離れて働かなければりませんが、大丈夫なのですか?」


「もう成人してますよダンさん。実はお願いがあります。この娘にダンさんのお世話をさせて欲しいのです。護衛も出来ます。その……ダンさんよりは強いでしょう。それと、出来ましたらこの者にダンさんの子を産ませて頂ければとても嬉しく思います」


 ………………。

 あれ? 今私オウランさんの発言を、極限まで自分に都合よく解釈しなかった?

全盛期はやはり十一歳……いやよそう、俺の勝手な決めつけで主人公を真正にしたくない

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