ダン、オウランに挨拶する
「ふぅ……」
なんて溜息を吐きながら顔を上げると……いやぁ、皆さん非常に馬鹿にした表情を見せておられます。
カルマも……不快な物を見たくらいは思ってくれてそう。
ラスティルさんも困った感じでこめかみ抑えてるし……アイラさんは……あれ? 能面みたい。
珍しい……ちょっと残念だな。頭を抱えるくらいは期待してたのに。
リディアには……元から何も期待してない。私は夢見る少女じゃ無いのだ。
「貴方……あたし達に決定権を寄越せと言っておいて、今の様は何? 姉さんへは同格みたいに振る舞う癖に。オウランが姉さんより上だとでも?」
「いいえ。草原族の一氏族長が、侯爵と言っていい領土を持つカルマ様に勝てないのは理解してますよ? しかしカルマ様は私の……いえ、バルカさん達の協力が無いと滅びかねない状態ですが、オウラン様は特に必要ないですからねぇ。実際お世話になっているだけですし。それなりの態度という物があると思ったのですが……身の程を弁え過ぎたかもしれませんね」
「……ダン、明日にはオウランから援軍の代金について話を聞くが、先程も言ったとおりお前のごとくオウランへ下手に出る気は無い。オウランは比較的理性的だと思ってはいるが、所詮獣人。下手に出れば何処までもつけ上がるからな」
「当然の話です。ただ……オウラン様達草原族と敵対して、背中に不安を抱えるのはどちらかというと大反対です」
「何その言い方……貴方が反対なのは分かったわ。で、リディアの意見は?」
「どちらかというと大反対。おお、そんな顔をなさいますな。冗談です。冷静に考えて今後諸侯と敵対した際に、草原族が後背から攻めるように細工されてはいかにも不味い。であれば何としてでも親しい関係を作っておく必要がございましょう。未だに他領においてカルマ殿の評判は天下の極悪人。その中での希少な味方を作る機会だと考えれば……少々の無理はやむを得ますまい」
だよな。理性的に考えてもそうなると思う。
ふひゅー。リディアが同じ意見を言ってくれて、良かった……。
「……本当に遠慮なく言ってくれるわね……。つまりリディアとしてはさっきのダンみたいに犬の真似をしろと言いたいのかしら? 貴方自分の主君があんな無様を晒すような奴で何とも思わないの?」
おっと。ここで離間の計的なジャブっす? でもナイス質問よグレースさん。
リディア、さっきの私はどうよ。
「いいえ。あのような真似をしていてはオウランの賢さに頼り切りになってしまう。こちらが上であると示すのは必要でしょう。ダンについては……勿論心地よくはありませんが、こういう人だとは承知しております」
……いかん。今一分からぬ。
こういう人ってどういう人だ?
『心地よく無い』が本音かも分からないし、こいつのクールさ本当に困るわ。
前言撤回。グレースの質問が悪い。役に立たないやつめ。
そんなんでは結婚してからのコミュニケーションで困るぜよ?
結婚できるか知らないけど。
それとも私みたいに諦めちゃうかい?
「ダン貴方理解ある配下を持てた事、天に感謝した方がいいわよ。さっきの無様さ、多くの人間が見限って離れかねない物だったわ」
「勿論バルカさんには、日々感謝しております」
感謝が限界突破して恐怖に変わりかねないくらいっすわ。
「所でお前オウランに情報を渡してたみたいっスけど……オウランの間者だったってわけっス? だとしたら……流石に命令なんて聞けないっスよ?」
フィオちゃんや。流石にとか言うのなら、もうちょっと困った顔を見せた方が良いヨ?
嫌いな奴の穴を見つけられた喜びが顔に出てるようじゃダメっス。
「いやいや。確かに情報を渡してお金を貰いはしましたけどお小遣い程度です。オウラン様はお茶を売り始めた事で、ケイ帝国の情報を手に入れないと不味いとお考えになったようでして。それでケイ全体の話を、下級官吏の身で手に入る範囲ではありますがお伝えしました。
隣に住む方々ですから、縁を繋いだ方がいいとも思いましたし……これ程重要な相手になるとは思いませんでしたけど」
これが事実。
これ以上は調べようがないという絶対の自信がある。
「フィオやめよ。ワシも草原族の氏族長達とよしみを通じてこの領地を治めて来たのだ。それにダンがオウランの信頼を得ていたお陰で命が助かったのは間違いない」
「……御意のままにっス。ダン、言葉が過ぎたっス」
「気にしてません。当然の疑いでしょう」
「……お前段々面の皮が厚くなって無いっスか?」
「ウダイさん達に鍛えられたお陰ですよ」
九割はリディアだけどな。
「何時までも集まってても仕方ないわね……。フィオ、リディア、ダン明日は大事な日よ。今夜はしっかりと休むように。では解散」
さて家に帰って体を洗ってからオウランさんの所へ行きますか。
色々大事な話をしなければいけない。
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オウランさん達の宿となっている屋敷に行き、門番の人に連れられて屋敷内に入ると獣人に案内人が変わった。
「おい、お前がダンとかいう犬のようなエルフか?」
これは……素晴らしい。おいら嬉しくなってきちゃったぞ。
「はい。そうでございます」
「ふはっ。本当に誇りの欠片も無いのだな。よーし。そんなお前に忠告してやろうか? どうだ? 聞きたいか?」
「はい。是非お教えくださいませ」
「よしよし。素直な事だけが犬の美徳だ。いいか? 今オウラン様の部屋には今この屋敷に居る恐ろしい方が全員そろって話をされている。皆オウラン様がお怒りになれば指先から刻んで殺すような方々だ。口と態度に気を付けろ。犬ならば犬らしく、腹を見せて挨拶する、とかな」
おー、親切だねぇ。気分よくしてくれた上に親切とは、君いい人だ。
ま、教えてくれた通りオウランさん達が私を殺したいと思い始めても、おかしくはないんだよね。
自分たちの力の出所がケイの犬エルフってのは、積極的に広めたい内容ではあるまいて。
先ほどのオウランさんの態度が本音の可能性も十分にある。
それでも別に構わないがね。
私への態度なんて、便所に落ちてるトイレットペーパークズ程度の価値しか無い。
話を頭から聞いて貰えなくなれば……流石に困るけどさ。
「それは……恐ろしい。身震いがします。教えて下さって有難うございます。お陰で心の準備をして部屋に入れます」
獣人の兄さんは、鼻でナイスな笑いを見せてくれた後歩き出した。
私は粛々と後に付いていく。
「オウラン様、ダンという者を案内致しました」
あ、このアニキ緊張してる。
ほへー。オウランさんカッコイイっス。マジ女王様っす。
「入れ」
その声に従い、私だけが下を見つつ中に入る。
「オウラン様、召致に応え参上いたしました」
「うむ。少し待て」
とオウランさんが言うと同時に、私の脇を複数名の人が小走りで出て行き部屋の周辺を速足で駆け回る音が暫く聞こえた。
私は声を掛けてくれるまで待つ。
「ダンさん、床下天井裏まで調べました。どうか立って顔を上げて下さい」
おんやま。未だに丁寧なのか。ちょっと予想外だ。
ま、お言葉も頂戴しましたし失礼しま…………何コレ。
オウランさんは立ったままこちらを見てるだけだが、さっきオウランさんの後ろに居た人の内八名なんて後ろで整列して膝を付いている。
「ダンさん、先程は無礼を働き本当に申し訳ありません。どうかお許しください。この通りです」
そう言うと、全員が綺麗に揃って頭を下げた。
あれ……これかなり本気で謝罪する姿勢だったような……。
後ろの人達なんてこれ以上は、獣人特有の完全な服従を示した臣下の礼くらいじゃなかったっけ……。
元の状態から計算して勢力が二十倍くらいに増えたと聞いたから、そろそろ当然の対応になると思ったのだけど……。
未だにここまで腰が低いとは若いのに大したものだ。
有り難くも気圧される物を感じる程。
知らなかった。
近頃の若い人は謙虚で立派なのね。
物見櫓様より再び支援絵を頂戴しました。
有難うございます。
一枚目、リディア・バルカになります
ロト太郎様のイラストを参考にして、それに自分のイメージを付け加えながら描かせていただきました。無表情系クール女子、私は好きですよ。身近にいたら何考えてるのか分からなくて不安になりますが。シュミレーションゲームのパラメーターでダンさん→相手的に10をMAXと考えると好意6警戒10殺意4くらいですかね。
ちなみにオウラン様に対しては好意10警戒6殺意0だと予想。
やはりオウラン様こそがダンの希望の女神なのだ…(狂信)
との事。
殺意なんてねーし! 不安で不安でたまらないだけだし!
このリディアですが、めっちゃシラッとしてますね。そして其処が良い。
めっちゃどうでもいい感じでこっちを見てますね。そして其処が良い。
真っすぐ立つ姿勢がよくて、お育ちがよいように感じます。深読みでしょうか?
こんなお嬢さんに『我が君』って言われたら……うーん。『ヒィッ』かもしれません。
素晴らしいイメージを絵にして下さり感謝でございます。
もう一枚。主人公ダンです。
やたらと高評価してくるリディアさんとアイラさんにダンさんは納得いかないようです。
ダンさんは裏表の少ないそこらへんのMOBと同じ存在、人畜無害なただの下級官吏だというのになぜでしょうね?(同僚の官吏並感)
でも、ここぞと言うときに衝撃の真実が明かされるかも(遊戯王)
忍耐強さならベクターにも負けん(2クール)
う、うさんくせええええええ。
そっか、人ってここまで胡散臭いキャラを描けるんだ……。
という衝撃の事実を知りました。
表情も、ちょっと描いてある汗も、微妙に捻った腰も、手の出し方も、全部胡散臭い。
今後は完全なMOBとして地味に生きて行く可能性があるのに、こんな胡散臭く描かれてしまうなんて。
おかしな話です。
絵についての感想お待ちしております。