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宴会での話を聞いて3

「どうもダンは忠義という言葉を頭から無視してるようだ。言ってる事は分からんでもないが……仕方ない、今は置いておく。言葉を尽くせば考えが変わるような話ではなかろう。

それよりも先程から二人が許しを待っているのが分からぬのか? このような可憐な娘二人を不安にさせるとはけしからんぞ。男の風上にも置けん。反省するべきだ」


 と言いながらラスティルさんはリディアを後ろから抱きしめた。


 許し、ねぇ……。

 許すなんて言葉をこの二人に使うのは、怖気が走るんすけど。


 ……それは、それとして……。

 ラスティルさん……いいなー。

 美人を後ろから抱きしめるとか……羨ましいなー。

 思い起こせば六年ほど前この美人さんに抱きしめられたな……背骨折れそうだったけど……なんか無性に懐かしくなって来たなー……。


「許しをと言っても、元々謝って頂く話では無いと言っています。それに二人とも不安なんて持ってないと思いますよ」


 アイラさんはもう何時も通りこっちをぽーっと見てるし、リディアは……。

 私達が喋ってる間ずっと引っ付かれてるのに、全く動きを見せない。

 ……ラスティルさんがゆっくりと体をまさぐってるとゆーに。


 いいなー……。


「ラスティル殿、もう不安はありません。むしろ少々感動しておりました。よく考えればダンの怒りを見たのはこれが初めて。此度の戦で我が君の力を知り、(わたくし)が臣下として有用であるのか自信が揺らいでおりました。が、お怒りをぶつけて下さる程度には気を許して頂けはじめたようで、何よりと申せましょう」

 中々慣れない馬に乗れた時の喜びを思い出します。と淡々と続けて頷くリディアさん……。


 ……馬。

 ぬぐぅ、仰る通り一緒に色々した所為で油断していた。

 こっちで出会った最初の頃なら、少なくともさっきみたいに怒りをぶつけたりはしなかった。

 馬並みの知能という意味では合ってるかも。


「はぁ……リディアは真の忠臣だな。所でその我が君の力についてだが、今回ケイに住む誰もがカルマ殿は滅んだと考えただろうに、終わってみれば領地が二倍になる驚天動地の結果となった。その絵図面を描いた神算鬼謀の持ち主はグレース殿だ。と世ではなっているがそれはありえん。ランドに居た時の彼女にそんな暇が無かったのを拙者はよく知っている。つまりは目の前にいる二人の考えとなるのだが……何割がダンの考えだったのだ?」


 なんか凄くワクワクした表情を見せておられる……。

 だがすまん。貴方にはどうしても教えたくない。

 臣下になってくれたし、義理堅い人なのもしっている。しかし……。


 真田とユリアを高く評価し、親しくしていたのが気になる。

 その二人に私の人的魅力が勝ってるとはとても思えん。

 更にラスティルさんとの相性でも劣っているだろう。

 どうしても心変わりを心配してしまう。

 だが、ラスティルさんだけ知らないというのも……。


「謀は密なるを以ってよしとする。という言葉もあるのですが……そうですね、グレースさん達が考えるよりかは多いとだけ。あ、駄目ですラスティルさん。これ以上は何と言われようとお教えしません。それよりもいい機会なのでお願いを聞いて下さい。

 皆さん外ではカルマさんの臣下だと言って頂けませんか。私は皆さん以外に名前も顔も知られたくない。外で私の名前を出さないといけない時は、『あの人』とでも言ってくだされば有り難く」


 私の言葉を聞いて三者三様の様子を見せている。

 ラスティルさんは呆れ、リディアは感心し、アイラさんは……怖がってる?

 なんで?


「其処まで自分を隠そうとするとは……。やはり誰かに追われているのか?」


「素晴らしい。徹底しておられる。それでこそ我が君」


「ダン……君怖すぎるよ……。蜂みたいに危険で羽音さえ無いのに、もっと消そうとするだなんて……カルマ達が凄く心配になってきた」


「別に追われてませんよ。私のような無能者が生き残るのに一番良いのは、注目されない事だと考えてるだけでです。アイラさん、貴方が怖がってると多くの人が誤解しかねません。お願いですから外で言わないで下さいね? リディアさんは……ラスティルさんに抱きつかれるのが気に入ったんですか?」


 この二人ずっとくっ付いてる……片方が男だったら殴ってるなこれ。


(わたくし)にこのような接し方をしてきた方は今までおりませんでした。余りにも新鮮で……つい」


 つい、何なのか。


「はっはっは。羨ましくても渡さぬぞ? リディアは良い体を持ってるゆえ離れがたいのだ。しかし幾らかダンの考えを聞けたのは良いのだが、お主どうも自分を見限っていやせぬか? 名を史に残したいといった大望は持たぬのか」


 ……ナイスなぼでぃ……い、いや。目を向けるな。危険だ。


「名は要りませんが、大望ならあります。考え方の合っている美しい女性を妻にもらい、生き延びて子や孫に私が昔バルカ、ラスティル、アイラという英傑を部下にしていたのだと自慢するのです。勿論信じないでしょうから、皆さんには証言をお願いしたく思います」


「おや我々も生きていると? 拙者とアイラは戦場に命を掛ける身。大変死に易い立場だが?」


「死にそうな気配がしたら、その時連れてる兵と一緒に逃げて頂ければ生き残れる……といいですねぇ……。ま、絶対に勝てる時以外は戦ってはいけないと考えていますし、そうするつもりですから他の陣営に居るよりは生き残れると思いますよ?」


 現実ではどうしようもない時もあるけどね。

 貧乏な森で暮らす人々を蹂躙するだけだと思ったら、泥沼の消耗戦に持ち込まれた挙句森を枯らそうとした世界最強国家とかもある。

 それでも意地だの何だので動きそうな、他の領主達よりはマシっしょ。


「やはり……我が考えに狂いは無かった」


 な、なんだ藪から棒に。


「バルカさん、何のお話でしょうか」


「今まで確信を抱けずにおりましたが、保証を頂けたのです」


 ……この子、偶に私を置いてけぼりにするのが……。


「私が何か言いましたか? さっぱり分かりません」


「いささか。しかしお気になさいますな。ただ今一度誓わせて頂きたい。(わたくし)は決してダンを裏切らぬ、と。それゆえ(わたくし)と一族をどうかお守り頂きたい」


「……僕も、ダンの言う通りにする。……だから、敵にならないで。お願い」


 ま、マジ何なんだ。


「ダン、拙者に二人が何を考えてこう言ってるのか説明してくれぬか?」


「私が教えて欲しいくらいなので無理です」


「そうか……拙者も二人に倣うべきなのだろうか? 良く分からぬが」


「……ラスティル、そうした方が君の為。……ダンは凄く怖いよ。敵になっちゃ駄目」


「あの、アイラさん……本当に私は何かしましたっけ? 私が百人束になってもアイラさんが怖がる理由はありませんよね?」


「……気にしないで。本当はカルマ達にも言いたいけど……言ったら怒るよね?」


「ええ、まぁ、そのような現実と全く違う評価を誰かに話されては大変困ります。もしも言ってしまったのなら教えてくださいね」


 強いと言う文字を人間にしたようなアイラさんに怖がられるなんて、大きな話題だ。

 ウメが認めたダルシム使いみたいな感じだな。

 カルマ達が耳にすれば、どれだけ私を警戒する事か。

 今よりも心配毎が多く産まれるのは必定。


 だってのにアイラさんのこの態度。

 頭が痛い……何故こうなっている?


「おお……アイラが其処まで言うとは……。分かった。我が主君ダンよ。拙者も改めて忠誠を誓おう。何とかして老いて死ぬまで生き延びさせて頂きたい」


「は、はぁ、勿論非才の限りを尽くしますが……。有難う……ございます皆さん。今後とも頼りにさせて頂きます」


 三人とも深い敬意を礼に込めて私の言葉に応えてくれた。


 私はもう大きな危険をおかすつもりはない。

 だから私にずっとついて来てくれれば、自動的に生き残る確率は高くなるだろう。

 私もこの三人には出来れば老衰で死んで欲しいし、こうしてくれたのならその確率が上がったと考えてよい。


 それは嬉しい。

 だけど……一体何を見落としている?

 リディアとアイラさんが何に気付いたのかさっぱり分からない。


 明日にはオウランさんが来るから、考えないといけない問題がいっぱいなのに気になって集中できん。


 私はこの日一日をもんもんとして過ごした。

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