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戦勝の宴1

***


 今日は主だった者を呼んで、戦の後始末を終えた事を記念しての宴が行われる。

 ダン以外の八名が参加となっておる。


 元々はダンも呼ぶ予定だったのだ。しかしグレースが反応を見る為だと言って声を掛けなかった。

 抗議が来るとおもっていたのに『有り難くお呼ばれします』とだけの返事が返ってくるとはな。


 グレースはこの機会を利用し、あの三人をこちらに引き寄せるとっかかりを見つける。などと息巻いておった。

 しかし……そう簡単には行くまい。

 そう思っているからこそ、ダンも三人をこちらに寄越したのであろう。


 何はともあれ楽しい宴にしたい所だ。

 料理も酒も逸品を用意した。

 向こうの三人もよく食べて飲んでいる。まずは重畳。

 引き寄せる云々を考えずとも、良い関係を築きたい所であるからな。


「今までお疲れさま。皆よく働いてくれたわ。此処に居る誰が居なくてもここまで良い結果は出なかったでしょう。本当に有難う。特にアイラ、リディア、ラスティルはよく来てくれたわね。彼は嫌がらなかった?」


「それが全く。嫌な顔一つせずに『皆さまで行って楽しんできてください』とむしろ積極的に参加を薦められた」


「そうか……。今回はある程度公式の立場が上の人間のみであったから呼ばなかったが、後日謝罪しておくとしよう」


 我ながらちと苦しいか。しかし、馬鹿正直に挑発したとも言えまい。


「姉さん其処まで気を使う必要は無いんじゃない? あの男がしたのは謀反と言っても差しつかえないのだから。それに今回あいつが働いたのかどうか分からないし」


 グレース……三人が不快に思うような事を言わぬ方が良いと……む? 

 三人とも全く表情を変えぬだと? 何故だ?


「グレース少し慎め。アイラはともかくとして、リディアとラスティルがここに居たのはダンが居たからこそであろうが。三人ともすまぬな。グレースはワシを想う余り口が悪くなってしまうのだ。許してくれ。

 不快ならば口に出してくれてもよいのだぞ?」


「お気遣いには感謝をカルマ殿。不快では御座いませんのでお気になさらず。我が君は人がご自分について知るのを好みませぬ。ゆえに黙っていただけなので。

 ああ、謝罪は不要です。(わたくし)の方から伝えておけば、それで十分でしょう」


「そう、か。承知した。よろしくたのむ」


 どうもこの者達の関係はよく分からぬ。

 リディアもどれ程の忠誠心があるのか不透明だ。


 ダンに至っては何一つ分からないと言ってもよい。

 しかし不快極まる話ではあるが、恩人と言うべきなのだろうな。今の所は。

 間違いなく死ぬはずであった状況から、四か月後には正式な任官ではないとしても侯爵なのだから。


 ……正直な所ダンには恐怖を感じぬでもない。

 どれ程先を見て、何時から準備をしていたのだ?

 いや、恐怖を感じるべきは全ての策を考えたというリディアになのか?

 だが幾らかはダンの考えも入ってるのではないか?

 ダンをどう評価すべきか、どう対応すべきかあの日からずっと悩んできた。

 そして未だに結論は出ない……。


 などというワシの悩みはそっちのけで宴は進み、皆酒が入って来て段々正気を無くしてきておる。

 かく言うワシも……少々回ってきているな。

 しかし我が妹は飲み過ぎだ……やっと仕事が一段落して解放感に浸ってるのは分かるが……。


 いや、今日は好きなだけ飲ませてやるべきか。

 ランドに到着してから今日まで、心休まる日が無かったはず。

 それが大よそ解決された目出度い日だものな。

 ビビアナがどうしてくるかは問題だが、今くらいは飲み過ぎてもよかろう。


 ワシも飲むとしよう。


「アイラどのおおおおおお、どうしてあんな男の配下になってしまったすううううぅ。小職は、しょうしょくはぁあああ、寂しいっすううう」


「……ごめんねフィオ。ダンに助けて貰わないと僕達は死ぬと思ったんだ」


「それよアイラ! 何時の間にあいつの配下になったのよ。アイラさえあいつを守らなければ、あたし達はこんなにモヤモヤしないで済んだのに! 大体なんであいつと親しくなったのかしら? 倉庫担当と武将じゃ親しくなりようがないでしょうに」


「最初の切っ掛けは料理かな。ある日ダンが作ってくれるって言って来て。凄く美味しいんだ」


「ぐっ……アイラの嗜好を的確に突きやがったわね……。こんな事ならアイラをランドに連れて行くべきだったわ」


「それは悪手であろうな」

「悪しゅうございます」

「グレース、それ悪くならない?」

「妹よ、考えが浅いぞ」


「な、何よ皆して」


「拙者が考えるに、アイラが守ると言わなければ、ダンはさっさと逃げだしていた。

 となれば、我等はランドに留まりどうなっていたのか分からない。となると思う」


「べ、別にあいつが居なくても、リディアがあたし達を助けてくれれば同じ結果になったのではないかしら」


(わたくし)が皆様を助けたのは、あくまで我が君が望まれたから。その主もアイラ殿が配下になってでも、と望まなければ動かなかったはず。今回の事はあの人にしては異常な行動が多い」


「……ダンは臆病だからね。本当だったらすぐに逃げたと思うよ」


「分かったわよ……でも、なんで姉さんまでそんな事を言うの。姉さんはあいつと大した関係が無いでしょう」


「我等が帰るきっかけとなった箱を渡してきたのはダンであり、そのとき彼はアイラに伴われていた。アイラが居なければダンは同じ行動を取らなかったであろうとワシも思う」


「そ、そーいえば……そんな話を聞いたような……う、うう。それよりもリディア! なぜ貴方程の人物が下級官吏の配下になってるのよ! どう考えても主従が逆でしょっ。本当は貴方が主君じゃないの!?」


「天に誓って(わたくし)が従者ですとも。そんなに奇妙ですかな? (わたくし)としては入念に人物を見定めてから主に選びましたのに」


「奇妙どころじゃないわよ。リディアだってあいつの仕事ぶりを見たでしょう? どう見てもフィオの足元にも及ばないわ」


「そうっス! アイラ殿、あのような男よりもこのフィオ・ウダイの方がよっぽどアイラ殿にとって有為な人材っス。そうだアイラ殿、一緒に暮らしましょう。あの家はもうあいつの匂いがするっスからあいつに渡してしまって我が家にお越しください。ずっと楽しくなるっスよ」


「……ごめんね。それだとダンを守れないから無理だよ」


「アイラ殿ぉおお……どうしてなのですかぁああ……」


「ああ、もう、フィオ! 酒を飲み過ぎよ! リディア、オレステとの戦でガーレが勝った時のあいつを見た? 雑兵と一緒になって手を振り上げてガーレの名前を連呼してたのよ? もうそれの似合う事。ああ、こいつ本当に雑兵並みなんだなって誰もが納得する様子だったわ」


「なんだと? そうか……良い奴だったのか……。一騎打ちに俺を選ぶ慧眼もあるし、俺はあいつを見くびっていたのかもしれん」


「ガーレはちょっと黙ってて。それにダンの片手に盾、片手に剣って何よ。長物無しでどうやって騎馬相手と戦うつもりなのかしら」


「戦う気は無いんじゃないかな。とにかく怪我をしないようにあの装備を選んだんだって。僕も攻めるよりも守りばっかり教えてるし」


「何それ。つまり戦で剣を振るう気が無いって意味? 文官、武官、君主、全てに置いてリディアが仕える人間には思えない。それに草原族の奴らが来た時の態度! 獣人相手にあそこまで卑屈に出られるなんて見下げ果てたわ」


「いやいや、それが素晴らしい料理を作れたり、見た事も無い芸が出来たりと素晴らしく珍しい才を持っているのだ。あの料理、技術としては拙い物ではあったが味わった記憶の無い美味さがあった。しかし……草原族に対して其処まで卑屈であったのか。うーむ。ま、卑屈でないダンはダンではないか」


 なんと……あやつ料理など出来たのか。

 しかも、味わった記憶の無い美味さ?

 ……いかんな、食べたくなってきてしまったぞ。

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