実質侯爵となったカルマ2
今、文武百官を集めての褒賞式典が行われている。
私は仕事が無いので楽な物だ。
アイラさんの近くに座り、適当に周りへ合わせていただけ。
特筆すべき事があるとすれば……ガーレが褒賞を受け取りながら男泣きしていたくらいか。
カルマ勢力の存亡を賭けた戦で、武官として第一功を立てた。と、称えられたのが嬉しかったみたい。
何でも今まで第一功を与えられた経験が無いのだってさ。
そりゃ同じ軍にアイラさんとやたら優秀っぽいレイブンが居たら厳しいわ。
そのアイラさんは私の横でボーっとしてるけど……。
他の武将が褒めたたえられていても、何とも思って無さそう。
「……ダン」
「はい。何でしょうか」
「僕も、ご褒美が欲しいな」
え゛。
「あ、あの、功を発表する場では無しとするのをお話したと思いますが、嫌でしたか?」
「うん? それはどうでも良いよ」
「え、では、どんな褒美ですか?」
「ダンのあの料理。二か月以上食べてないでしょ。月に一回は食べたいのに……」
「お、おーう……えーと、今夜作りましょうか? ちょっと新しい食べ方を試してみます?」
「! うん! 凄く、楽しみだな」
今、痙攣したように尻尾が跳ね上がった……。
ぬぅ。天丼もどきと、カツ丼もどきはこの期待に応えられるだろうか?
元の物ならば絶対の力を持っているが……。
と不安になっている間に式典は終わっていた。
この後は特に何もないし、アイラさんの期待に応えられる食材を買いに行くか。
……うん? ラスティルさんがこっちに走って来る。
「おお、戦功第三位のラスティルさんではありませんか。おめでとう御座います。私もこっそりと鼻を高くしておりました」
「おや? ダンが今回の褒賞を決めたと思っていたのだが?」
「いいえ。中心となって決めたのはトーク姉妹ですよ。この軍で初めての大戦だというのに、第三功を得たのはラスティルさんの実力です。敬服致しました」
「ふむ。お膳立てし尽くされていた感もあるが。ま、主君を喜ばせられたのなら重畳か。それよりもダン、今日の夕餉は特別な献立でアイラをねぎらうのではないかな?」
「えっ。どうしてお分かりに?」
「リディアが教えてくれてな。アイラの喜ぶところがよく見えたのだと。まさか我等二人を遠ざけはせぬよな?」
リディアさん目ざと過ぎです……。
「勿論ですとも……。お二人の分も作っておいていいでしょうか?」
「うむ。それでよい」
という事で、二人分追加になった。
一応アイラさんが居なかった時に試作したけど、あまり自信を持てないというのに……。
少々不安な夕餉だったが、劣化天丼と劣化カツ丼は好評を得るのに成功した。
今回から追加された、青シソとミョウガの天ぷらが力を発揮したように思う。
うむ……先日戦場を歩き回った際に発見したのだ。
これぞ天の助けとあの時は手を振り上げてしまった。
野菜最強説もあるシソとミョウガの天ぷらを得て、喜びが抑えきれなかった……。
ただ成功は良いのだけど、今夜の夕餉では大変な苦労をした。
何故なら、冷めたドンブリは不味いと思い一杯ずつ作って出すようにしたのだが、アイラさんのお替りが凄まじい数になったのだ。
申し訳なさそうな顔をしながらも、決してお替りの要求をやめないとは流石アイラさん。
武士はくわねど高楊枝。なんて言葉から最も遠い所に居る人。
もしも冬に獣人の所へ行こうとしたら、何時もの三分の一まで食べる量を減らすよう忠告しなければならんな。
ここまで食料を食い荒らしたら本当に寝込みを襲われてしまう。
そのアイラさんの食事もやっと終わり、今皆でお茶を飲んでいる。
私はコソっとそのお茶で歯をゆすいでたり。
マナーが悪いと言われようが、歯の間に食べくずを残して虫歯は嫌でござる。
あ、そーだ。虫歯。この話をしないと。
「皆さん、食事の後と寝る前に歯を磨いていますか?」
「歯の間に物が挟まっていては不快ですゆえ、糸で取り除くくらいは致しますが……必ずという程では」
やっぱりそんなものか。
甘い物を殆ど食べないから、虫歯にはなり難いんだけど……。
「朝と昼、食事をしてから三十分後と夜寝るまえに必ず歯の間を糸で綺麗にし、更に布で歯を擦ってザラザラした感触を舌が感じない様にしてください。歯の根元までですよ? ただし乱暴にしてはいけません。優しく丁寧にです。アイラさんにはもう義務付けてあります」
「ダン……あれ面倒なんだけど。一日三回もしなくていい……うう……。ダン、その食事減らしますよという眼つき辞めてよ……分かった、分かったから……僕ちゃんと言われた通りにするから」
「拙者は嫌だ。面倒極まりない。だいたい何のために其処まで神経質になるのか理解しかねる」
「私も理解できない習慣を持ちたくはなく思います。その習慣に何か理由でもございますか?」
「しないと、歯に付いてる食べかすが腐って息が臭くなりますよ」
「「!」」
「誰かと話してて、口が臭いと思った記憶はありませんか? その要因の一つが歯に付いた食べかすです。私は美人が好きですけど、幾ら美人でも口が臭いと話したくなくなりますねぇ。皆さまと喋っていてそうなったかは……ご想像にお任せします」
実は口臭が気になる程近距離で話したりはしてなかったりする。
ただ、ラスティルさんの息が酒臭かったりはしたけども。
「一日で其処まで……いや、主君の言いつけとあれば、致し方ないな。分かった。言われた通りにしよう」
「……そうですな。我が君のお望みには逆らい難い」
「そうですか。有難うございますお二人とも」
うむ。文化が違えど世界が違えど女性は女性。臭いって言われたら嫌だよね。
わたしゃ歯を磨いて虫歯と口臭から君たちを守れれば、どんな動機でも一向に構わん。
「……ダンって……。怖いよね……。……えーと。あ、ダン、明日カルマから宴に呼ばれたんだ。行っていいかな?」
私が怖いとか何言ってんすか。しかし、宴? 戦勝の宴ってやつかね?
「拙者も呼ばれておる」
「私もです」
……私は、呼ばれてない。
うむ。当然であるな。
ふぁっきん。
「でしたら皆さんで行ってくると宜しいのでは? 近頃は忙しかったですし、楽しむといいと思います」
私を呼ばなかったのは離間工作かもしれないけど、別に良いんじゃないかな。
それよりも私に行動を制限されて、ストレスや反感を感じられる方が困る。
第一アイラさん以外は離間工作でどうこうなる人間とは思えない。
アイラさんは……ハメられてどうしようも無くなったりはしそうなんだよね。
私がしたみたいに。
ま、一緒にリディアが行くのなら問題ないっしょ。
もしも問題が起これば、リディアに二心ありってこった。
そうなれば抵抗は無駄である。運が良くても尻尾を巻いて逃げるのが限界さね。
「やはり我が君は呼ばれておりませんか。ここまであからさまなら、反応を見てる程度でしょう。抗議をすれば謝罪してくると思われますが、そうなされますか?」
「いやいやいやいやいやいや。冗談じゃありませんよ。どう考えても私は場違いです。私の過去や私にとってマズイ話をされては困りますが、楽しんできて頂ければと思います。カルマさん達と皆さんが親しくなるのは良い事です。宴を楽しんできてください」
呼ばれてないパーチーに参加とか冗談じゃねーよ。
三分の二は私に悪感情持ってんだぞ。
そんな所でおゴージャスなディナーを食べるよりも、カップ麺食った方がマシだろ。
勿論安藤百福さんは何処を探しても産まれてないので不可能だけども。
「ダン、主君としての器を大きく見せようと無理をしていないか? 素直になって良いのだぞ?」
「確実にダンの話題が出るというのに、その程度の口止め……何か裏取引でもなさいましたか?」
「……ダン、寂しくないの?」
……お前ら……私の評価どうなってんの?
それにしても貴方達、何時の間にかやたら仲良くなってません?
「とにかくバルカさん、貴方に任せます。私を褒めるのはやめてください。悪口はご自由に言っていいですから楽しんできてください。
私の意思を確認して下さったのは嬉しかったです。と、いう事でよろしいですね?」
もう面倒くさくなったので無理やり纏めるっすわクソったれ。
私の悪口で盛り上がってくれれば本望ズラ。
ただ、悪口の内容は聞きたくない。
美人三人からボロクソに言われてたら、流石に毛根へのダメージがある程悩んじゃうかもしれない。
知らぬが仏とはよく言ったものぞね。