実質侯爵となったカルマ1
戦いの後始末が大よそ終わった。
今日はトーク姉妹、リディア、私の四人が褒賞について話し合うために集まっている。
「とりあえずグレースさんの考える褒賞の順位を正直に教えてください」
「何故あたしからなのかしら。決定権を持つと言ってる貴方からの方がやり易いと思うのだけど」
うーぬ? 様子見から始める慎重さは親近感を覚える。
が、一度もやった事の無い論功行賞でいきなり意見ブッパとか無いですわ。
変な意見を言って、グレースが
『ちょっとアイラさん、たくの主君なんですけど、貴方の評価はレイブン以下ですってよ?
いえね、先日貴方の事が話題になったんザマスけども、その時……』
なんて言われたら堪らんがな。
「経験ある軍師の意見を、最初に聞きたくてもおかしくないでしょう?」
「……そうね。あたしの考えだと、上からリディア、ガーレ、ラスティル、グレース、アイラ、レイブン、フィオ、貴方って所ね。ただ、リディアの考えた策の内、四割以上を貴方が考えたのなら貴方が二番目よ」
「おや、思ったよりグレースさんの順番が低いですね。貴方が二番目だと思っていました」
武将二人はあの一騎打ちが評価されたのだろうが、客観的に考えてアレ無くても勝ってたと思うし。
今回は戦略の時点で勝ってたってやつ……あの程度なら戦術かな?
「……あたしは助言しただけよ。戦場で一騎打ちなんて危険をおかして、趨勢をこちらに引き寄せた二人が上なのは当然じゃない」
「はぁ、そんなものですか。バルカさん、カルマさんご意見はありますか?」
「いえ、御座いません。極めて妥当と考えます」
「ワシも同じ意見だ」
あ、マジでそんなもんなんだ……。
「分かりました。ではバルカさんを私の位置、アイラさんと私は発表する程の功無し、でお願いします。グレースさんが第一功となりますね。全ての策を考えたのはグレースさんだと発表しているのですから。ただし、金銀等の報奨物はおっしゃった順番どおりに与えてください。世間には実際の順番が知られないようにお願いします」
「っ! そんな事であたしの機嫌を取ってるつもり?! 貴方はどうだか知らないけど、あたしにはそれを屈辱と感じる程度の誇りがあるのだからね!」
「機嫌も何も、さっきも言いましたように策を考えたのは全てグレースさんだと発表してるじゃないですか。グレースさんの考えでは策を考えた人間が第一功なんでしょう? ならば貴方を第一功として発表して頂かないと困ります。ああ、何と言われようが大きな不都合がない限り、この案を譲る気はありません」
「チッ……それはそうだけど……貴方、功績の発表はその者の名声を上げると言う意味が大きいのよ? それじゃ褒賞が減ってるのと一緒だわ」
「私は名声に興味がありませんので、これでよいのです。アイラさんにも承諾を頂いてあるのですが……アイラさん配下の方が不満に思いますかね? 何とかなりませんか?」
いかん、今の今まで配下について考えていなかった。
自分たちを指揮する最強のアニキ……いや、アネキが不当な評価をされては、部下がブチ切れてもおかしくない。
「それはあたしの方で対処出来るわ。元からアイラには姉さんの身代わりみたいな事をさせていたから、功を発表してないし。所で貴方は配下よりも少なくしかもらえなくて良いのかしら?」
あ、そんな事もありましたね。
あの時は調整で苦労したのだろうか。
すまんねグレース、全く考えてなかったよ。
採用されると思ってなかったし。
「私も金銭はある程度貰わないと困りますが、領地の財産をある程度好きに使っても許して頂けるのでしょう?」
「……浪費したら許さないからね。最も今の所そんな様子が無くて安心してるのだけど」
「貧乏性なもので。浪費は出来ません。少なくともカルマさんよりは使いませんからご安心ください。バルカさんは何か要望がありませんか? 名を売りたくなったのなら、売ってよいと思います」
この人は本当に何考えてるか分からないから、常に意思を尊重しておかないと……。
問題は口に出した意思が、本心かどうかもさっぱり分からない事だ。
リディアも貴族だし、ごく当然の価値観として働きを評価されなかったら不満を持つとは思うがそれさえ確信はない。
「特には。グレース殿、私も今のところ名を広める気は御座いません。出来れば世には功無しとしたい。しかし采配を振るっている所を見られましたし、あれが全てグレース殿の指示通りだった。としてもフィオ殿の位置が限界でしょう」
「あんた達凄く変よ……なんでそんな所で似た者同士なの?」
「兄弟で御座いますし。当然では」
はっ!?
「お、おお? そなた達そうだったのか!? 見た目も才能も似てない兄弟であるな……ああ、だからダンは性格が……同情するべき点があるかもしれぬ……もしやそれで家名も貰えなかったのか? ……だとすれば、余りに哀れだが……」
ちょ、ちょっと。リディアさん真顔で言うからカルマさんが信じかけてますよ?
あ、グレースの方もどう判断すべきか悩んでるじゃねーか。
こんな荒唐無稽な話をしたのに信じさせかねないなんて、どーなってんだ怖すぎるぞ。
「い、いえ、そのような恐ろしい事実はありませんよ」
「しかし、今リディアが……」
「む? 勿論冗談ですが。そうだったら良いな、という希望があらわれた健気な臣下の発言と言えましょう。しかし、そうですか。我々は似ておりますか……」
まさか信じられる程似ているとは気づいておりませなんだ。とか言ってるけど……。
……健気?
いや、まぁ……そういう解釈も何かの哲学では在り得るのか?
「い、今のが冗談? リディア……貴方何でも出来ると思ってたけど……これから冗談を言う時には周りへの影響を考えてもらえないかしら?」
「うむ? でしたら私がダンと兄弟でも世は事も無し。問題無いのでは?」
「……そうね。あたしが悪かったわ」
あ、待って。其処で納得しないで。
「ちょ、ちょっとグレースさん、カルマさん、今のままではバルカさんと私が似ていると貴方方が思ってる事になりますよ! 良いんですかそんな誤解を放って置いて! 実は激怒してるかもしれませんよこの人!」
「お、おお。それは不味い。いや、リディアよ。そなたとダンは全く似ておらぬ。誤解の無いように頼む。な、グレース?」
「え、ええ。そうね。全く似てないわ」
「おや、そうですか。似てる所が何処か思索にふけっていましたのに……残念ですな」
……本当に残念なん? 貴方が何か私に似たら劣化するよ?
稀にあるコレ、本当疲れますわ……しかし無いよりはいい気がしてる今日この頃だったりする。
少しは変な所があってくれた方が、私も安心できるのだ。
えーと、何かグレースにお願いがあったよーな……、今ので忘れてしまったぞ。
……あ、思い出した。
「今後なんですがグレースさん、周囲の諸侯を調べ始めて頂けませんか。何処を調べるかは任せます。ただラスティルさんがとても高く評価していたユリア・ケイという領主……いや、真田総一郎の方だったかな? あやふやですみませんがどちらかがヘインに居るそうです。手間でなければ一応調べてください」
何故これを忘れたのか。
少しでも早く真田の情報が欲しい。と、何時も思っていたのに。
ここに居る理由の七割を忘れるとは……若年性健忘症なのか、リディア ザ インパクトが酷かったのか。
「分かったわ。確かにそろそろ先を考えるべき時だし」
このグレースの言葉で会議は終わった。
二百名もの方から評価を頂きました。
有難うございます。