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カルマがランドに赴いた影響30

「ご配慮感謝。しかし、決定権を私にという条件を変える気はありません。カルマさんも貴方も、誇り、物事の筋、道徳、常識。そんな物によって、一番効率の良い判断を却下する方です。それじゃあ、この乱世では生きて行けません。だというのに、カルマさんを長にしてしまっては、アイラさんへの不義理となりますから」


「じゃあ貴方なら、姉さんよりも正しい判断が出来るって言うの? 下級官吏ごときが身の程を知りなさい」


 そこで不快そうな様子を見せるから、お前は死にかけたんだよグレース。

 その上その下級官吏程度の助力が無いと、生きて行けない状態になっちまったのさ。

 本人も理解はしてるだろうけど……不快感を表情に出すようではリディアに及ばんなぁ。


「判断するのは私じゃありませんよ? グレースさんとリディアさんになるでしょう。私は貴方達に毎回『それは、最も有効な手段ですか?』と尋ねるだけ。貴方達にカルマさんの誇りがクソに塗れようとも関係なく、最も有効な手段を話し合って貰うために私が居ます」


 お前たちが欲か何かに踊っちまうクソ間抜けだから、私が出る羽目になった。

 出る羽目になった以上、私の意思を混ぜて有効活用させてもらうが、それはお前たちの命の代金さ。

 ま、当然私にとっては多方面で不安定な状態だ。だが、問題無い。

 崩れるかどうか、察知出来るように動いていく。


「よくも姉さんの誇りを其処までけなしてくれたわね……あたしはやっぱり貴方が嫌いよ」


「それは残念極まります。私はグレースさんもカルマさんも好きですのに」


 あらまぁ、不快そうな表情。

 当然だが嫌われてしもーたのぅ。

 ま、どうでもいいんだけどね。


 さて、戦場の方は何とか最も危ない時間を凌いだようだ。

 通常時間が経てば経つほど少数の方が不利。

 しかし戦場を広く使い、下がりながら守り続けてる間に相手の動きが最初よりももっとバラバラになっている。

 やはり睡眠不足は全てに影響するな。


 そしてリディアが決定を下したのか、こちらの軍が全面攻勢に出た。

 全ての将軍が配下を率いて突撃している。

 武器を持つのも辛そうな相手への精鋭の突撃は、惨いとしか言えない状態を作り出した。

 一般の兵でさえ武将に見えるような活躍をしている。

 あれだなー、凄すぎて簡単に見えるの亜種だなー。


「……ねぇ、貴方」


「はい?」


「こんな戦術どこで学んだの」


「これはバルカさんの考えですよ? 私に聞かれても困ります」


「こんな戦い方、あたしが学んだどの兵法書にも書いてないわ。幾らリディアだからってほぼ初陣でこんな策を考えるのは無理。だから考えたとしたら貴方よ」


 ……え、そうなの?

 あの山ほどある戦術書に同じようなの書いてないの?

 困ったな。

 ……ま、私が考えたという証拠はあるまいて。


「そう言われましても……バルカさんの功績を私の物と言うなんて恐ろしすぎます。どうか誤解の無いようにお願いしますね?」


「そう……どうしても教えてくれないのね。……凄く知りたかったのに。仕方ない、か。今回貴方のお陰で皆が命を拾ったのは事実。だから許してあげる」


「あの、それ、バルカさんにこそ言ってください。絶対ですよ?」


「……そうするわ。後は草原族との交渉か。大丈夫なのかしら?」


「ええ……たぶん。この後もう一軍と戦い、そのまま両方の領地を取るのでしたよね? 草原族の方は敵の兵糧と武具を欲しがると思いますが、どんな条件が望ましいのでしょうか?」


「ここでの物は……八割渡していいわ。でもウバルトの分は六割貰わないと厳しい」


 戦いが終わった後の話が出るくらいに戦場は有利、いや、勝ちが確定していた。

 そのまま何も起こらず、敵の総大将であるオレステが捕らえられて戦いが終わった。

 逃げようとはしたみたいだけど、馬も睡眠不足だったのか大して苦労せずに捕まえられた模様である。

 ていうか、領主自ら出陣してたんかい……。

 間違いなく勝つと思ったんだろうなぁ。

 人生の落とし穴に嵌って可哀想。

 掘ったの私だけど。



 戦いが終わり、後始末についてカルマとリディアが話し合っているのを聞いていると、草原族が五人ほど馬に乗ってこちらへ来るのが見えた。

 遠くで兵達が止めた後、こちらを見たのでグレースが通すようにと仕草で伝える。

 私は彼らを迎える為に、そちらへ歩いて行く。


 先頭に立っている人間は知らない奴だ。

 黒光りする筋肉をムッキムキ見せつつ、こちらを見下しているとはっきり分かる笑みを浮かべている。

 私には分かる。これは……逸材だ。


「おい、ダンとかいう奴を出せ。そいつと交渉しろと言われている」


 お、おお。馬上からそのままか。

 素晴らしい……マーベラスだよ君。

 私は幾らか大げさに頭をさげて上位者に対する態度を取る。……お、おお……ちょー嬉しそう……。

 一応は耳尖がってる私が、おもいっきり下手に出てるからだろうか?

 あーゆーはっぴーなうー?


「はっ。私がダンです。そちらの要求を教えてくださいませ」


「お前が? お前のような貧相な奴を出すとは、我等草原族を舐めているのか?」


「とんでも御座いません。私の見た目がお気に触るのでしたら申し訳ありませんが、カルマ様より直々にお話を聞くように言いつけられております。カルマ様は陣頭指揮を執りお疲れなのです。どうかお許しを。それで、ご要望は何でしょうか?」


「くか……ペッ。要求な……。此処での物を全てともう片方では八割の食料と武器を貰おう。お前たちが勝てたのは全て我々のお陰だというのに、二割もくれてやるのだ。感謝しろ」


 あ、こいつ今自分の考えで、ジョルグさんから言われた分より増やしたな。

 この男……やはり逸材か。

 こんな人材をお持ちとはオウランさんお疲れさまっす。


「申し訳ありません、ここの分は八割取って頂いて結構です。ですが、ウバルトの分は八割頂きたく思います」


 私は深く頭を下げて請い願う感じで言った。

 グレースは六割と言ったけど、余裕が欲しいので増やしておく。

 それを聞いた筋肉な逸材さんは剣に手を……おいおいマジかよ。

 ……あ、横に居る人以前護衛してくれた人だ……やっぱりジョルグさん『100個お願いしてもだいじょーぶっ!』ってやつだな。

 

「なんだと? 我々と同じ分を要求したのか? お前のような奴が俺を舐めたらどうなるか……身の程を教えてやるべきか今俺は悩んでいるぞ?」


 この人すっごく嬉しそう。

 うーん、其処は俺じゃなくてジョルグ様とか言うべきじゃないですかね。

 Youグレィト過ぎてオレ困っちゃうってばよ。


 困っていてもしゃーないしとりあえず私は、頭で地面にマーキングしながらゴマをすり始める。

 どうしてそんな屈辱的なポーズを取るのかと聞かれれば、私は次のように答えよう。

 何故ならそうするのが私のダン道だから。と。


「この戦、皆様のお陰を持ちまして勝てたのは重々承知しております。しかしお考えいただきいたいのです。皆さまも戦いの前には馬を肥え太らせて長く走れるようにされるとお聞きします。同じように我等も太らせて頂けなければ走れません。この恩はきっとどこかでお返しいたしますので、どうかジョルグ様へよろしくお伝えくださいませ」


「口ばかり良くまわるやつだ。だがなぁ、俺は口だけの奴が大嫌いだ……。決めたぞ。お前を斬ってカルマに同じ格好をさせてくれよう」


 おっとー。動けるように姿勢を正

「おい」

 お、おお……良いタイミングだ護衛の兄さん。

 もうちょっとで飛び退って逃げる所だったぜ。

 しかし、事前に打ち合わせしておくべきだった……まさかここまでの逸材だとは……少し危なかったわコレ。


「自分たちが言いつけられたのは、こいつらの言い分を聞いてこいとだけだ。後はジョルグ様達が判断する。帰るぞ」


「し、しかし! この腐りエルフを斬って我等の強さを教え、カルマからより多くを取った方がよいではありませんか! 俺にお任せ頂ければ、必ずお言いつけよりも多くを!」


「ん……? もしかしてお前、今自分に。いや、ジョルグ様に逆らうと言ったのか? 自分への挑戦ならばこの場で受けてもいいが……ジョルグ様に挑むのなら、自分は巻き込まないでくれよ? そこのダンとか言うやつ、もしもの時は今の会話証言をしろ」


「はっ? いえ、はい。お言いつけのままに」


 挑戦って……なんじゃらほい。えーと、あ、逸材さんの顔色がドドメ色に。

 尻尾が巻かれて足の間から前に出てる……ついさっきまで意気揚々とピン立ちしてたのに。

 ……ジョルグさんってそんなに怖いんだ……。

 良い人だと思うけどなぁ。私にとっては欠かせない人だし。


「ま、まさか……そんな。ご、誤解です。す、すぐ帰ります。……お、おい。そこの腐りエルフ野郎。半分など通らんからな。もう片方の二割だけで何とかする方法を考えておけよ。それとお前のようなゴミが助かったのはこちらの方のお陰だ。礼を言ったらどうだクソエルフが」


 はいはい。クソエルフは仰る通りに致します。


「はっ。獣人にして強者である皆様の威に当てられ、縮こまっておりました。貴方様、私を気遣って下さり誠に有難うございます。宜しければ恩人のお名前を教えて頂けないでしょうか?」


 そう言いつつ、頭を下げ、そして頭を上げると……。

 ……あ、困ってる。

 どうもアドリブが過ぎたみたい……。

 い、いかん。逸材が剣を抜きそうになった時よりよっぽど怖い。

 私の表情大丈夫か? 今段々顔色が悪くなってないか?


「か」


 か?


「勘違いするな。お前のような情けない奴は自分も……嫌いだ。ジョルグ様の命令が無ければ、こいつと同じことをしてたかもしれんぞ。しかも名前だと? お前に教えてやれるほど自分の名前は……名前は軽く……ない」


「は、ははぁっ! 失礼致しましたっ!」


 よ、よし。良く言ったぞ。それでいいんだ護衛の兄ちゃん。

 ……あ、大きく息を吐くのを我慢してる。私もそうだから良く分かる。

 う、うーむ。こっちは相応しくない人材だったか……。すまん。

 いや、悪いのは指名したジョルグさんだ。

 文句はあっちに言ってくれ。


「何処までも情けない腐りエルフ野郎だ。良いな、二割だぞ」


 最後にそう言ってドヤ顔を見せた後、逸材は去っていった。

 結局誰も馬を下りなかったな。

 どうもレジェンダリー逸材の中で、ここの分全てが手に入るのは決定事項のようだ。


 ……ま、多分大丈夫っしょ。

 私の要求を呑まないつもりなら、護衛の兄さんを態々付けたりはすまい。

 お? グレースさんが不満そうな表情でこちらにいらっしゃった。


「貴方、滅茶苦茶舐められてるじゃない。しかもあんな下手に出て……ある程度の兵糧を確保できないと、片方の領地を手に入れた所で動けなくなっちゃうのよ?」


「そうですね……困りました。私たちにも兵糧が必要なのは、ジョルグ様が賢ければおわかりでしょうし……賢い方であるのを願いましょう」


「願うって……あんたジョルグがどんな人間か知らないの?」


「お世話になった時挨拶くらいはしましたけど、それだけですから」


「……貴方を交渉役にしたのは失敗だったかしら」


「すみません。でも一応こちらの要望は伝えられました。あちらの返事が良く無かったら、今度はグレースさんにお願いします」


「はぁ……分かったわ。全く……見直したらこれなんだから」


 うむ。

 この反応を待っていた。

 しかし、今みたいなやつが交渉役として来るのに違和感を感じないとは……。

 ケイ帝国人にあらねば蛮族である。という話は偶に聞くけど、もしかして獣人の平均評価って逸材さんくらいなのかね?


 所でリディアは今の見てどう感じたのかなー。

 ちょいと離れてるが何とか見える表情を見てみる。

 …………私が悪かった。何か読み取れるなんて自分を勘違いした痛い子だった。

 ……今ので、大した影響力は無いと思ってくれないと困るんだけど……直接リディアの前でそんな感じの言葉を弄しても墓穴掘るだけだろうなぁ……難しい。


 さて戦利品がどのように分けられるか彼が素晴らしすぎて私は少し不安になっていたが、暫く待つと向こうから私が言ったとおりで良いと返事が返って来た。

 それを聞いて私とグレースは安堵の息。

 その分戦後の見返りに期待している。と、付け加えられた時にはグレースの表情が引き攣っていたが。


 この後は全てが計画通りに行った。

 ウバルトの軍相手でも、オレステ相手の時と全く同じようにして勝った。

 草原族からレスターを狙う別動隊は全く存在してないとの報告を受けてオレステで減った兵の分、フィオが1500の兵を連れて援軍として来たお陰で幾らか楽だったとさえ言える。

 ジョルグさんの援護さえ必要無く終わった。


 違いがあるとすれば、一騎打ちをしたのがラスティルさんだった事くらいか。

 槍の一突きで殺すとという凄く地味であっさりとした勝ち方だったため、兵士の盛り上がりは今一。

 その所為でラスティルさんにしては珍しくブチブチと愚痴ってました。

 槍とはそういう物だ、とか、武について兵達が分かってないとか……。


 勝ったからいーじゃんって思う私です。

 勿論口に出したりはしない。

 私がどれだけラスティルさんの強さを素晴らしく思い、頼りにしてるか口を酸っぱく……では忠告だな。とにかく頑張って褒めた。


 驚いた事にウバルトもウバルト自らの出陣で、兵のほぼ全てを率いてやってきていた。

 何でもビビアナから競争を煽られていたらしく、両人とも自ら兵を率いて出る必要を感じていたようだ。


 結果としては両方が負け捕らえられた訳で、殆ど兵の居ない二人の領地を取るのは至極簡単であった。

 

 領地を取った後は、個別に領地運営に必要な情報を聞き出す作業が始まる。

 話すのを拒否した者、他の者と話が食い違う者などは拷問して情報を聞き出す。

 そして一定以上の立場を持つ武将、特に私達と戦った武将はどういう風に戦ったかを秘匿する為に処刑と私が決めた。

 拷問と処刑は老若男女の区別なく行い、出来るだけ私も手伝った。


 ……ま、楽しくは無かったな。

 私の体臭が少々ゲロ臭くなってしまったし。

 ただ、どうも近頃の私はヌルイ気がしてならない。

 今回も大量の人間にトドメを刺して回ったが、これは相手が喜ぶ行為だ。

 相手が嫌がる行為への耐性を上げる為に、今後とも機会があれば拷問に参加しなければと思う。

 日本に居た頃は守られていた。そうしみじみと感じている。


 文官は殆どそのままカルマの配下となった。

 でないと領地運営が出来ないのだ。


 終わってみれば、都落ちから三か月ほどでカルマの領地は二倍になり、カルマは実質侯爵となった。

 ただし辺境の貧しい地域のみの侯爵だから、所有している金銭と兵で考えると侯爵最弱だと聞いている。

 まぁ、侯爵ってだけで凄いのだけど。

 これによりバルカ家の領地と隣接したらしい。

 するとリディアが動いて、あっさりとカルマ領にしてしまった。

 私は会ってないが、リディアの姉がカルマへ挨拶に来たそうだ。

 リディアの事もあるので、建前のみの配下と思われる。


 これらの結果によりかなり領地が広がった。

 しかしその所為でビビアナの居るランドまでは、黄河しか隔ててくれるものが無くなってしまった。

 現在ビビアナはランドで忙しく、これ以上こちらの相手はしていられないだろう。

 何とか上手く付き合いたいね。

 地盤の強さが違い過ぎて、ビビアナと戦ってはこれだけ苦労して助けたカルマがテレッテーしてしまう。


 戦う前から勝敗は決まっている。と言えるほどの差。

 となれば、ビビアナを喜ばせる方法を考えなければなるまい。

 リディア……信じてるぞ。私は思い浮かばないからな。

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