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カルマがランドに赴いた影響29

 ガーレと、敵のエツホウを鼓舞しようとそれぞれの兵達が声を上げ、太鼓を打ち鳴らす。


 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドドンッ!!

『おうっおうっおうっおうっおうっおうっおおおおお!!!』


 太鼓が鳴り終わると同時に、お互いがゆっくりと前進を始めた。

 敵は槍で突いてくる構えを見せている。

 やっぱり槍の突きの方が先に届くよな。ガーレ頼むぞちゃんと避けてくれよ。

 来る、来る、来る、顔に来た!

 

 相手の突きを、ガーレは殆ど顔だけを動かして避けた。

 お、おま、そんな大物な避け方してないでもっとしっかりと……と私が思ってる間にガーレは斧の刃が付いてない方を突き出し、相手の腹に当てた。

 え、本当にそれ当てただけだよね、どーすんのそれ。相手貴方の斧無視して槍を振りかぶって……。


 と私が考えるのとほぼ同時にエツホウの体が垂直に吹き飛んだ。


 ……は?

 え、なんでどうして人一人が3メートルは上に飛ぶの?

 あ、魔力で身体強化したらあんなん出来るのか? そう言えばアイラさんもあれ位吹き飛ばしてたような……。

 それとも、単なる筋肉? 筋肉に不可能は無いの?

 ……筋肉かも。筋肉で腰痛があっても慣性の法則を無視する変な金メダリストが日本にも居たし。

 だが……筋肉といえど人を3メートル吹き飛ばすには、100パーセント中の100パーセントを出せるようにならないと厳しいような……。


 などと私が常識に逆らう光景を見て苦しんでる間に、エツホウは物理法則にしたがって落ちて来た。

 当然身動きは出来ない。


 そして、その下で待っていたガーレが下からすくい上げるように斧を振り上げ、空中にあるエツホウの体を両断する。


 肉の砕ける異音を出しながら、大きな血の花が空中に咲いた。

 いや、血が噴火したと言った方が近いかもしれない。

 この光景は戦場の何処に居ても見えただろう。


 汚ねぇ花火だ……。人がキウイのようになっちまった……。


 ……。

 凄いっす! つえーぞガーレ! かっけーぞ!

 凄まじい勝ち方を見てこっちの兵と私は大興奮である。


 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドドンッッ!!

『ガーレ! ガーレ! ガーレ! ガーレェエ!!』


 ふぅ……。

 思わず私も一緒になって叫んでしまったわ。

 地味で何時も他の将軍の風下に置かれてる感じの力自慢に、こんな見せ場があるなんて。

 指名して本当によかった。

 我ながらいい判断だったなぁ。

 ガーレが誇らしげに兵達へ応えてるのを見ていると、嬉しくなってくるね。


「いやぁ素晴らしいですねガーレさんは。それでグレースさん、これからどうするのか教えて頂けませんか? 出来ましたら後学のために理由も教えて頂ければ有り難いです」


「何故あたしが貴方に教えないといけないのかしら?」


「いけないなんて事は。ただ教えを請うているのです。バルカさんは指揮を考えるのに忙しそうで邪魔をしたくありません」


「……仕方ないわね。命令するなんて言ってる人間が何も分かってないのでは不安だし……。と言っても暫くは弓を射かけるのと、防御を固めて様子をみるだけよ。動くのは策がどれだけ効果を発揮してるか見極めてからになる」


 見ればグレースが教えてくれた通りこちらは動いていた。

 盾を持った兵が隊列を組み、その後ろに弓兵が並んで弓を射かけている。


「てっきりガーレさんが勝って上がった士気を活用して、もう少し積極的に行くのだと思っていました」


 いや……自分で言っておいて何だけど、無謀かも?

 兵数差二倍は士気の問題をこえていそう……でも、受け身だと包まれて終わるような。


「確かに一撃する手もあるわ。凄まじく派手にやってくれて相手は怯えていたしね。でも、この後もう一戦控えてるのを忘れてない? 第一あたし達の存亡を賭けた戦いなのだから、慎重になって当然でしょう。むしろ何時も臆病な貴方がそんなに余裕を持ってるのに違和感を感じるのだけど」


 そりゃ負けそうなら直ぐ逃げる気だからです。


「戦場の興奮に当てられてるのかもしれません。しかし、敵の様子はやはりおかしいですけど、それでも……二倍は厳しそうですね」


 敵の動きはバラバラで、明らかに疲れている。

 しかし、それでもこっちが包まれてしまいそうだ。

 この状態は悪いよーな気がする……。


「そうね……貴方とリディアの考えた策は想定以上に効果があったけど……何とか時間を稼ぎたいわ。そうすれば相手が疲れてより策の効果が出る……」


「あのー一応申し上げますと、私の考えた分なんて殆どありません。ここは流石リディア・バルカと言うべきです」


「貴方、あたしを馬鹿だと思ってない? 幾らなんでもリディアが完全に無能な奴の配下になったりしないでしょうが」


 その意見には同意しかねる。リディアの考えを決めつけるよりも馬鹿な考えは無いと私は断言するぜ。


「はぁ、そうですね。しかしそのバルカさんに助言できる程、私に能力があると考えるのも無理があると思いますけどねぇ」


「人がせっかく褒めてやろうと思ったのに貴方って……貴方が何を考えてるかあたしにはさっぱり分からないわ」


「あ、褒めてくださろうとしてたのですか、有難うございます。でも、能力を誤解されると不幸があると思いますから……すみません」


「変な所で腰の低い男ね……所で、貴方アイラがそばに居ない状態であたしの近くに居て大丈夫なのかしら? 貴方を捕らえようとするかもしれないわよ?」


「私に害を加えたら、三人とも報復をして下さるそうですし。それに交渉役である私に危害を加えれば、草原族も強い不信感を持つでしょう。グレースさんがそんな愚行をするとは思えません」


「……貴方、人の感謝の念を砕く才能に溢れすぎじゃない? 段々貴方が横に立ってるのがいとわしくなって来た……あ、本格的に不味いわね……でも手が思い浮かばない……。んっ!? 何あの騎馬隊!?」


 あ、草原族の人達だ。

 三千程かな? お願いした通り危険の少なそうな場所を選んで馬に乗ったまま移動しつつ、矢でちょっかいをかけてくれている。

 ……うん? あ、敵の後方にある兵糧を奪いに行ってる……。

 でも血相を変えた敵の一部隊が追いかけて殆ど取れてない。そのまま撤退して行っちゃった。

 三十分程しか戦ってないな。

 だが、その間にグレースとリディアが色々指示を飛ばしたようだ。

 崩れそうになっていた戦列が整っている。

 あー、あれか。兵糧を奪いに行ったのはカモフラージュの一貫か?


 ほへー、ジョルグさん頭いいのぅ。

 獣人と言えば食料である。種もみも奪いかねない勢いだ。と、ケイ帝国の人間なら誰もが思う……んじゃないかな。

 実際は違うらしい。

 賢い氏族ならば最低でもバス代を残す程度しかカツアゲしないのだと、昔オウランさんが教えてくれた。

 そいつらが生きて大地という親から食料というお駄賃を貰ってくれば、またカツアゲ出来るからね。


 これで大よその諸侯は、相当調べても軍隊の兵糧目当てに襲ってたと思うんじゃないかなー?

 どういった話が通ってるか知ってるのは、軍師連中だけ。

 殆どの兵隊に至っては草原族と連携してるのも知らないから、聞き込みしても真実には辿り着けまい。

 食料を渡すのも直接ではなくて、草原族の予定待機地に食料を置いておくなどと知恵を絞りましたわ。

 最低でも協力関係の親密さについては、諸侯が悩んでくれるはずだ。


「何……あれ。あ、貴方があれを頼んでくれたの?」


「まさか! 多分ですけど、ジョルグ様達としてもこっちが勝たないと何も貰えないわけで。トーク様が勝つように一押ししたかったんじゃないですか? あるいは負けても良いように最低限の戦利品を確保しておきたかったのかも」


「両方ともありそうだけど……機を計ったかのように現れたわね。この働きの分も求められるのかしら?」


「さぁ……多分死人は出てませんから……って、グレースさん又崩れそうにみえるのですが……」


「分かってるわよ……でも……これは必要経費じゃないかしら。もう少しで反転攻勢に移れそう。あ、リディア。貴方指揮があるでしょう。何をしに来たの」


「援軍の要請に。相手の動きが鈍って来たのはお分かりであろう。しかし兵が足りず少々打撃を食らいかねない。ゆえにカルマ殿に出陣して頂こうと思う。グレース殿、カルマ殿にお伝え願いたい。右翼で幾らか時間稼ぎをして頂きたいと」


 え、大将自らのご出陣? カルマは……あれ? 高所で大将らしく全体を見てたのにこっちに歩いて来てる。


「はっ!? 駄目に決まってるでしょ! 貴方ねぇ、もしや姉さんの命を狙ってるのじゃないでしょうね。念のために言っておくけど、兵達は皆姉さんに付いて来てるのよ。姉さんが死んだら全軍潰走間違い無しだと分かってるのかしら?」


「承知しているとも。カルマ殿に害意があるというのは邪推だグレース殿。それに貴方もわかってるはず。この後の戦いも考えれば、カルマ殿と近衛500に出て貰うのが最も良いと」


「ああ、ワシもそう思う。グレース、お前は過保護すぎる。これで負ければワシの首は飛ぶのだぞ」


「ね、姉さん、でも、相手の方が遥かに兵数が多い場面で大将が出るなんて……」


「だからこそだろう。それに敵の動きは非常に鈍い。馬に乗って矢を射る程度の距離ならば危険も少なかろうて。リディア、右翼の敵を抑えれば良いのだな?」


「はい。賢明であらせられますカルマ殿。無理は必要御座いません。しかし、貴方にとってもここは正念場と言えましょう」


「正にな。では行ってくる。グレース、ワシの活躍を見せてやるぞ」


「……武運を祈るわカルマ様」


 目の前で雲上人達が決断を下し、カルマが兵500を率いて右翼の援護に行った。

 本陣跡に残ったのは、私達三人と遠くに幾らかの伝令兵のみ。

 あ、カルマが到着してこっちの軍全体が目に見えて引き締まった。

 大した影響力だ。


 カルマはそれで下がることなく、兵達を壁にして馬に乗ったまま矢を放ち始めた。

 あ、当てた。え、また当てた。何これ凄い。相手50メートルは先に居るんですけど。

 そして、大将が自ら矢を放ち当てれば……

 自軍の士気40、43、46……し、信じられん!! まだ上がっている!! という現象が目に見えて起こっている。

 はー、大したもんだね御大将は。


「おお……これは凄い。カルマさんは内政関連もかなりこなされると聞きます。それなのに、兵を率いてあれ程活躍なさるなんて」


 って両手を震える位握りしめてて、私の戯言を聞く余裕無さそうっすね……。

 でもこれなら大丈夫じゃね? 相手カルマまで突進してくる余力無さそうよ?


「良かった……大丈夫そうね……。あ、うん……や、やっと姉さんが傑物だと知ったのかしら? その姉さんから決定権を奪うのがどれ程身の程知らずか分かったのなら、配下になるのを勧めるわよ。これで勝てば素晴らしい功績。貴方だってフィオと同格程度には遇してもいい」


 と、取り繕いグレースがこちらを真面目な顔をして見ながら言ってきた。

 おやまぁ、謀反同然と怒って当然だというのに許してくれるのかい?

 何時か余裕が出来た時に私の首を飛ばす気かもしれんが、中々お優しいこって。

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