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カルマがランドに赴いた影響28

 軍議の日から誰もが忙しく働いている。

 私も忙しい。軍師達の仕事を脇に見つつ、与えられた雑用をしている。

 頭の良い人たちの仕事を横目で見られて、中々楽しい毎日だ。


 さてリディアが作った草案だが、やはり穴があった。

 地理に明るくない為に、幾つも手直しが必要となっている。

 ま、当然だな。こっちに来て一年も経ってないし、殆どレスターに引き籠ってたのだから。


 それに対してグレースとフィオは凄い。

 二人とも領土全てを自分の庭みたいに把握してる。

 長年此処に住み、毎年毎年獣人を相手として戦ってきただけはある。

 これが防衛側の有利な点かと、感心しきりだ。


 グレースの有能さは想像の範囲内だったけど、フィオの有能さは想定を超えていた。

 残念な奴だと思っていたのに、地形の把握、軍の状態、動くのに掛かる日数の算定、草原族を案内する人間の選出など、下手したらリディアよりも戦力となっている。

 グレースはジモッティだから当然だとしても、フィオは此処で働いてまだ四年程度だったはず。

 認め難いが、彼女も私程度では及びも付かない有能な人間だったらしい。

 認め難いけど。


 将軍達も予想進軍ルートに住んでいる人々を避難させたり、戦場予定地の視察などで忙しくしている。

 

 そんな日々が一か月続き、ついにオレステとウバルトの軍がこちらへ侵攻を開始したとの報告が来た。


 さぁ、私の考えが素人の浅知恵かどうかが分かる。

 いや……どれだけ穴があっても、有能な皆さんが何とかしてしまうかな?

 いずれにしても見物すわ。楽しませてもらおう。




 一週間が経った。

 ウバルトの軍が山岳部を抜けてレスターのある平原に入って来た。

 これから一週間で勝敗が決まるだろう。

 オレステの軍は一日遅れで平原に入って来るようだが、こちらは侵入地点がよりレスターに近い。

 両軍ともに平原へ入った後一日進軍させ、それから草原族の部隊が二十四時間張り付くてはずになっている。


 草原族の仕事は相手の動きを把握しつつ、遠くからドラや太鼓を夜通し鳴らして眠らせない事だ。

 軽装かつ替え馬も用意してあるのだから、歩兵中心である両軍は伏兵も難しい平原では何も出来ない……と思っている。


 ただ相手が合流してしまうと、兵の数が違い過ぎて面倒になるかもしれない。

 ここまで無人の野を行くが如し。と、好調だったのだから、こちらを甘く見てくれれば有り難いのだけど。



 オレステの軍がレスターまで三日の位置に近づいたと草原族が伝えて来た。

 草原族の影響を考えない進軍速度よりも一日以上遠い位置だ。

 遠くから見ても様子がおかしい。との報告も上がっている。

 様子がおかしいのは睡眠不足の影響だろう。

 どうやら上手く行っているようだ。


 ウバルトの方も進軍速度が落ちていると聞いている。

 この情報により、軍師達がレスターに兵1500とフィオだけを残し、8000の兵でオレステと戦うのを決定した。


 いよいよ殺し合いが始まる。

 私も草原族との交渉担当として付いていかなければならない。

 戦う時オレステ達は五日の間殆ど眠れてないはず。

 それならば15000居ても8000で勝てる……といいなぁ。


 やはり数の差を考えると、観戦勢ながらも少量の不安が込み上げて来る。

 負けた場合はさっさと逃げて欲しいと三人にお願いした。

 しかし、リディアはともかく残り二人は逃げるかとても怪しい。

 この話をした時なんて、報告を聞くに負けようがないなんて二人とも言ってたし。

 どんな時でも退路の確保は必須。そう思うんだけど……ここの文化では受け入れて貰えない思考の模様。

 皆超強気なんだもん。味方が爆発すると気力が+2されちゃうやつだ。

 ションボリである。




---



 オレステの軍を視界に収めた時、相手は陣地から出て来て隊列を組んでいる所だった。

 ただ、動きが鈍いように見える。

 相手の陣形が整う前に攻めたかったが、流石にそれ程の余裕は無いとリディアが判断したようで、こちらも陣形を整えだした。


 相手との距離が近づいたので、様子がよく見えだす。

 うむ……作戦は間違いなく成功している。

 昔日本に居た頃、稀に鏡に映った顔と同じような顔が見えるのだ。

 眠すぎて口数まで減っちゃう状態だな。


 しかし何名か居る立派な恰好の武将らしき人間は元気そう。

 武将ともなれば何か違うのかな?

 あるいは何とかして、彼らだけでも眠れる環境を作ったのだろうか。


 そんな考えを巡らせていると、一人の武将が前に出て来た。


「我が名はエツホウ! 天下に並ぶもの無き槍の名手である! ランドにて専横を極めた天罰により病を得たカルマとその一党どもめ! 我が槍の餌食になりたい者は前に出よ! 世の広さを教えてくれよう!」


 ははー。本当に一騎打ちとかやるんだ。

 日本に居た頃から、そういった映画を見る度に一騎うちとか悠長だなぁと思ってたけど……めっちゃ盛り上がってるじゃん。

 確かにこれだけ兵の士気が変化するなら、やる価値はあるのか。

 して……こちらの皆さまの反応は?


「某だ! 是非某に! 強者とやる機会は譲れぬ! グレース殿、某ならば必ず勝利出来るでござる!」


「いや、奴は天下に並ぶもの無き槍の使い手などとほざきおった。あれは拙者への挑戦だ。ならば拙者が出なければ義理を欠き申す!」


「何を言うか! 滅亡の掛かった一戦でお前たちのように浮かれた考えの者を出せるか! 俺が出る。我が戦斧で砕いてくれるようぞ!」


 おお……半額シールが張られ始めてる食品売り場みたいな争いが。

 ……ちと不謹慎だったか。

 あれ? でもアイラさんが居ない? 何処に……あ。


「あ、アイラさん……護衛有難うございます。背中を守ってくれてたんですか?」


「うん。僕配下だし。一応ね」


「えーと、アイラさんはやりたくないのですか?」


「うん? 興味無いかな。だって、あいつ弱いよ」


「え……そうなんですか? じゃあ、こちらの三人なら誰でも確実に勝てます?」


 こっくり頷いてる。

 可愛い。


 いや、えーと、本当? 目の所に何も機械付けてないけど……分かるの?

 ってこの人はこんな嘘を言ったりはしないよね。じゃあ安心だな。

 三人は今もリディアとグレースに向かって強さをアッピルしてる。

 あ、リディアがこっちを見た。グレースもちょっと嫌そうにアトモスフィアってるがこっちを見ている。

 私に決めさせてくれるのか、うんじゃあの人かね。


「ガーレさんにお願いしたいと思います。それで」「お、お待ちあれご主君!」


 えー、何よラスティルさんそんな不満そうな顔をして。

 しかもご主君て。いや、まぁ、決定権を持ってる人に敬意を示すのは当然だけども……。

 あん? もしかして私今ラスティルさんに媚びられてる? ……どんだけ一騎うちしたいんねん。


「ご主君は拙者が信じられぬのか? このラスティルはアイラ殿以外に負けた経験を持たぬ天下で二番目の猛者で御座います。これ程に大事な一騎うち、拙者にお任せを!」


「ぬぅっ!? 天下で二番目はこのレイブンである。そもそも何故ガーレなのだ。某で何がわるい。考えを変えるのだ。な?」


 ……。

 天下で二番目とか言ってアイラさんに勝てないのを否定しきれない辺り、可愛いけど面倒……。

 おっと、そんな思いが表情に出たらヘソを曲げてしまうのは間違いない。


 実の所使い道が難しい人から使っておきたい。という貧乏性が出てるだけだったりする。

 それにコルノの乱の時、命を救われたからなぁ。

 地味な土木作業を頑張る人には美味しい場面があってもいいっしょ。

 あ、これが理由でいいか。


「お二人ともお忘れかも知れませんが、過去獣人に囲まれて絶対絶命だった時ガーレさんが泥にまみれて堤を作ってくださったお陰で我々は生き延びました。

 あ、ラスティルさんは居ませんでしたね……。……と、とりあえず地味な仕事に力を尽くして下さる方が華やいだ出番を望むのなら、機会を与えるべきだと私は考えます。

 どうでしょうかグレースさん。何か浅慮な所があるのなら考え直します」


「……てっきり配下のラスティルにすると思ってたから意外だったけど、いいと思うわ。ではガーレ。任せたわよ」


「おお! 直ぐにあやつの首を取ってまりいますぞカルマ様! もしも取り損ねた時は軍令に従って処罰されよう」


「よし、ガーレ。勝利を願って酒を与える」


「お待ちくださいグレースさん」


 あ、カクッてなってる。すまんね。


「……何かしら」


「戦いの前に酒を与えるのは元来酒の力で臆病な心を振り払う為。ガーレさんのような豪勇の士にそのような物は余計ではありませんか?」


「ほお……貴様、臆病者にしては分かっているようだな。見直したぞ」


「いえ、私が分かってるというよりも、ガーレさんの勇猛さが私にも分かる程素晴らしいのです。ただ首をとった後は一度戻って来て頂きたい。全ての功がガーレさんの物となっては、私が恨まれてしまいます」


「何処までも口の回る奴よ。良いだろう。言う通りにしてやる。第一功は俺に決まったのだからな! 酒など要らぬぞグレース! その酒は戦に勝利した後で頂くとしよう!」


 本音はこれから戦うってのに、酒を飲ませては勝率が下がると思ったからだったり。

 人によってはお酒で調子に乗った方がいいのだろうけど……この人、下級官吏の私の所まで聞こえて来るくらい無謀で有名なんだもん。


 そんな私の内心とは関係なく、ガーレは意気揚々と互いの軍の真ん中へ馬に乗って進んでいく。

 頑張ってやガーレさん。貴方のような良質の脳筋が死んでしまっては悲しい。

 君の筋肉何時もよりキレてるよ! だから大丈夫だって信じてる。

 信じてるからね!

ロト太郎様から今度は私服ラスティルの支援絵を頂戴致しました。

挿絵(By みてみん)

色んな意味でスタイルの良い美人にしか許されない服装です。有難うございます。

しかし、毎度思うのですが絵を頂戴するとダンの偉大さが明らかになってしまい困ってしまいます。

皆様のイメージによって変わってくるでしょうが、このような服装をした美人さんと日々同じ職場に働いていながらも、下心をはっきりと表に出さない悟りっぷり。

仙人でしょうか。

この絵とか、肩だして、胸元ざっくり空いた上にヘソ出しただけでなく、太ももにスリットが付いてるんすよ?

パねーっす。

で、作中みたいにアレな事をこの美人さんに言われちゃうわけです。

パパパ、ぱねぇーっす。

ダンの精神が急成長するのには、こんな理由もある訳なんですよ。

今そう決まりました。

ロト太郎様、物語が深まる絵を頂戴し感謝の念に堪えませぬ。

有難うございます。


ロト太郎様への個人メッセージは http://mypage.syosetu.com/836185/ こちらへ。

ピクシブurlは http://www.pixiv.net/member.php?id=12051806 こちらになります。

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