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カルマがランドに赴いた影響27

「グレース。お前の意見は?」


「……あたしは……他に手が無い。いえ……想像してたより勝ち目がある妙案だと思う。……カルマ様、あたしは……受け入れるのをお勧め致します」


 カルマの問いにそう答えるグレースの表情には喜びと、屈辱が入り混じっていた。

 複雑そうだね。気持ちはわかる。

 カルマは……以前いつもしていた皆を纏める領主の顔をしており、屈辱は読み取れない。

 うーむ。カルマはやはり難しい。グレースだって表に出してる表情が本心とは限らないけども……。

 ま、いいだろう。

 どの様な思惑を持っていようとも、今の所問題が起こる要因は思いつかん。


「ならば決まった。ダン、お主の勝ちだ。それで、お主は何をするのだ?」


「私は軍師の皆さまにお茶を注ぐといった下働きと……後はジョルグ様にどうやって請い願うかを考えるのが能力の限界ですね」


「……本当になんでこんなのに、このリディアが配下になってるのかしら? リディア、貴方もう少し自分の将来を考えた方が良いわよ。じゃ、会議はこれで終わりね。早く細部を詰めましょう。地図を取ってあたしの部屋で考えるわよリディア、フィオ」


「ああ最後に一つ。全体と戦場の指揮はバルカさんにとらせてください。ただし、此処に居る人間以外から見ればグレースさんが中心と見えるようにお願いします」


「はぁ? この危急の時に若いリディアに指揮をとらせるなんて冗談じゃない。だいたいそんな面倒をかける理由が何処にあるって言うの。指揮は当然あたしがとるわ」


「おや? 私の命令に従うはずでは?」


「……貴方、これで失敗したらどうするつもり?」


「失敗しないようにグレースさんがバルカさんの補助をして、経験不足の所を埋めてください。バルカさんは人の意見を聞ける方です。グレースさんがきちんと話せば決定権がバルカさんにあっても、結果は変わらないと思いますよ?」


「……リディア、貴方はあたしの話を聞く気があって?」


(わたくし)は元より戦の経験豊かなグレース殿にお教えを請いたいと思っております。若輩の身なれば当然でございましょう? 何故お疑いに?」


 何故お疑いって……そりゃリディアさんや……。


「あなたは世で最も賢いのが自分であると確信してるように見えたのだけど……実際なんでもできるし……違ったの?」


 グレースの表情から皮肉の成分が全くなく、疑問100パーセントなのがはっきりと分かる。

 うん。その気持ちすごく良く分かります。

 うーむ……なんかさっきからグレースに強く親近感を感じる。

 こー、真面目で礼儀正しい感じが私そっくりなんだよね。


「余りにも酷い誤解ですな。己の浅学非才は重々承知しております」

 自らの足りなさに涙せぬ日は御座いません。

 とリディアは続けているが、そー言ってる時も淡々としてて重々しい無表情では、誰でもグレースと同じ感想を持つと思うんだ。

 後、わざとらしく私の方を見ながら欠片も潤んでない瞳のまま涙を拭う仕草はヤメレ。

 そのパスどうシュートしたら良いかワカンネーから。


「……仕方ないわね。こんな問答に費やす時間も惜しいし。もういいわね?」


「はい。ああ、カルマさんは何かありますか?」


「無い。ではグレース、リディア、フィオ、我等の命はそなた達の肩にかかっている。頼んだぞ」


「「御意」」

 「お任せを」


 リディアさん、空気読んで御意っても良かったと思いますけど……いや、気遣ってくれたんでしょうね。多分。

 あ、気遣いで思い出した。

 ……すんげぇ空気読めてないけど……まぁいいか。


「バルカさん、アイラさん、ラスティルさん、こちらに来て下さい。お話があります」


 他の人間はさっさと出て行った。

 ……急いで話すとしよう。


「とても突然に感じるでしょうが、私の配下になって下さった皆様にお願いがあります」


「む、ダンよ。色事ならば急ぎ過ぎだぞ? 閨に誘おうと言うのならば尚更にな。そういうのは戦が終わった後に、一人ずつ話す物。三人同時に誘うなど愚行の極みだ」


 ……え、一人ずつ話したら、受け入れてくれちゃうの?

 いや、そうじゃない。あかんあかん。相変わらずこの人こそっとある下心を突いて来て困るわ。


「ちゃいますよラスティルさん。奇妙に感じるでしょうが、今後化粧をしないで欲しいのです。するのは儀礼などでどうしても必要な時だけでお願いします。

 それと近いうちに皆さんの家へ行って食事に使う食器、調理器具を調べ不都合があれば買い直してもらいますので。

 更に食事の内容と一日にどんな生活をしているか書いて提出してください。場合によっては矯正して頂きます。例えば、ラスティルさんは毎日飲んでますね? 三日飲んだら絶対に次の一日は一滴も飲んではいけません」


 アイラさんの家に住むとなって一番最初にしたのが、食器関係の交換だ。

 だってスズだの青銅だの使ってるんだぜ?

 恐怖で漏らすかと思ったわ。

 当然だが、めっちゃお金が必要だった。

 足りない分は、オウランさんにねだって何とかしました……。

 情けない話とは思ったが、水銀、鉛中毒なんてごめんこうむる。


「そう言えば、昔からダンは木での食器しか使っておられなかった。しかし化粧もとは。理由をお教え頂けまいか?」


「私の好みです。化粧は匂いが嫌いでして」


 これは本当。化粧の匂いはよろしくありません。

 無香料の化粧があればいいのだけど、二十世紀後半まで産まれてないべ。

 だがそれ以上の問題として、おしろいとかは絶対水銀使ってると思うんだよね。

 食器に描かれている派手な絵にも使われてそう。


 冗談じゃねーよ。

 ……決して私がその化粧をされた手で触られたり、呼吸する時に吸い込んだりしたくないからだけじゃない。

 配下になってくれた三人の健康のためだ。


「僕は化粧なんてしてないよ。一緒に住んでるのだから一日に何をしてるかも知ってるだろ?」


「面倒くさくても一日何をしてるかはちゃんと出して下さいねアイラさん」


「拙者にとって酒は命。それを制限すると言うのか? 今ご主君に対する忠義が揺らいだぞ」


「えっ。…………いや……駄目です。ラスティルさんの為ですから。減らした分、より美味しいお酒を飲まれては如何でしょうか? 私からも幾らか出しますので我慢してください」


「そこまでしてか……仕方ない。分かった、三日飲んだら一日だな? しかし化粧の方は理解しかねる。汗を流す予定が無ければ化粧をするものだ。童ではないのだからな。ダンも我々が美しく化粧をした方が嬉しかろうに」


「……いや、お待ちあれラスティル殿。そういえば……昔ダンは幼い(わたくし)へ好意を抱いておられたかもしれない。……なのに現在はあの頃よりも明らかに距離がある。つまり……」


「なんと……幼い娘が趣味とな? 確かに女子(おなご)の気配が無い。無さすぎる……ふむ。ダンよ、臆病なのは知っているが、大人の女子を怖がらなくても良かろう? 何かあれば言ってみろ。相談に乗ってやるぞ?」


 めたくそに言われてる……。

 いや、リディアは……その、やっぱり子供の頃はまだ今ほど怖くなかったから……美少女だったし……。


 ……ちゃ、ちゃうんや。好意ゆーても、逮捕されかねない話じゃなくてだな?

 それに人類史的に考えても男の九割はロリコ……。


 ち、違うぞね。

 私は器が大きくて広範囲を受け入れられるだけぞね。


「あの、化粧をして欲しくないのは……趣味も否定はしませんが、それ以上に皆様の……もう、いいです。でも、守って頂きます」


「……分かりました。我が君、信じておりますぞ」


 お前、絶対楽しんでるだろ?

 表情は不動だが、内心絶対クスクス言ってるよな?

 ラスティルさんははっきりと笑ってるし……。

 アイラさんは、さっきからちょっとしょんぼりしてる。

 ……書き物をちょっと提出しろと言ったらこれかい。


 別に良いんだけどね。

 忙しくなる前に良い気分になってくれたのなら、幾らクチャクチャに言われようが問題……ない。

 だが、今の評判をそのまま流されると流石に辛いものが……。

 ……まぁいいか。大差ねーなどーせ。


 さて、グレースの所で下働きをしますかね。




---



 次の日の夜、私はジョルグさんが泊まっている宿に堂々と向かった。

 大事な同盟相手へのご機嫌伺いである。何を忍ぶことのあらんや。

 草原族の人に案内されて部屋に入り、椅子に座っているジョルグさんの前で深く身を屈めて挨拶をする。


「態々のお運び、感謝の念に堪えませんジョルグ様。今回のご助力に感謝いたします。何かご不信がありましたら、何なりとお尋ねください」


「……ダン殿、人払いは念入りにして御座います。その為に二階を話の場としたのです。だからそのような真似は辞めて頂けないだろうか」


 あ、そうなん。気が利きますね。つーか、口調変わってね? ……何かあったんかいな。


「ご配慮に感謝を。さて、現状は計画通り行っています。グレース達の立てている計画では、きちんと兵糧、矢などの準備はされているように思えました。詳しくは明日直接尋ねて下さい。配下を抑えるのに足りてない物があればはっきりと要求を。皆さんの助力が無ければ滅亡確実ですから、何でも飲むでしょう」


「承知致しました。それで……相手を眠らさないようにとの話ですが、実際に戦わなくても本当によろしいのですか?」


「はい。そちらに死者が出ないのはとても大事です。具体的には、常に敵の様子を調べ、相手が寝ようとすれば必ずたたき起こしてください。隊を三つに分けて交代させれば、夜通しドラを鳴らしたり攻めるフリをしたり出来ると思います。

 それでも寝ようとした時はじめて、遠くから火矢でも射かけて下さい。あの道具は絶対に使わないように注意をお願いします。地理に関しては、グレースが誰か付けるでしょう。

 してこれら全ては出来そうですか?」


「まず問題無く。カルマ達が戦う時はどうすればよろしいでしょうか? 兵数に二倍の差がある戦いになりそうだと聞いておりますが」


「最初が辛いかもしれないんですよねぇ。相手の弓が居ない場所で矢が届くギリギリの距離馬上から矢を射てもらって、相手の注意を削いで時間を稼ぐとか……出来ますか? 被害が出そうなら直ぐ逃げてもらっていいのですけど」


「兵を選べば、まず被害を出さずに出来ます。……それだけですか?」


「出来れば、カルマと皆さんが協力体制に無いと相手が思うような小細工が出来るといいのですけども……まぁ、これは欲張りすぎかもしれませんね」


「一応考えておきましょう」


「有難うございます。ああ、もしも勝ったらなんですが、戦利品の扱いについての交渉役として、私を酷く侮辱しそうな方を使者に立てて頂けませんか? かと言って手を出されては困るので、見張り役もお願いします」


「……それはよいですが、ダン殿がご不快な思いをなされますぞ? 我々へどれ程ダン殿が影響力を持っているか示した方が、ダン殿の権威が高まり動き易くなりませぬか?」


「お、おお? 影響力……在りましたか。実際こうやって助けてもらっていますが、所詮エルフ。情報源くらいかなーと。得が無ければお願いを聞く気にはならないでしょうし」


 それを考えに入れて動きたくなるような情報と、お勧めの行動を渡すように気を付けていたんだよね。

 損があっても動いてくれるとは期待した事が無い。


「……我々が草原族を統一出来たのは、ダン殿からの助力あってこそだと知っている者は皆分かっております。この身も、オウラン様も疑いの眼差しを向けたのを心より後悔しているのです。これ程の恩を受けて、得が無ければ動かないなどと言う程我等は忘恩の輩ではありません」


「お、おお……でも少し誤解されてます。私は疑われた時安心したのです。どう考えても私は怪しい。慎重なのは美点でしょう。

 お気持ちは有り難く思いますが、私を尊重するような様子は見せないでください。侮られ、侮蔑され、軽んじられて誰にも注目されなければ効率がよくなるので。

 老婆心ながら付け加えますと、皆様が力を増していると知られないようにした方がいい。まだ分裂したままに見えるように考え抜いて頂きたい。そうでないとカルマ達の強い警戒心を招きます」


「……承知致しました。他には何かありますか?」


「確か雲の部族を攻める準備をしていましたよね?」


「はい。今カルマも、近隣の領主もこの戦いに備えていますから。……この情報を渡して下さったのもダン殿でしょうに」


「決断されたのはオウラン様ですから。言うまでもないとは思いますが、ケイの領地に近い氏族から配下に置くのをお勧めします。それと、他部族でも服従すれば対等に扱うようにして頂けませんか? 同じ遊牧の民、頼れる仲間になってくれると思うのです」


「はい。元よりそれがオウラン様のご意思。そして様子を見ながら慎重に、ですな?」


「あはっ。ええ、それが良いでしょう。さて、見返りはお伝えした分で足りますか? 少々不透明ではありますが、今後を考えればカルマ達も幾らかは受け入れると私は考えています。しかしあれ以上となると……厳しいですね」


「あれ以上などと……足りるどころか信じられない話としか。確かにお互いの利益となりますが……もしも実現すれば夢のようだと皆話しています。上手く行かずとも、頂く予定の武具と兵糧だけでも最低限は賄えますのでご心配なく。

 それと、オウラン様がお会いになりたいと仰せなのですが、何とかなりませぬか?」


「それは良かった。オウラン様とは私も会いたいのですが……。そうだ、この戦いが終わった後、見返りを要求する際に直接来て頂くのはどうでしょうか? ああ、その際にもお願いが。それはこちらの文に書いてありますので、オウラン様にお届けください」


「承知。……もしも戦に負けたのならどうなされますか?」


「そちらに逃げ込ませて貰えれば、と思います。その為にも無理はしないで欲しいですね」


「分かりました。その時は歓迎致します」


 うむジョルグ師範は頼もしいね。

 さて、こんなもんか。

 私の脳内計算では十分勝てるのだけど……まぁ、リディアが保証したし大丈夫だろ。

 足りない所があれば、グレースと二人で勝手に埋めるっしょ。

 それが出来そうだと思ったからこそ、グレースも納得したんだと思う。

 後は皆さんのお手並み拝見と行こうかね。

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