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はるかさんのその後
作者:千鵺
異世界トリップして、早1年。
船長と事実婚を果たしてから、更に半年が経った。

晴香は20歳になっていた。

思い返せば、船長との結婚生活は、幸せ2割デンジャラス8割の、なんとも刺激的な日々だった。
毎日何かしら起こっている気がする、と晴香は思い返す度に嘆息を禁じ得ない。
どうしてこう穏やかに過ごせないのかと涙が出る思いだった。
しかし、毎回毎回、船長に負けているわけではないのだ。
晴香はふふふと暗い笑みを浮かべながら、ここ半年程を振り返っていた。



それは、結婚して1月後の出来ごと。


「せ、船長・・あの、今、朝だから。もう朝だから船長しっかり」

「朝だろうが昼だろうが夜だろうがどうでもいい。
 なぁハル教えてくれよ。さっき倉庫で何してたんだ?
 俺の目の届かねぇとこで、ディーンと2人っきりで。なぁ?」

「ななな何にもしてませんっ荷物運ぶの手伝ってもらっただけです!」

「へぇ~そうかー、じゃああいつ殺してこようかなぁ」

なんで朝っぱらからヤンデレモードぉおおおお!?

晴香は思わず瞠目して、それからその勢いのまま食ってかかった。
いくらなんでも理不尽すぎる。
水樽をちょっと移動させるのを手伝ってもらっただけだというのに。

「じゃあって意味がわかりませんほんとやめて!
 だって重かったんだもんあの樽!
 好意で手伝ってくれたのにそれくらいで人殺すかふつー!!」

「あぁ、お前と2人きりってのが気に食わねぇ。
 つーか好意を抱くことすら赦せねぇ」

「赦して下さいよそれくらい!
 異性全員に嫌われろってか!!
 つか私がぎっくり腰になったらどうしてくれるんですか!」

「別の理由で腰立たなくしてやろーか?」

ぎらり、船長の目にやばい光が灯った気がして、思わず引いた。
怖すぎるからすごまないでほしいって言う以前に脅し文句が最低だ。

「っ・・!す、すみません嘘ですごめんなさい」

「・・なぁハル、1人じゃ無理なら俺を呼べって言ってんだろ。
 俺じゃだめな理由があんのか?」

晴香が即座謝ると、一転して船長の顔がくしゃりと歪んだ。
それに思わず怯んでしまうから、余計に晴香には船長を責められない。
へたれバージョンにすら勝てなくなってきてるあたり、弱すぎる自覚はあった。

「・・・や、船長、寝てましたし、わざわざ起こすのもどうかなぁなんて・・・」

ぼしょぼしょ、呟くように答える。
だって、朝っぱらから、好きな人が寝てるってのをわざわざたたき起こしたくなんかない。
乙女心です。

「くっ・・・」

晴香の肩に両手を添えたまま、悶える船長。
何してるのかとは問わない。
その耳が赤いのが、晴香にも見えたからだ。
へたれモードはこれだから好きだ。
ヤンデレだったらきっとこうも容易くはいかないだろうから。
晴香は意識してしょんぼり顔を維持したまま、ちろりと上目遣いで船長の顔を見上げた。

「ぐっ」

船長が鼻を押さえながら、仰向けに反り返った。
効果は抜群だ。

「船長、忙しいし、大変だろうから休んで欲しかったの・・・」

「~~~!!」

ダメ押し、これ大事。
これで勝利は見えたに等しい。
しかし、もうワンプッシュしとくべきか。
晴香は内心でガッツポーズをしながら、両手を胸の前で握り、こてんと首を傾げた。
勿論、上目遣いも忘れない。

「今度から気をつけるから・・・許してくれる?」

「ーーー!」

ぶりっこ極まるおねだりポーズに、ついに船長の膝が崩れ、両手を床についた。
敵はもはやこれまでらしいと悟り、ようやく晴香はかわいこぶるのを止めた。
船長からは見えないのをいいことに、晴香はにやりとほくそ笑む。
まだまだちょろい。

「さ、船長、ご飯にしましょーか。先行ってますねー」

「は、ハル・・・」

語尾に音符がついていそうな程ご機嫌に、船長へと声をかけると、晴香はさっさと背を向けて食堂へ向かった。
後に、一人残された船長が悲しげに名を呼ぶのも気付かぬまま。

この時は、晴香の勝ちであった。







またある時はこんなことがあった。
前回の出来ごとから3ヶ月が経った頃。


「ちょちょちょ、船長、船長たら、やっだなーもー、その手に持ってるのはなぁに?」

「あ?これか?ガルクの眼でも抉ってこよーかと思ってな、ナイフ研いでたんだ」

「それ笑顔でいうこと!?やめてほんと!つーか今度は何っ」

「あぁ、さっきあいつがハルのこと見てたから」

「・・・・から、何?」

「そんな不埒な目は要らねぇよなぁ」

「要るでしょ!何言ってんですかたまたまに決まってんでしょーが!!」

「視界に入れるなって言ってんのに、入れちまったやつがわりぃ」

「私は危険物か!!やめてっ・・・ちょっガルクさん逃げて!今すぐ逃げてー!」

「うぉ、ハル・・・・・くく、積極的だなぁ、おい」

「ひえっ!?」

部下である彼をそう簡単に殺させるわけにはいかない。
被害者を守ろうとしたせいか思い余って、船長に抱きついて止めようとしたのが悪かった。
いや、悪いわけがないはずだけれども、迂闊であったのは確かだ。
だがしかしこれはちょっとどうなのだろう。

「ちょっ船長どこ触ってんですかあぁあああ!!」

「あ?言っちまっていいのか?なぁ。・・・さーて、よっと」

「よっ良くない、けどっ・・ひえっ何してんですかせんちょ・・ちょっま、待って・・ぎゃー!」

「おっとうっかり。よし、着替えに行くかハル」

ははは。
爽やかに笑いながら、船長は一度晴香を海に落っことした。
この辺鮫が出るとか言ってませんでしたかせんちょー!と晴香が叫んでいる間に、掬いあげられて船上へと戻されたは良いものの。
すっかりびしょぬれになってしまった晴香を、船長は嬉々として夫婦の寝室へと連れ込んだのであった。
勿論その後は、翌朝まで2人の姿を見た者はいない。

今回は、船長の勝ち。







またある時は、こんな出来ごとが起こった。
それは晴香がこちらへ来て11ヶ月め。
つまりは今から一月前のこと。

「ちょっなに・・うきゃー!」

晴香は、船長と敵対していた海賊に、突如拉致られた。
それも悪いことに、船長の目の前で。
当たり前かもしれないが、他の男に。
晴香は問答無用とばかりに為す術なく掻っ攫われながら、ふと思った。

あれ、これもしかして私の死亡フラグ立ってる?

勿論、掻っ攫った当人が完膚なきまでにお仕置きを受けるのは大前提だ。
しかしこの展開から行くと、晴香にも何かしらとばっちりが来そうな気がひしひしとする。
晴香にとっては非常に不本意であり、不可抗力であるこの誘拐劇。
けれども、船長にはばっちり目撃されている。
誰とも知らぬ男と密着する晴香の姿を。
この後にヤンデレ降臨を予想した晴香は、連れてこられた船室の片隅でぶるりと身を震わせた。

なんかこれすごいやばい気がするよ。
頼む誰かフラグへし折っといて。

晴香は虚しい願いとは知りながら、仲間であり部下でもある船員達に、心の中でひたすら祈った。

そんなこんなで攫われてから2日後。
結果から言おう。


「うわっ船長ちょっとまっ・・!ぐ、うっ」

「ハル・・ハルハルハルハルハル・・なぁおいどこに居たんだよおれから離れんなって言ったじゃねぇかなぁハルおいどうした聞こえねぇのか?ついてても意味ねぇならその耳噛み千切っちまうぞ」

飲みこんじまったら俺の中にずっと一緒だよなぁそれもいいなぁ。


晴香は、救出に来たはずの船長に、力の限り抱きつかれた。
華奢な体躯の晴香と、海の男として鍛え上げられた船長とでは、結果は目に見えていた。

「せ、ん・・せんちょ・・っくる・・しぃっ!」

「あぁもう二度とこんな真似出来ねぇようやっぱ部屋に繋いどくか。
 そうじゃなかったら俺がもたねぇ、よしそうしようか、なぁハル」

「・・せっ・・」

ぎりぎりと締め上げられた晴香に、船長の言葉が聞こえてなかったのは幸いなのかもしれない。
それからほどなくして、晴香は意識を手放した。
次に目が覚めた時、船長の腕の中で、かつ足首には頑丈な鎖が付けられていたのには晴香も最早笑うしかなかった。


それから一ヶ月。


まだ、拘束は解かれていない。




晴香は、ここでそろそろ動かなくてはまずいと思った。
この一ヶ月の間、晴香は一度も部屋の外に出られていない。
トイレも風呂も部屋についており、食事は船長が運んでくる為不自由はしないのだ。
しかし、そう広くもない船室にずっと居続けるのは、流石に病気になりそうだった。

晴香は今日こそどうにかしてやる、と心に決めた。


「せんちょー・・そろそろ、外出たい」

「だめだ」

「船室にひたすらいると息が詰まる・・・」

「・・・だめだ」

「・・・・・せんちょう、」

「ぐっ・・」

現在、船長がベッドに腰掛けたその膝の上。
そこで横抱きにされて、晴香は船長を下から見上げていた。
両手は首に回して、上目遣いを心がけ、声は甘えるようにを意識して。
実際にそれをしているのは自分だというのに、やはり鳥肌ものである。
しかし、背に腹は替えられない。
いい加減、部屋の中は飽きたのだ。
ついでに足の鎖も、外してもらわねば。
むしろそれが本題であると言っても過言ではない。
晴香は今日こそお願いを聞いて貰おうと必死だった。

「ね、船長、もうあんなことありませんって。
 それに攫われても、すぐ助けてくれたじゃないですか。
 万が一、次があったとしても、私心配なんかしてないですよ。
 だって船長がまた助けてくれますもんね」

ねぇ、そうでしょう、船長?

首に引っかけた両腕を少しだけ引いて、顔を近づける。
あと僅かでキスが出来る距離。

「・・・・本当に、もう、他のやつには近づかねぇな?」

「もちろん。船長だけですよ」

困ったように眉を下げた船長が、渋々と言った体で問うてくるのに、満面の笑みで答える。
例え動機が不純であったとしても、これだけは、本当だ。

「こうして側に居るのも、触れるのも触れさせるのも、船長だけです。
 他の人なんかに許すわけないじゃないですか」

「・・・本当か?」

「本当ですよ」

「なら、証拠がねぇとな」

にまっと悪い笑みを浮かべた船長に、何かを強請られてると知る。
普段なら、ここで顔を真っ赤にしたりして拒否をするのだが、今日の晴香は違う。
楽しげに微笑んで、船長との間にあった僅かな距離をゼロにした。

ちゅっ

「!!」

「・・・これでわかりました?」

「・・・あぁ・・・・いや、足りねぇな」

「っうひゃ!」

キスをひとつしたあと、すぐに離れたにも関わらず、晴香はすぐに船長に捕まった。
一転して顔を真っ赤に染め上げた晴香を、今度は船長が酷く愉しそうに眺める。
それはさながら、獲物を手に入れた猛禽類の様で。

「ちょっ待って待って、待って!せんちょー!ちょっとまっ・・!!」

「待てねぇ」

「きゃー!」







そんなこんなで、結果から言えば晴香の足枷は外され、また外に出ることが叶うようになった。
勝敗で言えば、五分五分・・・であると思っている。
しかし、今後何かあったとしても、晴香はきっと大丈夫だと思えた。
たまに心が折れそうになるときもあるけれども。

「あ、船長どうしまs・・って、ちょっと船長何してるんですかああぁ!!」

「あ?」

「ちょっちょちょちょ、その人なんにもしてませんて!
 お話してただけ!船長っそのナイフどっかやって!!」

「・・っ」

「お前と話をしてたってだけで罪だろうが」

「私の言動全て罠になんのか!
 やめてくださいってぎゃああ血が出てる出てるってまじでやめてぇええごめんなさいぃい」





・・・恋する乙女は強かに、今日も海の上で生きている。
勝ち負けの回数で言えば、実は晴香が勝つことのほうが多かったり。

タナカハナ様のみ、ご自由にどうぞー。
リクに応えられているのかものすごく不安です・・。
返品・書き直しはいつでも承っております。
リクエスト、ありがとうございました!
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