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Thank you My teens
作者:小鳥遊梓
これは『ギフト企画』参加作品です。『ギフト企画』と検索すれば他の作者の素晴らしい作品を読むことが出来ます。
 

 君は輝いていた
 太陽のように
 だから僕は君に逢いにいく
 きっと知らないことばかりだけど
 一つずつ埋めようよ
 幸せの線を
 引こうよどこまでも
 ずっと


 ……。

 イルミネーションで鮮やかに照らされた駅前に、優しげなバラードが響く。
 今日はクリスマスイヴだからなのか、そこは賑やかである。にも関わらずその歌に立ち止まる者は一人二人しかいない。
 駅前の広場は、何の変哲もない街灯が一本照らすだけの小さな広場だった。
 ちょっとハスキーで甘い感じのする声が、地を響かせ、夜の空気を振動させている。


 駅前の広場から通りを抜けて、大きなギターケースをぶら下げた先程のミュージシャン月沢薫つきさわ かおりが、家に向かってとぼとぼと歩いている。
 今度はもう電車が来ない踏み切りを待つことなく通り過ぎた。
 電車が来ないくせに街はまだ元気に生きている。さながら都は凄い。
 地元から都に出てはや二ヶ月。夢を追って出て来たはいいが、毎日のように見物人はいない。
 まったく何のために出て来たのかと自分自身に問い掛ける。
 自宅近くバス停の前でふっと立ち止まると、バス停前に設置されたベンチを横目でちらりと見た。青いベンチと錆びたバス停のポールが近くの街灯にぼんやりと照らし出されている。
『サリュ』
 突然、誰かも分からない人物が背後から声をかけながら薫の肩に手を置いた。
『だ、誰!?』
 咄嗟とっさに振り向く。
 振り向いた先にいたのは、大きく太った体に赤い服と帽子を身につけ、白い髭を蓄えた……そう。言うなればサンタクロースみたいな人物だった。
『やあ、わしはサンタクロースじゃよ』
『そんなインチキなサンタクロースはいません』
 薫の即答に、自称サンタクロースは眉間にしわを寄せた。だがまたすぐに笑顔を創ると、真顔でこう言った。
『夢に励む少女にプレゼントをあげよう』
 何を言っているのか、このおじさんは。どっか頭でもぶつけておかしくなっているんだろうか、なんて薫が思っていると、何やらごそごそと後ろでやっている。
『な、何してるの……』と背を向ける自称サンタクロースの背後からこっそりと顔を出した。
 と、突然自称サンタクロースは振り返ると、薫にリボンで締めた四面の箱を手渡した。
『メリークリスマース!』
 怪しい。実に怪しい。
 開けた瞬間に年寄りになるとか、毒霧が噴射されるとか、そんなことがありそうである。
 薫が迷いている間、その自称サンタクロースはにこにこと笑っている。
『どうしたのか、開けないのかね』
 そりゃあ普通容易に開けないだろう。いきなりひょいと渡された四面の箱なんて。
 そのまま薫が四面箱を持って立っていると、自称サンタクロースはいらいらしたのか、自分でリボンを緩め箱を開けた。
 その瞬間、薫は肩に下げたギターケースを置いて、箱の中に吸い込まれた。


『私がドラム叩くから、拓斗はギターね』
 高校生の薫はバンド仲間にそう言った。そのバンド仲間、草鹿拓斗くさじし たくとは頷く。
 そもそも薫はドラムの担当ではない。本来彼女の担当はボーカルとギターであり、ドラムなどあまり叩いたこともないのだ。
 それがなぜ、ドラムを叩く事にしたのかというと、元々は拓斗がギターをやりたいと言い始めたからである。
 もちろん薫は反対したが、拓斗がやると言って聞かないため、仕方なくドラムを叩くのである。

 間もなくライヴハウスのステージが光り、赤青緑と彩られるステージ上に二人は出て行った。
 ドラムの後ろにセッティングされている椅子に座り、そしてふぅと一息。
 拓斗がギターの弦を爪弾くと、ライヴが始まった。
 そのライヴは少しぎこちないかもしれない、しかし二人はちっともつまらな気な顔をしてはいない。むしろここにいるミュージシャン全員が、笑顔で幸せであろう。

 薫が最後の音を叩くと、二人のライヴが終わりを告げた。
 革ジャンを着ているためか、拓斗の体はドラムを叩く薫よりも汗だくである。
『拓斗、大丈夫?』
『はは、大丈夫』
 心配する薫に対し、拓斗は笑いながら答える。
『次から私がギターだからね』
 拓斗はあぁ、と頷いた。


 気がつくと、薫は青いベンチに座っていた。
(これは……高校生の時の……)
『気がついたかの?』
『!?』
 驚いて顔を上げるが、その声の主があの自称サンタクロースだと分かると、『なんだ』と気持ちを落ち着かせた。
『……君は何のために都にでてきたのかね?』 それは、夢を追って……と言おうとして薫ははっとした。
 その気が付いた顔を見て、自称サンタクロースは頷いた。
『そう……君はあの時の気持ちを忘れていたんじゃ。確かに、夢を追うのは良いことじゃが……あの初心を忘れてはいかんのではないかのう』
 今、薫が気がづいたのはまさにそのことであった。
 今の自分は、コンテストに出て一刻も早いデビューをしようと焦っている。しかしそれは、自分を苦しめているだけで楽しいものではない。
 駅前で披露している他のミュージシャンは、誰も苦しんでいないのに、自分だけは苦しんでいるのだ。
 あの楽しかった頃のように、楽しむことが自分にとっていいのではと、薫は心から思ったのだ。
『気付いたかね。子供の心を、決して忘れてはいかんぞ』
 はい、と薫はゆっくりと頷いた。
 薫はゆっくりと歩きだす。自称サンタクロースに心より感謝を込めて、自分の居場所へ真っすぐに。
 薫が見えなくなった頃、自称サンタクロースはゆっくりと髭と赤い衣服を取った。
『頑張れよ……薫……』


 駅前に薫の歌が響き渡る。先程とは違い、本当に楽しげで幸せそうに。
 日付はついさっき12月25日になったばかりである。実はクリスマス、つまり今日は薫の20歳の誕生日だ。
 10代最後の日を、自分の幸せな時で飾ったのだ。

 ありがとう。私の十代しょうじょじだい


 もう諦めないよ
 空と海を愛して
 どこまでも走るよ
 紅と藍の道
 会えてよかった
 あなたに

今回、この作品に込めた事は『初心・子供心』です。悩んでいたり、苦しんでいるこてがある貴方。初心に戻ってみてはいかがですか? ちなみにこれはYUIのThank you My teensという歌を元に、クリスマス風にしたものです。
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