4.涙は大事な時のために
ボクとキミは毎日会って、忘れられた場所探しの冒険に出る準備をした。
道を切り開くための道具はカナヅチとツルハシ。シャベルも荷物に入れた。それからマスク、軍手、ロープに懐中電灯。そして、非常食にカットバン…。
何百年も隠され続けていた道が、こんな簡単な道具で切り開けるなんて、きっとキミも思っていなかっただろう。
少なくとも、ボクは忘れられた場所にたどりつくことよりも、キミという、生まれてはじめてできた友達と一緒に、今まで自分が踏み入れた事のない、自分の中の領域に踏み込むことの方が大事だと思っていた。
ボクが今まで無意味に勉強に費やしていた時間は、全てキミが埋めてくれた。キミと一緒に冒険の準備をするのはとても楽しかった。
出発は8月20日の早朝に決めていた。祖母にはキミと一緒にキャンプに行くと言ってある。祖母はボクに友達が出来たことを喜んで、楽しんでおいで、と言ってくれた。
忘れられた場所のことを祖母にそれとなく訊いてみたけれど、祖母は知らない様子だった。桐箱の中身のことを訊ねても、そんな箱があったのかい、何が入っているんだろうねぇ…と首を傾げただけだった。あの地図は何百年もの間、誰の目にふれることもなく、ずっと蔵の中にあったのだろうか…。
「やっべっ!」
出発の前日、リュックに荷物を詰め込んでいたキミが突然思い出したように叫んだ。
「どうしたの?」
「オレ、夏休みの宿題全然やってない…」
「ひとつも…?」
「ひとつも!」
ボクは思わず笑ってしまった。夏休みはあと10日ちょっとしかなくて、明日はボクたちの出発日だ。帰って来てから宿題をやる時間なんてあるのだろうか。
そこまで考えてからボクは急に寂しくなった。
夏休みはあと10日。ボクがここにいるのもキミと一緒にいられるのもあと10日。
夏休みが終わったらボクはまたひとり。
キミがいるこの田舎の村からはうんと遠い都会で、また独り――。
「ん?急にどうした?」
「いいや、何でもないよ。一生夏休みだったらいいのに、って思っただけ」
「いいなぁそれ!でも、学校は学校で楽しいけどな!勉強さえなければなぁ…」
そうか…。キミは楽しいんだね、学校。
キミならきっとそうだね。みんなきっと、キミのことが大好きなんだろうね…。
キミはボクがいなくても…。
涙が一粒こぼれた。
「おいおい、どうしたっての?」
キミは驚いてボクの顔をのぞきこんだ。ボクは慌ててキミから顔をそらした。
「男がめったなことで泣くもんじゃないぜ!涙は大事な時の為にとっておきな!」
「大事な時って、どんな時?」
「ん〜」
と言って、キミは考え込んだ。そして、
「…わかんねぇけどよ、その時が来たらわかるって!今が大事な時!ってな」
と、マジメな顔をして言った。
「じゃあ、今の涙はボクにとって大事な時の涙だったかも…」
「んん?」
「だって、キミの宿題が全然終わってないなんて、新学期になった時、先生に叱られるキミの姿を想像したら可哀想で可哀想で…」
ボクはとっさにそんなことを言っていた。自分でも信じられない、ボクが生まれてはじめて言った冗談だ。でも、キミは、
「く〜〜っ、泣かせる奴!オマエはいい友達だぜ!」
と、ボクの肩をギュッと抱いてくれた。
「…いい友達?ボクはキミのいい友達…?」
ボクははじめてキミと出会った時から友達になりたいって思ったけど、キミの方はボクのことを、ただの『蔵の家の孫』としか思ってないだろうって思ってた。
「あったり前だろ?友達じゃなかったらこんな危険な冒険、一緒にしようなんて思わないぜ!」
ボクはもう一粒涙がこぼれそうになったけれど、それはグッと我慢した。
「…じゃあ、これからキミの宿題をやろう。ボクが手伝うよ!」
「ほんとか!?」
勉強ならボクにまかせて!キミの役に立てることがあってよかった。
もう泣かない。
強くなる。
涙は大事な時のためにとっておくよ…って、ボクは心の中で誓ったんだ。
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