9.あきらめたら終わり
キミは咳をしながらボクの後ろから壁を登った。キミの息遣いがとても苦しそうで心配でたまらなかった。ボクたちがかぶったあの埃はきっと、何百年もの間密閉された空気が汚染され、有毒なガスを含んでいたに違いない。キミはそれを思いっきり吸い込んでしまったんだ。
「大丈夫?」
ボクはときどき下を見下ろしてキミに声をかけた。暗くて底が見えないからボクは目をまわさずにすんだ。
「ああ、大丈夫だ。オマエこそ大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ」
上に登っていくにつれて、光は何かの隙間から漏れているということがわかってきた。ということは、その何かをどかさなければ外には出られないってことだ。こんなぶら下がっているような状態で、何をどうどかせばいいんだ…。ボクは気が遠くなりそうだった。
「頑張れ。あきらめるな」
下からキミが言った。きっとキミも同じことを思ったんだろう。
キミと一緒なら大丈夫だね。何があっても、きっとうまくいくね。
『ああ、そうさ!』
キミの声が心の中で聞こえた。
ボクはまた勇気が溢れた。
「ついたよ、てっぺんだ!」
キミは何も言わなかった。ボクは嫌な予感がして下を見た。
「キミ!」
キミは突起につかまり、壁に体全身をくっつけてぐったりしていた。
「大丈夫?!苦しいの?!」
キミは肩で大きな息をして首をふるだけだった。キミの手も足もブルブルと震えている。もしもここから落ちてしまったらキミは死んでしまう!
――運命は変えられんのかのう…。
あの老人の言葉が響いた。
これが運命?キミの運命?
違う!絶対に違う!
ボクは天井を塞いでいる物を手で押した。
ビクともしない。動かない…。
キミの足が突起を踏み外した。
「しっかり!」
ボクは焦った。早くしなきゃ、キミが力尽きてしまう。
どうしよう、ここまで来て!光は見えているのに、この蓋を開ければ外に出られるのに!
蓋?
これは、蓋?
ここを封印したのはボクの先祖。
この蓋は内側から、つまりボクがいるこの場側から閉めたはずだ。
ということは押したってダメだ!
ボクはポケットに突っ込んであった懐中電灯で蓋を照らした。厚い木版のようだった。光が漏れているのは、朽ちて隙間があいている木の筋の部分だった。ここをもっと広げれば手を入れて引っ張れる。
ボクはリュックの中からカナヅチを出して朽ちた部分を思いきりたたいた。
木の粉がパリパリと下に落ちた。
「もう少しだよ、頑張ってね!」
ボクはキミに声をかけながら必死で蓋をたたいた。木はだんだんと割れ、差し込む光の筋が太くなっていった。
手が入るぐらいの隙間が出来て、ボクは右手を突っ込で思いっきり引っ張った。けれど、足元がしっかりとしていない力では蓋は外れない。いくら引っ張っても蓋ははずれなかった。
「…カナヅチを」
キミがそうひとこと言った。
そうか。カナヅチを隙間に差し込んで引けばいいんだ!
ボクはカナヅチを蓋の隙間に差しこみ、隙間のへりにカナヅチが引っかかるようにして、柄を思い切り引っ張った。
メリメリと木がきしむ音がした。
もう少し、もう少し!
ボクはうなり声を上げて力いっぱい引っ張る。その時、下からキミが手を大きく伸ばし、ぐらついていたボクの足を支えてくれた。
「がんばれ〜〜〜〜!!」
ボクとキミは同時に声を出した。
バキバキ!!
蓋は大きな音を立ててはずれ、下に落ちていった。
やっと…、やっとボクたちは本当の光を全身に浴びることが出来たんだ。
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