第七話 一言しか言わないのに意外と美味しい役が多いよね、この子達
「まだ何もないのかよ」
「あんさん、ソレ聞き飽きたわ」
「キッド先輩、私、お茶入れなおしましょうか」
「バンパイアサイボーグさん、いいの?」
ロボット学校校長室の一角でドラニコフからもらったお茶菓子と友にお茶をすすりながら校長先生を待っている。
気を紛らわすために、雑談も多い中、キッドはお茶がなくなると途端に現状に疑問の声を上げていた。女性になって不安なのはわかるが、受験シーズンの受験生のごとく言葉にするのが、おちたらどうしようというような鬱台詞ぐらいしかない状況は周りにも少なからず苦痛を与えていた。
ドラミも慣れてきたのか適当にあしらうようになってはいるのだが、沈黙に耐え切れずバンパイアサイボーグはしきりにお茶を煎れている。
同じものではなく、変えている。
緑茶から、玄茶、麦茶に昆布茶……レパートリーが多くて助かっている。
次は玉露にするといっている。
キッドもただじっと待つ性分ではないのは自覚しているので、頼む、と呟いた。
「はい」
バンパイアサイボーグは水屋へと向かう。
玉露だと煎れる時間がかかるのですぐには戻ってこないだろう――ちょっとスキップがはいっていたのはこのさい気にしないでおこう。
「しっかし……おせぇな校長……」
キッドはマスタードとケチャップをかけたドラ焼きを黙々と食べる。
もちろん大量にかけているので、見る人をアッと驚かすだろう。しかも、今のムチムチ美貌のカウガールでは全国の青少年の夢を潰しかねない。
「ねぇ、キッド」
ドラミはキッドの金色の髪に触れてきた。
長い髪はドラミの手をふんわりと包む。
「どうした、ドラミ」
「この長い髪の毛では動きづらくない?」
「あ……」
言われてみれば、食べるとき不便だなとは感じていた。
しかし、がさつなキッドはどうする気もなく何も考えずに髪をそのままにしていた。
「そうだが……」
そういえばドラえもんは髪の先の方を結んでいた気がする。
たしか雅結い(俗語)。
日本のアニメに詳しいキッドなのでそんな俗語が出てきてしまう。
「やっぱり。キッド、ちょっと、じっとしていて」
ドラミはポケットの中から赤いリボンを取り出す。
慣れた手つきで髪を一つにかき集め、シュルリと抑える。
口元を邪魔していた髪がなくなり、スッキリする。
「お、こりゃいいな」
キッドの金髪にシックリくる、赤いリボン。
「サンキュー、ドラミ」
ドラミもにっこりと微笑む。
キッドはただ邪魔な髪が口元や首筋にかからないので喜んでいると思うのだが、ドラミの顔が少し赤らんでいる。
「青春や……」
馬はそのほほえましい光景を見ながらまだ残っている昆布茶をすするのだった。
その平和も後数分にはがらりと変わるというのに。
どらら〜、という可愛らしい声が、ロボット学校では珍しくもない声が、まさかこんな事体を生み出すとは思わなかった。
そして、次々と――。
「す、すみません。まだこの道がよくわからないもので」
まだだるい身体を無理矢理起こし、王ドラはジャイアンに案内されながらスネ夫宅を後にしていた。
「いいって」
そもそもラジコンを当てて目の前の美少女を気絶させてしまったジャイアンは後ろめたい感情がある。
「それにしても、本当にドラえもんと同じネコ型ロボットなのか?」
「ええ。本来は……」
橙色の髪に映える翡翠の瞳。
ネコ型の名残でネコ耳はあるものの、普通の年上のお姉さんと変わらない。いやそれ以上に可憐で魅力的な女の人。
ふとリルルを思い出す。
ジャイアンが今まであった中の女性で今の王ドラに一番近いのは彼女だった。
夜の十時に出会った、謎深き少女。みたときはあまりの美しさにしばし、ボーとしていたものだ。彼女の正体はロボット惑星メカトピアが、前線基地建設と地球の調査のために地球に送り込んだアンドロイド。敵ということでジャイアンは彼女に酷いことを言ったことを今でも悔やんでいる。
メカトピアの圧倒的な軍事力に打ち砕かれ、ボロボロになったあの時、急に敵が消えたので歓喜はしたが、しずかとミクロスから彼女の最後を聞いたときから――天使になる――彼女の最後の言葉――涙が溢れた。
のび太がリルルと見たといったときは真っ先に彼女に謝りたかった。
しかし、のび太に手を振っただけで自分のところには着てくれなかった。もしかしたらのび太の幻想だったのだと疑うこともあったが……。
本当の天使になったのかもしれない。
今もこんな自分を彼女は微笑みながら観ているかもしれない。
リルルと同じ翡翠の目がジャイアンを捉える。
「信じてもらえないのはわかっていますが、私は、本当に」
王ドラの震えるような声。
「信じるさ」
タケコプターを持っていた、からではない。
王ドラはドラえもんの親友であること、今彼らに起こってしまった怪奇現象。
どうしてこんなことになったか、まではわからないけれども、王ドラがそんな嘘を言うようなタイプとは思えない。
それに――。
「私は早く、のび太君に会わなければ、ならないのです、手遅れになる前に!」
泣きそうな目で見つめられた。
彼女はまだ目覚めたばかりの身体で無理矢理動かそうともした。
案の定ベッドから転がり落ち、つい先ほどまでジャイアンは一人で歩けるまで王ドラを支え、のび太の家まで少しでも早くいけるようにしたのだ。
「あ、ジャイアン!」
スネ夫の声。
分かれ道でなぜかしずかと一緒にいる、スネ夫を見かけた。
「スネ夫、のび太とドラえもんはどうした?」
確か自分はスネ夫にのび太とドラえもんに会うように命令した筈なのに。
「そのことなんだけど、ジャイアン……ちょうど留守だったんだよ」
「なにー!」
ジャイアンの眉間に皴がよる。
「ちょい、ちょいまって」
「待つかー!」
ジャイアン怒りの鉄拳が今振るわれようとしていた。
「そこで関係あるような話があるんだって! で、殴らないで! ドラえもんとそのドラ何とかが女の人になったんだって!」
必死になっていいたいことをいう、スネ夫。スネ夫が目撃情報を持つしずかを連れてきたことも付け足そうと狐のような口が素早く動こうと頭が命令を下したときだった。
グワシャン。
大きな音がする。
音のするほうをみると、中華娘。
大きなネンチャクが道路に無造作に落ちている。どうやらそれが落ちた音だ。
「す、すみません……」
私もまだまだ修行が足りませんね。そんなことぐらいで平常心を失うとは。
顔も青くなってしまったようで、のび太の級友というたけしさん、スネ夫さん、あとしずかさんに私はとりあえずドラえもんが住むのび太君の家に連れて行ってもらうことになりました。あとは、入れ違いにならないように待っていたほうがいいとも言われましたね……。
王ドラのほうはすっかり、のび太の級友と顔見知りになっていた。
ドラメット三世によって、衝撃的な事実をしったのび太。
「ビック・ザ・ドラが復活するなんて……どうして……」
のび太はたしかにイージーホールにいた悪の親玉であるビック・ザ・ドラを倒した。
幹部たちの相打ち攻撃などで倒れたといえども心は一緒。ドラドラセブンとの友情パワーの勝利だった。自由の女神とのび太の願いにより皆復活し、元の世界に戻れた。
ドラえもんズとの出会いであった。
「それはわからないであるが……」
「どらら〜♪」
「へ」
かわいらしい声が、ドラメットの四次元ランプから聞こえてきた。
そしてそこから水晶玉がひとりでに押し出される。
「すっかり忘れていたである。もう安全だから皆出るである」
「どら、らった〜」
了解というのか、ランプとドラメットの腹部にあるポケットからミニドラたちがぞろぞろと出てくる。
「ドラリーニョのミニドラたち?」
「「「どらら〜♪」」」
ドラえもんの声に反応し、一斉によってくる。
三体しかいないミニドラが。
「ドラリーニョがビック・ザ・ドラに操られる前に我輩たちに連絡するために遣わしたのである……後のメンバーは自分たちと同じく、ドラズの誰かに遣わせたのか、ドラリーニョと供に今はビック・ザ・ドラに仕えているかのどちらかである」
「がうぅぅ……」
ドラニコフの声。
覇気のない、憂い。
予想できたことなのに……。どうしてだろう。知っていたことの筈なのに……なぜあえて聞くと堪えられないものがあるのだろうか。
「まだ、そんな声を出すではないであ〜る……」
水晶玉に写る紫色の瞳。
神秘的で幻想的な反面、残酷な現実を見据えた悲しい色を出していた。
「女にし、我々を狙っているのはたしかではあるが、のび太殿に関しては……命を狙われているのであるぞ」
「えー、僕が」
何でというまでにドラパンの鋭い目がのび太に突き刺さる。そういえば、ドラメットに早く会いに行かなかったことにおこられたような……。
「水晶で見たところ、我々はのび太殿の鼓動によって蘇ったためなのか……のび太殿と出会うかもしくはのび太殿がいる時空にいれば、ビック・ザ・ドラに操られることはないと出たである」
テンションを高めに水晶を掲げて言うドラメット。
その水晶を持つ手には鑢で傷つけられたのではないかと疑ってしまうぐらい、細かい傷がついていた。
すぐに襲撃を受けたドラメットはのび太の時代に行くことが敵わず、弱々しいこの身体で頑張ってきたのだ。
「そうか、それでドラパンは僕がみんなに出会っていなかったのをおこったのか。すぐに会いに行かなくてごめんね、ドラメット」
「いやいや、知らなくて当然である。我輩もドラパンがいなかったらここまで機転が利かなかったであるから」
おちこぼれセブンの名も伊達ではない。
「ありがとうである、ドラパン」
「ふん。私はお前が操られる姿なぞ見たくはなかったから協力したまでだ」
元は同じネコ型ロボットといえども今はミステリアスな美女に微笑まれたので少しドラパンの顔が赤かった。
「それじゃ、僕たちはのび太君を守るしか今のところいい手段はないってことなの」
ビック・ザ・ドラがどこにいるかわからないうちは、攻撃にまわることはできない。
「そうなるで、あるな……」
「がう」
「へ」
ここに、のび太を守るための美女軍団が結成されつつあった。
普通逆じゃない。
ドラえもんなんか名刀電光丸をポケットから出しているよ。
ツッコミしようにも、狙われているのび太がいうものはないだろう。皆それぞれ、得意武器や道具を出し寄せていた。
どうやら戦いの前に武器の総チャックと整理をすることに決め込んだらしい。
積み上げられていく武器を見てのび太は思った。
本当に、ドラえもんって子守り用のロボットなんだよね。
なのに、なんで地球破壊爆弾がポケットの中にあるのさ。
空気砲とショックガンがまだ許容範囲内だというのも悲しい。
「これくらいかな」
タイム風呂敷を片手にドラえもんたちが取り出した道具の山が築かれた。
「そうであるな……後は親友テレカ……ドラニコフ、翻訳コンニャクはちゃんとアルであるか」
「がう」
ポケット、ランプ、マフラーからよくこんなにも入っているものだと感心してしまう。
四次元って、すごいね。
「で、ドラパン。これらの道具を預かってくれないかで、あ〜る」
「へ。なんでまた?」
「我輩たちのポケットは皆繋がっているからである」
「時空は超えられないけどね」
「あ……」
敵の手に堕ちてしまったともがいる限り、ドラえもんズの四次元ポケットは相手にも取られてしまう可能性があるのだ。
「……わかった」
シルクハットの中にドラパンは入れていく。
タイム風呂敷とヒラリマントといった布形の軽い奴のほかに、手元に残したのは、ドラえもんはショックガンに名刀電光丸とタケコプター、ドラメットはタロットカードと水晶玉と笛、ドラニコフは翻訳コンニャクとテレポートマシーン。
今着ている服の中に隠せる、持ち運びができるものしか残されていない。
本当に戦う気なんだ。
ずしりと重くなるのび太の心。
戦いを回避できるわけもなく、また敵がどこから出てくるかわからない状態。
時空の歪みが発することと親友同士だから働く第六感があるとはいえども。
「心配しないで、のび太君」
オニキスの瞳がのび太を見つめる。
「ドラえもん……」
たしかに僕たちはいくつもの困難とピンチを乗り越えてきたよ。
信頼しているよ。
でも、今度の相手のビック・ザ・ドラは一筋縄ではいかないことを誰よりも知っているから……。
「では、我輩は王ドラに連絡するである」
まだ、どこにいるかわからない友。
「そうだね。キッドにも連絡しないと……親友テレカ〜」
ビック・ザ・ドラの復活、二人の友、ドラリーニョとエル・マタドーラが敵の手に落ちてしまったこと、のび太の命が狙われていること……話すことはたくさんあった。
辛いけど、この現実を伝えないと。
ドラえもんたちはいつもの調子で天に掲げる。
光が、集結される。
そして、その時……丁度新たな異変が起きたんだ。
どこにいるのかわからない、ビック・ザ・ドラの介入によって――。
「校長!」
金髪の美女がまずその異変に……気がついた。いや、気づかされてしまった。
目つきが悪いミニドラに簀巻きにされた校長が連れ去れようとしているではないか。
「「「「どらら〜」」」」
「むぐー!」
校長はご丁寧に猿轡までされていた。
「くっ」
考えるまでもなく、キッドはミニドラたちに向けて空気砲を構える。
大の大人がちまちました愛らしい生き物に銃を向けるのは絵的にいいものではないが、寺尾台校長をこのままにするわけにはいかない。
とにかく、威嚇しようとキッドが引き金を引く寸前だった。
校長の、机が消えたのは。
「え……」
煙を立てるとか、よく忍者や超能力者が姿を消すのもではなく、ステンドグラスが粉々に砕けるように、空間ごと切り刻まれ……消滅した。
「ば、馬鹿な……なんで消えるンや」
「な、何がおこっているの!」
ドラミの悲鳴が校長室に響いた。
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