第十二話 抱きしめた心の星白銀 今こそ時空を越えてはばたけ!
けして広くはないバスタブに青い髪が揺れる。
「ふぁ〜、いい湯だな……」
たしかに湯加減はいい。この身体の節々にお湯は心地よく、全身を優しくマッサージしてくれるようだ。女の子の身体になってからというもの今までよりもお風呂にはいるのが楽しみでならない。
(女ってそんなものなのかな?)
そのせいで、じっくり湯に浸かる時間が長くなってしまったのだが、それでも文句もいわずに今は女の子だから仕方がないわよ、と笑って許してくれるのび太君のママに感謝する。
ドラえもんは薄ピンク色に色付く柔らかい肌を天井のランプに翳す。体の緊張がほぐれる中、今日起きたことを思い返す。
学校生活に戻ったことに郷愁の年がなかったわけではなく、嬉しく、テンションがたかった。そして油断していた。のび太君が体育の時間に気絶したことと、ドラリーニョの強襲で目が覚めたというか、痛感した。
のび太君を守ること、親友と戦うこと。
あまりにも、あまりにもこの哀しい事実がどこか他人事、絵空ごとに現実感のないと……一種の冗談ではないかと心の中で逃げていた。平和な学校生活を数日満喫しただけなのに、戦いの中にいなければならない現実を悪い夢だと思い込んだ。
(……ビック・ザ・ドラを倒さない限りは悪夢から覚めることはないのにね……)
ビック・ザ・ドラの居場所がつかめない今はのび太君を全身全霊で守るしかない。ドラえもんは光に翳した手に力を込める。
「僕は絶対君を守ってみせる、のび太君!」
「呼んだ、ドラえもん?」
風呂場の近くでたまたま聞こえたドラえもんの声に反応したのび太。
すっかりドラえもんが年上の女の人でしかも並の美貌ではなく、絶世が前につくほうの美しい人になっていることを記憶から消えていた――声が変わっていないから、つい忘れちゃうのよ。
うん。
で、眼鏡の奥にね、映るのよ、質素で純白な肢体が。
……。
スタンド能力でも使ったのか、この時が止まった。
石仮面の力で化けもんになったボスぐらいの時間。
時が再び動き出し……のび太の鼻からジェット噴射並みに大量の血液が出たのはまもなくだった。
「の、のび太く〜ん!」
ドラえもんの声は空しく風呂場に響く。
その後、かろうじてドラえもんは素っ裸のまま倒れこむのび太を抱きしめるように地面からの頭からの衝撃を救ったのだが……のび太の血液をより少なくする結果を招いたのは言うまでもない。
下手すれば、聖衣を修復できるんじゃないってくらい。
致命傷は一つもないが、細かい無数の傷がある褐色の肌。
普段は緑の全身を覆う緑の法衣によって隠されている、傷。みんなとともに数々の冒険をしてきたもののドラメット三世ではあるものの、元来戦闘用のロボットではないし、運動能力が突発的に高いものではない。かわしきれなかった痕は残っている。
「まったくドラメットもずいぶん無茶してくれましたね……傷だらけですよ」
医療道具を取り出し、治療するのは王ドラ。
消毒液がドラメットの背中の傷にしみこむ。
「いたいである!」
「バイ菌が残っている証拠です。何度もいいますが、今の私達の体は人間のものなのですよ。秘密道具で多少の傷はすぐに治るといえども、ロボットとは違い、脆い、軟い、傷つきやすい身体なのですよ」
「わかっているである」
そりゃもう身に沁みて。
ドラリーニョの高速サッカーボールは風を切り裂き、たとえボールから離れていても衝撃波のためヒラリマントといった道具が手元にないとたんぱく質の塊である今は傷ついてしまう。
「わかっているならば……なんで単身、ドラリーニョに近づいたりしたのですか」
自ら呼び起こした竜巻に乗ってドラリーニョと対峙したことが不可解なのであろう。
たしかに目の前の王ドラや、ドラニコフ……未来にいるドラ・ザ・キッド、敵の手の中にはいるもののドラえもんズ一の力持ちのエル・マタドーラといった武闘派ならドラリーニョを抑えられたかもしれない。
怒って大きくなるということができなくなったドラメットでは体格的には有利でもエースストライカーであるドラリーニョの体力に敵うわけがない。
そんなの、わかりきっていた。
でも……。
紫水晶の目を伏せる。
王ドラは返ってこないドラメットの言葉に治療する手が止まる。
「まったく、表情が読めないというのは不便ですね……」
「それは……我輩のせいではないでござる」
王ドラの瞳は閉じられている。
閉じるというか、目隠ししているというか……女性の、肌を間近で見たら照れまくって治療できないから、しかたなく……。
王ドラの目のところに「博多にわか」をやるときにかぶる半面の「目かずら」(アイマスク)がかけられていた。
よりにもよってそれによって視界をさえぎらせる王ドラ。
のび太の家の押入れに丁度眠っていたアイマスクがこれだったのだからといって、着けられればなんでもいいのか!
「この話の続きはとりあえず……」
治療を終えてからにしましょう。
コミュニケーションの基本は目をあわせること。目と目でコンタクトをとろう!協会からの提供でした。
引き続き、本編をお楽しみください。
「では、正面を向いてください」
「触診だけでよく的確に傷薬が塗れるであるな」
それだけ腕がいいのか、医者の卵、王ドラ。
どんだけ苦労したのか、想像するのも身震いする猛特訓の末に会得したと聞いてはいたが……その努力を女の子の前に揚がってしまう自身の欠点を克服するのに持っていかなかったのか、て、いうかその欠点を直すほうが明らかに医者として患者に接するには必要なのでは?
治療をしてもらっているため、その考えは奥にしまいこんでいる、ドラメット三世であった。
「んっ……」
胸の谷間に入り込む、王ドラの手。
血液の流れを司る心臓の音を聞くことで傷ついている場所を知ることができるという。
ひんやりとした指先が、一番体温が高まっているところを触ってくるのだから、ドラメットは思わず反応してしまう。
「声、出さないでくださいよ」
「それは仕方がないである〜」
感じるものは感じてしまうのだから。
王ドラに指摘されてますますドラメットの体温と心拍数が上昇する。
王ドラもつい自分の言霊で意識してしまった。
(ドラえもんズの皆が女体化しているのですよね……)
小学生のときはちんちくりんの体なのでたいして意識をしていないが、アダルトバージョンの皆は……確実に自分は揚がってしまう。
自分の姿でさえ、鏡で見たら……数分間もじもじして動きがとれなかったぐらいだ。
博多名物によって目をさえぎってやっとまともに話せる自分。
素で見ればかなり滑稽だ。
(とにかく治療を……)
ドラメットの腹部は打撲したらしく、内臓も傷めている。
王ドラ特製傷ナオ〜ルZを塗りこんでおかないと食べるのも辛いだろう。
(ドラリーニョに直接叩かれた、結果でしょうけどね……)
ダメージでわかる。
よくもまぁ……満身創痍で家に帰ってきたときも唖然としたが、こんな打撃を受けてもドラリーニョに恨み言一つ言わずに……。
――すまんで……ある。
謝罪と慈愛がごっちゃになったなんとも哀しい微笑みだった。
(己の力量の不甲斐なさに……それはドラリーニョを救い切れずにいるからなのでしょうが、ね……)
ドラリーニョの説得を再チャレンジさせるにも、まずドラメットは傷を治さないと。
王ドラは指先で丁寧に、塗りこむ。
真剣に、彼女の額から汗が流れてくる。
その汗が……博多名物をずれ落ちさせるとは思わなかった。
「あ……」
翡翠の瞳に映し出される、大きなチョコマン二個。
照れダンスが今開始された。
「しっかりするである〜、王ドラ〜!」
二階ののび太の部屋もまた賑やかになった。
王ドラの力が、暴発したのも、同時刻であった。
王ドラの意志とは関係なしに揺れる時空の壁。たまたま交差していたタイムホールの時空に反響し、乱れ、その影響で予期せぬところに繋がってしまった。
「はて? ここはどこなのでしょうか……」
丸っこいピンク色の兎が周りをキョロキョロと見渡していた。
森、なのか茂った草木が周りを囲んでいる。
しかも自然の。
自分が知っているブリキ草木とはまったく違うのが一目でわかった。
「うう〜ん……」
たしかに、自分はブリキン島からでた身だ。
サピオ様の命により、お客様でチャモチャ星をロボットの支配から救ってくれた通りすがりの正義の味方様にお礼と称して再建したブリキンホテルにて純粋にバカンスを楽しんでもらおうと、招待を目的に地球に来た、はずだ。
で、トランクのゲートでのび太宅に時空を繋げたのは確認し、飛び込んだ、はずだ。
なのに……。
「これは、いったい……」
ジャングルではないにしろ、明らかにモニターで確認していた光景と違うところにでてしまったのだけは確かだ。
「故障かな? サピオ様になんていおう……」
ため息が漏れる。
せっかく地球の友達と……年相応の子供同士の交流の機会を遅らせてしまうのは忍びない。
のび太様たちと遊べるぐらいの体力をつけるために頑張ったサピオ様のトレーニングに付き合っていた自分に……なにより行く前にあのサピオ様の笑顔を見た自分には……。
今度こそ下心もなく純粋に遊べることに喜んでいるサピオ様の笑顔を曇らせたくはない!
好感度を高くしたマスコット系のおとぼけ顔のあるものの主人への忠義は高い兎型ロボット、タップの心は今燃えていた。
「ちょっと目的地からを遠くなっただけかもしれないし……探索をしましょう!」
自身の跳躍能力は軟なものではないし、危険なことがあって高められている聴力で回避できるはず。
「ん?」
さっそく、自分の自慢する耳から物音が聞こえてきた。
足音は二つ。歩数と地面を蹴る音から、なんらかしらの自分と同じ大きさの小動物とあとはサピオ様とそう変わらない年代の男の子の足跡だとわかる。
人間が居る、ということに安堵する。でもタップはどこかに隠れて様子を伺うことにした。
お客様以外の方に自分の姿――ボールと変わらない兎型ロボットではまだロボットがそんなに小型化&自律化が一般的にされていない地球では不審に思われてしまう。
下手をすれば、捕縛、解体……。
見世物で終わればいいほうだ、と思うことになってしまいかねない。
小さい体を活かし、タップは草むらに上手く潜る。
草むらに転がったサッカーボールは見つかりにくいのと同じでよっぽど執拗にくまなく探さないかぎりはタップを見つけることはできないだろう。
息をころし、気配をけして、たまたまこの地域に足を踏み出したものたちを見る。
敵意は……感じない。
見たこともない小動物が、楽しそうに草木を噛んだり、匂いを咬んでいたり、と平和そのもの。
ポッポコッと可愛らしく鳴いている。
「待てよ、ポポル」
そして飼い主なのか、こちらも見たこともないが、ジャラジャラと眩いアクセサリーをつけ、豪華な兜をつけた少年がにこやかに笑っていた。
「あ……」
タップは少年の顔を見て、思わず感激した。
「お客様〜!」
「え!」
ティオにしてみれば丸っこくて可愛らしいが面妖なピンクのボールが飛びついたとしか思っていなかった。
のび太と同じ顔ゆえに起きた出会いであった。
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