プロローグ・「はじめに言っておく、かなり困惑している」
ここは何処だろう。
眼鏡の冴えない小学生に、そして友情を誓い合った七体のネコ型ロボットの力にワシは破れたことまでは覚えている。
まさか、鍍金が剥がれ落ち青い、スクラップ同然の子守ロボットとの人間の友達……しかも昔の、まるでだめな小学生にワシの力が、憎しみが……
打ち破れるなんて!
信じられない。
信じたくない。
信じてなるものか。
だってそうだろう……
そうでなくてはワシがワシになった意義が……
なくなってしまう。
嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
見返してやりたくて、ワシは、ワシは……。
この力を手に入れたのに!
嫌な者たちのような力を得てしまったのに、ここでワシが消えてしまうのに……
納得できるものか!
この魂の叫びに時の歪が反応する。
神の悪戯なのか、悪魔の情けだったのか……そんなこと誰が決める?
ただ、これから起きる複雑怪奇な事件の発端だったことだけは確かなのだから。
彼は一人タロットカードを眺めていた。
富豪の家のランプの精、魔術師として少年の子守をしているからだろう。
アラビア調白柱、大理石の壁。そして家の造りは勿論、彩る調度品まで豪華で飾り棚の上に置かれた、ガラスの壷や時計などといった装飾品たちは多々ありながらも互いに調和を保つこの部屋を与えているのは。
日常的に必要なものも家具も満ち溢れているので、彼の部屋と割り当てられてもほとんど彼自身がもってきたものはない。
まぁ、だいたいは四次元ランプに収納しているのだから不必要であるのだか。
彼の目に見える私物がこの部屋に一つだけある。それは壁にかかった抽象画。
部屋の主とその友情を誓い合った者達の絵が飾られ、あたたかな趣を醸し出している。
「不吉な予感がするであ〜る」
占いの結果に思わずため息が出てしまうドラメット三世だった。
あまりにも動揺していたせいなのか、窓から来た不審な影を見落としてしまった。
影は素早く、ドラメット三世の後ろに近づく。
「どうした、ドラメット!」
「うぎゃ!」
急に聞こえた声にびびる。
ドラメット三世は思わず腰をかけていた椅子から勢い余ってジャンプ、机を飛び超え、重力に逆らえきれずに転げ落ちる。手にした一枚のタロットカードは無傷ではあるものの、主は絨毯に残っていた埃にまみれていた。
「な……なんであるか」
振り返るとそこにいるのは紫色のネコ型ロボット。黒いマントをなびかせ、高慢な顔つきではあるものの根は優しい、フランスの大盗賊。
「ドラパン! いきなり何をするであるか!」
「ふはははは。な〜に、たまたま暇だったのでお前に会いに来ただけさ。そしたらお前が難しい顔していたからな」
ドラパンの唇がしてやったと歪む。
かなり自分は面白いぐらい彼の思惑通りの表情を見せたらしい。
「ちょっと、からかったというわけであるか。天下の大泥棒もこういうところは子供であるな」
やれやれと埃を振り払うと椅子へと戻る。
再び訪れるのは静寂の月の夜の光。
「で、何が不吉なのだ」
ドラパンが話を切り出す。
「そこまで聞いていたのであるか」
「まぁな。おせっかいかもしれないが、お前たちにはかりもあることだし、私でよかったら相談にものるし、協力もするぞ。」
なんといっても暇だからな、と言うドラパンの笑みがいつもの高慢から、友を想うソレと替わっている。
あぁ、わがはいのまわりにはこういう親切な友に満ちている。
ピンチに陥ったときも、道を外したときも、自分を修正しようとがんばる仲間。
「ならば話そうか、わがはいの……」
再び手にしていたタロットカードを目にむける。
部屋の主ドラメット三世が手にしていたのは死神のカード。
かつて友情の危機が訪れたあの時と結果が同じ。
あのときはキンキンにさせられ散々な目にはあったが……それ以上に今回は胸騒ぎもする。
前にも同じような気を感じている。
邪悪で、そして悲しい一体の同系のロボットのことが。
ちょうどそのとき、大事にしまっている友情の証から異変が起きてしまう。
そしてそれが、最低でも一人の小学五年生を困惑の奈落に誘うのであった。
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200X年 天気雨 東京都 某ドラ焼き店
「ど、ドラえもん!」
今、眼鏡をかけた日本一有名なだめ小学生野比のび太は目を丸くしている。
辛うじて出てきた名前。
のび太の声をかけたその先にいるのは。
レインコートを着た、青い髪の少女。
「の、のび太君……あ、あれ僕、えっえー!」
手を見るなり、ドラえもんと呼ばれた少女はラーメンの具材のナルトになった。
「……」
近くにいる茶髪の少女も声を出してはいないものの青髪の少女と同じくパニックに陥っている。
店の主に至っては何かよくわからないけどマジックでも起きたのかなと拍手を送っていた。
そう、まさか
タヌキ型から十代の少女に変貌する
というものを生で見るとは思えなかったから。
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