二人の悠 宇宙編
同じ設定、同じ登場人物の企画小説「グループ小説」第七弾です! 「グループ小説」で検索すると、他の先生方の作品も読むことが出来ます。
「先生!! 息子は助かるんでしょうか!?」
天井が移動している……。ここは……。
「おい!! 輸血用の血液と移植の心臓の準備は出来てるか?」
慌しい。一体なにが起きてるんだ。
なんだ……。突然意識が――。
**********
街を歩くとみんなが俺を見る。当然と言えば当然だが……。
みんなが俺を見る理由はちゃんと分かってる。
――それは、俺の後ろでうろちょろしているやっかいな浮遊霊『悠菜』がいるからだ。
なにがやっかいかと言うと、この悠菜とか言う幽霊、なぜか他の人にも見えるのだ。そう万人、世界共通、誰にでも見える幽霊。なぜこいつは誰にでも見えるのだろう。いやそれ以前になんで俺に憑いてるんだろう。
見える幽霊悠菜は、見られるのを言いことにまるでスターのごとく手を振ってやがる。こいつは生前目立ちたがり屋だったんだろう。言い換えれば元気で明るい子なんだろうが、もうすでに死んで幽霊となっている。元気も何もない。
『ねぇ〜悠一郎、相変わらずゆうって人気者だね』
「そうだね。よかったね」
こっちは迷惑しているっていうのに気が軽いというかなんというか。
この悠菜という幽霊は、なぜか俺の後ろにずっと憑いている。朝から晩まで、これじゃあストーカー幽霊じゃないか。夜中起きると、横に立っているものだから驚いて思わず声をあげそうになるときがある。
「なぁ、悠菜はなんで俺に憑いてくるんだ?」
『えー? ゆうも知らないよ。なんでか知んないけど離れられないんだよ。離れることが出来るならとっくに離れてるよ。ゆうにはやらなきゃいけないことが残ってるんだからさ』
「やらなきゃいけないこと? つまりこの世に未練があるってことか?」
『あるよ。二つ……あ! 悠一郎、協力してよ!」
「ん?」
『ゆうには未練がある。だから成仏できない。でもその未練を成し遂げたら成仏できるかもしれない。そしたら悠一郎の後ろに憑いてなくてもいいし』
「なんか、お前の言い方だと、迷惑しているのは俺から離れられない自分だって言ってるみたいだな?」
『え? そうだよ。なにがうれしくて悠一郎と一緒にいなきゃいけないの? ゆうにはどうしても会いたい人がいるのに』
「それは、こっちの台詞だよ。なにがうれしくて……ってお前、会いたい人がいるのか? それが未練か?」
『そうだよ。ゆうはね。病気で死んじゃったの。脳死だった。でも、生きてる時とってもやさしくしてくれる人がいて、ゆうはその人のことが好きになったの。でも想いを伝える前にゆうは死んじゃって。だから……』
後ろで一人いつも明るい悠菜がこのときはとても悲しそうな表情を見せた。俺はその顔を見て決めた。
「わかったよ。そいつに会わせてやるよ」
『え? ほんと!?』
「ああ、それでお前が消えるんなら喜んで探してやる」
そう言うと悠菜はすごく嬉しそうな表情で飛び跳ねた。って元から浮いてるんだけど。
「それで、なにか手がかりは?」
『えっとね。名前はジェルエル・エールス』
「え? 日本人じゃないの?」
『日本人だよ』
「でもジェルエルなんちゃらって言って……」
『外人名だったら日本人じゃないってどういう神経? 偏見よ、へ〜ん〜け〜ん!」
悠菜は、目を細めて腕を組みながら言ってくる、確かに俺が悪かったかも知れないが死んでるやつに言われるとムカツクのは何故だろう。
「そ、それでそいつはどこにいるんだ?」
『案内してやるから、さっさといけ!』
こいつ、俺の弱みを握ったかのごとく急に偉そうになりやがった。人の使い方を知ってやがる。もしかして生前こいつは人の上に立つことをやっていたのか。目立ちたがり屋だし。
とりあえず俺は、仕方なく悠菜に言われるがままそいつのいるという場所に向かった。電車に乗って移動している間もこいつは手を振っている。のん気なもんだな。
悠菜に言われた場所までやってきた。電車なのに意外と時間がかかってしまった。こんな遠くに住んでいるのか。そいつは。
しばらく歩いていると、悠菜が俺を金縛りにしてとめた。金縛りをこんな風につかうなよ。っと悠菜が止めたところそこは、養護施設だった。
「え? 悠菜……ここって」
『そこに立っていてくれるだけでいいよ』
悠菜のその言葉に俺は戸惑った。なかに入らない気か。ここからなにをするつもりなんだろう。
「でも、おまえ中にはいらなきゃそいつに会えないぞ」
『ゆうはもう死んでる人間だから……、やっぱり会えない』
「な、なに言ってんだ!! ここまで来て!」
『もういまさら気持ちを伝えたってすぐにいなくなっちゃうし……』
「そんなこと言ってたらずっと俺の後ろに憑いたまま……、いやそれより気持ちも伝えられずに成仏なんか出来るわけないだろ! しっかり伝えろ!! それで満足できるのか!?」
俺は、なに言ってんだ。ガラにもない。こんなことを言ったのは初めてだ。
『どうしたの? 悠一郎』
俺は、悠菜を無視して歩みを進めようとしたが悠菜の金縛りで進むことができない。
「おい! 金縛りをとけ! 進めないだろ!」
『駄目よ、解いたら悠一郎が施設に入って行っちゃうじゃん』
「あたりまえだ!! このままでいいわけがないだろ!」
俺は、必死に金縛りにあってる身体を動かそうとした。だが悠菜の金縛りは相当強く動くことができない。
「ぐっ! 動け! 身体……、動け!!」
その言葉とともに身体に縛られていた鎖がちぎれたように身体が言うことを聞くようになった。俺はそのまま悠菜に振り返らず施設の中に入って行く。悠菜も強制的に俺の後ろから憑いてくる。
「おーい!! この中に悠菜を知ってるやついるか!!」
俺は力を込めて腹の底から叫んだ。この施設全体にいきわたるくらい大きな声で。
「ちょっとあなた、施設内では静かにしてください」
二階から現れたその人はハーフのような人だった。どうやらこの施設で働いている男の人のようだ。俺はこの人に聞いてみることにした。
「あんた、悠菜って女、知ってるか?」
「え? 悠菜……、あなた悠菜ちゃんを知ってるんですか? でも残念ですが、彼女は……」
俺は、その男の目線を合わせてから首を横に向けた。その男の目線をそちらにやるためだ。そう悠菜のほうに。
「え……悠……菜ちゃん?」
悠菜は観念したかのようにゆっくり近づいてきた。
――俺は不思議だった。いつもは明るく能天気な悠菜がこれほどに大人しいんだから、きっと悠菜が好きなのはこの人だろう。
「こんにちわ、ジェル」
「悠菜ちゃん、なんで? だって君は」
「たぶん、この世に未練があったから、ゆうはまだ伝えなきゃいけないことが……」
俺は、緊張していた。勢いでここまできてしまったが、これは……もしや、愛の告白ってやつか。俺は関係ないのに妙に緊張してしまう。
「駄目だよ、悠菜ちゃん」
「え?」
「君の気持ちには気が付いていた。でも君はもう死んだんだ」
俺は、悠菜の顔を見た。とても悲しそうな悠菜の顔を。
「ちょっと待てよ!!」
俺は何を言ってるんだ。
「それはないだろ? こいつは、悠菜はあんたに会うためにここまで来たんだぞ!! 死んでもあんたのことを想い続けてきたんだ! 幽霊になってもあんたのことを本気で想ってるんだ!!」
俺は、なんでこんなことを言ったのだろう。言った後に冷静になって考えれば不思議なことだ。悠菜に対して親近感でもわいたのかな。
「いいよ。悠一郎、わかってるから。ゆうはそれを言いにきたんじゃない」
「え?」
「ジェル、ゆうは確かにあなたのことが好きだった。生きてた時、足に障害を持っていてずっと車椅子生活だったゆうにいつも笑顔で接してくれてすごい嬉しかった。だから言いに来たの」
「悠菜?」
俺は悠菜が言いたいことが分かった気がする。はじめから告白する気なんてなかったんだ。
「ジェル、ありがとう」
悠菜は、俺が言わなくてもちゃんと分かっていた。悠菜は普段、めちゃくちゃな奴だけど、こいつも生きていたんだ。そして、人生があっていろんな人と関わって、こいつの生きてた証はちゃんと記憶に残っていてそれを分かってくれてる人がいる。足に障害を持ってて早くに死んじゃったけど、きっとこいつの人生は幸せだったんだろう。
顔を見れば分かる。
――だってこんなに素敵な笑顔でいるんだから。
俺達はジェルに別れを告げ施設の近くの川原にやってきていた。もうすぐ沈みそうな夕焼けが綺麗だ。
『悠一郎もありがとね。ゆうのわがままに付き合ってくれて』
「へっ! 俺はこれでお前が消えてくれるのが嬉しいんだよ。早く消えろ!」
照れくさかった。人にこんなに感謝されるのは初めてだったから。死んでる奴だけど。
ってあれ。確か……。
「悠菜、お前確か未練は二つあるっていってなかったか?」
『うん、そうだよ』
「一つはさっきのだろ? もう一つは?」
俺は、とんでもない思い違いをしていた。
『ゆうさ。脳死で死んだんだよ。それでさ、なんか死んだ後に手術されちゃってゆうの身体から盗られたんだよ』
なぜ悠菜が俺から離れることが出来ないのか。なぜ俺が悠菜の気持ちを考えることが出来たのか。
俺は、あの日大事故に会った。その事故で俺は心臓に大打撃を受け心臓移植をしなくては死んでいたらしい。
『ゆうの心臓がさ、悠一郎の胸の中にあるんだよね』
俺は、勘違いをしていた。こいつは、悠菜はあくまで人間ではなく幽霊、未練がある限り成仏は出来ない。
『返してくれる? ゆうの心臓』
俺は、夕日が見える川原で、悠菜によって心臓を抜き取られた。
心臓を失くした俺はその場で息絶えた。
川原からみえていた夕日は沈み空しく俺の人生の終焉を告げた――。
END
読んでいただきありがとうございます。
ジャンルはその他ですが、結果はホラーで終わりました。こういうのもありですよね?