第七話:割切り
昼頃まで惰眠を貪っている俺に携帯の着信音が喝を入れるように鳴り響く。
携帯のディスプレイには『幸子』と表示されている。
「涼、おはよう。寝てたかしら?」
受話器の向こうから、少し落ち着いた冷たさを感じさせるような幸子の声が聞こえる。
「ああ。今起きたとこ。」
着信音で起きたのだから嘘ではない。
「ちょっと話したいことが有るの。今から会える?」
女からの『話したい事が有る』という言葉はあまり良いニュアンスは含まれて居ない事が多く、
俺は少し憂鬱な気持ちになった。
「いいよ。マンションに来て。幸子が来るまでに身支度済ませるから。」
今日は運良く幸子の借りてくれてる方のマンションに居たから焦る事も無い。
「じゃあ今から出るわ。」
そう言うと幸子はすぐに電話を切った。
「別れ話か・・・?浮気がばれたか・・・?」
俺はベッドから降りると身支度をしながら一人ごちた。
『ピンポーン』
幸子からの電話の後、四十分後に鳴ったインターホン。
インターホンの受話器をあげ無くても幸子であることは分かったが一応俺は受話器をあげた。
来訪者はやはり幸子で玄関を開けると特に怒っている様でも悲しんでいる様でもない表情をした幸子が立っていた。
この時の幸子の表情は何か覚悟を決めているような意志を持った無表情だった。
幸子を居間に通しコーヒーを出すと俺の方から口火を切った。
「んで、話しって何?」
俺はあくまで軽い感じに切り出した。
「ん・・・。涼、私ね全部知ってるの。佐智子さんのこともミュージシャンになる努力なんて何一つしてないことも。」
自分が悪いことでもしているかのように困った顔をしながら幸子は俺の事を見ずに話しを続ける。
「それで、佐智子さんに会って話しをしたら、彼女も知ってたわ。何もかも。」
俺はどう対処するのが一番良いか分からず黙って話を聞いていた。
「佐智子さんは男の存在とセックスは生きるのに必要だけど、恋人や配偶者は要らないからあなたはちょうど良い存在なんだって言ってた。」
俺は少し驚いたが、その方が俺にとっても好都合だと思った。
何もかも分かっていて割り切って付き合ってくれるなんてこんなに都合の良いことは無い。
でも、幸子の言いたい事の意図がイマイチ掴めない。
「で、幸子はどうしたい訳?幸子も割り切って付き合える俺の存在って便利なんでしょ?」
意地の悪い言い方かもしれないと思ったが、本当にそうなんだろうと思った俺はそう言うと幸子の方へと視線をやった。
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