◆第一話◆
チラチラ雪が舞い降りて……。
街や木や地面を白く染めています。
明日は、みんなが待ちに待ったクリスマスイヴです。
どのお家も赤や緑や金、様々な色のイルミネーションがキラキラ瞬いて幸せの灯が見えます。
けれど、ブラウン家だけ明かりが灯っていません。
赤い屋根の大きなお家。雪と同じ色した壁にはクリスマスの飾りが施されてます。けど、誰も居ない為どこか寂しそうに見えます。そんな広い庭に、一人佇む雪だるま。
赤いバケツに真ん丸のおメメ、ニンジンの鼻をした雪だるま。
ついさっきピーターという名前の小さな男の子によって作られました。
生まれたばかりの雪だるまです。
けれど、普通の雪だるまじゃありません。
彼は、心を持った雪だるま。
彼は、心優しい雪だるま。
彼は、ずんぐりむっくり雪だるま。
身体は冷たくとも、心はポカポカなのです。
――今日は、なんかワクワクするなぁ
雪だるまはハラハラ落ちる雪を見ながらそう思いました。
『やぁ、こんにちは』
舞い落ちる雪の精達は雪だるまに挨拶をしました。
――こんにちは、今日はワクワクするね。 何か素敵な事が起こりそうなそんな気がするよ
雪だるまは雪の精達に言いました。
『それは、明日がクリスマスイヴだからだよ』
雪の精は、答えます。
――クリスマスイヴ? 僕知らないけど知っている。よく思い出せないけど、どこか覚えている………。
雪だるまはそう思いました。
『そう、クリスマスイヴ。クリスマスは幸せが訪れる日』
『そう、幸せが降り注ぐ素敵な日』
『そう、みんなが笑顔になる素敵な日』
雪の精達は、そう呟いては白い地面へと姿を消します。
――へぇ……素敵な日なんだなぁ
雪だるまはそれを聞いてワクワクしました。ところが―……
『大変! 大変!』
新しく舞い降りてくる雪の精が慌てた口調で言いました。
――どうしたんですか?
雪だるまは不思議そうに尋ねます。
『どうも、こうもサンタクロースがまだ来ないんだ!』
そう言ってはまた白い地面へと姿を消しました。
『サンタクロースが来ない? それはおかしい。だっていつもなら遠く街の空を走っているもの』
白い地面から雪の精達が答えます。
――サンタクロース?
雪だるまは不思議そうに雪の精達の話しを聞きました。
『そうだけど、今年はまだサンタクロースの鈴の音が聞こえないんだ。』
そう雪の精は答えました。
――サンタクロースって何だろう?
雪だるまは一人静かにそう思いました。
『僕たちもぉ〜、まだサンタクロースをぉ〜、見ていないなぁ〜』
背高のっぽのモミの木がおっとりした口調で答えます。
『それは大変だ! サンタクロースがクリスマスの日に遅刻をしたんだ!』
ハラハラ舞い降りる雪の精達は口を揃えて言います。
――ねぇねぇ、サンタクロースってなぁに?
雪だるまはみんなに尋ねます。
『雪だるまくんはぁ〜、サンタクロースをぉ〜、知らないのかい〜?』
モミの木が言います。
『知らないのかい?』
雪の精達も言います。
――うん、知らないよ。ねぇ、サンタクロースってなぁに?
雪だるまはもぅ一回尋ねます。
『サンタクロースはみんなを幸せにする素敵なおじいさんさ。』
『ソリに乗って冬の夜空を駆け巡り――』
『子供には素敵なおもちゃを――』
『大人には夢と優しさを届けてくれる人なんだ。』
雪の精達は交互に言いました。
――夢と優しさを届けてくれるなんて、素敵な人なんだなぁー
雪だるまはそれを聞いてワクワクしました。
――サンタクロースって素敵な人なんだね? ボクも逢いたいよ。
雪だるまはそう言いました。
『逢わせてあげたいけど〜そのサンタクロースが来ないんだよ〜』
モミの木が残念そうに答えます。
――えっ?
雪だるまは驚いた表情を浮かべました。
『怪我でもしたのかなー?』
『病気かもしれない。』
舞い降りる雪の精達はそう言って地面へと消えます。
『おいおい、サンタクロースはそんなやわじゃないよ! きっと遅くまで子供達の手紙を読んでいたから寝坊したんだ。』
ブラウン家の玄関に吊されたクリスマスリースが口を挟みます。
『もしくはサンタクロースは、忘れん坊だから明日がクリスマスイヴだって忘れたのかも。』
違うモミの木が言いました。
「そうだ! きっとそうに違いない!」地面に降り積もった雪達はそう力強く言いました。
『今年のクリスマスはサンタクロース、なしか……』
雪の精は残念そうに呟きます。
――そ、そんな! クリスマスの日にサンタクロースが来ないなんて!
雪だるまは慌てた口調で雪の精に言います。
――ボクがそのサンタクロースを起こしに行くよ!
雪だるまはとても強い口調で言いました。
『起こしに行くってどうやって?』
ハラハラ舞い散る雪はからかう様に尋ねます。
『サンタクロースは遠い、遠い国にある“サンタの街”に住んでいるんだ。その街も不思議な魔法が掛かっているから誰にも見つからないんだ』
灰色の空から舞い散る雪達はクスクス笑いながら雪だるまに言いました。――見つからないの?……明日はクリスマスイヴなのに……みんながサンタクロースを待ってるのに……
雪の精達の言葉に雪だるまは悲しい気持ちになりました。
『雪だるまくん、顔を上げなよ』
モミの木が優しい口調で呼び掛けます。
『僕、知ってるんだぁ〜街の中央にあるぅ〜古びた教会の鐘、あれには不思議な力が宿ってるんだ〜』――不思議な力……?
雪だるまは不思議そうにモミの木を見つめます。
『そう、その鐘は“想いを届けたい人の事を考えながら鐘を鳴らすとその気持ちが相手の心に響くのさ』
モミの木は言いました。
――“想いを届けたい人”……
雪だるまは心の中でモミの木の言葉を繰り返しました。
――ボク、その鐘を鳴らしてサンタクロースのおじいちゃんを起こすよ。そして、伝えるよ。世界中のみんなが待っているんだよって……
雪だるまはそう答えました。その口調は、とても力強く優しいものでした。
『けど、雪だるまくんどうやって街に行くの?』
そう問い掛けたのは、ハラハラ舞い散る雪の精達でした。
――あっ……そうだ、ボクには足がないんだ……
雪だるまは自分の足元を見ました。
真ん丸の白い身体。
しかし、そこには、自由に歩き回る足がありません。
左右長さの違う木の枝の腕を付けた所でピーターは、父親のダニエルに呼ばれてどこか出掛けてしまったのです。
――どうしよう……?これじゃサンタクロースのおじいちゃんを起こせないよ……
雪だるまは、また悲しい気持ちになりました。
『顔を上げなよ、雪だるまくん』
そう呼び掛けたのは地面に降り積もった雪の精達です。
『安心して、オイラ達が街まで運んであげるよ』
白く輝く雪の精達は一斉に言いました。
――えっ? いいの? けど、どうやって行くの?
雪だるまは不安げな様子で尋ねます。
『うん、大丈夫! オイラ達、雪の上を滑って行けばいいのさ!』
不安そうな雪だるまを余所に雪の精は元気な様子です。
『さぁ! そうと決まれば教会に行くぞー』
雪の精がそう言ってすぐに雪だるまの身体は少しだけ浮き上がり、まるで純白の絨毯のような雪の上を滑る様に動き出しました。
流れる景色はとても綺麗でした。
様々な色の屋根をしたお家。クリスマスの飾りがキラキラと宝石みたいに輝いています。
夜の風はモミの木達を優しく揺らしました。
その揺れてる姿が、雪だるまに手を振っている様に見ました。
雪の精が力を貸してくれます。
風が助けてくれます。
木々が導いてくれます。
それだけで、雪だるまは心強い気持ちになりました。
舞い散る雪の精達も口々にこう言いました。
『いってらっしゃい、雪だるまくん』
『サンタによろしくね』
――うん!
雪だるまは元気に返事をしました。
|