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「つ、つ、つ、疲れたぁ」


 がくりと、両手を床につく。

 心の底から、疲れた。


「大丈夫? 三矢さん」

「そ、そっちこそ、大丈夫? っていうか、なんでここに来たの?」

 また、タイミング良く。

「夢が、『夢』を見たって、連絡してきて」

 はたと顔を上げる。

「『夢』って、え? まさか、こ、この?」

「そう」


 ひぇ~!

 そういえば、伍代君、熱が出て早退したとか言っていた。

 思わず、正座をして聞いてしまう。


「小学校の図書室。バンダナをした三人の男の子が、教室ジャック。三矢さんの鞄の中の袋に入った物体。それをぼくが、三矢さんのエプロン入れる、と」


 ほれほれ出して、と双葉が言う。

 あまり触りたくないそれを、ポケットから出す。

 生島からの、血のりだ。

 双葉は、子どもたちを帰すどさくさに紛れて、これを私のポケットに入れたのだ。


「これ、使わなくてよかったなぁ」

「ん? 使わなくて? そもそも、こんなの人のポケットの中に入れて、どうしようとしたの?」

「うん。あの子が、ピーナッツを食べようとしたら、その前に三矢さんを刺そう思って」


 刺そう、ですと?


「ほら、ここ。この、ポケットの上の開いた部分から、はさみでこうぐっさりと」


 見ると、まるで誰かが置き忘れたかのように、側の棚には、はさみが置いてある。

 あれも、あんたが? という思いで双葉を見ると、にっこりと頷かれた。

 な、なんで?!


「ほら、考えてみてよ。同じ部屋に血まみれの人がいたら、やっぱり動揺するでしょ。自分がピーナッツを食べるどころの騒ぎじゃなくなるでしょ」

 だからその伏線として、ぼくと三矢さんで、刃傷沙汰が起きてもおかしくない関係だって話をしたじゃない、と。


 それは、あのよくわからない、私が双葉にふられたとかいうやつか?


 顔が引きつる。

 血まみれになるのが、自分だということに、すごくひっかかる。

 その役、双葉でもよかったのでは?


「救出の手段の一つとして、有効だと思ったんだけど」

「救出?」


 でも、すでにその時には、子どもたちはいなかったはず。


「うん。あの三人を助けるのに」


 あ、そうか!


 この部屋の中で、誰よりも一番助けを欲しがっていたのは、あの三人だ。

 心の、底の底で。





「三矢さん、双葉、お疲れ」

 ひょいと、四条君が入り口に現れた。

「し、四条くん」

「三矢さん、頑張ったね」

 四条君はそう言うと、「双葉、よく聞こえたよ」と携帯電話を出した。

「あ、ほんと?」

 どうかなぁと思っていたんだけど、と双葉が言う。

「ど、どーいうこと?」

 すると、双葉はポケットから携帯を出した。


「国府田君。携帯を二台、持っていたの?」

 確か、双葉の携帯はあの子たちに没収されたはず。

 あ、私の携帯電話は? と思うと、四条君が「はい」と渡してきた。

 子どもたちから、受け取ったらしい。

「よかったら、記念に食べる?」

 四条君は、双葉にも携帯を返したあと、見覚えのあるピーナッツの袋を出してきた。



 ……。

 しばらく、私、ピーナッツは食べたくないかも。





 小学校から、一人で家に帰れなかった私は、囚われた宇宙人のように、双葉と四条君に付き添われ帰宅した。


 一人で帰れないというのは、精神的なことではなかった。

 さて帰ろうとしたとき、足腰がまるで乳酸が溜まりまくったかのようなダルダルよぼよぼになり、まともに歩けなくなっていたからだ。

 

 

 帰宅後、私は寝込んだ。

 男の子二人を迎え、狂喜乱舞するお母さんの声をバックに。

 

 ミチカの学校の先生たちが、家に謝罪に来たそうだが、それも私が寝込んでいる時だった。

 まるまる二日間、私は寝込んだ。

 これは、わたし史上初めての経験だった。 







 




 そして、季節は夏になった。



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